第43話 『反撃』
公開審問の翌日。
王都は、静かに割れていた。
「南部案は危険だ」
「国家が市場に介入するのか」
「だが投機は事実だ」
議会は分裂。
商人たちは様子見。
そして――反撃は早かった。
朝刊一面。
『南部連盟、餓死者を出しながら国家介入を主張』
見出しは冷酷だ。
クラフト村の六歳の子の名が晒されている。
ルナがその紙を見つめる。
「……この子」
「はい」
エリシアは目を伏せる。
「連盟の罰則で亡くなった、と書いてある」
「事実の一部です」
だが切り取られている。
罰則だけが強調され、
教会の施しも、
投機の煽りも、
干ばつの深刻さも、書かれていない。
ミレイアが低く言う。
「バルド派の資金が入っています」
「想定内です」
だが痛い。
その日の午後。
特別委員会、初会合。
議場は前日よりも冷たい。
アルノルトが口を開く。
「南部案について審議する」
バルドが立つ。
「まず確認したい」
紙を掲げる。
「連盟は餓死者を出した」
ざわめき。
「それが国家モデルか」
視線がエリシアに刺さる。
「餓死は事実です」
逃げない。
「ならば失敗だ」
「違います」
即答。
「干ばつ下で死者ゼロは幻想です」
ざわ、と空気が変わる。
「幻想だと?」
「はい」
冷静な声。
「無秩序下では暴動と略奪が起きます」
「投機が加速します」
「連盟下では、死者は最小でした」
数字を出す。
南部非加盟地域の暴動死者数。
連盟加盟地域の統計。
「最小だと胸を張るのか」
「胸は張りません」
静かな返答。
「ですが、嘘もつきません」
沈黙。
バルドは一歩踏み出す。
「あなたは冷酷だ」
「はい」
「国家は冷酷であるべきだと?」
「国家は、責任を持つべきです」
言葉が落ちる。
「責任とは何だ」
「選んだ政策の結果を、引き受けること」
視線が議員席を巡る。
「市場は責任を取りません」
「投機は消えます」
「だが死者は残る」
静まり返る。
そのとき、若い議員が立つ。
クラウス。
「質問がある」
「どうぞ」
「国家備蓄制度があれば、餓死は防げたのか」
一瞬の沈黙。
「完全には防げません」
正直な答え。
「ですが」
「規模は縮小できます」
クラウスは頷く。
「干ばつは周期的だ」
「ならば制度化すべきだ」
ざわ、と議場が揺れる。
バルドは苛立ちを隠さない。
「理想論だ!」
「数字です」
エリシアは再び示す。
「資金流入と価格乱高下」
「国家監視があれば、炎は小さくできる」
アルノルトが低く言う。
「委員会は継続審議とする」
木槌。
即時否決ではない。
だが決定でもない。
外に出ると、群衆が待っていた。
「本当に餓死が出たのか」
「冷酷令嬢だ」
「だが数字は本物だった」
評価は割れる。
カイルが柱の影から現れる。
「反撃は想定通り」
「はい」
「次は」
「政治だ」
バルドは市場を握る。
だが議会は、揺れ始めた。
エリシアは空を見上げる。
王都の空は澄んでいる。
南部の乾いた風とは違う。
「まだ終わりません」
「ええ」
カイルは小さく言う。
「ここからが本番だ」
制度は提案された。
だが国家は重い。
干ばつは続く。
市場は静観。
そして政治が、動き出す。
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