剣士と進化
『へ、へ、へ』
「な、何なんだよコイツ……⁉」
スライムだ。しかし普通ではないスライム。
人間よ、お前の前にいるのは、生後100日のノーマルスライムだ。
「クッソ、俺がやってやぁあああ!」
先程まで興奮しきっていた男は背中の鞘から剣を引き抜き、スライムへと斬りかかる。しかし、学習者はそれを見ていた。
≫軌道予測完了。インプット・アウトプット、実行。
『やってやー!』
スライムは触手で構える短剣を大きく振り回し、まるで鞭のように振るう。
関節がないからこその、予測できない剣撃。それは、無慈悲に剣士を切り裂いた。
「ァアアああ――⁉」
「ちょ、ちょっと!」
「ガイ⁉」
「ぁあっ」
まずは剣を持つ腕。そして腹部に一刺し。
「ガぁあああああああああああああああああーーーーーイッ⁉」
一つ。
「よ、よくも……スライム風情がぁ!」
怒りに身を任せた女盗賊。
だから、そこは間合いなんだよ。
『とう、ばつ、がぁ!』
「…………ぇ」
断頭。ボトッと音を立てて落ちる肉塊。それは、人だったもの。
二つ。
「クッソ、がぁああああああああああああああああああ!!!!!!!」
屈強な戦士。その肉は断ちにくいだろう。だが、加速すればいいだけの話。
スライムは触手を全力で回転させ、遠心力を短剣へと伝える。この僅かな戦いで回転が威力になることは理解した。なら、次はそれを利用するまで。
「死ねぇええ!!!!!!!」
『シ。ネ』
縦横無尽に振るわれる乱撃。それは大男を一瞬で切り刻んだ。
三つ。
さあ、後は聖職者ただ一人。しかも怯えて反撃できないと来た。
好機。殺すなら、トウバツするなら今。
やれ。斬れ、裂け。穿て!
『…………ァアア』
「ひっ…!」
『オチ、ツイテ、クダサイ』
「い、やぁ…っ!」
スライムは、まだ冷静だ。いや、冷静になった。
大丈夫だ、頭は冷えている。
「たす、けて…!」
『つ、た、え、ろ』
「え?」
今までの会話から言語のアルゴリズムを解析し、逆算、突き止めた言葉の欠片。
ここに、剣を扱い、人語を解する下級魔物が誕生した。
「な、何を……?」
『お、れ、を』
「…………っ!」
神官は意図を理解したのか、その場から逃げだす。これで、しばらく森は平和になるだろうか。まさか討伐部隊が来たりはしないよな?
『…………ああ、おれ、なに、で、こ、な、つよ。く』
≫ユニークスキル・《繫がる者》の成長を確認。エクストラスキル《剣技》を獲得。それにより、進化を開始。
『…………シンカ?』
その声も聞こえるようになり、意味が伝わってくる。
それって、強くなるのか?
≫三つの魂を糧として、ノーマルスライムをスライムSへと進化……完了。
『…………スライム……おれ』
自身がその生物であると認識。
『…………S』
いったい何を意味するのか。それはまだ、分からない。
ただ一つ言えるのは、コイツはスライムであって……雑魚じゃない。




