1章XX 『強化』
「な、なにこれ…!?」
愛莉が動揺をついに口にする。それは私も同じことだった。私は声すら出ない。だって今さっき目の前で愛莉は押しつぶされて…。思い返すのすら苦痛な光景が目の前で広がっていたはず…。
「え…?黄色のオーラ…?だって、黄色って、この前見た……紗夜ちん!!?」
ここでようやく愛莉が私と同じく黄色のオーラを纏っていることに気づく。そして私は満面の笑みを浮かべながら大きく頷いた。
「うん……!!!愛莉!私魔法が使えた!!!!」
「本当に…!!!??うそ、これ現実!??」
愛莉が急いで私の元へ駆け寄ってきた。私の頬をつねってこれが現実かどうかを確かめようとしている。それは自分の頬でやらなきゃ意味が無いんじゃ…。
「ひ、ひたいよ愛莉〜」
「ご、ごめん。現実だと思わなくて」
愛莉が私に抱きついてくる。自分の事のように喜んでくれていることが私にもわかる。こうして私たちは喜びを分かちあう。
「凄い…凄いよ紗夜ちん!!これどういう魔法なの!?」
「ごめん…まだあんまよく分かってない…。でも、愛莉がやられちゃいそうで、咄嗟に叫んだら…なんか魔法が発動した…」
そう。魔法が発現したとはいえ、その内容については私もまだよく分かっていない。事実としては私が愛莉に死んで欲しくなくて強く念じて叫んだら、何故か愛莉が生き残ったということだ。
「なるほど、その感じだと身体強化系の側面が強いだろうな」
「百鬼先生!」
ボロボロの体で応戦していた百鬼先生が、私たちの元へ近づいてきた。体の至る所には切り傷が散在している。先生として最前線で指揮を取っていたのだろう。と言ってももう生き残っている魔法少女の先生は見る限り、百鬼先生しか残っていない。他の先生は殲滅だ。
だが、そんな事態よりも今まで一切魔法が使えなかった私が使えるようになったのだ。緊急事態ということで接触を取ってきたのだろう。
「身体強化ですか…?」
「うむ、私も様々な文献を読んだが、今までに発現されたことのある魔法を全て周知している訳では無いから、確信を持ったことは言えないのだが…。姫野の体が途端に硬化し、魔獣にダメージを与えたことから察するに、身体強化系が最も近いだろう」
身体強化…か。なるほど、心に念じた人のパワーを劇的に増強させるといったような類だろうか。しかし、今私に対して念じてみても自分の体が強化されている感じはしない。おそらく他者にしか使えないというのがデメリットといった所かな。
「凄い…凄いよ紗夜ちん!これなら…」
「まぁ焦るな。早乙女の魔法は効果範囲もデメリットも不明だ。様々な検証をしないと…。とはいえ、この状況で呑気に検証なんてできる感じではなさそうだな…」
「確かに…先程魔獣にダメージを与えて腕を粉砕した時、涼風さんの時のように魔獣が複製されなかったのもよく分かりません…」
私が見る限りでは魔獣の腕は粉々に粉砕されていた。それが分解の時と異なる結果を産んでいる理由が私には分からない。
さらに、この状況で私の初の魔法が役に立つかどうかという確信は誰もが持てない。しかし、これが役に立つという風に盲信しなければこの戦況は覆せない。
魔獣は10匹、うち4匹がこちらに目の焦点を合わせている。ゆっくりしている時間は無さそうだ。
「仕方ない、姫野!早乙女!実戦で検証しろ!」
「「りょーかい(です)!」」
愛莉がさっきの電柱の所へ向かう。と、同時に私も慣れない魔力を体にため、そして腕へと力を集中させる。そのまま、愛莉に標準を合わせ、貯めた魔力を放出するように意識を高める。
「強化!!」
私が叫ぶと、私の体は黄色のオーラで覆われ、そして身体中の魔力が外部へと解き放たれる様子を感じる。そしてその強化を受けた愛莉が同様に黄色のオーラで覆われた後、軽々しく電柱を片手で持ち上げ、槍を持つかのように振り回し始めた。
「すっごい!!紗夜ちん凄いよ〜まるで鉛筆を持ってるかのように軽い〜〜!!」
実際にその例えは本当なのだろう。長さ10m程はあるであろう電柱を手の3本指で支え、頭上でくるくるとペン回しをするかのように愛莉は回している。
先端が私にも当たりそうなのでちょっと注意して欲しいのだけど。
「ま、マジか。自分でも魔法というものの凄さに驚いてるよ…」
「これなら行ける!!」
勢いづいた愛莉が電柱を持って魔獣の元へ攻め入り始めた。走る速度すらも強化を受けているようで、その速度は速水さんの音速には劣るものの、注視してなければ視認が難しいほどの速さで愛莉はかけていく。どうにかして愛莉を見失いようにしながら、私はずっと愛莉へ強化魔法をかけ続ける。
「待って…しかもこの感じ…。今なら私物理を越えられるかも知れない!!!」
「え、それはどういう…」
「行くよ!対象、電柱、伸びろ!!!」
愛莉の体は黄色のオーラの外側にピンクのオーラが発現し交わった。オーラ同士が美しいグラデーションを奏でる。そして、電柱がおよそこの世界の理を無視してその大きさを伸ばしていく。その長さはおよそ数百メートルにもなり、そのまま魔獣を今にも突きささんと伸びていく。
ありえない…愛莉の魔法は物理的に不可能な変化は絶対に起こらないはず。出来ても宙に浮かすレベルが最大値のはずだ。それなのに電柱の伸縮…!?しかも2倍レベルの大きさまで…!
私の強化魔法は、他の魔法少女の魔法の威力や効果範囲までを強化することが出来るってこと!?
「ふむ、これは戦いにすごく幅が持てそうだ。続けてみてくれ」
百鬼先生が冷静に私たちの戦闘を見守っている。私たちの戦いを見ながらも、私の魔法の分析をしてくれているようだ。
一方愛莉は、伸びた電柱の先が魔獣を押し潰して、そして貫通する。その後も電柱は伸び続け、学校の校舎の壁へと突きささった。激しい破壊音が奏でられたまま、愛莉はその空中に浮いた電柱の上に立ち、腹に穴を開けられ動きが止まっている魔獣に向かって一直線へと走っていく。そのまま愛莉が最後の一撃を加えようとした。
「今ならなんでも出来る気がする!!対象、私近辺の気象!雷を落とせ!」
これも今までだったら無理な命令だ。無機物にまで命令できるとはいえ、愛莉が具体的な事象を捉えられない「概念」にまで命令することは今まで無かった。でも、今なら…できる!刹那、雷が落ちてきて魔獣の目を電流が走る。魔獣の目は潰れ破壊された。愛莉は自分も感電しないようにと魔獣近くから離れた後、そのまま魔獣は塵となり消滅した。
「す…すごい…。一瞬で魔獣が1匹倒されちゃった」
この間およそ1分にも満たない。1分1匹ペースである。これなら殲滅も余裕そうだ!
「紗夜ちんの魔法が強すぎるよ〜!私の魔法との相性が良すぎる!」
「なるほど、身体強化系にしては些か力が強すぎる気がするな。早乙女、試しに私に魔法をかけてくれないか?」
ここで百鬼先生がなにかに勘づいたのか、私が百鬼先生に対して魔法を行使することを要求する。
「は、はい!」
言われるままに私は百鬼先生に対して魔法をかける。もしかして、何かしらのデメリットに気づいたのだろうか…?
「強化!」
私確かに魔法を行使したはずだ。しかし私の体にも百鬼先生の体にもオーラは発現せず、先生の体も強化された感触は無さそうだ。試しに近くにあった木を殴ってみても、折れることすら実現されなかった。
「あ、あれ…?なんで強化されないんだろう…」
「ふむ、やはりな。その早乙女の身体強化魔法は人を選んでいるようだ。それも早乙女がとびきり心を許している人、愛している人の力を増幅させる…と言った具合だろうか。それ故に姫野は多角的な分野から大きな恩恵を受けられるというわけか…?」
「心を許してる人…ですか」
「うむ。魔獣の分解された腕が複製されなかったのもこれが原因だろう。複製は恐らく魔獣特有の『特性』だ。特性は実質魔力と同じ性質を持つ。故に魔力の強さでそれを押し切ることが可能だ。基本は不可能だが、魔力の強さが無限大にまで増殖する魔法であればそれも不可能では無い」
なるほど、これが一応デメリットということか。私が心から愛している人でなければその人は強化されない。百鬼先生は、先生としては尊敬しているけど、別に愛しているとかそういう話ではないし…。
あ、愛のパワーで力が増大…そんな能力が私に…。それなら愛莉との魔法の相性が良いのもうなずける。だって私たち愛し合ってるし〜。
「さーよちん!私のことそんなに愛してくれてたんだねぇ〜。私は嬉しいよ〜」
愛莉が抱きついてくる。ちょっ、今百鬼先生にそんなことを言われたあとだと妙に照れくさい。
「おい、イチャつくのもいいが、あと魔獣は1,2,3…4体か。大分減ったな。残ってはいる。そいつらを片付けるぞ」
「「はい!!」」
あと魔獣は4体、大分減ってるし今の感じだったら一瞬で片付けられるだろう。私と愛莉は元気よく了承した。
「私は小鳥遊とそして…七五三を戦線から遠ざける。2人で任せられるか…?」
百鬼先生は戦闘不能の2人を安全な場所へと避難させるようだ。この場が私たち2人で対処できると踏んでの判断だろう。もうこの場に戦える魔法少女は私たち2人しか残っていない。さぁ、こっからが逆転劇の始まりだ!!
「今の私たちなら余裕〜!さっさと片付けちゃおうよ。紗夜ちん!」
「うん!」
今の愛莉となら私はどこまでも進んでいける。そんな気がしたんだ。




