1章XXI 『無双』
百鬼先生が2人を抱えて走っていった。それを見届けた私達はとうとう魔獣の蹂躙を開始する。
「さぁ、あと4匹ちゃちゃっと片付けるよ〜!魔獣の基本的な体の作りが生物と同じなら…今度はこれ!魔獣の周りの空気よ!消えろ!」
私の魔法の影響がある故ではあるんだけど…もうやりたい放題だ。愛莉の魔法と私の魔法、これ組み合わせちゃいけない能力してるでしょ…。
そして、1匹の魔獣の周りの空気が消えた。
空気が消えたことによって、こちら側から魔獣へ向けての突風が吹き荒れる。そして、それは魔獣の体の中も同様だ、体の中から外へと突風が吹き荒れる。
結果、魔獣の体は風船のように弾け飛んだ。もちろん目とて例外では無い。目の中の空気が膨張して、目は眼球ごと破裂してしまっただろう。そのまま1体の魔獣は消滅してしまった。
「凄い…しかもこれ魔獣のやられた時の不快な音も聞こえないし完璧だ…」
魔獣はやられた時に毎回不快な、黒板を爪で引っ掻いたような音を出す。これが更に私たちの戦意を喪失させるのだが、魔獣付近の空気が消えたことにより、今はその音が一切聞こえなかった。
「楽しい!!同じものに命令が5分間出来ない縛りは外せないっぽいけど、命令の幅がすっごい広がってる!」
「愛莉!あんま無理しないでよ〜」
愛莉が魔法で魔獣に対してやりたい放題である。この感じ、普段の訓練と同じだ。ようやく愛莉が本調子を取り戻してきたという感じだろう。未だに魔獣に対しては精神型の反射があることには変わりないから、直接の命令を下すことは出来ないのだろうが、今の愛莉にとってそれは些細な問題に過ぎない。
「分かってるって〜。空間よ歪め!」
愛莉の目の前の魔獣が2匹腕を振り下ろして愛莉を襲おうとした瞬間である。愛莉は空間を歪ませて魔獣と愛莉の位置を入れ替える。パッと見位置交換が起きているかのようだ。
「ふふ〜ん♪自爆しちゃえ〜」
そしてそのまま2匹の魔獣は相打ち、お互いがお互いの頭部を破壊する。
魔獣の頭部は互いの魔獣により、おまんじゅうのように潰れ、そしてさくらんぼを潰した時かのように破裂してしまった。
「わぁ…ちょっとグロテスク…」
「やっばい〜返り血付いちゃったんだがー」
頭が破壊されたということはもちろんコアである目も破壊されている。力が互角どころか全く同じ魔獣のことだ、それが致命傷となり2匹とも消滅した。
「ラスト1匹〜魔獣付近の気温よ、絶対零度へ変化せよ!」
次は気温操作だ。たった今魔獣付近の空気の温度が-273℃まで低下したんだろう、熱が伝わることでこっちの空気も体感5℃くらい下がったぞ。ちょっと肌寒い。
そして魔獣はピクリとも動かなくなった。絶対零度ということは全ての粒子の動きが止まったということ。生物が動くなんて以ての外だ。その付近だけ時が止まったのとほぼ同義である。
「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そのまま愛莉が目をその辺に落ちていた木の棒突き刺してとどめを刺す。ただの木の棒とはいえ、私の魔法で愛莉の力は強化されているのだ。その威力はまるで本物の剣で突き刺したかのような力を発揮する。
木の枝とは思えないほどの斬撃音、物を切り裂く音が鳴り響き、それが私に勝利を確信させる。
故に魔獣の目はいとも簡単に破壊され、魔獣は消滅し、消えていった。本当に魔獣討伐が今までの苦労を足蹴にするように楽だった。
そして、残りの魔獣4体、これにて全滅が完了した。最初巨大魔獣が現れた時はもう、ここまでか…とも思ってしまったけれど、本当に諦めなくて良かった。諦めなかったからこそ、私も魔法が使えるようになったんだと思う。
「紗夜ちん〜!!やったよ〜」
「うん!!やったね!」
愛莉が緊張感から解かれたかのように私の方を向いて笑顔を向けてくる。
でも、明確な犠牲はあった。もちろん、速水さんや涼風さんの他にも莫大な犠牲はあった。ただ、悲しみを私が感じることが出来るのは私に関わりのあった人だけだ。これは薄情なことなのだろうか…。流石の愛莉でも人を生き返らせることは無理なのだろうな…。
勝利を讃えるために私は愛莉の元へと歩み寄る。
「愛莉〜お疲れ様〜!」
愛莉もこちらを見て手を振ってくれた。
「うん!紗夜……」
こっちを向いている愛莉の顔が即座に曇る。世界の終わりみたいな顔をしてどうしたんだろう。せっかく今さっき魔獣が完全に討伐できて、至福のときだと言うのにそんな焦りの表情を顔に浮かべて…。
「紗夜ちん!!避けっ」
愛莉が何か言おうとした瞬間、私の胸部に激痛が走った。肉が裂ける音も同時に聞こえる。
何かが私の体を貫いた感触というのはこういう感じなのだろうか。胸部が熱い。心臓が貫かれたような感触がある。ジェットコースターで急降下した時と同じ感触だ。
臓器が本来あるべき場所から離れ、浮いた時の感覚。さらに体の表面では何かで焼かれているような痛みが、発生地点からやがて全身へと回る。
これは…咄嗟に後ろを振り返ると、そこには最後に見逃してしまっていたのだろうか。残っていたのであろう魔獣が腕を私の腹に突き刺していた。
「て!!!」
ここで愛莉の魔法が発動してしまう。「避けて」と命令された体は私の意思とは無関係に、魔獣から距離を離すために飛んでいく。結果、貫かれた胸から魔獣の腕が抜け、そこから大量の血が吹き出すこととなる。
「ぐふっ…」
口から言葉の代わりに出てきたのは血液だ。刃がささり、抜けたことの反動で私の臓器が悲鳴をあげ破裂した。食道部へ迷い込んだ血液の逆流、並びに肺が傷ついたことによって気管へ流れ込む大量の血液が私の口から体の外部へと噴出される。
「紗夜ちん!!!!保護色か…!こんのクソ魔獣が…!私の体よ、あいつを貫け!!」
どうやらサソリ型の形に見合い、校庭の砂と保護色で同化して、勝機を伺っていたようだ。今にも意識が失われそうだったが、私はそれでも魔法の行使を続けた。故にまだ愛莉は強化されている真っ最中だ。そのまま自身を遠投武器のように魔獣の体に突撃させ、コアを破壊。そして正真正銘最後の1匹も消滅させることが出来たようだ。
「うっ……」
しかし私も限界だ。大動脈に開けられた風穴はその中を流れる血液の水圧によってさらに傷口を広げていく。出血が止まらない。
「紗夜ちん…!」
愛莉が駆け寄ってくるのと同時に私の体は仰向けとなって地面へと倒れ込んだ。




