第44話 『証言』
特別委員会、第二回会合。
議場の空気は、前回よりも鋭い。
南部案は否決されていない。
だが支持も盤石ではない。
「本日は証言を求める」
アルノルトが告げる。
「南部連盟関係者を」
ざわめき。
エリシアは一歩引き、背後を見る。
レオンが前に出る。
まだ完全ではない足取り。
だが、迷いはない。
「名を」
「レオン・ハルク」
「南部ラグナ村」
視線が集まる。
「あなたは制度の下で働いた」
「はい」
「南区画は放棄されたと聞く」
「はい」
ざわ、と空気が揺れる。
「不満はなかったか」
一瞬の沈黙。
「ありました」
正直な声。
「怒ったし、怖かった」
「だが」
顔を上げる。
「俺は生きてる」
静まり返る。
「南を守ってたら、全員死んでた」
議場のざわめきが止まる。
「嬢は冷酷だ」
小さな笑い。
「でも嘘つかねぇ」
エリシアは何も言わない。
「切ったのは、俺たちだ」
「嬢が決めた」
「でも、俺たちも選んだ」
アルノルトが問う。
「強制ではなかったのか」
「強制だ」
ざわ、と空気が跳ねる。
「でも、理由は説明された」
「数字も見せられた」
「選ばされた」
レオンは続ける。
「それが制度だ」
静寂。
次に呼ばれたのは、ルナ。
小さな身体。
ざわめきが広がる。
「名を」
「ルナ」
「姓は」
「ない」
沈黙。
「干ばつで家族を失った」
「うん」
「連盟に救われたのか」
ルナは首をかしげる。
「わかんない」
小さな声。
「お腹すいた」
議場が凍る。
「市場ってなに?」
誰も答えない。
「お腹すいたの、誰が決めるの?」
静寂。
エリシアは前に出る。
「市場は決めません」
「なら誰が」
「制度です」
アルノルトが目を閉じる。
バルドが口を開く。
「感情に訴えるな」
「数字も出しました」
エリシアは冷静に返す。
「証言も、数字も、どちらも現実です」
クラウスが立ち上がる。
「国家は、干ばつに備えていない」
「南部は試行した」
「失敗もあった」
「だが放置よりは秩序があった」
議場が揺れる。
アルノルトが木槌を打つ。
「国家備蓄制度案、暫定承認」
ざわ、と広間が揺れる。
「詳細設計は委員会に一任」
バルドが立ち上がる。
「市場は反発する!」
「市場は国家の外ではない」
アルノルトが静かに言う。
「干ばつは周期的だ」
「制度は必要だ」
決定ではない。
だが前進だ。
議場を出る。
人々の視線は、前日とは違う。
「悪役令嬢」
「いや、南部代表だ」
カイルが近づく。
「やりましたね」
「始まっただけです」
ルナが袖を引く。
「お腹、すいてない」
小さな報告。
エリシアは微笑む。
「よかった」
干ばつは続く。
だが制度は、国家へ踏み込んだ。
冷酷と呼ばれた選択は、
今、政策になろうとしている。
責任は、形を持ち始めた。
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