第50話 『周期』
雨は三日続いた。
大地を潤すには足りない。
だが、絶望を止めるには十分だった。
畑に小さな緑が戻り始める。
人々の声が、少しだけ軽くなる。
「……生き延びたな」
レオンが空を見上げる。
「はい」
エリシアは頷く。
干ばつは終わっていない。
だが最悪は越えた。
南部連盟の板には、新しい数字が並ぶ。
国家備蓄率――上昇。
価格変動幅――縮小。
死亡者数――抑制。
数字は冷たい。
だが嘘はない。
アデルが腕を組む。
「国家制度は動き始めた」
「はい」
「だが油断するな」
「承知しています」
干ばつは周期的だ。
今回が終わりではない。
その夜、王都からの報告。
「投機監視機構、第二次摘発」
セリオの名は出ない。
バルドも表に出ない。
だが市場は静かになった。
恐怖が均衡を保つ。
エリシアは机に向かう。
新しい設計図を描く。
国家備蓄の分散配置。
干ばつ予測モデル。
連盟の恒常化。
「終わらせないのか」
カイルが静かに言う。
「終わりません」
「干ばつは周期だ」
「制度も周期に合わせる」
視線が交わる。
「あなたは休まない」
「必要なら」
「必要ない」
わずかな沈黙。
「あなたが倒れたら困る」
「利益が減るからでは?」
静かな笑み。
「……それだけではない」
言葉はそこで止まる。
曖昧なまま。
それでいい。
ルナが走ってくる。
「芽が出た!」
小さな手に、若い芽。
エリシアはそれを見る。
制度は芽を生まない。
だが芽を守る時間を作る。
それが役目だ。
空は晴れ始める。
干ばつは去らない。
だが備えはある。
南部は崩れなかった。
国家は揺れながら動いた。
市場は均衡を学び始めた。
悪役令嬢は、断罪を越えた。
今はただ、選び続ける。
周期は巡る。
干ばつも、政治も、感情も。
だが一つだけ変わった。
放置は、しない。
責任を持つ。
それが制度。
それが、この物語。
雨上がりの土に立ち、
エリシアは静かに言う。
「次に備えます」
終わりではない。
だが一区切り。
南部の顔は、空を見上げた。
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