第47話 『設計図』
国家備蓄制度設計顧問――正式任命。
その肩書きは、想像以上に重かった。
南部の一村を守るのとは違う。
今度は、国全体だ。
王都議会から届いた分厚い資料を、エリシアは机に広げる。
収穫量推移。
地域別備蓄率。
過去三十年の干ばつ周期。
「……甘い」
思わず漏れる。
現行の国家備蓄率は、平時基準。
干ばつ想定ではない。
「国家は、平時で止まっている」
ミレイアが頷く。
「市場に委ねすぎている」
エリシアは板を持ち出す。
一、最低備蓄率の引き上げ
二、地域分散倉庫設置
三、干ばつ時の出荷制限ルール
四、投機監視機構の常設化
「監視機構は反発が強い」
「承知しています」
「商人ギルドが動く」
「動くでしょう」
だが外せない。
投機は炎を煽る。
そのころ、王都。
バルドは静かに資料を読む。
「国家監視機構、か」
セリオが言う。
「市場は萎縮します」
「ならば、恐怖を作る」
低い声。
「国家介入は失敗する、という恐怖を」
「どうやって」
「実例だ」
ラグナ村。
連盟会合。
「国家案が通れば、連盟はどうなる」
ブレイン村代表が問う。
「補完関係です」
エリシアは答える。
「国家が基盤、連盟が調整」
「国家が失敗すれば」
「連盟が支える」
アデルが静かに笑う。
「二重構造か」
「はい」
「強いな」
だが、その夜。
王都から急報。
「国家倉庫で不正発覚」
ミレイアが顔を上げる。
「備蓄横流し」
沈黙。
「規模は」
「中規模」
だが象徴的だ。
バルドの影が見える。
「国家制度の信頼を揺らす」
アデルが低く言う。
「始まったな」
エリシアは板を見る。
国家備蓄――設計中。
不正発覚――発生。
市場は、黙っていない。
「公開します」
「今か?」
「はい」
隠せば歪む。
国家も同じだ。
翌日、王都で声明。
「国家倉庫不正を公表」
議会がざわつく。
「自ら弱みを出すのか」
クラウスが呟く。
「信頼は隠さないことで生まれる」
エリシアは言う。
「南部で学びました」
アルノルトが静かに頷く。
「続けろ」
バルドは歯を噛み締める。
「冷酷だが、愚かではない」
市場は国家を揺らす。
だが国家もまた、市場を試す。
夜。
カイルが密かに訪れる。
「不正はバルド派の資金経由」
「証拠は」
「間接的だ」
「十分です」
視線が交わる。
「あなたは、もう戻れない」
「承知しています」
「後悔は」
「ありません」
静かなやり取り。
「あなたが倒れたら困ります」
「利益が減るからでは?」
わずかな沈黙。
「……それだけではありません」
曖昧なまま。
それでいい。
干ばつは続く。
市場も続く。
だが制度は、設計図を持った。
次は、国家の骨組みを組み上げる番だ。
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