第57話 『市場独裁』
北部ヴァルクの市場は、もはや落ち着きを失っていた。
朝の価格板。
穀物価格――
**前日比六十三%上昇。**
広場がざわめく。
「六割……」
ナディアが低く言う。
「南部のときの倍の速度だ」
「供給規模が違います」
ミレイアが答える。
「北部は王国最大の穀倉地帯」
「だから資金も集中する」
つまり、
**市場の戦場になっている。**
レオンが倉庫街を見る。
巨大な石倉庫。
扉の前には武装警備。
「……戦争みてぇだ」
「はい」
エリシアは静かに言う。
「市場戦争です」
そこへミレイアが紙を持ってくる。
「投機資金の経路」
エリシアが受け取る。
王都商会。
輸送組合。
倉庫組合。
そしてその中央。
**グレイン商会**
エリシアの目が細くなる。
「……バルド」
ミレイアが頷く。
「直接ではありません」
「だが流れは同じ」
王都で敗れた。
だから戦場を変えた。
北部市場。
ナディアが吐き捨てる。
「市場を丸ごと握る気だ」
まさにそれだ。
巨大倉庫。
巨大資金。
巨大市場。
そこへ、マリアが駆け込んできた。
「農民が売り始めてる!」
「どれくらい」
「半分」
レオンが目を見開く。
「もう?」
「借金がある」
マリアの声は苦い。
市場価格が上がると、
農民は売る。
それは合理的だ。
だが問題は――
**その後だ。**
エリシアは板に書く。
北部収穫量。
農民売却量。
市場倉庫量。
計算。
ミレイアが数字を読み上げる。
「このままだと」
指が止まる。
「二週間後」
沈黙。
「市場在庫が消えます」
ナディアが舌打ちする。
「そして?」
「価格二倍」
レオンが低く言う。
「そのあと」
「崩壊」
南部と同じ。
だが規模が違う。
王国全体が揺れる。
そのとき、倉庫街から歓声が上がった。
商人たちだ。
「買い占め成功!」
「北部市場は我々のものだ!」
市場の独裁。
価格は彼らが決める。
ローデリックが静かに言う。
「これが市場だ」
その横顔は険しい。
エリシアは答える。
「独裁です」
沈黙。
「市場は自由ではありません」
「資金が集中すれば、独裁になります」
ミレイアが頷く。
「価格決定権が集中」
ローデリックが言う。
「だから連盟か」
「はい」
エリシアは答える。
板に書く。
**地主連盟**
**農民連盟**
**国家備蓄**
三層。
南部より複雑。
だが必要だ。
そのとき、ミレイアが新しい速報を読む。
「王都議会緊急会合」
「理由」
「北部価格暴騰」
ナディアが笑う。
「王都が焦り始めた」
国家制度の初試験。
ここで崩れれば、
制度も崩れる。
そのとき、ローデリックが言った。
「……地主会議の結論が出た」
全員が見る。
広場が静まる。
ローデリックはゆっくり言う。
「地主連盟を作る」
ざわ、と空気が揺れる。
完全な同意ではない。
だが、
**壁は破れた。**
マリアが小さく笑う。
「農民も乗る」
エリシアは頷く。
「国家備蓄も動きます」
三層。
ようやく揃う。
だが。
ミレイアが言う。
「問題があります」
「何でしょう」
「市場倉庫」
紙を見せる。
商人ギルド在庫。
**北部穀物の四割。**
レオンが低く言う。
「……多すぎる」
つまり、
市場はまだ支配されている。
エリシアは板に最後の文字を書く。
**倉庫公開**
ナディアが目を細める。
「商人と戦うのか」
「はい」
エリシアは言う。
「均衡を作るには必要です」
北風が広場を吹き抜ける。
市場はまだ暴れている。
だが今度は、
地主。
農民。
国家。
三つが動き始めた。
市場独裁に対する、
最初の抵抗だった。
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