第48話 『均衡』
国家倉庫不正発覚――公表。
王都は一時騒然となった。
「国家案は危険だ」
「不正を招く」
「だからこそ監視が必要だ」
世論は割れた。
だが一つ、変化があった。
“隠さなかった”という事実。
アルノルトは委員会を招集する。
「国家備蓄制度は、不正対策を含め再設計とする」
エリシアは資料を差し出す。
「監査機構を独立させます」
「商人ギルドと議会の二重監査」
ざわ、と議場が揺れる。
「市場を敵に回す」
誰かが呟く。
「敵ではありません」
静かな声。
「均衡です」
バルドが立ち上がる。
「国家が市場を縛る」
「干ばつ時限定です」
「前例は拡大する」
「拡大するなら、それは必要だからです」
沈黙。
クラウスが口を開く。
「市場は自由だ」
「だが飢えは自由ではない」
静まり返る。
「国家は最低限の床を作る」
「市場はその上で動く」
アルノルトがゆっくり頷く。
「均衡、か」
「はい」
単なる介入ではない。
排除でもない。
共存。
バルドは冷たい視線を向ける。
「理想論だ」
「数字です」
エリシアは答える。
「干ばつ周期、価格変動幅、死亡率」
「放置より、損失は小さい」
議場が静まる。
「国家備蓄制度案、修正版を採決にかける」
木槌。
賛成、多数。
完全勝利ではない。
だが通過した。
国家備蓄制度――正式成立。
投機監視機構――限定導入。
干ばつ時出荷調整――法制化。
王都の空気が変わる。
悪役令嬢は、制度設計者となった。
議場を出る。
カイルが待っている。
「通りましたね」
「はい」
「市場は荒れます」
「承知しています」
「私は復職が決まった」
静かな報告。
「おめでとうございます」
「だが条件は変わらない」
「距離を取れ、ですか」
「拒否した」
短い沈黙。
「愚かですね」
「ええ」
わずかな笑み。
「あなたが倒れたら困る」
「利益が減るからでは?」
王都の喧騒が遠のく。
「……それだけではありません」
視線が交わる。
言葉はそこで止まる。
曖昧なまま。
それでいい。
南部へ戻る列車。
ルナが窓から外を見る。
「雨、降るかな」
空はまだ高い。
「降ります」
エリシアは言う。
「制度も、ありますから」
レオンが笑う。
「嬢、今度は国家だな」
「はい」
だが足元は変わらない。
南部の土。
干ばつは続く。
市場も続く。
だが均衡が生まれた。
制度は冷酷だ。
だが、放置よりは優しい。
悪役令嬢は断罪を越えた。
今は、責任の名で呼ばれる。
物語は、新たな段階へ。
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