第49話 『雨待ち』
国家備蓄制度――施行準備開始。
王都からの通達が、南部にも届いた。
最低備蓄率の引き上げ。
干ばつ時出荷制限の法的根拠。
投機監視機構の設置。
紙の上では、整った。
だが土は、まだ乾いている。
「数字は改善傾向」
ミレイアが報告する。
「価格変動幅、縮小」
「市場は様子見」
ナディアが腕を組む。
「バルドは?」
「表立った動きなし」
不気味だ。
嵐の前の静けさ。
ラグナ村の畑。
ひび割れた土を、レオンが見つめる。
「制度で雨は降らねぇ」
「はい」
エリシアは隣に立つ。
「だが、雨が降らなくても崩れない枠は作れる」
レオンは土を握る。
「次の干ばつも来る」
「はい」
「その次も」
「はい」
静かな確認。
ルナが走ってくる。
「雲!」
空を指さす。
小さな灰色の雲。
広場に人が集まる。
誰もが空を見る。
祈りは言葉にならない。
アデルが低く言う。
「国家制度は通った」
「だが現場は現場だ」
「はい」
エリシアは頷く。
「国家は床を作った」
「連盟は柱を支える」
「そして村は生きる」
遠くで雷鳴。
だがまだ落ちない。
そのとき、王都から急報。
「投機監視機構、初摘発」
ミレイアが読み上げる。
「不自然な資金流入を凍結」
ざわ、と空気が揺れる。
「バルド派か」
「名は出ていません」
だが影はある。
市場は静かになった。
恐怖が均衡を作る。
夜。
エリシアは板を見つめる。
国家備蓄――施行準備。
投機監視――初摘発。
南部連盟――維持。
干ばつ――継続。
雨はまだ。
だが崩れてはいない。
「嬢」
レオンが言う。
「俺たち、今回は耐えたな」
「はい」
「次も耐える」
「そのための制度です」
空が光る。
そして――
ぽつり。
土に落ちる小さな音。
誰も動かない。
もう一滴。
そして、三滴。
歓声は上がらない。
ただ、静かな安堵。
ルナが笑う。
「雨だ」
エリシアは目を閉じる。
制度は雨を呼ばない。
だが雨を待つ時間を、延ばす。
それが責任。
雷鳴が近づく。
やがて、土を叩く音が強くなる。
南部に、久しぶりの雨。
人々は空を見上げる。
勝利ではない。
だが、崩れなかった。
市場も、国家も、村も。
均衡は生まれた。
悪役令嬢は、静かに雨を受ける。
断罪の記憶は遠い。
今は、責任の名で呼ばれる。
物語は、次の周期へ進む。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




