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魔法少女学園  作者: 弟子
1章
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1章XVIII 『焦土』

  「遡行回復(リープヒール)!遡行回復!!なんで!??」


 委員長が必死に魔法を行使する。しかし、速水さんの体は元に戻らない。魔獣が噴出した針は毒針だ。針が速水さんの肉をエグっているところから血が吹き出ているのと同時に、その血管から毒を送り込み全身を巡らせる。毒の威力自体は即効性もなく、そこまで高くなさそうではあるが、着実に死に至らせるレベルではあろう。


 そして、速水さんが委員長の『時間遡行』で回復しない原因、私は既に検討が着いている。


「おそらく、彩夏さんの体にかかっている魔法が原因です。今彩夏さんの体はマッハ1で動けるレベル、通常の人間の40倍ほどの速度で動いています。すなわち現実世界で1秒進む事に彼女の体は40秒進む。委員長が1秒に2秒時を戻しても、彩夏さんの傷の進みの方が速いんです」


「そんな…ねぇどうすれば!!」


 涼風さんが叫ぶ。この人には自分の分解のせいでこうなってしまったという罪悪感もあるのだろう。声が若干ながら震えているのが私にもわかる。


「対象、百鬼先生!今すぐ来て!!」


 愛莉が百鬼先生を魔法で強制的に呼び込もうとする。

 そうか!百鬼先生なら『魔法無効』の能力で速水さんの魔法を打ち消せる!元通りの速度に戻すことが出来れば、遡行快復もきちんと聞くはずだ。愛莉ナイスアイディア!


「だめだ…来ないー。あの人絶対『魔法無効』をデフォルトで無意識にかけてる…。『服従』が効いてない…」


 そんな…でもそれは愛莉が普段から百鬼先生に対して不意打ち的に『服従』をかけようとしていたからでもあるのだろう。多分私たちが原因だ…


「先生こんな時に…。愛莉の魔法が効かないなら自力で呼びに行くしか…」


「理解した!!私が呼びに行く!!」


 名誉挽回のチャンスと言わんばかりに奮起した涼風さんが百鬼先生を保健室に呼びに行くことを宣言した。

 涼風さんが全速力で駆ける。しかし30匹もの魔獣がそれを良しとしない。既に分散した30匹もの魔獣はそこにいる魔法少女達と応戦をしている。全ての魔獣に対しておよそ1:2で魔法少女が人数の利があるようだ。涼風さんの前に1匹の魔獣が立ち塞がる。それと同時に別の場所では魔法少女が魔獣の1匹によって胸に致命傷を受けている。あの魔法少女たちはこの戦場における唯一の回復役である委員長を呼んでいるが…。


「遡行回復!遡行回復!!!なんで!??」


 だめだ、委員長はもう既に冷静さを欠いている。もはや自分の魔法すらろくに使えない状態だろう。委員長の体の周りを覆う紫色のオーラは既に薄くなり、魔法の効力も弱まっている。これではあの致命傷を受けている子の回復も困難だ。


「うっとおしいい!!!細胞分割(セルディバイド)!!」


 !?????目を離した隙にに涼風さんが立ち塞がる魔獣1匹に対して、彼女の奥義である細胞分割を行使していた。しかし、どうやら涼風さんも冷静さを失っている。それは…


「涼風さん!!それはまずい!!!」


「あ!!!!」


 私の注意の声も虚しく、サソリ型魔獣は魔法によって細胞レベルまで分割される。それと同時にその細胞は意志を持つとても小さな目に見えないレベルの魔獣へと変貌する。ちょうど先程30匹に分裂したのと同じ原理だ。


「や、やめ!!ちょなんだお前ら!!!」


 その無数とも言えるであろう小さな悪魔がハエかのように涼風さんの元へと飛んでくる。彼女は必死に追い払おうとするが、手の1振りで100匹は撃墜できているように見えるものの、如何せん数が多すぎるため全てを追い払うことは叶わない。

 そいつらは涼風さんを襲い、あろう事か涼風さんの身体中の穴という穴から彼女の体の内部へと浸食を始める。、目、口、尻、鼻、毛穴、爪、耳、全てがとても小さな異物によって満たされていき、彼女の体が内側から、細胞から破壊されていってるのが確認できる。


「うがっ!!あっ!ぐふっおぇっ!!分解(ディバイド)!!」


 嗚咽が混じった涼風さんの悲鳴が轟く。彼女の魔法である分解も虚しく効かない。そいつらはもう既にこれ以上分解出来ない所まで分解が進んでしまっている。


「ヤバいヤバい!!対象、魔獣!凛花から離れろ!!」


 愛莉が危険を察知したのか咄嗟に魔獣に対して命令を行使する。が、しかし


「愛莉!だめ!!反射!!」


「あぁっ!」


 ドゴォーーン!!!!


 小さくなったとはいえ元を辿ればあの大きな巨大魔獣なのだ。あの巨大魔獣が持っていたであろう性質をそのまま持っているのは当然の摂理だろう。そう、反射もさして例外では無い。

 焦りは連鎖する。誰かが焦ればそれを見ている誰かも普段ならしないようなミスをおかしてしまう。愛莉も冷静な判断が出来ていれば、反射持ちと分かっている相手に咄嗟に命令を下すなんてことはしなかっただろう。愛莉は凛花から離れるという命令を反射され、涼風さんとは反対方向へと飛ばされ電柱へと直撃した。


「遡行回復!遡行回復!!あぁぁぁぁ!!!!」


 こっちも限界そうだ。速水さんは…もう…


「委員長……」


「速水さん!目を覚ましましたか!!今待っていてください!」


 速水さんが目を覚まし、耳を済まさなければ聞こえないほどのか細い声で声を出す。もう既に体に毒は回っており、体を動かすことも満足には叶わないはずだ。声を出すのもこれが精一杯、なんならかなりの無理をしているに違いがない。


「委員長…ウチはぁ、もう無理だ。ウチに時間を使うより、他の奴ぁ面倒見てくれ…」


 速水さんはもう自分の命を諦めているかのような発言をする。その顔はとても悲しそうで、でも委員長には心配をかけさせまいと、最大限の作り笑いを顔に浮かべている。


「速水さん!!違います!いいえ!待ってください!!今!!」


「七五三!!!」


「っ!!!」


 速水さんが現在出せる限りの大きな声で委員長に怒鳴る。今までの委員長呼びもやめ、名字を呼び捨てにし、威圧感を与える。そして委員長もその声に驚き魔法の行使を停止する。

 そのまま一瞬時が止まったかのような錯覚を受けた。数秒後、速水さんは目を瞑り、再び声を出す。


「あぁ…諦めろ。お前はそれでいい…」


「速水さん…!!ぐっ……」


 委員長の目から大粒の涙が零れる。それは自分の無力に対する怒りなのか、速水さんの命の音が消えていくことに対する悲しみなのか。ここで明確な答えを出せる人などこの世界に一人もいないだろう。私も言葉が何も出てこない。ただ目の前で怒っている出来事を頭の中で整理し、どうにかして飲み込もうとする。これが私に出来る最大限の気持ちである。


「ははっ、最後に結愛と話せなかったのが心残りだ…全く…ウチは情けないやつだ…」


 そういって、速水さんの声は止む。その唇は、笑ってなどいなかった。後悔に満ち溢れた表情だった。当然だ。しかし速水さんの体は毒により硬直をしているのだろう、麻痺している瞼は涙を流すことすら許さない。

 私たちはまだこの世に生を授かってからたったの13年しか経っていない。やり残したことはなにか?と聞かれて、簡潔に答えることが出来ないほどに無知で未熟なのだ。ここで命を落とすなんて後悔、悲壮の感情の他に何を思い浮かべることが出来ようか。

 そして、速水さんの体が肉体から光の粒へと変化し、空気中に舞っていく。教科書で見た通りの、魔法少女の死だ。魔法少女は肉体が終焉を迎えた時、その体は光の粒へと変化し、最後には…空気と同化して見えなくなってしまう…。遺体が残らないというのがどうしても残酷だ。体というのはこの世界にその人物が存在していたというれっきとした証明。それを完全に失ってしまうというのが魔法少女の最期である。


「速水さん…速水さぁぁぁぁ!!!!!」


 委員長が嗚咽混じりの声で叫び出す。その声は誰にも届かず、済んだ空の空気に混じり消えていく。しかし、感傷に浸っている暇はない。


「うぐ、おぇぇっ柚葉…たすけ…いぎっ!」


 無数の微粒子レベルの魔獣に襲われている涼風さんが委員長に近づく。口から魔獣の塊のようなものを吐き出しては再び突撃される。目や鼻からは魔獣が毛細血管を突き破ったのだろう、血が混じった涙や鼻水が流れ出る。急所を刺激され喘ぎ声をあげるかと思えば、血液を魔獣が侵食しきったであろう体の部位が、細胞を破壊されてしまったのであろう、綺麗な肌色からドス黒い紫色へと変色を進めている。


「委員長!!七五三さん!!ちょっと!」


「……………………」


 だめだ、この委員長は完全に魂が抜け落ちてしまっている。もう既に委員長の精神は絶望が飲み込んでしまったのだろう。目は虚ろで何も発さないままただ虚無を見続けている。魔法の行使なんてもってのほかだ。これがなんの役に立とうか…。


「ゆず…ぐふっ、はぁ…!」


「だ、誰か!!」


 私は周りに助けを求めて視線を上げてみるが、改めて顔を見上げ辺りを見渡してみるとそこに広がっていたのは形容するならば「地獄」であった。

 委員長の崩壊、並びに速水さんの死は前線に居た戦闘者に戸惑いを生じさせる。それらは一気に戦況を不利へと変えてしまっていた。回復が出来ないという不安、そこから生まれる極度な慎重さ。故に最大の防御となる攻撃をできず、臆して魔獣の攻撃を食らうもの。魔獣の数こそ半分程度に減ったものの、同様、最早そこにまともに戦える魔法少女は先生含め数分前の半分しかいない。


「くそ…こんなん…どうすれば…」


 魔法を使えない私にはもうもはや為す術などひとつも無い。この戦場で魔法を使えるものに頼ることが出来なければ私はただの木偶の坊でしかないのだ。


「ゆず…いひっ、うっ…!」


 バタリ…と。足の爪から入った魔獣のせいで、足の指先が壊死していき、そこから段々と浸食を始めた魔獣によって、足という器官が使い物にならなくなってしまったのだろう。とうとう立っていられなくなった涼風さんがその場でうつ伏せに倒れる。


「委員長!!七五三さん!!!七五三柚葉!!!!!」


「……………………」


 私が呼びかけるも委員長は何も言葉を返してくれない。


「しっかりしてよ…委員長!!!」


 だめだ…私の声は届かない。私の声は七五三柚葉という名の付いた体の上部にある管をただ貫通するだけの役目しか果たすことが出来ない。


「な…………ん…で………」


 もう声帯も侵されてているであろう涼風さんが声というよりはもはやその文字に最も近いであろう音で意思を伝える。しかしその意思ですら、委員長の心には一切届かない。


「涼風さん!ちょっと待ってください…今どうにか…どうにか……?どうにかって言ってもどうすれば……」


 私には魔法も何も無い。この戦場では無力。何も出来ない。私の不甲斐なさに本当に憂鬱になる。


「ゆ………ず………………は………」


 普段の涼風さんの声量からは考えられない程にか細い声。もう音を聞き取れているのは既に涼風さんの声に自ら意識を傾け、注意して聞いている私だけだろう。それ以外の人たちには空気の流れる音と同化してしまうほどに小さな声だ。


「……………………す……………………………………………………き……………………………………………」


「………」


 最期の涼風さんの()も委員長に届くことは無かった。そして涼風さんの音は私にすら聞こえなくなる。もう音は出せないのだろう…。

 そして数秒後、涼風さんの肉体は光の粒へと変化を始めた。愛する人への最期の言葉を、愛する人に聞いてもらえないまま、彼女はこの世界へと紛れてしまった。




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