第45話 『南部の顔』
国家備蓄制度案――暫定承認。
その報は、王都から南部へ、そして全国へと広がった。
賛否は割れた。
「市場への過剰介入だ」
「干ばつ時限定なら妥当だ」
「悪役令嬢が国家を動かした」
噂は再び形を変える。
だが一つだけ、変わらない事実があった。
南部連盟は違法認定を免れた。
そして、エリシア・ヴァルドールの名は、王都議会議事録に正式に刻まれた。
議会庁舎前。
クラウスが近づく。
「正式委員に推薦したい」
「私を?」
「制度設計の実務担当として」
ざわ、と周囲が揺れる。
「南部はまだ干ばつ下です」
「だからこそだ」
若い議員の目は真っ直ぐだ。
「机上ではなく、現場を知る者が必要だ」
エリシアは一瞬だけ黙る。
責任は南部にある。
だが制度は国家へ広がる。
「南部連盟の代表としてなら」
「承知した」
握手は交わさない。
だが合意は成立する。
遠くで、バルドが見ている。
表情は硬い。
「終わっていない」
セリオが小さく言う。
「当然だ」
市場は国家を嫌う。
だが国家も市場を必要とする。
均衡はまだ遠い。
その夜。
カイルが静かに言う。
「私は復職の可能性がある」
「よかった」
「だが条件がある」
「何でしょう」
「南部と距離を取れ」
沈黙。
「どうしますか」
「拒否した」
短い答え。
エリシアは目を閉じる。
「……あなたは愚かです」
「承知している」
わずかな笑み。
「だが、賭けると決めた」
王都の灯りが揺れる。
「あなたが倒れたら困ります」
再び、口にする。
今度ははっきりと。
「利益が減るからではありません」
カイルは一瞬だけ言葉を失う。
だが踏み込まない。
「私もだ」
それ以上は言わない。
曖昧なまま。
それで十分だ。
翌朝。
南部へ帰還する日。
駅舎に人が集まっている。
「南部代表だ」
「制度を通した令嬢」
悪役ではない。
象徴だ。
ルナが手を振る。
「お腹、すいてないよ!」
笑いが広がる。
エリシアは振り返り、王都議会庁舎を見上げる。
ここで戦った。
だが戦いは終わらない。
国家備蓄制度は設計段階。
投機監視制度はこれから。
干ばつは続く。
南部はまだ乾いている。
列車が動き出す。
レオンが低く言う。
「嬢」
「はい」
「もう、南部だけの話じゃねぇな」
「はい」
窓の外に王都が遠ざかる。
「責任は広がりました」
「怖くねぇのか」
一瞬の間。
「怖いです」
だが目は揺れない。
「それでも、選びます」
南部の顔。
国家制度の設計者。
冷酷と呼ばれた悪役令嬢は、
今や責任の象徴となった。
干ばつは続く。
市場も続く。
だが制度は、形を持った。
物語は、国家編へ進む。
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