2章II 『模倣』
「………zzz」
「おい、七瀬あすみ、流石にいびきはかくな…」
「はっ!」
まずい、考え事をしている間に寝てしまっていた!偉い人のお話なんて長い時間も聞いてられないよ…。葵ちゃんが起こしてくれたおかげで助かった。
今は…あ、校長先生のお話は終わったんだ、生徒会長のお話に式が進行している。
「はい。生徒会長の白石光です。みんな起きててくれて私はなんてラッキーなんでしょう。嬉しいですね。では挨拶を終わります」
「え、そんだけ?」
黒髪で三つ編みツインテールをしている生徒会長がそれだけ言ってすたすたと壇上から降りる。まぁ短くて確かにラッキーって感じだね。
ほんでその後諸説明とかいろいろあって、入学式が終わった。式とかいうの本当に座ってるだけで退屈。
「さーて、職員室行かないとだなぁ」
式前に姫野先生に呼び出されたことを思い出す。行きたくないよ〜。本当に退学だったらどうしよう…。
「うちらも面白そうだから付いてってていいかにゃ?」
たまちゃんが私の呼び出しについてニヤニヤしながら付いてこようとしてる…。勘弁してよぉ。
「まぁいいよ。1人でいると心細いしね。葵ちゃんも来るの?」
「僕も面白そうなことにはついて行きたいタイプですので。世界最速で退学を食らうとかこの目で見たいじゃないですか」
「はーーー。他人事だと思ってさぁ」
葵ちゃんとたまちゃん。両方ともいい性格してるや。仲良くなれそう。
「ここが職員室?結構校舎の端の方にあるんね」
結構長い距離を歩くと、職員室に辿り着いた。なんか全体的に職員室付近の壁はボロボロな感じがある。改修が間に合ってないのかな?
「この建物は13年前の世界の崩壊でボロボロに崩れ落ちているそうですからね。こういう未だ改修が行われてない場所を先生用のスペースにしてるんでしょう」
「そういうもんかー。んじゃ入ろ。失礼しまーす」
ガラガラと建付けの悪い戸を開け、中に入る。部屋の中は普通の職員室って感じで、先生は全く居ない。入学式の後片付けをしてるのかな。姫野先生は…。
「あ、姫野先生。呼ばれたので来ました」
「ん?あぁ。お前が七瀬なのか?」
「は、はい。もしかして顔も知らないで呼び出したんですか?」
私が七瀬と知っての呼び出しかと思ったら、名前だけを頼りに呼び出してたっぽい。心外すぎる。
「まだ生徒の顔と名前が一致しなくてな。すまない。それで、今日七瀬を呼び出した件だが…」
ドキドキする。いい知らせなのか、それとも悪い知らせ=退学なのか…。
「単刀直入に聞こう。私を覚えてはいないか?」
「……え?」
予想外の問いかけを受けて、私の脳内はショートしてしまう。姫野先生を覚えているかどうか?それは私が小さい頃どこかしらで姫野先生と会ったことがあるということなのかな。
「すみません。ちょっと記憶には無いです…」
「そうか、……ならこれで思い出したりはしないか?」
「…?」
姫野先生が呼吸を整える。そして先生の体がピンク色のオーラに覆われて……って魔法の行使!?待って!私は魔法が使えないから先生の魔法に対抗なんて出来ない…!
「先生!ちょま」
「七瀬、魔法を使え」
「え?」
命令の内容は『魔法を使え』というものだった。そんな命令で私の魔法が使えるようになったら…。
すると途端に私の胸が雷で貫かれたかのような衝撃を受ける。そのまま体の中身が持ってかれてしまうんじゃないだろうかというような感覚を受け、続けて体に激痛が走る。
「うっ、ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」
「七瀬あすみ!?」
「あすみっち!どうしたの!」
後ろから戸を開けて葵ちゃんとたまちゃんが入ってきた感覚がある。が、私の体は後ろの状況を把握できるほどのゆとりを持ち合わせてない。私の精神の奥底から湧き出る何かに自信が蝕まれてしまいそうなのを必死に静止するのが精一杯だ。
そして胸を抑えている自分の腕をふと見てみると、ラベンダー色のオーラに包まれている。魔法…?いや、かと思えばオーラは一瞬で消えてしまう。苦しい、何かに心臓を握りつぶされているような感覚だ。
「先生!七瀬あすみに何をしたんですか!」
「焦るな。直に魔法が解ける」
すると、先生に魔法をかけられてからピッタリ10秒がたった頃、私の痛みも急に消え去った。
「あ、あれ。もう痛くない…」
正直あと10秒くらい痛みが続いていたら意識を失っていたかもしれない。本当に危なかった…。
「先生!私に何をしたんですか!説明してください!」
「説明はあとだ。七瀬、なにか思い出したか?」
先生はそればっかりだ。でも、私は姫野先生の姿なんてこの13年間で一切見てきたことがない。
「何度も言いますけど、私は先生のことなんて知らないです。なんなんですか一体」
私も少々キレ気味になる。そりゃ急にあんな苦痛を味わわせてきたんだもん。ちょっとは怒りたくなるよ。
「そうか…。なら、君らにもう用はない。帰ってもらっていいよ」
「はぁぁー?」
いくらなんでもそれは無いでしょう?人を勝手に呼び出しといて、ほんで人に苦しい目に合わせて、それで何も説明せずに返す???この人本当に人間の心持ってますか??
「先生、なんで私をこんな目に遭わせたんですか。それに、先生が魔法を行使した時のセリフから察するに、私がこうなるって分かってましたよね?そういうのいくないと思うんですけど?」
「予想は着いていたが、確信はなかった。七瀬は魔法が使えないと聞いていたのでな、もしかしたら私の魔法で使えるようにしてやれないかとも思ったんだけどな。ただ、その魔法が使えないという力が私の魔法よりも強い力の場合、七瀬の体に反動がいってしまうという予想があっただけだ」
ち、違う!上手く論点をずらされそうになってしまった!
「そうじゃなくて!先生が私の体に被害を与える意図があったか否かは本質じゃありません。論点をずらさないでください!私に魔法を行使したことと、私が姫野先生を覚えているかどうかという事象に関連性が無さすぎます」
「言えないな。いいか、人間にはあまり知らなくていいことだってあるんだよ。覚えておくといい」
ムキーーー!先生が話をはぐらかしまくるせいで何も先生の意図が掴めない!
でも、そんな平行線上の議論は葵ちゃんの一言で傾いた。
「…………。先生、『早乙女紗夜』って誰ですか?」
「…ちっ!?『心読』か。厄介だな」
葵ちゃんが先生の心を読んで、『早乙女紗夜』さん?っていう人物の名前を引き出したみたい。実際先生も驚いているし、この人が関わっているのは間違いなさそうだ。
「『早乙女紗夜』…。私は聞いたことない名前ですね…」
「僕もです。そして、どうやらこの『早乙女紗夜』という人物は魔法を持っているにもかかわらず魔法が使えないようですね」
「え!?」
私の他にも魔法を持ちながら魔法が使えない人っていたんだ…。まさか先生はそれを知っていたから私を呼び出した…?
「先生!その紗夜さんって一体…」
先生の方を向いたところで私の言葉は止まる。
「…うるさい」
先生の顔が僅かな怒りに、そして大きな悲しみに包まれていたからだ。
「紗夜のことを…気安く呼ぶな!」
姫野先生が爆発した。怒りの矛先をこちらに向けてくる。対象は葵ちゃんだ。今にも制裁を加えんと、先生は腕を振り上げ、それを葵ちゃんの体へ振り下ろす…!
「……!!」
「あおいっち!危ないにゃ!」
「たまちゃん!?」
葵ちゃんの体が吹き飛ばされるかと思われたが、先生の拳と葵ちゃんの体の間に1本の手のひら…たまちゃんの腕が入れられた。そして…
「なんだ…!?」
今確かに葵ちゃんを殴ろうとしていた先生の体が逆方向に吹っ飛ばされる。たまちゃんは今凄い力を入れたわけでも無さそうなのに…どうして!?
「古賀環、助かった。今のは一体…?」
「私の魔法は『反射』にゃ、だから、手で触れた物の流れや勢いを全て逆方向にすることが出来るにゃ。今のは先生のパンチの勢いをそのまま『反射』して返しただけにゃね」
「は、『反射』。確かに最強格クラスだ…」
そういえばここは推薦クラスだ。たまちゃんみたいな、のほほんとしてる子でも魔法は最強クラスってことか。
「ふふ…」
「先生!」
逆側に吹き飛ばされた先生が何故か笑い声をあげる。先生がぶつかった衝撃で壁にはヒビが入り、粉が舞っている。
「見つけた…そうか……お前が!!!!」
言い終わる前に先生は次の標的をたまちゃんに変える。
「にゃにゃ!?」
「あぁ、復讐の機会を得られるなんてなんて恵まれてるんだろう…。砕け散れ!」
近くにあった金属製の本棚を持った先生がたまちゃんに殴り掛かる。
「にゃ!『反射』!」
「…止まれ」
しかし、上から振り下ろした本棚の勢いは『反射』によって逆方向に…飛んでいかない!?
先生が振り下ろした本棚はたまちゃんの頭上すれすれでピタリと勢いを失い止まっている。
全員の驚きにより、少しの間時が止まる。それをいい事に姫野先生が私たちと距離を取った。
この動きは何…?いくらなんでも不自然すぎる。殴らなかったのは『反射』があるから…とはいえ、頭上でとめた理由は…。まさか!
「たまちゃん避けて!魔法が解ける!!!」
「にゃ!?」
ドガァァァァン!!!
私が気づいたのも束の間、たまちゃんの真上で止まっていた本棚が急加速をし、真下へと落下する。たまちゃんはギリギリのところで避けたものの、本棚は床を貫通し穴を開けていた。
私に『魔法を使え』という魔法を先生がかけた時、なにか解除するような素振りもなかったのに魔法が10秒ぴったりで解けていた。ここから推測するに、この先生の魔法の有効時間が10秒ってことだ。
「あっぶないにゃ、避けられてなかったら真っ二つだったにゃ…」
「葵ちゃん、先生の動きを『心読』で読めたりしないの?」
「む、無理です。今あの人の中には復讐の感情しかない。今やった戦法も無意識下によるものでした…」
無意識であの魔法の使い方を?これが手馴れの魔法少女との差ってこと?
「外した…次こそは!」
「全透過!!」
「!?」
大きな声が天井の上から聞こえてくる。待てよ、職員室の真上の部屋は確か保健室のはず。そしてこの技名ってことは…。
「うわぁぁぁ!」
「にゃにゃ!足が沈んでいくにゃ!」
私が気づいた頃には液化が進んでいた。もはや固体としての体裁を保たなくなった床が沼のようにずぶずぶと机やら棚やらを飲み込んでいく。
まずい、これは部屋内の床、壁、天井を全て液状化して透過させる技!このままじゃみんな諸共埋まっちゃう!
「みんな机の上に避難して!」
「この感じ…浦川か!!」
先生は気づいた様で天井を見上げる。すると、波打つ天井から、それをすり抜けて沙那が落っこちてきた。すとんと机の上に着地し、交戦体制に入る。
「また生徒に危害を…。先生の目的は…何?」
沙那が先生に問いかける。どこから私たちの状況を確認していたのだろう。この怒り様だと私が悲鳴をあげていたところも聞かれていたみたい。
「目的か。私の目的はただ一つ、一貫してただそれのみを行動理念として動いている。だが、たかが生徒ごときにそれを教える義理はないな!対象、浦川、魔法を使うな!」
先生が長く喋ったあと、魔法使用禁止の命令を沙那にかけ、一気に距離を詰めようとする。沙那の魔法が使えなくなったことにより、全透過の行使も消え、半分だけ床に埋まった机などが散乱していた。葵ちゃんやたまちゃんはギリギリ机の上や棚の上に避難し、埋没を防いだらしい。
「やっぱりその手を…これだと私は圧倒的に不利ね」
「沙那!10秒耐えて!先生の魔法は10秒で切れる!」
私の予想が正しければ先生の魔法は10秒で効果を失うことが確認できている。たった10秒だ。それさえ凌げればクールタイムの5分の間、安全に攻め入ることが出来る!
「10秒…!分かった!」
「クッソ余計な真似を…!」
私の助言を理解した沙那が咄嗟に後ろの黒板の傍に置いてあった箱入りのチョークを先生に向かってたたきつける。
「うっ!ケホッ!ケホ!」
「も、もくもくで前が見えないにゃ…」
部屋の中が煙でいっぱいになる。1寸先も見えないと言った感じだ。これなら時間が稼げる。
「スプリンクラー、作動しろ」
先生の命令行使により、ジャバァァァと音を立てて天井にあったスプリンクラーが作動した。けたたましい音と共に激しい勢いで水が吹き出し、待っていた粉埃があっという間に鎮火される。でも、十分時間は稼げた!
「沙那!今なら行ける!」
「了解」
姫野先生の魔法行使から既に10秒は経っている。これで沙那の魔法が使えるようになった!物理攻撃が全て無効、真正面から先生に突っ込んでいく!
「くらえ」
さっき居た保健室から拝借してきたであろうメスみたいな刃物を取りだし、それを先生に向ける。先生はそれを避け…ない!? そして私の目に映るのは先生のニヤリとしたほくそ笑んだ顔だった。
「かかったな!間抜けが! 」
「!?」
先生が大きく振りかぶって沙那を殴ろうと構えを取るが、沙那への魔法はもう既に解けている。物理的な殴打ではダメージなど与えられないはず…。
「魔法は解けてるはず!沙那気にせずやっちゃえ!」
「把握」
そして沙那が先生の間合いに入った瞬間である。
「空気、密集せよ、腕よ、加速せよ」
そう先生が小声で私に聞こえるか聞こえないかの声量で唱え、大きく沙那のことを殴る。
なんだ、ただの打撃なら沙那なら『透過』して…
ドガァァァン!!
「え?」
その私の期待は大きな衝撃音と共に打ち砕かれる。2人の周囲のものは衝撃で吹き飛び、私は思わず目を瞑り、体を覆う。
何が起きたのかは全く把握できなかった。何かが衝突した音…?いや違う、そんな雑然とした音じゃなかった。じゃあこれは…。
私が目を開けると、そこには先生と沙那、2人が立っていた。姫野先生の拳は沙那に当たっていない。ただ、沙那のほんと数ミリ手前で静止している。
かと言って沙那のメスが先生に当たっている訳ではない。こちらは先生からおよそ数十cmは離れたところで止まっている。
一瞬時が止まったのかと思われたあと、静寂は沙那によって切り裂かれた。
「ぐふっ!!!」
沙那が口から液体を吹き出した。それも嘔吐物ではない。赤い液体、血である。沙那の足元は血まみれになり、そのまま沙那は倒れ込んでしまう。
な、なんで…!?沙那は打撃なんて喰らわないはず!
「沙那!!!」
思わず沙那に駆け寄り、体を横向きにさせて安定な姿勢を取らせる。
「にゃ…何が起こってるにゃ…」
激しい取っ組み合いの末、私の近くまで吹き飛ばされてきた。葵ちゃんとたまちゃん。たまちゃんが困惑した様子で口を開いた。
「先生!一体沙那に何を!…………いや、どうやって!?」
「気づかないのか?こいつの『透過』の魔法の弱点に」
『透過』の魔法の弱点…?沙那の魔法は多分この推薦クラスでもトップクラスのはず。そんな明確な弱点なんてあるはず…。
「波だ。こいつは波を『透過』出来ていない」
「な、波…?」
波…?波ってなに、あの海のザブーンって水が向かってくる満ち干きのこと…?それが今一体何と関係して…。
「分からないか。この『透過』という魔法、あるものを『透過』することが出来れば劇的に強力な使い方ができる。しかし、浦川はその使い方をしてこない。浦川のことだ。自分の魔法にはかなりの知識を持っているだろう。であれば、出来ないと考えるのが自然だ」
「あ、あるもの…?」
そんなわけがない。だって、先生は沙那と会ってまだ1日目だよ!?何年も沙那と一緒にいた私にも気づけてない『透過』の弱点に気づくなんてそんな…。
「あぁ、それは《光》だ。こいつは光を透過出来ていない」
「ひ、ひかり?」
沙那が光を『透過』出来ない…?そんなこと考えたこともなかった…。
「式前の教室での戦い、あそこで私の体に乗り込み心臓を潰そうとした時だ。浦川は私との距離を詰めるために「床に潜り足元から乗り込む」という戦法を取った」
そ、そうだ。あれは先生に姿を視認させず不意打ちをさせるために…。そうか!
「七瀬もようやく気づいたか。そうだ、私に姿を見られずに近づきたいだけなら、「光を『透過』する」という戦法を取ればいい。物体が視認されるというのは、その物体が反射した光が観測者の網膜に入るということだ。すなわち、光を『透過』してしまえば、光は浦川の体で反射されることがない。要するに浦川の姿は見えなくなるわけだ」
「た、確かにそうだ。なんでこんなことに気づかなかったんだろう…」
私は今まで沙那の何を見てきたんだろうか…と落胆する。
「なぜ光が『透過』出来ないのか。光と普通の物体との相違は何か。そう考えた時思い浮かぶのは光の波動性だ」
「なるほど、ここで波と気づいたわけですか」
話を聞いてきた葵ちゃんが話に参加してくる。葵ちゃん頭良さそうだし、こういうことも直ぐに理解できそうだ。一方でたまちゃんは頭の上にはてなマークを浮かべている顔をしているけど。
「そう、光は他の物体同様、粒子性を持っているが、同時に波からできているという波動性を持ち合わせている。この他の物体には無い波動性が『透過』を邪魔しているのではないかと踏んだんだ」
「浦川沙那の魔法は感覚的には自分の体、並びに他の物体を液体のようにしている。であれば、波がその液体に取り込まれてしまうというのも納得できます」
沙那の魔法は『透過』と言ってるけど、基本的には液状化の方が私は正しいと思っている。確かにその通りだ。どんなものも水みたいに泳げる。と考える方が的確なんだけど…。
「ここからは賭けだった。私の魔法で光を、それに殺傷能力のある光を出すのは難しい。雷撃を無から生み出すのは不可能だ。そこで衝撃波に頼ってみることにした」
「衝撃波…。物体が音速を超えた速度で移動することにより、空気の粒が異常なほど圧縮される。その結果熱や音を産み、大きな衝撃が発生する現象のことですね」
葵ちゃんが説明してくれる。ちょっと私もついて行くの危うくなってきたからありがたい。たまちゃんの頭は爆発した。私はまだ追いつける…!
「あぁ。だが、私1人には自身の体を音速まで加速させる能力がない。そこで空気と私の体両方に魔法を行使させることで擬似的な衝撃波を発生させた」
「あぁぁ、もう分かんない…ギブ…」
私の頭がとうとう限界を迎えた。擬似的な衝撃波…?空気…?えぇ?
「まずは空気を命令により圧縮させる。その結果、音速を超えた物体が通ったあとの擬似的な空気の密集を作り出すんだ。そして、そこに私の最高速度で衝撃を加える。そうすればそこには密集された空気の反動により衝撃波が発生する。後はその波を浦川の体に当てれば『透過』出来ずにダメージを与えられるだろうと踏んだんだ」
な、何となくわかった…。要は衝撃でダメージを与えたということでしょ…?それは分かるんだけどでも…。
「こ、この短期間でそんな戦い方を思いついたんですか…?いくらなんでも戦闘力が高すぎます。人間じゃない…」
「そうだ。私は人間じゃない。魔法少女だ」
「っっ!?」
姫野先生が衝撃の言葉を口にする。その言葉に私も葵ちゃんもたまちゃんも言葉が出ず、唾液を飲み込むことしか出来ない。
「魔法少女である以上、人間の心は不要。お前らに教えてやる。感情は身を、いや、自分だけじゃない。大切なものを失うきっかけ足り得る」
神妙な面持ちで先生は告げる。『早乙女紗夜』、先程先生の心にあった1人の名前が私の脳裏に思い浮かばれる。
「浦川…こいつは自分の魔法を過信しすぎている。確かに『透過』は強い。しかしその傲りはいささか良くない傾向にある。魔法少女たるもの、自身の魔法と常に向き合い、そしてその弱点を克服し多彩な戦術を編み出すべきだ」
「……」
言葉の重みが強い。何故かは分からないが、私たちに反論することは出来なかった。
「明日からお前ら推薦コースにはその魔法との向き合い方について教えてやる。覚悟しておけ。そうしたら早く帰るんだな」
こう言い残すと、姫野先生は職員室を出ていってしまった。
「自分の魔法と向き合う…ですか」
「ずっと話してる間、先生の目は悲しそうだったにゃ。何か後悔に満ち溢れているようにゃ…」
重苦しい空気が流れる。
「けほっ!」
「沙那!!」
足元で倒れていた沙那が目を覚ました。血を吐き出していたということは、衝撃波によって内臓がやられてしまったんだろう…。
「あすみ…。私はまた…負けたの?」
「いいの、勝ち負けとかじゃない。沙那の正義感は確かにかっこいいけど、それは自分の身を滅ぼしていい理由にはならない。今日は私の家泊まってきなよ。多分お母さんもいいって言うと思うし、お母さんに治療もしてもらおう?」
「うん、そうする…」
沙那はそう言うと手を広げてきた。あぁはい、おんぶね。
私は背中に沙那を抱え、帰ろうと職員室の外に出ようとした時だった…。
「な、なんですかこれは…!」
「あっ……」
職員室の出入口に人影、式前の教室で姫野先生を静止していた赤髪の先生だ。確か名前は…、小鳥遊って呼ばれてた気がする。
「ち、ちょっと、あなた達?ここで何があったんですか?」
周りを見渡してみると、そこには床に半分埋まった机やら、スプリンクラーの水でびしょびしょの書類やら、粉まみれのパソコンやらが鎮座している。こりゃ…何も言い逃れできない…。
「え、えっと、あの…これはですねー」
苦し紛れに言い訳をしようとするが、特段良い言い訳が咄嗟に思いつくわけでもなかった。
「まぁいいわ。どうせあの姫野愛莉とかいうバカがなんかしたんでしょう?それに貴方はそのおぶってる子、怪我してるみたいじゃない。早くお家で休ませてあげなさい」
「は、はい!」
優しい先生でよかったぁー。私は職員室を後にしようとする。
「あの子は救護人とその連れとして処理してあげる。お話は残りのふたりにたっっっぷりと聞きましょうかね」
「え!?」
「にゃにゃ!?」
あ、なんか葵ちゃんとたまちゃんが小鳥遊先生の標的にされちゃったみたい…。正直あの2人は特段何もしてないんだけどなぁ。可哀想に。まぁ、頑張れ!




