2章III 『自白』
お母さんの作った料理を持ち、階段を登って自分の部屋へと向かう。私のお母さんの魔法は『調薬』だ。自分の携わった料理に回復の効果か、服毒の効果のいずれかを与えることが出来る。ただ、完食しないと効果が得られないから、使い勝手は良くないんだけどね。
とはいえ、別に私のお母さんも普通に魔法は使えるんだよな。遺伝的に使えないっていう話でも無いし、なんで私には使えないんだろう。
「入りますよ〜」
自分の部屋に入るために一声かけるのはなんか変な感じがする。私のベッドの上では沙那が目を瞑ってすやすやと寝ていた。
とりあえず、沙那を連れて帰ってきた直後、お母さん手作りのお菓子を食べさせたから、少しは回復してると思う。この夜ご飯を食べたら完全に回復するかな。
「ん…あすみ?」
「お、目を覚ましましたか〜」
沙那が目を開き私の方を向いてくる。美味しそうな料理の匂いに反応したか、それとも私の気配に反応したか。
「あ、ミートソース…」
「そだよ〜。沙那これ好きでしょ〜って。私の家来るといっつもこれよね」
「うん。おばさんの作るミートソース美味しい」
沙那はよくうちに上がり込んでくる。まぁ家も隣だし、そして何より、
「沙那の親ってまだ帰ってくる目処立ってないの?」
「うん。音沙汰なしって感じ。本当に子不孝だよね」
沙那の親は沙那が生まれてから6年たった後、7年程前から行方をくらませている。一応国際魔力連合の社員らしいので、忙しいのかな?とも思うけど、それにしても一切連絡すらしてこないのはどうなのかなとも感じる。
数年前、沙那が10歳の頃までは、沙那のことは祖母に当たる人物が育ててたらしいけど、今はその方も亡くなってしまい、沙那は毎日完全にひとりで暮らしている。だから、寂しいからとか言ってかなりの頻度で家に勝手に入ってきたりする。
「その、今日はいろいろあったよね」
「私、あの先生嫌い」
「おっと〜。いきなり踏み込むなー」
無難な話をして落ち着こうかと思ってたら、沙那はいきなり本音をぶちまけてくる。まぁ気持ちは分からなくは無いけど。でも、沙那がやられた後の先生のセリフを考えると、根っからの悪者って気もしないんだよね。
「でもさ、先生も言ってたけど、あれは強い魔法を持つ沙那が油断しないように〜って。沙那のためを思ってのことだったらしいし…」
「それでも嫌い」
あちゃー。ここまで念入りに嫌いって言われちゃうなんて可哀想。この子自分の感情とか意見曲げないからなぁ。
「でも…今のままじゃあいつには勝てない」
「んまぁ、魔法の性能ってより、基本的な戦闘能力の差がある感じよね」
「うん、まさか2回の戦闘で私の弱点を見破られるとは思ってなかった」
魔法を用いた機転のきかせ方、相手に対する洞察力、どれをとっても先生が一枚上手だ。これは生きてきた年月による経験値の差に他ならない。
「で、でもさ。やっぱ強さだけが正義って訳でもないし?そんな気にしなくても…」
「だから私、もっと強くならなきゃ」
あのーー?私のセリフってこの子に届いてます?
「沙那って本当に魔法バカだよね。なんでそんな感じなの?」
沙那が窓の方を向いて外を見下ろす。そして一呼吸置いてから口を開いた。
「私は…、この世界の真実を知りたいの」
「はにゃ?」
たまちゃんみたいな口調になってしまった。世界の真実…?なんじゃそりゃ。
「具体的に言うとね、お母さんとお父さんが何をしてるのか知りたいの。そのために国際魔力連合の秘密を暴く。それが私の最終目標」
「こ、国際魔力連合の秘密…?だって国魔連って魔法に関する法律とかを管理している機関で、別に秘密とかないんじゃ…」
「じゃあなんで私のお父さんとお母さんはいつまで経っても帰ってこないの!?」
「!!」
沙那が珍しく声を荒らげる。
「ただ忙しいだけで娘を放って7年も経つ?絶対におかしい。私のお父さんとお母さんはそんな人じゃなかった…」
もう既に沙那は両親といた時間よりも両親といなかった時間の方が長くなってしまっている。その悲しさは…私には分からない。「分かる」…とは簡単に言えなかった。沙那は決して流しはしないものの、その目には涙を貯めている。
「それで、国魔連には秘密があるってこと?」
「そう、具体的には国魔連が私の両親をどうしているのか。それが国魔連の秘密だと思っている。監禁なのか労働なのか、もしくは…」
言いかけたところで口を噤む。仮定の話でも言えないことというのがあるのだろう。
「それで魔法を極めようってこと?なんか無謀なこと考えるね本当に」
「それでも、私の目標はこれ以外考えられなかった。もし、その秘密が私にとって最悪なものなら…、私はこの手で国魔連を潰さなければならない。そのためにも強くならなきゃ」
国魔連を潰すってのが歪んだ正義感によるものだとしても、それを止める権利は私には無い。
「でもさ、そういうことなら1人で抱え込む必要は無いよ」
「え…?」
「だってそうじゃん。沙那には私がいる。なんなら、今日のクラスメイトだってみんな仲良くしてくれそうな感じだったよ?特に葵ちゃんとかたまちゃんとか。そういう仲間がいてもいいんじゃないかな?」
「仲間…」
その発想はなかった…みたいな顔をしてる。まじ?
「もちろん私は魔法が使えないけど、推理力とか分析とかには自信あるし、たまちゃんとか葵ちゃんの魔法も強いし、誰かに頼ってもいいんだよ」
「あすみ…でも、ダメだよ。そんな私の自己満足のためにみんなを巻き込むなんて」
「いいんだよ、それで。誰かを頼るなんて結局どんな場合でも頼る側の自己満足に過ぎない。お互いの自己満足を満たしあってくれるのが仲間ってものなんじゃないかな?」
「そっか…」
「沙那は私には頼ってくれるよね。今日の教室での戦闘もそうだった。でも、私だけじゃなくてみんなに頼れば、そうすれば沙那ももっと成長すると私は思うんだ」
「そっか…そうだね。私、あすみ以外に友達できたこと無かったから、そんなこと考えたこと無かった」
ようやく微笑みを返してくれた。やっぱり人は笑顔が1番だよね。
「さーてと、そしたら明日の準備しないとね」
「明日もどうせ係決めとか、あとは、強化合宿の説明とかだから荷物とかいらないんじゃない?」
ん…なんか知らない単語が今沙那の口から聞こえたな。
「強化合宿…なにそれ」
「あれ?知らなかったの?推薦コースは入学3日目にしていきなり合宿があるって。そこでは体力とか精神を強化して魔獣を倒すための魔法を鍛えるみたいな」
「え????」
あれ、それって魔法が使えない私も強制参加なんですかね?私、魔法が使える人間と同じカリキュラムがヤバいことに今更気づいてきたかもしれない。
「あ、あれ?じゃあ私その合宿ど、どうすれば…」
「ふふ、頼っていいんだよ。あすみ」
「ぶひゃぁぁぁ!!お願いします沙那さま〜〜助けてください〜〜」
あぁ、持つべきものは頼れる仲間だ…。本当にありがとう…。




