第63話 『市場封鎖』
翌朝、ヴァルクの市場は異様な静けさに包まれていた。
人はいる。
商人も農民も、いつものように広場へ来ている。
だが――
**荷が動かない。**
荷馬車の列はある。
しかし倉庫の扉は閉ざされたままだ。
レオンが低く言った。
「……来たな」
ナディアが腕を組む。
「やりやがった」
ミレイアが帳面を確認する。
「輸送停止」
エリシアは倉庫街を見た。
巨大な石倉庫。
昨日まで穀物が流れていた場所。
今は静かだ。
完全に。
そこへマリアが駆けてくる。
「輸送組合が止められた!」
「誰に」
「商人ギルド!」
レオンが舌打ちする。
「市場封鎖か」
ミレイアが説明する。
「典型的な市場戦術」
供給停止。
価格維持。
恐怖増幅。
ナディアが笑う。
「完全に戦争だな」
そのとき、使者が走ってきた。
「議会へ!」
全員が議会堂へ向かう。
議場ではローデリックが腕を組んでいた。
「見たか」
低い声。
「市場だ」
エリシアは板を見る。
穀物価格――
**さらに上昇。**
ミレイアが言う。
「供給停止で心理が崩れています」
レオンが机を叩く。
「つまり」
「価格はまだ上がる」
沈黙。
そのとき、扉が開いた。
セシル・ヴァルトン。
ゆっくりと議場に入る。
昨日と同じ落ち着いた顔。
「おはようございます」
軽く一礼。
「市場の様子はどうです?」
ナディアが吐き捨てる。
「てめぇが止めただろ」
セシルは笑う。
「市場が判断しただけです」
ミレイアが言う。
「輸送組合はあなたの商会と契約している」
「合理的判断です」
セシルは肩をすくめる。
エリシアが言った。
「供給を止めて価格を上げる」
「市場操作です」
セシルは頷く。
「はい」
あっさり認めた。
議場がざわめく。
「驚くことではありません」
セシルは続ける。
「市場は戦場です」
「勝つ者が利益を得る」
ローデリックが言う。
「農民が飢える」
「国家が助ければいい」
セシルは微笑む。
「あなた方の制度でしょう?」
挑発。
完全な。
エリシアは板を見る。
地主放出。
農民輸送。
国家備蓄。
だが――
輸送が止まった。
ミレイアが言う。
「農民輸送も止められます」
ナディアが眉をひそめる。
「全部の道を押さえられたか」
「はい」
北部輸送路の大半は、
商人組合が握っている。
セシルが言う。
「制度は美しい」
「だが物流がない」
ゆっくり言葉を置く。
「市場は速い」
「国家は遅い」
昨日と同じ言葉。
だが今度は現実になっている。
沈黙。
エリシアは少し考え、
そして言った。
「農民輸送を増やします」
レオンが見る。
「どうやって」
「組合を使わない」
ナディアが笑う。
「直輸送か」
「はい」
マリアが頷く。
「村の馬車を出す」
セシルは微笑む。
「数が足りません」
ミレイアも言う。
「輸送量は組合の十分の一」
事実。
だがエリシアは言う。
「十分です」
セシルが首を傾げる。
「なぜ」
「恐怖を止めるだけなら」
板に書く。
**心理供給**
レオンが笑う。
「なるほど」
ナディアが言う。
「見せるだけでもいい」
セシルは少し黙った。
そして小さく笑う。
「面白い」
だが続ける。
「ですが」
議場を見渡す。
「市場はもっと速い」
そのとき、ミレイアが新しい速報を持ってくる。
「王都市場」
紙を見る。
全員が息を呑む。
穀物価格――
**三倍。**
レオンが低く言う。
「……来たな」
国家制度。
市場。
その衝突。
そして戦争は、
さらに激しくなる。
エリシアは板を見つめた。
市場は速い。
だが制度は、
**崩さない。**
その戦いが、
本格的に始まった。
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