第60話 『連盟拡張』
北部ヴァルクの朝は、静かな緊張に包まれていた。
市場は開いている。
だが歓声はない。
人々はただ、価格板を見上げている。
穀物価格――
**前日比二倍。**
数字だけ見れば異常だ。
だが昨日より上がっていない。
それだけで、空気が少し違う。
「……止まった」
ナディアが言う。
ミレイアが板の数字を確認する。
「はい」
「上昇速度が鈍化」
レオンが倉庫街を見る。
「地主放出か」
「始まりました」
エリシアが答える。
地主連盟。
正式発足。
ローデリック侯が動いた。
巨大倉庫の扉が開き、
穀物が市場へ流れ始めている。
完全ではない。
だが、
**価格暴騰の速度は落ちた。**
マリアが走ってくる。
「農民輸送隊も出た!」
「どれくらい」
「三十台」
南部ほど多くない。
だが十分だ。
市場は数字だけで動くのではない。
心理でも動く。
そして今、
**恐怖が少しだけ後退した。**
ローデリックが倉庫の前で腕を組んでいる。
エリシアが近づく。
「ありがとうございます」
ローデリックは言う。
「礼はいらん」
「計算だ」
合理。
それでいい。
ミレイアが新しい紙を差し出す。
「王都市場速報」
エリシアが見る。
王都穀物価格――
**上昇停止。**
レオンが笑う。
「効いてる」
「はい」
エリシアは頷く。
北部市場が落ち着けば、
王都も落ち着く。
だが問題はまだある。
エリシアは倉庫街を見る。
巨大な石倉庫。
商人ギルド。
そこはまだ閉ざされたままだ。
ミレイアが言う。
「市場倉庫比率」
四割。
ナディアが吐き捨てる。
「まだ王様気取りだ」
市場独裁。
そこを崩さなければ、
均衡は不完全。
そのとき、王都からの使者が到着した。
「王都議会決定!」
紙が差し出される。
ミレイアが読む。
**国家備蓄輸送準備開始**
広場がざわめく。
エリシアは頷いた。
「第三層」
地主。
農民。
国家。
三層が揃う。
だがそのとき、
ローデリックが言った。
「まだ足りない」
エリシアが見る。
「何が」
「北部は広い」
静かな声。
「ヴァルクだけではない」
地図を広げる。
北部は複数の穀倉地帯。
今動いているのは、
その一部。
マリアが小さく言う。
「……他は」
「まだ動いていない」
つまり、
危機は拡大する可能性がある。
エリシアは板を出す。
そして新しい文字を書く。
**北部連盟**
レオンが言う。
「南部の真似か」
「少し違います」
エリシアは答える。
南部は村連盟。
北部は――
**地主連盟+農民連盟+国家。**
そしてそれを、
**地域連盟**にする。
ミレイアが頷く。
「北部全体」
ローデリックが腕を組む。
「野心的だ」
「必要です」
エリシアは言う。
「干ばつは地域で来ます」
「村でも都市でもありません」
広場が静まる。
マリアが笑う。
「農民は乗る」
ローデリックは少し考え、
そして言った。
「地主も乗る」
ナディアが小さく笑う。
「また連盟か」
「はい」
エリシアは答える。
分散。
それが一番強い。
北風が吹く。
市場はまだ荒れている。
だが今度は、
連盟が広がる。
南部から北部へ。
村から地域へ。
制度は、
少しずつ形を変えていく。
エリシアは板を見つめる。
**南部連盟**
その下に、
**北部連盟(構想)**
物語は、
また一段広がった。
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