第65話 『北部連盟』
ヴァルクの広場は、これまでにない光景になっていた。
荷馬車の列。
農民輸送。
地主輸送。
そして、遠くの街道から――
**国家輸送隊**が近づいてくる。
重い車輪の音。
兵士付きの護衛馬車。
国家備蓄の紋章。
広場の人々が息を呑む。
レオンが言う。
「……来たな」
ミレイアが頷く。
「国家備蓄第一便」
ナディアが小さく笑う。
「三層そろった」
農民。
地主。
国家。
供給が重なる。
それだけで市場の空気が変わる。
人々が価格板を見る。
穀物価格――
**上昇停止。**
ざわ、と広場が揺れる。
恐怖が、少しだけほどけた。
そのとき。
セシル・ヴァルトンが倉庫街から歩いてきた。
黒い外套。
相変わらず落ち着いた顔。
広場の物流を見渡す。
「なるほど」
静かな声。
「制度が市場を押し返した」
エリシアは答える。
「均衡です」
セシルは少し笑う。
「一時的に」
その言葉に誰も反論しない。
まだ終わっていない。
そのとき、ローデリックが広場の中央に立った。
大きな声。
「地主会議の決定を伝える」
人々が集まる。
農民も。
商人も。
「北部地主連盟を正式に設立する」
ざわ、と広場が揺れた。
マリアが前に出る。
「農民組合も参加する」
レオンが小さく笑う。
「連盟だ」
エリシアは板を出す。
広場の中央に立てる。
書く。
**北部連盟**
その下に三つ。
地主連盟
農民連盟
国家備蓄
ミレイアが言う。
「地域分散」
南部と同じ原理。
だが規模は違う。
ローデリックがエリシアを見る。
「南部の方法だ」
「少し違います」
エリシアは答える。
「ここは地主が中心です」
マリアが言う。
「でも農民も入る」
ナディアが笑う。
「国家もな」
三層。
そしてそれを束ねる。
北部連盟。
そのとき、
価格板の数字が書き換えられた。
穀物価格――
**初めて下落。**
広場がどよめく。
レオンが低く言う。
「……効いた」
ミレイアが頷く。
「供給心理が戻った」
恐怖が薄れる。
それだけで市場は変わる。
セシルはその様子を静かに見ていた。
やがて言う。
「見事です」
誰に向けた言葉でもない。
ただの評価。
そしてエリシアを見る。
「制度は遅い」
その言葉は変わらない。
「ですが」
少しだけ笑う。
「今回は追いついた」
ナディアが言う。
「負け認めるのか?」
セシルは肩をすくめる。
「戦争は一度では終わりません」
そして倉庫街を見る。
巨大倉庫。
商人ギルドの穀物。
まだ四割。
市場の力は消えていない。
セシルはエリシアに言う。
「令嬢」
「次は王都です」
そう言って去っていった。
レオンが言う。
「逃げたな」
「いいえ」
エリシアは答える。
「撤退です」
戦争の。
第一戦が終わった。
広場では人々がざわめき、
農民輸送隊が笑い、
地主たちが静かに話し合っている。
北部連盟。
南部から始まった制度が、
ついに北部にも広がった。
ミレイアが言う。
「物語が変わりましたね」
「はい」
エリシアは板を見る。
南部連盟
北部連盟
そしてその上に書く。
**国家制度**
村の話ではない。
地域の話でもない。
これは、
王国の話だ。
北風が広場を吹き抜ける。
市場はまだ荒れている。
だが今、
制度は根を張り始めていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




