2章V 『記憶』
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時間は午後6時、私はまだ職員室で仕事という名の後処理件片付けをしている。
「はぁ…初日から残業かぁ」
推薦クラスのバカとバカ教師が寄ってたかって職員室を粉砕したせいで、その後処理を総長から承っている。とはいえこんなボロボロな部屋修復なんて出来ないよ…。当人の姫野はどっか行ってるしさぁ。
「あぁ、小鳥遊見つけた。ここに居たのか」
「姫野さん!?どこ行ってたんですか。私は貴方の尻拭いを…」
噂をすれば何とやらだ。いい加減私を手伝って欲しい。
「私は明日行くところが出来たから有給を取得する。明日の合宿引率は任せてもいいよな?」
「は…?」
ゆ、有給って言った?この人。就任2日目で?
「い、行くところってだって…。え、有給?」
「あぁ、小鳥遊は気づいてないのか?この違和感に」
「違和感…?」
なにか今日1日の流れで何か変なところがあったのだろうか。私には何もそんな記憶は無いのだけれど…。
「あぁ、私は今日宇田川をわざとではないが、殺してしまった。だが、なぜ宇田川は光の粒となって消えなかった?」
「えっと…?」
姫野さんは一体何を言ってるんだ…光の粒って…?
「光の粒ってなんの事ですか?何かそれが無いとおかしいのですか…?」
姫野さんが大きく1回舌打ちをする。
「はぁ!?一体どうなってるんだこれは。13年前私たちがまだ学園に通っていた頃だ。普通に授業で習ったでしょ?生命を全うした魔法少女はその体が光の粒となり、空気中に紛れて消えてしまうと」
「ほ、本当に何を言ってるんですか…?魔法少女は命を亡くしたとて普通に遺体は残りますよ?第一残らなければ、養護教諭の『蘇生』が全く意味をなさないじゃないですか」
姫野さんが苦虫を噛み潰したような表情で私のことを見る。それは混乱をしている様子だった。
「これはなんなんだ…?大規模な記憶の改竄が起きている?対象、小鳥遊、『思い出せ』」
「!?」
姫野さんの体がピンク色のオーラで覆われて魔法が行使される。対象は私のようだ。
「思い出すって何を…うっ!」
突如私の中に今まで押さえつけられていたかのような記憶の波が押し寄せてくる。そうだ…魔法少女は死んでしまったら光の粒になって…だから、あの時私は彩夏の姿を見つけられなかったんだ!なんで私はこんな大事なことを今まで…。
「思い出しました。そうです、魔法少女は死んだら跡形もなく消えてしまう。じゃあなんで一体現実では遺体が残っている…?この世界は私が知ってる理とは違う…。だって姫野さんは実際にその光の粒となる魔法少女を…見たんですよね?」
私は実は魔法少女が消えるところを見ていない。13年前の世界の崩壊では真っ先に気絶してしまったからだ。
「あぁ…、私はこの手で、あいつが消えるのを見た」
「あ…ごめんなさい」
素直な気持ちで聞いた訳だが、姫野さんに酷いことを思い出させてしまった。これは本当に心から申し訳ないと思っている。
「宇田川自体が例外である可能性を考え、他の魔法少女も一旦命を落とさせようと今日は企んでいたが…。やはりこの世界、もしくは魔法少女全体に大きな記憶の改竄が起こっていると考えた方がいいな。私は長い間地下牢に閉じ込められていたからその改竄を受けていないというのが筋だろう」
「記憶の改竄ってそんな一体誰が…、そしてどんな目的で…」
私自身も記憶が何らかの原因により抜け落ちてはいたが、それが誰によるものなのか。そして何のために行われたのか皆目検討がつかない。いつ頃記憶が抜け落ちたのだろうか。13年前の世界の崩壊の時までは確実に覚えていたはずなんだけれど…。
「私の考察は国際魔力連合、ここにヒントが眠っていると考えている」
「国魔連ですか。確かに魔法関連はそこがいちばん大きく絡んでいますが、果たしてこの大規模な記憶改竄が出来るような能力を持つ魔法少女なんて存在するんでしょうか」
魔法少女といえど、各魔法には効果範囲やデメリットなどが多く存在している。国民全員の記憶を変えられるような魔法が存在しているとは中々考えにくいのが現実だ。
「そう、私が知る限りの魔法ではこの規模の災厄は導けない。だが、明日の実習で使うと聞いたこれを見た時に、点と点が線で繋がってしまったんだ」
「マジックリング…ですか」
マジックリングは魔法を『強化』することが出来る魔法グッズ。もし、『記憶改竄』のような魔法を持つ少女がいるのだとしたら、マジックリングを使うことによってこの現象が引き起こされている可能性も考えられる。
「そうだ。国魔連には組織の中に『記憶改竄』の能力を持つ人物がおり、その人間がマジックリングを使って魔法を行使した。というのが考えだ」
「でも、それってどういう理由の元で行われた行為なんでしょう」
そう、この話のおかしな所は誰がどういった動機でやったのかということだ。そこが1番の気がかりである。
「若干ながら検討がついている。お前から教えてもらった、現在この国のトップに立つ矢野氏と呼ばれる人物だ」
「矢野氏ですか…」
「そう。聞けば矢野氏は国際魔力連合の研究員のトップを務めているそうじゃないか。そして政権のトップになり、魔法の弱体化を公約に掲げている。これはおかしくないか?」
「確かにそうです。民衆へ表向きには魔法の弱体化を掲げておきながら、秘密裏にマジックリングなどという魔法を『強化』する魔法グッズを開発し、それを我々に公に出さぬよう試し使いをさせる。一見矛盾してるようには見えますね」
「あぁ、かなりキナ臭いだろう。だから、私は明日矢野氏に直接会って真意を問おうと考えている」
「え!?」
いきなりのカチコミ宣言に私は驚愕の声を浮かべる。思い切ったが吉日とはよく言うけれども、行き当たりばったりが過ぎないかなぁ。
「何も心配はいらないだろう。相手は男、ただの一般人なんだ。魔法少女の私がヘマをやらかすとは考えにくい。ちょっと接触して真意を聞き出すまでさ」
うーん。果たしてそんなに上手くいくのだろうか。どうも何かが引っかかる。というよりも、まだ我々がこの世界の魔法についてあまり確信じみたことを持てていない気がする。
「大丈夫ですか?それ私も行った方がいいんじゃ。いざと言う時直ぐに逃げられますよ」
「いや、大丈夫だろう。小鳥遊には推薦クラスの面倒を見てもらいたい。明日から合宿だし、明後日からは私も現地に合流する」
姫野さんが休むと言っている以上、学校での姫野さんの役割は私がこなさないと回らなくなっちゃうか。なら仕方ない。
「分かりました。なら明日は私があなたの代わりを受け持ちます。くれぐれも気をつけてくださいね。国魔連は正直私もなにか大きな裏があると踏んでます」
「はいよ〜。まぁいっちょ気楽に行ってくるわ」
そう言うと彼女は職員室から出て、私の前から姿を消した。あ、片付けの手伝いさせるの忘れたわ。まぁいいか。
しかし、今も若干気持ちが悪い。自分自身がまさか記憶の改竄を受けていたとは、それもかなり大きな事柄である。まだ何か思い出せてないことがあるんじゃないかと不安になるが、それを考えたところで思い出せないのだから仕方ない。さっさと仕事を終わらせて明日の用意をしないと。
一体国際魔力連合は何を企んでいるんだ…?




