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魔法少女学園  作者: 弟子
1章
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1章XIX 『真価』

「凛花!!!!!!」


 私が愕然として座り尽くしていると、愛莉が叫びながら駆け寄ってくる。しかし、愛莉が駆け寄って来れるということは、既にこの地点が「凛花から離れろ」という命令の対象外になっているということだ。これはこの世界から涼風凛花という存在が完全に消失したことを意味する。


「愛莉…もう…」


「くそ…こんなんどうすれば…先生!!誰か!」


 愛莉の口調はいつものゆるーい感じではもはや無くなってしまっている。表情も怒りが顕になってきてしまっている。いつもは魔法の強さゆえ驕っている彼女も、もはや誰かに助けを求めるレベルである。そして、速水さん、涼風さんの他にももう1人どうにかしないといけない人物がここにいる。


「愛莉…委員長が……」


「………ふは…」


 委員長だ。既に完全に会話というものをしてはくれていない。ぽかんと空いた口に風が流れ込むことによって生じる、笛のような音しかこの体は発することが出来ていないのだ。


「対象、七五三柚葉、……」


 と魔法を行使しようと言いかけた所で愛莉が言葉を止める。何か元に戻れと言った類の命令をすることで彼女を元に戻せるかもしれないと踏んだのだろう。


「だめだ、この精神が崩壊している状態で私の『服従』の行使は精神崩壊を加速させるだけだ。既に肉体と精神の乖離が起きているというのに、それを重ねがけした所で無意義……」


 愛莉の魔法は基本的に肉体と精神の乖離を起こしてしまう。既にその乖離が起きている状態でそれを加速させてもなんの根本的解決にならない。

 こんな時に委員長が実質戦闘不能…回復役が居なくては戦況はもはやジリ貧だ…。


「ま、まて!回復のポーションにも限りが…危ない!」


 魔獣に近い前線では、百鬼先生の到着。そして回復ポーションの支給が行われているが、もはやそれは奪い合いである。自分が傷を負っているもの、仲の良い者が致命傷を受けているためにポーションを我先にと奪取しようとしている。

 まるで昼飯の購買でたまごサンドを奪い合っているかのように、魔法少女同士で醜い魔法の打ち合いが行われている。こんな時に魔法少女同士で争っている場合じゃないのに…。

 そして魔獣の攻撃の手も緩む訳では無い。見たところ残りの魔獣は13匹、先程から戦線に入らず観察だけをしていた身からすると、大きな攻撃パターンは3種類、腕を振り下ろし爪での攻撃、しっぽを振り回し打撃での攻撃、そしてしっぽに付随している毒針での射撃、この針は鉄砲の玉のように打ち出す事が出来るようだ。

 魔獣はその魔法少女が集まっているところを狙って腕を振り下ろすなど、魔法少女達を殺そうと奮闘している。


「紗夜ちん!危ない!避けて!」


「うわぁ!」


 愛莉が咄嗟に私に命令をしてくれたおかげで、私の意思とは無関係に私の体が、飛来物を避けていく。遠くから毒針が飛んできたが、危機一髪無傷でいることが出来た。


「このままじっとしていても埒が明かない。私は行くよ…!」


 愛莉が戦闘準備に入る。いくら愛莉とはいえ、精神型の反射を持つ魔獣の前で一石を投じようとするのは流石に無茶だ。


「でも…そんなこと言ったって…!!このままじゃ愛莉が危険だよ!!私は…愛莉に無事でいてもらいたいの…」


「大丈夫。私は死なないから、何があろうともね。私の強さを紗夜ちんは知ってるでしょ?」


 確かに愛莉は強い。でも…今この状況で即座に頷けるほど私は愛莉の強さを盲信しているわけではない。愛莉だってミスはする。そして今この戦場というのは、そのたった1つミスが命取りになってしまう場所なのだ。


「対象、私の周りの水蒸気、固体へ変化、そして剣型へ形成して!」


 愛莉の右腕に水蒸気が凝固したことで出来た氷でにより剣が形成される。真空となった空気中に新たな空気が流れ込むことにより、愛莉の方向に向かって強めの風が吹き荒れる。そして、愛莉がそれを持った瞬間、また愛莉がピンクのオーラに覆われる。


「対象、魔獣!私から離れるな!」


 魔獣の持つ反射により、愛莉に対して「魔獣から離れるな」という命令が行使される。結果即座に愛莉の体が魔獣の元へと飛んでいく、その速さは速水さんの魔法を彷彿とさせるレベルだ。


「どりゃぁぁぁ!!」


 そしてその勢いのまま大きく氷の剣を1振りした。氷の剣が鉄のように硬い魔獣の体にあたり、甲高い音が響く。氷の剣にはヒビが入ったものの、魔獣の胴体が切り裂かれ、魔獣からも血が吹き出るという大きなダメージが入る。


「お前の弱点はここだな!行くぞ!!」


 予想外のダメージを受けて魔獣の動きが一瞬止まった。その隙を見逃さず、間髪入れずに愛莉が次の攻撃へ移る。ダッシュで魔獣へと間合いを詰め、て軽くジャンプをして魔獣の顔面の所へ自身の体の高さを合わせる。

 そして魔獣の「目」に自身の腕を振り上げ、氷の剣突き刺す。愛莉の剣が目に触れた瞬間、魔獣は思わず耳を塞ぎたくなるほど不快な周波数の音を上げながら大きく体を揺すり、愛莉のことを振り下ろそうと懸命に暴れ回る。


「たあぁぁぁぁ!!!」


 愛莉が氷の剣をさらに目の奥へと押し込む、暴れる猛獣。目標を確認できないまま無造作に振り下ろした爪が愛莉にかすり、愛莉の胴体から血が流れる。だが、時間と共に魔獣の血が目から多量に流れている。やがて魔獣の動きも鈍くなり、そして動かなくなった。そのまま魔獣の体はついには消滅する。まさか本当に1対1で勝っちゃうなんて…。他の魔法少女達は1対2でも犠牲者を出しているというのに。


「はぁ…はぁ…ふぅ…紗夜ちん無事?」


「わ、私は大丈夫!愛莉こそ、その傷!」


 無事かどうかと聞いてきている愛莉の方こそ右腕からお腹にかけての部分が爪に引っかかれたことによって肉が裂けており、そこからは純血がポタポタと地面に垂れている。


「こんな切り傷くらい大丈夫、最終手段として私自身に『服従』を使えば元に戻る。回復ポーションは…もう余ってなさそうだね…。しょうがない、対象、私の体、完全に回復しろ!!よし、このままもう1匹…!」


 愛莉が自身の体に対して魔法を行使して体を回復した。先程の魔獣に対して命令し、反射させて擬似的に愛莉の体を動かしていたのは、あくまでも魔獣に対する命令として処理されていたのだろう。ただし今回は完全に愛莉自身への命令だ。ここから5分間愛莉は回復ができない。

 無茶だ…。魔獣はあと10匹も居る。それなのに1匹処理するだけでこの体力の消耗量。そして今の回復、愛莉の物理的な傷を治すのに重点を置いたせいで、スタミナの方は回復していないはずだ。今の愛莉に到底相手出来る相手じゃない。でも周りの魔法少女も戦意を喪失しているもの。まだ辛うじて生命活動をしているだけのもの。もう戦える魔法少女は、愛莉、百鬼先生、含めて残り10人程度だ。

 そして何より、魔法が使えない私に愛莉を止める資格などない。私はどこまで行っても守られることしか出来ない。そんな人間なのか…?


「空気…はさっき使っちゃった…なにか武器になるもの…電柱!対象、電柱、私の武器になれ!」


 愛莉が電柱を引っこ抜く。が、愛莉がその電柱を槍や剣のように振り回そうとするも、電柱の質量を愛莉の体が支えられるはずがない。愛莉は体のバランスを崩し、そのまま電柱と一緒に倒れ込んでしまう…。

 電柱は大きな音を立てて地面へと衝撃を与え、その音は魔獣たちを引き寄せることとなってしまった。


「うぅ…だめだ…」


 どう考えても戦力が足りない。委員長はまだ抜け殻状態だ。小鳥遊さんも目を覚まさない…。駒が圧倒的に不足しているのだ。


 もう…もう無理なのかな……


 私の体を絶望が覆う。ここで私はみんなと一緒に死ぬのだろうか…心の底から湧き上がってくる恐怖、そして後悔。あ、まだペアリングを愛莉に渡せていない。リュックの中に入ったままだ…。最後にこれを渡さなきゃ…でも……もう……


 絶望に取り込まれ、もう何も考えられなくなってしまったその時であった。


「っ…………?」


 私の胸に小さな痛みが走る。痛み…?いや、それとは何か違うような気がする。何か心が軽くなった。それも物理的に軽くなったような…。何かに抑えられていたものが解き放たれたのか。それとも何かが抜けていってしまったのか。分からない。でも私の体に明らかに変化が起きた。そして…


「この感じ……このオーラ!!これは!!!」


 私の体は黄色のオーラで覆われていた。このオーラの種類は私の体以外に発現したものであれば、何回も見たことがある。しかし、私の体に発現したのは2回目だ。愛莉の魔法に体がかかり、体が無理やりに魔法を使おうとした時と同じである。ただ、今回は前回とは明確に違う。それは全く苦しくないということだ。まさか……!!


「魔法が……私に魔法が使えてる……!?」


 これは魔法の行使時に現れるオーラだ。黄色のもやのようなものが私の体を覆い、私の気持ちの高ぶりと共にその動きも強くなっていく。私が、魔法を発現したのだ…!


「愛莉!!見て……あぁっ!!!!」


 この喜びを誰かに分かち合いたかった。そう思い、私は愛莉の方を向いた瞬間である。

 愛莉の目の前には1匹の魔獣が居た。先程倒れ込んだ電柱の先端付近にいた魔獣である。魔獣は怒って今すぐにでもと愛莉を殺そうとしていた。魔獣は腕を振り上げ、愛莉を潰そうとする5秒前である。愛莉は疲れからかもう避けることすら叶わない。諦めの境地へと入ってしまっていた。意を決して愛莉は目をつぶっていた。


「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 私は愛莉の方に向かって思わず叫ぶ。そして魔獣が腕を思いっきり振り下ろした。愛莉が下敷きになる…。大きな音が響き、辺りには土埃が舞う。愛莉の姿は完全に見えなくなってしまった。


「あ……ぁ…」


 途端、魔獣の腕がダメージをくらい、腕の部分が粉々に砕け散り、そして消滅する。なぜ再生しなかった…?いやこの際今それはどうでも良い。

 地面を見れば、下敷きになったはずの愛莉は無事、なんなら無傷でそこに座り込んでいた。


 愛莉も自分の体に何が起こったのか分からず困惑している様子。ただ、客観的に見て愛莉の体に変化が起きているのは火を見るよりも明らかであった。

 私と愛莉は共に黄色のオーラを身にまとっていた。

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