表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女学園  作者: 弟子
2章
PR
40/53

2章XIII(sideB) 『悪魔』

 さて…私はこれをどう扱うべきか…。


「結愛ちゃん〜このシャンプーって使っていいやつ〜?」


「あぁ、はい良いですよ」


「り〜」


 記憶を失った愛莉…。何時間か対話して分かったこととしては、ある一定の期間の記憶がごっそり抜けているという訳では無いこと。どちらかと言えば、特定の記憶に対して穴が空いているというようなイメージだ。少なくとも、私が中学時代の記憶はごっそり抜け落ちているが、その他にも今日国魔連に侵入したことや、13年牢屋に捕まっていた記憶なども抜けている。しかし、マジックリングの使い方は覚えている。と言った具合だ。

 おそらく、矢野氏の目論見としては、愛莉の2度目の侵入を防ぐため、動機を奪ったと言った類だろう。とはいえ、真の目的は定かではないが…。


「結愛ちゃんお風呂ありがとうね〜」


「はい、そこに替えの服置いてあるんで着ちゃってください」


「さんきゅ〜」


 素っ裸で私の目の前に愛莉が姿を現したので、早急に服を着させる。

 ダメだ、何も分からない。考察するためのピースが全くないので、愛莉の記憶を戻す手がかりすら掴めない。一体どうすれば…。


「これ…」


「あ、」


 服を着替え終わった愛莉の目に付いたのは、愛莉がいつも肌身離さずにつけていた、ペアリングが通っているネックレスだ。


「これ、多分私にとって大事なものだったんだろうね。なんか、そんな気がする」


「そう…ですか」


 他人事とはいえ、この愛莉が早乙女紗夜のことを忘れてしまっているというのはなにか居心地が悪いものを感じる。当たり前のものが当たり前のところに存在しない時の感覚というやつだ。


「みなさん、魔法とはこのようにして〜」


「矢野が会見開いてる。見慣れた光景だな」


 ふとテレビを付けてみると、どこかの会場で矢野輔が会見を開いていた。どうせまた魔力を縮小するための制作がどうのこうのと言った話であろう。正直耳にたこが出来るほど聞いたのでうんざりだ。


「あれ〜?今テレビに映ってるの今日のうちらじゃない〜?」


「え??」


 画面をよく見ると、場面が切り替わり、今日の昼頃の映像となっていた。そこには上空で燃え盛る偽物の太陽と、それによって熱で故障した電柱や、燃えている木などが映し出されていた。


「このように、今日昼過ぎに起きました擬似太陽の事件につきましては、やはり魔法少女との関連があると我々は認識しております。このようなことが無いためにも、我々は全力を持って魔力の縮小に励みますので、どうぞご支援してください」


「いいように使われたってこと?」


 ともすると、あの『太陽』の魔法を持つ少女は国魔連の一員ということなのだろうか?でも、本能がそんなことは無いというふうに感じている。なぜかは分からないが…。


「あの子、なんだったんだろうね〜。私たちの生徒の所にも行ってたみたいだけど〜」


「うーん…」


 そう、あの『太陽』の少女、それにその姉と思われる人物は私の生徒の合宿先にも現れたのだ。果たしてあの少女達が一体何者なのか。とはいえ、それが愛莉の記憶関連と繋がってるかと言われると違うと思う…。あぁ難しい!


「ん、あれはウチの妹だよ」


「え、誰!?」


 愛莉以外の知らない低めのドスの効いた声が部屋に響く。声の出処を探すと、私の部屋の天井に黒い髪の少女がまるで蝙蝠かのようにぶら下がっていた。


「ん、だからウチはあいつ──フレアの姉だって」


「あの『太陽』の子のお姉さん……。まさか『月』の子の他にもいたなんて…」


「あぁ、ルナにも会ってるんだっけ。あいつはウチの姉だね」


 フレア…ルナ…。それがあの子たちの名前なのね。そしてこの3人は姉妹であると…


「3人姉妹だったんだ〜」


「ん、()()もう1人居るよ。ウチの姉でルナの妹が」


 まさかの4人姉妹……??あの厄介そうな姉妹がもう2人も……?でも、目の前の子はそんなに横暴って感じでもなさそうだけど…。


「そうなんだ〜。そのお姉さん?は今どこにいるの〜?」


「ん、あぁ。多分今頃今日ルナを痛めつけたやつを殺しに行く準備でもしてるんじゃないかな」


「え…?」


 一瞬で背筋が凍るような発言をされた。ルナというのは『月』の少女なわけだから、それを今日痛めつけた…って、まさか私達の生徒のことなんじゃ…。


「ん、ウチもよく分からないんだよな。別にルナは傷を負ってる訳でもないしましてや死んでる訳でもない。そりゃ何か実害があったっていうなら同害報復として復讐するのは合理的ではあるけれど、ただ戦ったのが許せないってのは些か行き過ぎた感情論だと思うんだけど」


「そんな……!じゃあ助けに行かないと!」


「ん、なんで?」


 蝙蝠のような少女は私に問いかけてくる。え、なんでと言われても…。


「そりゃ、私はあの子達の生徒ですし…」


「ん、どういうこと?それってただの表面上の関係だよね。じゃあ仮に、今からあなたがその生徒たちを助けに行ったところで、あなたにメリットって何があるの?」


「メリットって…いやそんな…もしも生徒が死んじゃったら…」


 い、嫌な予感がしてきた。あの『太陽』の子は生に囚われていた。『月』の子は死に囚われていた。この子もなにかある気がしてきたぞ…。


「ん、確かに生徒が死んだら先生の責任追従は逃れられないかもね。でも、ウチが調べたところによると、この世界では魔法関連による事故として生徒が死亡した例も幾つかあるし、それによって先生がクビになるかとは無いんじゃない?」


「いや、だからクビとかそういう話じゃなくて…その…」


 ど、どう説明すればいいんだろうか。私は先生であの子たちは生徒。だから私があの子たちを助ける。これは私はなにか間違ったことを言っているの…?


「ん、それってさ。メリットも無いのにただ人を助けたいという自分の欲望に従った、非合理的な行動だよね。理解ができない」


「どうだろうね〜。今結愛ちゃんがみんなを助けたいという感情に合理って必要なのかなぁ〜?」


「ん、どういうこと?」


 愛莉が口を挟む。そう、そういうことなんだよ!


「誰だって目の前で知ってる人が酷い目に合ったら悲しくなるし〜、それを防ごうとするのが人間の本能ってやつなんじゃないかな〜?人間は目の前の大事な人を守るために自分の人生すら投げ出しちゃうくらい非合理的な生き物なんだと思うよ〜。でもさ、その非合理さこそがやっぱり人間同士助け合って生きていくためには必要なんじゃないかなぁ?損得じゃ測れないものだってあるって。貴方のお姉さんもそういった理由から復讐しようと思ってるんでしょう?」


 愛莉がまた深いことを言ってる…。こいつ、記憶を失った状態でこんなことを思ってるってことは、紗夜に関しては本当に心から守ろうとしてたってことだよな…。


「ん、だからウチは姉さん─ミリルのことは理解出来ないって言ってるでしょ。ミリルは感情に任せてすぐ行動に移す。まともな話し合いすらろくに出来ない馬鹿なの。でも、人間はそうじゃないんでしょう?考える能力がある。じゃあなぜその考える能力を活かして常に合理的な選択をしない?それでは宝の持ち腐れだ」


 な、なんか言ってるけど…でも、この子が言ってることが本当に正しいのだとすれば、今すぐにでも無人島に行かないと…!


「テレポ……」


「ん、まだ話の途中だよね?悪魔の眼差し(デビル・アイ)


「っ!?」


 なにか私は今魔法をかけられた…?一瞬凍えるような冷気が私の身の回りを包んだような感触があり、そして消えた。そして今は…、あの蝙蝠の子に怯えている…?足がすくんで何も動けないような感覚が…。


「ん、ウチそうやって合理的なウチに付いて来れなくなった結果、感情的になって場を逃げようとするやつが1番嫌いなんだよね。逃げないでくれない?」


「は、はぁ!合理だのなんだの言ってるくせに、結局自分が1番嫌いだからって理由で私の行動を制限するんですか…!」


 私の的を射ているであろう完璧な返しに、蝙蝠の少女は顔を歪める。


「ん、ウチはあくまでも自分の合理に従っている。突発的な感情は必ず身を滅ぼす。けれど、結論としての感情は良いでしょ。そういう論理的な思考力の欠如が自身を感情論へと導く。あぁなんと愚かなんでしょ」


「じゃあさ〜、今結愛ちゃんがみんなを助けに行くのを、あなたが止めに行く理由もなくない〜?」


 た、確かに!そうだ。私を止める理由がこの子には無いはず!これも非合理的だ!


「ん、煩わしいな。少し考えたらわかるでしょう。ミリルの異能は姉妹の中でも圧倒的なパワーがある。ウチたち姉妹は《ある目的》の為にこの近辺に今来ているわけ。あなたがミリルと戦ってもし万が一にでもミリルが怪我をおったらウチたちにとって大きな不利益になるの。分からない?」


「へ、屁理屈じゃん…。そんなこと言ったら私がみんなを助けに行く理由だって…。待って、今魔法が圧倒的なパワーって言った…?」


「ん、言ったけど。それがどうかしたの」


「それはもしかしてその、『月』の子よりも…?」


「ん、当然だよね。なんでそんな考えればわかるようなことを態々聞いてくるわけ?」


 ま、まずい。このままここで時間を浪費していてはあの子たちの命が…!!


瞬間移動(テレポート)!」


 直ぐにでも無人島に移動を!………あれ、出来ない…?景色が私の部屋から変わらない。それどころかその司会はだんだん上よりになって行き、やがて天井が見えた。天井との距離は次第に遠くなっていき、やがて生きていく上で絶対に見ることの無い景色が見えた。自分の足が自身の視線の上にある。これは一体……


「結愛ちゃん!」


「がっ…!!」


 冷静に状況が分析できるようになった瞬間、体に激痛が走る。いや、そもそもこれはもはや体としての原型を成していないのかもしれない。私の体は足、およそ太ももから先が分離しており、足はそのまま床の上で静止しているものの、上半身はその足から離れゆっくりと床へと自由落下をする。


「対象、結愛ちゃん!元に戻れ!」


「ぐっ…!」


 愛莉の魔法によって今度は逆に私の上半身が浮き、それが私の下半身と合体する。なんか不思議な感触だ。でも、これは一体…。


「結愛ちゃんに何をしたの!」


「ん、ウチは何もしてないよ。ただ、()()()()()()動けなかったのにも関わらず、勝手に動こうとしたから、足だけ留まろうとしただけなんじゃないかな?」


「ど、どういうこと…」


「ん、それよりウチはそこのピンク髪のあなたの異能の方が気になるな。一体なぜこの赤髪の子は回復したの?」


 わ、私には目もくれないでこの『悪魔』のような子は愛莉との会話をしようとする。


「教える義理はないね〜。そっちが自分の魔法について詳しく教えてくれたら教えてやらないこともないけど〜」


「ん、情報の交換ね。いいよ。ウチの異能は『悪魔』。悪魔っぽいことができるよ」


「いや抽象的過ぎるでしょ!」


 悪魔っぽいことって何??そんななんでも出来そうで割と何も出来なさそうな魔法なの?


「ん、そう言われても事実だしなぁ。さっきはウチの眼光に怯んで足がすくみ、動けなくなったのにも関わらず、無理に動こうとしたから体が分裂しただけでしょ?」


 なるほど…?魔法をかけられた瞬間謎の悪寒が全身を覆ったのは私の体が無意識的に怯んでいたからってこと…?


「ふーん。悪魔っぽいことね。まぁ何となくわかるよ〜、魔法ってそういうものだよね〜」


「ん、それで、貴方の異能についてはいつ教えてくれるの?」


「え〜教えるわけないじゃん〜。先に魔法の内容教えてくれたのはそっちだよね〜?わざわざこっちも情報開示する必要ある〜?」


「……は??」


 確かに愛莉は教えてやらないこともないって言ってただけで、情報の交換を持ち込んだわけではない。早とちりしたのは向こうの方だ。


「ん、そういう感じ。なら、異能を使わざるを得ない状況にして考察するのが合理的だね。悪夢(ナイトメア)


 まぁそうなりますよね〜。


『悪魔』の目が一瞬赤い光に包まれると、愛莉の周囲が闇のようなオーラで覆われて外側から愛莉の様子が視認できなくなる。


「暗くてよく見えないな〜。上下左右の平衡感覚が失われてちょっと気持ち悪い〜」


「ん、じゃあまずは1回攻撃を受けてもらおう。無の槍(ヌル・ランス)!」


「なんだ〜〜??ぐふっ!」


「愛莉!」


 闇の中から人体の肉が引き裂かれる音が鮮明に私の耳へ入ってきた。それは1度で止むことはなく、なんどもなんども、まるで人間を解体しているかのように何十回も切断音が届く。


「な、何をしているの!!」


「ん、今のは、無の槍(ヌル・ランス)。方向感覚が失われた空間の中、視認することの出来ない槍が様々な方向から無差別に襲いかかってくる。避けるのは不可能」


「ち、ちょっと待って!避けるのは不可能ってそんな愛莉の魔法は凄いチートってわけでもないのに!」


 無の槍と言ってるからには、おそらくこの世には最初から存在していないわけだから、愛莉の魔法によって消すことはまず出来ないだろう。そして、自分の体を硬化させて防いでるとしても、その効力は10秒で切れる。この攻撃、愛莉じゃ防ぎようが…。


「ん、そろそろ死んだかな。解除」


「愛莉!!!……えぅ………ひぃ!」


 闇のオーラが霧散して消えてなくなり、中にあった愛莉の姿を成していたものの形状が明らかになる。最早そこにあるのは人間の姿を成したものではなく、肉塊。いや、それも固体すら残っていない。言わば体内中の水分、組織液や血液と言ったものが身体を形成する細胞を飲み込み、人体の体は80%が水分で出来ているということを証明するには容易い様相を成していた。


「お、お前!!!」


「ん、あれ?まさか本当に死んじゃった?意外とそんな強い魔法でもなかったのかな」


「そ、そんなあっさりと!!」


「もちろん〜私が死ぬわけないよね〜」


 え…???ぐちょぐちょになった液体から声が聞こえてくる。どういうこと?その液体のようなものはピンクのオーラに覆われ、パズルのように人体を形成していく。そしてものの数秒で元の愛莉の体へと……違う!これは昔の─13年前の愛莉だ…!右手にはマジックリングを付けている!変身したあとの姿ってことね!!


「ん、面白い。やはりこの程度じゃ死なないのね。よっぽど馬鹿げている異能の持ち主って感じらしい」


「愛莉…!どうやって!」


「んも〜今日ここに帰ってくるまでの道のりで、結愛ちゃんが教えてくれたんでしょ?このマジックリングってのが私の魔法を強化してくれるって。試してみたら私の魔法は『条件付き』の『服従』が出来ることに気づいたの。だから、私自身に対して、『1度死んだら生き返れ』って条件付きで命令を行使させたって感じ〜」


「条件付き…そうなんだ。愛莉のマジックリングの強化はそうなるんだ…」


 条件付き服従。何かが起きた時に何かを発動させるって命令が出来るようになったってことね…。これなら新しく増えた愛莉の魔法のデメリットも打ち消しにできるくらい最強かもしれない…!


「ん、なるほどね。説明ありがとう、確かにフレアも言ってたっけ、頭のおかしい異能を持っているやつがいるって。それがあなたか」


「ふふ〜ん。そうかもね、私の魔法でその子の太陽消しちゃったし。そういうことでしょ〜?」


「ん、でも、フレアとウチの魔法は性質が違う。吸収(ドレイン)!」


『悪魔』ちゃんが右腕を愛莉に向けると、そこから腕の姿を模した闇のオーラが愛莉に向かって飛んでいく。その擬似的な腕が愛莉を掴むと、愛莉は身動きが取れなくなる。


「な、何これ!」


強奪(スナッチ)!」


「まさか!」


 まずい、強奪(スナッチ)って言った?今。この感じ流れ的には愛莉の魔法を盗むつもりなんじゃ…!!


「ま、まずい〜!魔法が取られると…」


「ぐがぁぁぁぁぁ!!!」


「え…?」


 何故か悲鳴を上げたのは『悪魔』の子の方だ。全身が見る影もなく切り刻まれていき大量の血が溢れていく。どういうこと…?


「何!?なんでウチが…!!死の共有(デスシンパシー)!!!」


「いやぁぁぁぁぁ!」


「結愛ちゃん!」


 切り刻まれていく『悪魔』の子を見ていたら、何故か私の身体までもが切り刻まれ始めた。シンパシー…?何か私に彼女の痛みや傷も共有されている…??痛い、身体が熱くなっていく。愛莉の魔法は…まだインターバルで使えないのか…苦しい…


「ん、おそらく致死量のダメージだったけど、これで痛み分け。危うく命を落とすところだった。これ以上この体の状態で戦うのは非合理的だね。一旦引くよ」


『悪魔』の子は自分を黒い羽根で包み、そのまま姿を消した。一方私の腕は破壊され、目は潰れて何も見えなくなってしまう。痛みはとうにない。多分神経がやられてしまっているから痛みを感じる理由もないんだろう。


「結愛ちゃん!待って!あと35秒!!」


 愛莉が必死に私の体を止血しようとしている…が、私の意識はここで途切れた…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ