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魔法少女学園  作者: 弟子
2章
38/53

2章XI(sideA) 『逆転』

「『逆転』。それは自然の摂理に反するなんとも汚らわしい響きの言葉なのでしょうか。行きなさい。操り人形(マリオネット)たち!」


「あすみっち!まずは葵っちを止めるにゃん!」


「了解!」


 私は葵ちゃんの体を押さえつけようと、手を伸ばして掴もうとするけど…。


 スルリ…


 葵ちゃんは必要最低限の身のこなしで私の腕を避けてくる。操られていても『心読』は存在か。厄介だなぁ。


「たまちゃん!葵ちゃんは無理!心を読まれちゃう!」


「やっぱりそうにゃんね…。操られていても魔法が使えるのは厄介すぎるにゃん。やっぱ原因を倒すべきにゃんか??」


 たまちゃんが操り人形に追いかけられながら私へ返答する。


「先程から私を倒す倒すとおっしゃっていますが、結局貴女方がやっているのは私の魔法への対処のみ。要するに受け身です。そのようなご様子では私に触れることすら難しいのでは?」


「果たしてそれはどうかにゃ?月っちは私がなんの考えも無しにただ走り回って逃げてるように見えたのかにゃ?」


「何を……何故操り人形の数が減っている!?」


 そう、たまちゃんのことを追いかけている操り人形の数が3人減っている。


「どこへ消え……なぜあんな所で立ち止まって…」


 とはいえ、別に姿をくらました訳では無い。少々戦場から離れた、ロビーの踊り場の階段を昇った先で足元を塞ぎ、動きを止めているだけである。しかし、動きが止まっているだけでその操り人形らも魔法は行使している。『光線』『電撃』『暴風』の持ち主の3人だ。


「さぁ行くよ!焦点(フォーカス)!」


 掛け声と同時にたまちゃんが3人の目の前に向かって自身の肉球型手袋のような形を模した手裏剣を投げる。それは彼女ら操り人形の少し目の前の方へ向かって飛んでいき…。


「なっ!!!月下美人(フルムーン)!!」


 ドガーン!!と大きな音を立てて『月』の魔法を使う少女へと魔法が飛んでいく。『光線』『電撃』『暴風』という、このクラスの中でも遠距離攻撃が出来る人達を使って、その魔法を1点に向かって『反射』させたわけだ。さっすがたまちゃん。


「中々やりますね…。危うく月下美人(フルムーン)を使わなければ負けてしまう所でした」


「にゃ!??あれだけの攻撃を一度に食らって無傷かにゃ!?」


月下美人(フルムーン)は1日に1度だけ使える最終奥義、私の体を一瞬の間何事からも守る完全無敵の形態へと変化させることが出来ます」


 まだそんな奥の手を持ち合わせていたのか!だけど1日1回ならもう一度攻撃を当てれば!


「手の内は分かりました。同じ攻撃は2度もさせませんよ。月読命の夢(ルナティックドリーム)!」


 突如私の視界が歪み、立っていられなくなる。まるで世界がぐにゃぐにゃになってしまったかのようで、上下左右の向きもはっきりしない。


「な、何が起こって…」


「にゃにゃ〜!」


 当然体を自由に動かすことも出来ず、私とたまちゃんはその場で膝を付いてしまう。


「月読命の夢は現実と夢の境界を曖昧にする魔法、貴方々は今自分がいるのが現実なのか夢なのかそれすらはっきりしない状態でしょう。あぁ。美しくない。この技、私は嫌いなのです。夢であれば幾らでも人間は悲しみを具現化するもの。しかし、それは本質では無い。なぜならそれは現実世界の苦しみ足り得ないからなのです。故に、この状態では私の真価である深層心理を引き出す能力が全く発揮できないのです…」


 なんかブツブツ言ってるけど私たちはそれどころじゃない。世界が歪んでめまいを起こしている時の気分だ。画面酔いした時のように吐き気まで催してくる。


「よって、この月読命の夢を使った後に相手を救済するには私が物理的に救済しなければならない。なんと美しくないのでしょうか。ですが、そんなことも言ってられませんね。貴方々は私に対して歯向かいすぎた」


 まずい…何かしらの攻撃を仕掛けてこようとしてるのは分かるのだけれど、それを避けられるような状態では無い!とりあえず少女と私の直線上に椅子を配置して姿を隠しているけれど…。


「あらあら。そんな風に身を隠していらっしゃるのですか。苦しいのでしょう?今この現状が。現実か、夢か、その狭間にいる状態から私が救済して差し上げます」


 その苦しい状態にしてるのはお前だろう…!なんて狂ってるんだ…!


「こうなったら…一か八かにゃん…!」


「喰らいなさい。月喰(メテオビーム)


 何かビームのようなものがこちらに向かって飛んできている!ダメだ!進路が不安定すぎて方向が予測できない!


乱反射(ランダムシフト)!」


 たまちゃんだ!たまちゃんが天井に跳ね返って私の方へ向かおうとしてきた光線を、フロア全体に魔法をかけ、反射の法則を無視させて天井から跳ね返った後別の方向へ反射させた!

 その光線は天井で跳ね返った後進行方向とは逆の壁に反射し、さらにもう一度天井にぶつかって、床にぶつかって壁にぶつかって椅子にぶつかって…。


「な、なんですかこれは!何故こちらへ向かってくるのですか!!」


 そして()()()少女が打った光線は多数の跳ね返りを経て、少女の元へと返っていく!!!


「ま、まずいです!このままでは!!」


 ドーン!!!!!!


 大きな爆発音と共に、視界が元に戻る。


「あすみっち!無事かにゃ?」


「うん、私は無事。あいつは!?」


 光線が直撃したとはいえ、相手は中々の強敵だった。全く油断ができない。待っていた砂埃が止み、そしてそこから現れた姿は……。


「な、なんか増えてるにゃん!??」


 なんか2人になってた。先程までの銀髪の『月』の魔法を使う少女の他に、もう1人、オレンジ色の髪をした、少年のような男勝りの少女が立っていた。


「姉貴、戦うの下手すぎ。俺っちが暴食の太陽(スワローサン)で受け止めなかったらどうする気だったのさ?」


「どうするも何も、死ぬだけでしょう。自身の実力不足で死ぬのであれば、それもまた自然の摂理。仕方なく受け入れるべき本質であるでしょう?さすれば死後も安らかに救済を迎えることが出来る」


「チッ!マジで姉貴のそういう所昔から嫌いだわ。生物なんて生きてなきゃ価値がないんだよ!死後の世界を考えるなんて以ての外だ馬鹿馬鹿しい」


 姉貴って言ってるってことは…もしかしてこのオレンジ色の髪の子は…こいつの妹…?そして話してる内容的に…なんかヤバいのがもう1人増えた感じ…?


「お前らすまんな、姉貴が迷惑をかけたみたいだ。姉貴は死が救いだなんだって煩かっただろう?俺っちから代わりに謝らせてくれ」


「え、あぁ。はい。わざわざありがとうございます…」


 あれ…?もしかして妹ちゃんの方はまともだったりするのかな?それなら良かったかもしれない。姉の方は妹ちゃんが抑え込んでくれるだろうし…。


「つーか、姉貴と敵対してたってことは〜、やっぱお前らも俺っちと同じ考え方って事だよな?仲間がいて嬉しいぜ〜。やっぱり、生物は生きてこそだよな!」


「え、えぇ。そ、そう思います…」


 な、なんだろう。この、当然のことを言ってるにも関わらず心の底から込み上げてくる不信感は。


「だ〜よな〜!生物死んだら価値無し!死にゆくやつは本当に可哀想だ。生きている生物の命に貴賎はねぇが!生きているやつと死んだ奴には明確に上下関係がある!もちろん死んでる方が下な?人間って馬鹿馬鹿しい奴が多いよな?どいつもこいつも来世が〜とか、死んだら天国に〜とか言ってるんだぜ。死んだら無だ!何も残らねぇ!生こそが本質なんだよな!」


「え、えぇと…。それは言い過ぎなんじゃ…」


 言いかけた所で場の温まっていた空気が一瞬で冷え込むのを感じる。わ、私今まずった…?


「は?てめぇそりゃどういうことだよ?これが言い過ぎだ?あたりめぇのこと言ってるだけじゃねぇか。それともなんだ、やっぱおめぇも死が本質とか心の中では思ってるタイプなのか?」


「い、いえ…。ただ、生が本質とか、死が本質とか、人間の心ってそんな簡単に決められるようなものじゃないんじゃないかなぁ…と」


 言葉選びを間違えないように、慎重に、慎重に言葉を紡いでいく。


「はぁ…。てめぇも結局その質か。いいぜ、虫唾が走るわ。そんなに死が本質だって言うなら一辺死んでみたらいいじゃねぇか!そしてその期待している天国やら来世やらに天命を託せばいい!」


「え!いや!そ、そんなことは…!」


 だ、ダメだ!この子も『月』の子と同じで全く話を聞く耳を持たない!どうなってるのこの姉妹!!


太陽の裁き(サン・カタルシス)


「は…???え、いや暑い!暑い暑い!!こ、焦げる!体が!!」


「にゃぁ!?にゃ!にゃにゃ!??」


 目の前に突如として現れた高温の熱気を放つ太陽に私とたまちゃんは驚愕の声を上げながら悶える。あ、暑い!


「死んで灰になれ!」


「またお前か〜。消えろ〜!」


 パッと、目の前にあった太陽は本当にその場にあったのだろうかと思わせるくらいあっという間に消えてなくなってしまった。もう少し膨張してたら普通に焼死していた所だった…危ない。


「チッ!またお前か、お前こいつらの仲間だったのかよ。そりゃそうか。そんだけ考え方が同じなんだもんな。同じ相手から2度も逃げるのは気が引けるが、流石に分が悪い。姉貴、一旦引くぞ」


「かしこまりました。それでは、回帰日食(エルリターン)!」


「ま、眩しい !」


 今度は今までの妖しげな光とは違って普通に閃光のような眩しい光がフロアの辺り全体を覆った。そして、その光が止んだ頃には例の2人は既に姿を消していた…。


「た、小鳥遊先生!」


 私の後ろにいつの間にか居たのは、小鳥遊先生、それに姫野先生だった。2人とも『瞬間移動』で助けに来てくれたのかな。本当に良かった。先生が居なかったら今頃どうなってたことか…。


「ぜんぜぇ……!!怖かったにゃぁぁんん!!」


 たまちゃんが号泣しながら小鳥遊先生の懐へ飛び込んでいく。それを宥めながら小鳥遊先生が私へと話しかけてきた。


「今意識があるのは…七瀬さん、古賀さん…そして白石さんの3人ですか」


「会長!」


「やっほ〜上から見てたよん」


 上を見上げると、吹き抜けの所から私たちのことを白石会長が見下ろしていた。右腕には急ピッチで仕上げたギブスをしており、腕を固定している。

 操り人形として操られていた子達、並びに沙那は全員無理に体力を使わされた結果、疲労困憊によって気を失っている。だから、確かに意識があるのは私を含めた3人だけだ。


「丁度いい3人のメンバーですね。あなた達に私から話があります」


「話……ですか?」


 小鳥遊先生が話題を切り出した。


「まずは先に謝らせてほしいです。急に姿を消し、ましてや皆を危険な目に合わせてしまい申し訳なかったです。これでは教師として失格です」


「い、いえ!そんな大丈夫ですよ。頭を上げてください!」


 急に目上の大人に頭を下げられるという滅多にないことをされたもんだから、慌てて小鳥遊先生に頭をあげさせる。


「というのもですね…。これが本題なんですが、愛莉……姫野についてです。どうやら、愛莉は記憶を失ってしまったらしいんですよね」


「き、記憶にゃん!?」


 え、き、記憶を失った!?それって、記憶喪失ってことだよね!?これまたどうしてそんなことに…。


「なぜかとか色々聞きたいことはあると思うけど、私も何も分からないというのが現状で…。愛莉が記憶喪失を起こしたという事実しか残ってないの」


「あはは〜記憶無くなっちゃった〜。君たちが本当は私の生徒だったってこと〜?可愛いね〜」


「ほ、本当だ…私の知ってる姫野先生と全然違う…」


 姫野先生が見たことも無い腑抜けた喋り方で喋ってくるからちょっとビックリしてしまった。


「こういうこと。今この瞬間はホテルの人から個別に連絡が来たから緊急で駆けつけたんですが、私は今日1日愛莉の介護をしなきゃいけないから、皆の監督が出来ないの。だから、白石生徒会長を筆頭に、生徒達だけで合宿を行って欲しいのですが、大丈夫そうですかね…?」


「なんでにゃん?先生も一緒に入ればいいにゃん」


「それが一番なんですけど…、私の一番の心配要素は、そこで眠っている浦川さんで…」


「あぁ…」


 心中お察しします。うちの沙那が本当にすみません。確かにこの状態の姫野先生を見たら寝込みを襲うとかしそうで心配だわ。


「そういうことなら、大丈夫ですよ!安心してください!」


「そうですか?なら良かったです。明日の午後にはおそらく戻りますので、それまでは楽しく過ごしていてくださいね」


「「はーい!!」」


 こう言い残すと小鳥遊先生は『瞬間移動』で目の前から姿を消した。

 記憶喪失かぁ…。これまた不思議な現象が起こってるものだなぁ。


「あすみっち!あすみっち!」


「ど、どうしたのたまちゃんそんなハイテンションで」


「これがハイテンションでいれないわけないにゃん!だって!こんなの先生がいない宿泊学習みたいなものにゃんよ!!テンション爆アゲにゃん!」


 た、確かに…言われてみれば先生という存在のせいで禁止されているような出来事が全部できるってこと…?これは…神イベントかもしれない!!!


「言われてみればそうだ!今から夜が楽しみになってきた…!」


「そうにゃんよね〜。それじゃあとりあえずみんなが起きるまでに夜ご飯の準備でもしようかにゃんね」


「そうね〜。じゃあ私が皆を見てるから、あすみちゃんと環ちゃんは食堂の方に行っててちょうだい」


「分かりました!」


 白石会長に言われて私とたまちゃんは食堂へ向かう。これは…楽しくなりそうだぞ!!


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