2章XV(sideA) 『同化』
「マジックリング、起動!」
眩しい光が辺り一面を覆う。変身が進んでいる。葵ちゃんは髪が伸び、所々に紫色のメッシュが入っている。眼鏡は割れて粉々になってしまったが、凛とした表情で『天使』にしがみついている。
「うざいうざい!異能ってのはお前みたいな馬鹿が加害性丸出しで使うもんじゃないんだよ。なんでこっち側の人間は態々自分は思いやりの気持ちもない馬鹿ですってお気持ち表明したがるの?そんなのが通用すると思ってるのお前らだけだが?笑。なんで自分が勝手に悪者だと決めつけた相手には加害しても問題ないと思ってるの?今現在進行形で私はあなた達に加害されてるわけなんだけど、なんなの?ちょっと悲しみを表していたらそれは悪者になるってことなの?そりゃ何もしてないのに加害されてるなら可哀想だけど相当な理由があるじゃない。私たちが昔いた所で初めて暴力的な被害を受けた時は、周りの人々に当たり前のように守られていたけどね?ここら辺の人間たちの罪の意識の軽さとか、周りが誰も動いてくれないのとか、社会としての被害者の権利の認識が根本的に違うのを感じるよね。それがグロテスクなんだよ。一方的にボコボコにされている方は何か因果応報を受けているだけだみたいなそういう一種の洗脳的なもの本当にやめてほしい!」
「たまちゃん、葵ちゃんのマジックリングの効果ってなんなの?」
「葵っちの魔法はヤバいにゃんよ…。見てれば分かるにゃん」
そんなに強いのかな?でも、元の魔法『心読』だよ? なんか強くなりそうな要素ある?私よりはマシだろうけどもそりゃ…。
「ふぅ………………………。同化!」
葵ちゃんの体がオーラで包まれる─と同時に、『天使』の体も同じ色のオーラで包まれた。
そしてもっと驚くべきはそのオーラで覆われた葵ちゃんの姿だ。葵ちゃんは既に『天使』の足から腕を離していた。だけど、体は落下する素振りを見せない。羽だ、羽が葵ちゃんの背中から生えている。それも目の前にいる『天使』と全く同じ色、全く同じ羽ばたき方、全く同じ毛の本数の羽が生えているのだ。そして、変身によって変わった衣類も半分真っ白に、髪も所々が白くなっている。
「な、…なによ!キモいんだけど!そうやって同じ姿になったからって私の気持ちを理解した気になったつもり!?そういうことじゃないんだよね。どうせ、私と同じ境遇を感じたところで、あれ?全然辛くないじゃん。なんで悲しんでるの?みたいな心ない言葉をかけるだけなんでしょ?違うじゃん。私が理解してって言ってるのはそういうことじゃなくて……あぁ!なんて言うのかな!とにかくさ、私の悲しみを理解して寄り添うべきなの!そうやって否定しにかかっ…」
「一心同体」
「……」
き、急に辺りが静かになった。辺りが静かになったというよりは、『天使』が急に喋らなくなったのだ。騒音となっていた彼女の話し声が全く聞こえなくなる。
「一心同体。───僕の感情と君の感情を共有し1つにする技だ。君に理性というものを僕からプレゼントしよう」
「はぁ…はぁ…。何?私を脅そうっていうの?いや…違う。脅しなんかじゃない、何を考えているんだろう私。そんなことない!これは理不尽だ!自分の考えを私に押し付けようだなんて…でもそれは私も同じで…。あれ…」
「す、凄い。『天使』が自問自答しながら自分の感情を抑え込んでる! 」
「うん…凄いんだけど……。っっ!あすみ!避けて!」
「え!?」
私は沙那に押し倒されて尻もちをつく。何事かと思ったけれど、私がさっきまでいた地面には切込みが入っていた。音的にはなにか突風のようなものが地面を切り裂いたのだろうけど…。一体何が…
「七瀬あすみ!凄いだって!?そうやって傍観者に立っていればそりゃ楽でそんな軽い言葉をかけることが出来るだろうよ。だから…………待て、落ち着け、落ち着くんだ…。冷静に…ぐっ!ダメだ!イライラする!僕が最前でこんなに危険な目にあっているのに!天使の微笑み!!」
「にゃにゃ!反射!」
たまちゃんが飛んできた風の斬撃を跳ね返す。そしてその斬撃は今通ってきた道を戻り…
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
葵ちゃんの左腕を体から切り離す。空に浮いた葵ちゃんの腕は重力に逆らうことなく、森の中へと落ちていく。そして、その腕は1本だけではなかった。
「いやぁぁぁ!私の腕が!」
『天使』の子の方の左腕も同様に体から切り離されていた。葵ちゃんの腕がちぎれた部分と全く同じ距離だけ肩から離れたところに傷ができ、そのまま腕が体から分離する。こ、これは…。
「いい?この状態の葵の様子には常に細心の注意を払って。今は葵にないものが『天使』から、『天使』には無いものが葵から送り込まれている状態なの。。だから、『天使』の方は普段ない理性によって感情が抑え込まれるけれど、逆に葵の方は普段無い感情の露呈が見られる可能性がある」
沙那が私に今の状況をこと細かく説明してくれている。
「葵の『強化』された魔法は『同化』。普段相手の心に触れることが出来る葵が、今度は精神的にも肉体的にも任意の相手とリアルタイムで感覚を共有出来るって感じ。それは魔法についても同じ、もしあの『天使』の魔法が持ち主の感情変化によって無意識的に発現するものだとすれば、葵から魔法が飛んでくる可能性がある」
「わ、分かった!でも、葵ちゃんの腕が!」
「咄嗟の判断で跳ね返しちゃったにゃん…。申し訳ないにゃ…。でも、多分大丈夫にゃん。流石に『天使』の方が何かしらの回復手段を持ってるはずにゃん」
そうか、今は体が『天使』と一体化しているわけだから、『天使』の方が回復すれば葵ちゃんも回復するというわけか。
「お…、おい!は、早く回復手段を取って僕を…え、嘘、そんなことあるわけ」
「何よ!勝手に期待しといて勝手に幻滅するとかそれこそ自分勝手すぎない?そうよ。私の異能に回復する能力は無いわ。私の魔法は『天使』。自分の感情が自分を中心とする一定の距離の自然現象に影響するというだけ。これでどうやって回復しろっていうのよ」
え…?回復手段が無いだって…。それじゃああの千切れた腕はどうすれば…。
「ふぅ……。はぁ…。落ち着け…。どうやら君の体は僕の体よりも数倍丈夫らしい。体の一部が欠損しても切り傷くらいの痛みしか感じていないよ。君は一体何者なんだ?」
「何者?別に私はあなた達と何も変わらないと思うわよ。あなた達だって異能を扱える化け物なんでしょう?私達と何ら変わりないじゃない。──それに、平気とは言うけど、顔はとても苦しそうね。本当に耐えられるのかしら」
葵ちゃんの顔はみるみる歪んでいく。溢れんばかりの感情を理性で押さえつけようとしている顔でもあるのだろうが、それよりももう1つ、単純な体力的な問題もあるだろう。
今この一時も彼女たち2人の左腕からは鮮血が滝のように流れ落ち、地上を紅く染め上げている。このままじゃあ失血によって倒れ…いや、その前に魔法がおそらく効力を失ってしまう。そうすれば羽で浮かぶことも、腕の欠損に耐えることも出来なくなってしまう。
「はぁ…はぁ…。このままじゃ体力が持たない…」
「ん!?ミリル!何があったんのこれは!」
「だ、誰にゃ!?」
私たちの目の前に現れたのは黒髪の少女だ。八重歯を持ち、その姿はまるで吸血鬼のような感じだけれど、背中には実体があるのかどうか分からない、幻影的な羽が生え、それで浮かんでいる。そして、『天使』の方に声をかけたということは、おそらく我々の敵だ。
「ルビル…、どうせならあなたじゃなくてルナ姉に助けに来て貰いたかったわ。私あなたのこと嫌いだし」
「ん、ウチも同意。………でもなんか今日のミリルはちょっと大人しくない?まぁいいや。ミリルの体に仕込んであったバイタル測定器が異常を起こしたので飛んでみたんだけど、まさか腕をやられているとはね。とりあえず傷口を塞ごうか。悪魔の治療」
『天使』の傷がみるみると塞がっていく。そして、その回復は葵ちゃんの腕にも施され、滴る鮮血の雨は止んだ。
「ん、ウチじゃ腕を生やすことは難しいな。後で帰ってフレアに頼もう。フレアなら出来るはずだ。────そして、なぜあいつはミリルと同じ羽が生えていて、さらに今回復した?」
黒髪の少女が葵ちゃんを指さす。葵ちゃんはぜぇはぁと息を切らしながら2人を睨みつけている。
「そう、あいつ!あいつが私の体を乗っ取ってるんだかなんだか知らないけどすごく気持ち悪いの!なんとかして!」
「ん、そうか。ミリルがいつもよりウザくないのはあの子の異能の影響ってことか。じゃあ別に何もしなくて良くない?ウチにはミリルがこのまま大人しく居てくれた方がメリットがあるし、この異能を解除する合理性が全くないんだけれど」
「は、はぁ?私を見殺しにする気!?私はあなたの姉なのよ!私があなたをどれだけ世話してきてあげたと思っているの!その恩を無下にしようだなんてあまりにも非常識すぎない?どんな恩にも必ず報いるべきで、それは姉妹感であっても…」
「ん、うるさい。結局理性で抑え込まれていてもこんだけうるさいんだったら元と変わらないじゃないか。君、もうちょっと頑張ってくれよ」
「はぁ…その『天使』の感情が僕に流れてくるばっかりで、僕の理性が追いつかない。どんだけ思いが強いんだ…」
葵ちゃんももう理性で感情を押さえつけられないことを理解してきている。
「ん、使えないな。なら、今この喧騒を沈めるために君の異能を解除するのが1番合理的という判断だね。悪夢」
黒髪の少女は魔法の行使を『天使』に向かって行う。すると、『天使』の少女は闇の球体のようなものに包まれ、そして。
「何!?」
葵ちゃんの羽が消えた。どうやら『同化』が解除されてしまったらしい。羽を持たず羽ばたくことが出来なくなった葵ちゃんはそのまま地上へと落下を始める。
「にゃ!誰か受け止めないと!」
「私がやる。全透過!」
沙那が叫ぶと、沙那の周囲の地面が液状化する。木や建物の残骸が飲み込まれる中、ちょうど葵ちゃんもその液体の中へと落水する。
「よし、今向かう」
片腕だけの状態ではただ水から浮上するだけでも困難だ。沙那が後から地面へと潜り、葵ちゃんを抱え込んで地上へ戻ってくる。
「出して!早くここから出して!暗い!お前こんなことして許されると思ってるの?こんなのが妹とか本当にヤバすぎる。なんで異能を解除して欲しいって頼んでるだけなのに、私が大きな犠牲を強いられなきゃいけないわけ?普通の姉妹だったら姉と妹でお互い助け合いながら生活するものって話でしょこれ。なんでいつもルビルは自分都合ばっかりなの?いつもルビルがなにかしたいっていう時に、私は姉として止めてあげてるの。だってそれが危なかったり、私がして欲しくない事だったりするもの。でも、いっつも私のその反対は姉妹に許してもらえないよね。私には姉妹がそれに同調したら自分の意思で強くそれを拒否することすら許されてないんだ。たとえ拒否したところで姉妹全員か「冷たい姉」としてのレッテルを貼られることになる。非情な姉ってことにされる。こんな酷いことって他にある?そもそも私のバイタルをチェックしてたって何?私の体に何してる訳?そんな奴隷みたいな扱いしてさ。私の事下に見てるんでしょ?いいですよーだ。じゃあもう煮るなり焼くなりすればいいじゃない。私なんて死ねばいいってことなんでしょ!?」
「ん、無の槍」
「いやぁぁぁぁ!!!」
闇に包まれた球体の中から肉塊が切り裂かれるような音が何度も響き渡ってくる。何が起こっているかは考えないようにしよう。
「ん、ミリルが迷惑をかけたみたいだね。ウチから代わりに謝っとくよ」
「え、えぇ。それよりも葵を…この子を何か回復させる手段って持っていませんか?傷口は塞がっているものの、腕が復活しなくて…」
葵ちゃんだ。沙那が救助には入ったけど、目を覚まさない。息はあるから生きてはいるみたいだけど、左腕は無くなったままだ。
「ん、ある事にはあるけど〜。私に教えるメリットは?」
「にゃ!お礼ならいくらでもするにゃ。お願いしますにゃ!」
「ん、先払い」
「え?」
黒髪の少女は私たちの方をじっと見て、右手を差し出してくる。
「ん、何をくれるの?お金?食べ物?高価なものだったら別にいいよ」
「にゃ…今はそういうのの持ち合わせがないにゃ…。後で必ず返すにゃで…」
「ん、じゃあ無理。そもそも君たちはウチに条件を付けられるような立場じゃないよね。それは非合理だよ」
「あ、ま、待って!」
私は呼び止めようとするが、少女は近くにあった黒い球体と共に全速力で飛び去っていってしまった。
「にゃ…これは一体どうすれば…」
「たまちゃん、たまちゃんの魔法だったら、腕が無い状態を腕がある状態に変えられたりは出来ないの?」
たまちゃんの魔法は『逆転』である。物の有無も変えられそうなものだけど…
「難しいにゃ…。多分、葵っちの腕以外が消えて、腕だけ復活するって感じになっちゃうかもしれないにゃ…。やってみないと分からないんにゃけど…」
そっか…、リスクが大きすぎるのね。確かにその魔法は行使していいかどうか悩みどころかもしれない。
「うぅ……。いたっ!」
「葵っち大丈夫かにゃ?」
「う、うーん」
葵ちゃんが自分の左腕があった場所を見る。そもそもこのクラスというのは世界の崩壊に対処するために命を惜しまず訓練し、命を惜しまず敵と戦闘するよう選抜されたメンバーなのだ。ここに死に対する覚悟が無いものはいない。ただ、実際にこうやって大きな傷を目の当たりにすると、誰しも立ち直れなくなるのは当然のことだ。
「葵っち……私に魔法を使うにゃん」
「古賀環?なんでそんな」
「そもそも葵っちが傷を負ったのは私のせいにゃ。これは私が自分自身で落とし前を付けにゃきゃいけないことにゃ」
たまちゃんが葵ちゃんへ魔法の行使を提案する。葵ちゃんの『同化』で、たまちゃんの体と葵ちゃんの体をつなげば、葵ちゃんに不自由はなくなる。でも、たまちゃんのプライベートがほぼ無くなるというデメリットもあるし、なんなら片方がしたことがもう片方に自動的に反映されてしまう。
「いいの…?僕は別にこのままでも…。覚悟は出来てた事だし」
「気にするにゃ!どんとこいにゃよ」
「分かった……。同化!」
葵ちゃんが魔法を行使する。葵ちゃんの体は体付きもたまちゃんそっくりになり、髪も猫耳型へ変形した。…あれ自前なんだ…。そして、たまちゃんにあって葵ちゃんに無いもの。左腕が共有される。葵ちゃんの左腕が復活し、ただそれは右腕とは形が違う。明らかにたまちゃんのスベスベとした腕だった。
「にゃはは!なんか変な感じがするにゃんね」
「そ、そうね」
「ほら〜私と『同化』したんにゃから、ちゃんと語尾ににゃんって付けるにゃよ!」
「それは…やだ」
一悶着あったけど、どうやらこれでこの件はまとまったみたい。2人が納得してるのなら、私が口を出すこともないしね。
「白石会長、この後どうしましょうか。合宿もこの島の有様だと困難に思えますけど」
「そうだね〜ホテル内の公衆電話でも使って先生に連絡をとってみようか?繋がるか分からないけれども」
連絡をするとなれば、小鳥遊先生か、姫野先生か。個人的には小鳥遊先生の方がいいと思うけど、姫野先生記憶ないし。
「分かりました。じゃあ私とりあえず学校にかけてみますね」
私が率先して電話をかけにいく。戦いで何も役に立てないのだから、こういう所で少しでも役に立たないと。
崩れまくってもう一階部分しか残っていないホテルに入る。天井は吹き抜けていて風が寒いけれど、公衆電話は何故か無事だった。あれか、結構固めの扉で覆われていたからかな。
私は何とか覚えていた学校の電話番号を入力し、電話をかける。先生個人の電話番号を知っていればよかったんだけど、流石にそんなものは知らない。
「はい。桜です」
誰かが電話に出た。桜は…確か保健の先生だった気がする。寝てた入学式の中の微かな記憶だ。
「あ、保健の先生ですか!すみません。小鳥遊先生につないで貰ってもいいですかね」
「小鳥遊か…すまない。小鳥遊なんだが、今ここ──保健室で眠っていて目が覚めないんだ」
え!?どういうこと?目が覚めないって…。
「どうやら昨日過激な戦闘をしたようでね。息はあるんだが、どうやら気絶状態から目を覚まさないんだ。残念ながらそちらに向かわせるのは難しい。代わりに姫野先生だったら遣わせられるんだけれど」
姫野先生か…ちょっと不安だけれど、背に腹は変えられないか…。
「姫野先生でも大丈夫です。ただ、これ以上の合宿の継続が困難で、私たちは帰宅を要請したいんですが、小鳥遊先生の『瞬間移動』なしで大丈夫ですか?」
「何を言ってるんだ。帰っては来れないぞ」
「え?」
「この魔法強化合宿は必修プログラムだ。どんな理由があれ、途中で帰宅したものは退学の他ない。そこは理解してくれ」
「そ、そんな。でもこっちには左腕が無くなったりした大怪我人が」
「その程度なら毎年発生している。毎回魔獣との模擬戦闘で命を落とすやつも少なくはない。魔法強化合宿とはそういうものだ。とりあえず姫野先生は向かわせる」
う、嘘…。そんなスパルタ教育なの…。
「姫野先生。皆さんのところに向かってくれますか」
「了解〜。私の体よ、あの島まで1分で向かえ!」
「今、姫野先生が轟速でそちらに向かいました。後はそちらでなんとかしてください」
「そ、そんな!」
プツッと電話が切れてしまった。いくらなんでも薄情すぎはしないか…?先生にとってこの学園の生徒というのは世界の崩壊を抑えるためのチェスの駒にしか過ぎないのだろうけど。
とりあえず皆の所へ戻ろう。そして自体を報告しないと。
「みんな〜。ごめん……って、姫野先生!」
みんなの所へ戻ると、姫野先生が既にみなの輪の中に入っていた。
「姫野先生、葵の腕を治すことは不可能なんですか?」
「うーん。この状態だと無理かなぁ〜。私の命令行使による治癒はあくまでも物理的に可能な範囲まで〜。ちぎれた腕がきちんとその場に存在していれば、直ぐに繋げることは出来るんだけど〜、無いものを生やすことは出来ないな〜。それに、どうだろう。対象、如月葵の腕!ここに来て!」
姫野先生が魔法を行使する。けれど、何も周囲には起こりはしない。
「うーん。これでこの子の腕が飛んでこないってことは、もうこの島には存在していないと考えるしかないね〜。理由は分からないけど〜、多分『同化』が原因かなぁ。これは推測の範囲でしかないけれど、あなた達が戦っていたっていう『天使』のような子、その子の腕がちぎれた際、もし腕が自然消滅するような事があれば〜、『同化』によって如月さんの腕も消滅してしまうのが道理だね〜。恐らくこういうことだと思うんだけれど〜」
確かに、あの『天使』はおそらくだけれど、人間じゃない。人間じゃないのだとすればそういったイレギュラーなことが起こってしまうのも頷ける。
「そう…ですか」
「ごめんね〜。私もどうにかしてあげたい気持ちが山々なんだけれど」
「姫野先生、そろそろ指示を出していただいてもよろしいですか?生徒たちが混乱しています」
「白石さん分かったよ〜。どうしようかなぁ…」
白石会長が姫野先生へと打診する。訓練は続けるらしいけれど、この状態で何を…
「よし決めた!2日目はサバイバル生活!今日の住む場所を確保しよう!」
「サバイバルですかにゃ…」
「うん!1グループ5人くらいに別れて、それぞれの今日寝る場所を作ろうか!とりあえず衣食住だね〜」
た、確かにホテルがあの有様なんだ。今は今日寝る所すらない状態だけど。
サバイバルって私たちに出来るのかな…?




