1章XVII 『暴風』
サソリ型魔獣があちら側の世界からこっちの世界へと侵略してきた。どうやらこのサソリ型魔獣は空中を浮遊することも出来るのだろうか。それとも先生が作った空中の足場に乗っているのだろうか。どちらにせよ、今私たちの頭上で暴れ回っている。
体育館等の建物は破壊され、木はミシミシと音を立てて倒れていく。災害なんてレベルの被害ではない。
そして、暴れ回った結果、サソリ型魔獣のしっぽに刺さっていた肉塊が私たちの目の前に無惨にも落ちてきた。
「結愛!!!!おい!!結愛!しっかりしろ!!!」
落ちてきた体は小鳥遊結愛である。お腹の辺りを一突きされており、大きな穴が空いている。飛び散った血の匂いが私の鼻腔を刺激し、嗚咽を呼び起こす。
ボロボロになった腸の類の内臓も、普段では見ることの出来ない空をこれでもかと拝んでいるかのようだ。出血も止まらず、多量に血が地面に流れ込み、校庭の砂は露知らず、これがいつもの雨水を吸収するかのように水分を取り込み、その姿を赤く染めていく。
素人目、もちろん医療のことは私には何も分からないが、普通の人間であれば確信に至ってしまう。これはもう…。
「この…クソ魔獣が……絶対に許さねぇ……!!」
速水さんが怒りを顕にする。その顔の様相は今までに見た事がない、そして速水さんも今までにしたことがない顔であろう。顔はみるみるうちに赤く染まり、今にも破裂しそうなのではないかと心配するほどに首から上に血が上っていた。仲の良い友達を失ったのだ。当然抱く感情であろう。
もしこれが愛莉だったら…と想像するだけでも身の毛がよだつ。しかし、それで「よかった」などという感情を抱くのを理性が制御している程度には私は冷静である。そう、私は今冷静なのだ。この未知の魔獣を目の前にした状態で冷静さを欠くのは非常にまずい。ここは速水さんを止めないと…。
「彩夏さん!ちょ」
「ぶっ殺してやる!!!」
ブォン!と音を立てて私の目の前から速水さんが姿を消した。
私が速水さんを止めようとするも間に合わず、轟速で魔獣の元へと飛んでいく。
しかし、素手であのサイズの魔獣に対処するのは不可能だ。魔獣が腕を一振しただけで、速水さんはドン!と地面にたたきつけられる。
「くっそ…こいつ……」
「落ち着きなさい!!!!!遡行回復!!」
私が再び速水さんを止めようとするよりも先に大きな凛とした声が響き渡る。その声は今この場に漂っていた負の感情からなる不穏な空気、それを打ち消してさらに、人々に希望さえも与えるかのような声であった。
そしてそれと同時に小鳥遊さんの体が紫色のオーラで包まれた。これは…!!!
「委員長!!!」
「うるせぇ七五三!!これが落ち着いてられるかっての!!!」
速水さんは状況を理解できるほどの理性を今制御できていない。小鳥遊さんにかかっている遡行回復にも気づかず、委員長に対して怒りの矛先を向けてしまう。
「なんだってんだ?委員長さんよ。お前にウチを止める権利なんかねぇはずだぜ?まさか魔獣の肩持とうってんじゃねぇだろなぁ」
「ま、待ってください彩夏さん。委員長は…」
「対象、速水彩夏。落ち着きなさ〜い」
私が速水さんを静止しようとしたが、愛莉の一声で無理やりに速水さんを落ち着かせたようだ。こちらの方が速い。
「大丈夫です。小鳥遊さんは私が回復させましょう。この傷であれば45秒で戻せます。魔法少女の完全な死、すなわち光となって消える前に間に合ってよかった。あなたは少し冷静になりなさい。目の前にいるのは訓練とは違う、如何にもイレギュラーな魔獣です。無鉄砲に挑んでは命を無駄にするだけですよ」
「私もそう思うな〜。一旦様子見から入ろ〜?」
愛莉も委員長と同意見のようだ。委員長の『時間遡行』があれば、我々に負けはとりあえず有り得ないはず。
そして速水さんの体からは愛莉の魔法行使によって付与されていたピンク色のオーラが消え、命令下ではなく、本心から落ち着きを取り戻したように見える。
「う…、あぁ。すまん、我を忘れてた。そうだったな。委員長がいれば『時間遡行』で時も戻せる。なんの問題も無いはずだ」
良かった。とりあえず速水さんは冷静さを取り戻したみたいだ。しかし、もちろん冷静さを欠いたことを責める者などは誰もいなかった。そして問題にすべきはあの巨大魔獣である。
訓練で使っていた模擬魔獣のおよそ50倍程度の大きさ。教科書載っていた過去の魔獣例からしても、こんな見聞はない。果たして私たちの魔法が通用するのかどうか、そんな所からすら分からない。その証拠に、校舎からでてきた先生方も怯えている。今我々は魔法少女として共に恐怖を持つ対等な一人の人間というわけだ。年上だからといってむやみに頼り切ることも、事実としてできないということなのだろう。
とはいえ、こんだけ考えていても私は魔法が使えない。愛莉に頼るしかないのだけど…。
「小鳥遊さんの回復終わりました。現在、体は傷を受ける前までに戻しましたが、物理的なショックを受けたという事象は取り除けません。今小鳥遊さんは気絶状態にあります。しかし、命に別状はありません。この戦いが終われば直に目覚めるでしょう。心配なさらぬよう」
「そ、そうか。委員長には本当に感謝だ」
しばしの沈黙の後、1分くらい時間が経つと、委員長が完治した小鳥遊さんの体を見せてきた。穴は全て塞がり、服も穴ひとつ空いていない元の姿に戻っている。現実の時間1分を使って、小鳥遊さんの時間そのものを2分戻したのだ。飛び散った血や破裂した内臓も元の姿、位置に戻っているのだろう。
「いえ、礼には及びません。それに今考えるべきはあの巨大魔獣です。どう対処するか…。とりあえず姫野さん、魔法を行使して見ますか?」
委員長が愛莉に魔法の行使を提案する。どれだけサイズがデカかろうと、もしも愛莉の命令が効くのであれば、それ相応の命令をすればゲームクリアだ。魔獣に対して一言、自害を要求するような命令をすれば良い。簡単な仕事である。しかし、相手はイレギュラー。そんなに簡単にはいかなそうではあるし、2人とも普通に効くとは思っていなそうな感じだ。
「そうだね〜。私も今考えてたところ。私に何かあったら直ぐに『時間遡行』お願いね」
「承知しました」
委員長が即座に遡行回復を出来る構えをしたことを確認すると、愛莉は呼吸を整えた。
「軽い命令からにしておこうか〜。対象、巨大魔獣。八つ裂きになっちゃえ!」
愛莉の体がピンク色のオーラに覆われ、命令が行使される。それと同時に、
愛莉の体は一瞬で八つ裂きになった。
ザシュン!と音が鳴り響くと同時に、愛莉の体は空気の刃に切り裂かれたかのように綺麗に8等分される。
「え……愛莉……!!!?」
「遡行回復!!!」
委員長の一声によって愛莉のバラバラになった体は一瞬で元に戻る。一瞬とはいえ愛莉の体がバラバラになった様を見てしまったのはどうにも気持ちが悪い。そして更に…。
「これは恐らく、反射を魔獣が特性として持ってますね…」
私が得意な座学で得た知識を披露する。魔獣は強さが強いものであればあるほど、「特性」というものを持つ可能性が高い。様々な種類があるが、その中でも厄介なのは今回の魔獣が持っている「反射」だ。これは魔法少女の使う魔法をそっくりそのまま反射するという恐ろしいもの。しかし、何でもかんでも魔法を反射するという訳では無い。
魔法は大きく2種類に分かれる。それが物理型と精神型だ。反射はそのうちのどちらかのみを反射することができて、両立はしない。そして愛莉の魔法は今回の使い方であれば、対象の精神に直接干渉する精神型に分類される。すなわち巨大魔獣が持っている反射は精神型の反射だ。今回の戦いで愛莉が魔獣そのものに直接命令するのは不可能ということだろう。
「う〜ん。大きすぎるから小さくすれば戦いやすくなるかなとも思ったんだけど〜。精神型反射かぁ〜。これは凛花の登校を待つしかないね」
「え、涼風さんの分解は精神型じゃないの?」
「そうだよ〜。私が今命令した分解はあくまでも対象の肉体が自らの意思で自らを分解しようとするから精神型。それと対照的に、凛花の分解は凛花の魔法により外部からの衝撃を加えてこちらの意図的に分解しているから物理型なんだ〜。ここら辺ややこしいよね〜」
「そうなんだ…。じゃあ涼風さんがくれば分解してもらえるってことだよね。そしたら戦いやすくなりそう」
初めて知った事実だ。魔法というのは本当に種類が沢山あるゆえ、どれが精神型、どれが物理型と言ったようなものをまとめたサイト的なものは存在していない。また、使い方によっては精神型と物理型が両立してしまう魔法もあり、その型は使っている本人や使われた人間、身近にいる人間が知っているくらいだろう。
「早乙女さんの言う通りです。ここは涼風さんが登校してくるまで時間を稼ぐのが当分の目的のようですね」
「了解だ。そしたら私は速度変化で涼風の家まで速攻で行って連れてきてやろう」
話の流れを汲み取った速水さんが自身の『速度変化』を活かして、涼風さんを連れてくることを約束してくれる。この場では速水さんの1番の適任だ。
「助かる〜。それじゃあ頼むよ彩夏〜。凛花を連れてきてね〜。私たちは時間を稼ぐから〜」
そういうと愛莉の体は再びピンク色のオーラで覆われる。再び『服従』の行使だ。しかし直接は効かない。ならば、間接的に使うということだろう。愛莉の魔法の使い方は私が特等席で1番見ているという自負がある。
「対象、半径1km以内のナイフ、あの魔獣へ飛んでけ〜」
そう発すると同時に、およそ数百個のナイフが愛莉の元へと集まってきた。家庭用ナイフや果物ナイフ、あとは日本刀のようなものまでナイフと認識され、様々なナイフが愛莉の周りに漂っては、魔獣にむかって飛んでいく。千手観音がその手を飛ばしているかのような風貌だ。
「うわっちょ!危ない!痛っ!」
「大丈夫ですか、早乙女さん。今治しますね」
それにしても危ない、飛んでくるナイフが普通に私にも刺さるところだったぞ。避けないと普通に危ない。ちょっとかすっては委員長が治してくれるという場面がこの短時間で3回は起きた。
「ん〜。残念だけどあんまり効いてる感じはしないなぁ…。紗夜ちんごめんねー。痛かった?」
「もう、ちゃんと周り見て魔法使ってよ??」
数百個のナイフが巨大魔獣に向かって飛んでいく。とはいえ、ナイフはナイフだ。この程度のサイズ、人間が扱うことの出来る刃物ではダメージを与えることが出来ない。多分私の方がダメージを食らっている。たまに急所であろう目に当たったときだけ動きが止まるくらいだ。
それに気づいた愛莉は対象を目に絞りたかった様だが、飛んでいくナイフに対して命令が2度行使出来ず、もどかしい様子だ。それにこのナイフの飛翔が終わらないうちは愛莉は次の命令を行使することが出来ない。このまま暴れ回られると周りの住宅街が全滅してしまう…。
「う〜ん。厄介だなぁ〜。物理で攻撃するのってこの魔法あんまり向いてないんだよねぇ」
ここで巨大魔獣も止まない攻撃に嫌気がさしたのであろう。こちら側に攻撃を仕掛けてきた。巨大魔獣が尻尾を振りかぶり、その鋭い金属のようなしっぽは、それこそ切れ味の良い刀を振り回したかのように愛莉の体を真っ二つに切り裂く。
「うぐっ!」
「愛莉!!!!!!」
愛莉が鈍いやられ声をあげ、骨まで愛莉の体が一刀両断される。
「遡行回復!」
「いや〜。死なないとは分かっていても、凛花の魔法の分解とかと違って、痛みは感じるからきついね〜。私の体への命令は最終手段として取っときたいから我慢するしかないかなぁ〜。5分のインターバルは大きい。『時間遡行』に頼ろう」
痛みを感じているのだろう、愛莉が少し苦痛の表情を浮かべるが、すぐに表情を元に戻し応戦の体制に入る。
「姫野たち大丈夫か!?私たちも参戦しよう」
「先生たち助かる〜。次はどうしようかな〜」
先生たち、並びに続々と登校してきた他の生徒たちも前線に参加する。とはいえ全くダメージを与えられている気がしない。それもそうだ、炎やサイコキネシスが使える人間がクラスにいるとはいえ、人間程度の火力で建物レベルの大きい生物にダメージを与えることが出来るかと言われればそれはおそろく無理だろう。
「皆さん、精神型魔法の持ち主は直接攻撃しないように。補助に回ってください。怪我をしたら私が治しますので仰ってくださいね」
委員長がクラスに精神型の反射を魔獣が持っていることを共有する。しかし、精神型の魔法を持っている人間は確かそんなに居なかった気がする。ここで注意すべきのは愛莉だけだろう。
「七五三だけに回復役を任すのは責任が重すぎるな。私が保健室から回復ポーションを持ってこよう。保健室の先生の魔法『回復』を凝縮させたものだ。この戦線では必須だろう」
百鬼先生がこう言って宣戦を離脱する。保健室へと姿を消していった。委員長も涼しげな顔をまだしているが、いつ体力が切れるか分からない。賢明な判断だと思う。
「委員長も無理しないでね〜。常に冷静を保ってて貰わないと、私たちとしても困るから〜」
「はい。心得ております。深呼吸…。ひっひっふー」
委員長多分それ違うやつです。
でも、確かに委員長のメンタル面が私たちは心配だ、なにせ委員長はメンタルがかなり弱い。ガラスのように直ぐに割れてしまうのが特徴だ。この戦場でメンタルブレイクされてしまうのは本当に困る。
巨大魔獣が毒針のようなものを体の表面にある鱗から飛ばしてきたり、腕を振り下ろしてその先にある爪でひっかこうと攻撃を仕掛けてくる。その度にかすり傷や致命傷を受けた生徒を委員長が回復させる。この繰り返しだ。しかし、これでは防戦一方。厳しい戦いである。
「速水彩夏!戻ったぞ!!」
「何これ…私まだ寝てたんだけどぉ…。パジャマだし…」
ここで朗報が飛び込んでくる。速水さんが涼風さんを引き連れて戻って来てくれた!!涼風さんはめちゃくちゃ眠そうだけど。
寝起きなんだろう、髪はボサボサで整えられておらず、水色のネグリジェを着ている。今から戦うような服装では全くない。
「彩夏さん!!ありがとうございます。涼風さん状況を説明しますとですね…えーっと」
「うわぁ!!何あのでかいの!!もしかしてまずい感じ!!??」
私が説明しようとする前に、涼風さんの視界には巨大な魔獣が飛び込んできたようだ。まぁ、これが目に入らないわけが無いよね。
「はい。精神型反射を持つ魔獣で、さらに巨大さ故にダメージが通っていないんです。涼風さんならどうにか出来ると思って」
「りょーかい!!そんならいっちょやるしかないね!!」
とても頼もしい。涼風さんの魔法『分解』は最強格。こういうでかいやつに対して効果は抜群だ。これで少しでも戦線が楽になるだろう。
「やった〜凛花が来たし一旦休憩しようかな〜」
「まぁ任せなさい!!ちょっと髪整えるから待ってね!!」
「じゃあいっちょウチも行くか!初っ端から全力で行くぜ。ウチの最高速度、マッハ1!10分で片付ける!」
戦場の士気が一気に上がったのを感じる。愛莉も少し戦いに疲れたようで、休憩を摂るようだ。愛莉は私と同じで体力面は心もとないしね。
凄い、涼風さんと速水さんがいくらなんでも頼もしすぎる。速水さんが自身の最高速度、マッハ1で高速移動をしている。
「とぉりゃぁぁぁぁ!!!!」
その度に音速と等しいスピードで動いている速水さんの体からソニックブームが発生し空気の波が私の耳へと伝わってきている。空気の斬撃が巨大魔獣に直撃している。良いダメージとは言えないが、体は裂け、鱗は欠けて傷はできている。上出来である。
「ウチには攻撃を引きつけるしか出来ない!そっち頼んだぞ!」
速水さんがこちらに語りかけてくる。速水さん目線ってこれめちゃくちゃゆっくり話しかけてきてるのかな…。
「あれ、何等分くらいにするのがいい?私もあのレベルのサイズを細胞レベルまで分割するのは無理だよ??」
「ん〜そうだな〜。30分割くらい?そうすれば人間サイズにもなるだろうし、戦いやすくなるはず」
「りょーかい!!!」
涼風さんが愛莉と魔法の行使威力についての相談を行っている。
涼風さんの体が水色のオーラで覆われる。魔力を貯めているようだ。
「よーし行くぞ!三十分解!!!」
巨大魔獣の体が30等分に分割される。胴の一部、しっぽの1部など、見かけは様々だが、全て1.7m四方程度まで細かくなった。これなら…!
「彩夏!そいつのコアは多分目〜!直ぐに向かって〜!」
「把握した!コア破壊いっきまーす!」
先程のナイフ飛ばしで愛莉はあの魔獣のコアが目であることに確信を持ったようだ。細切れになった今、10mほどの高さにあった魔獣の頭は地面へと石を持たずに自由落下している。あの先端に目があるはずであり、そこに致命傷を与えればこの魔獣は消滅するだろう。
「ははーん、攻撃されなければこっちのもんよ!!」
速水さんが高速で頭の先の一切れへ向かう。音速で突撃して貫くつもりだ。これなら反撃される筋合いもないし、おそらく致命傷だ。コアが消滅出来れば他の欠片も……
「え?おかしい…」
他の欠片を見渡すと、明らかに変異が起きていた。さっきまで分割された胴と前足しか無かった部分に頭やしっぽが生えている。なんなら、コアであるはずの目までそのかつて胴だったものから再生している。これは、こんなのはおかしい…!
「彩夏さん!!!逃げて!!!」
「あ?なんだってんだ………っ!!!!」
事実、巨大魔獣のうち頭部であった1切れの目であった部分は速水さんに貫かれ、致命傷を負った。しかし、その1切れは最早意志を失った頭の1切れではなかった。
既に意志を持った1.7m程のサソリ型の魔獣の個体へと進化を遂げている。速水さんが貫いたはずの頭部には既にしっぽが生えており、最後の置き土産として、その魔獣の個体は死に際に、背後を魔獣に対して向けてしまっている速水さんへ毒針を無数に照射する。
シュパパパっと発射音がなり、そのうちおよそ数十本程度が速水さんへと直撃していた。速水さんは神経毒によって気を失い、そのまま地面へと落ちる。
「うーん。小さくできたとはいえ、意志の持つ魔獣30匹へと分裂してしまったか〜。厄介な。委員長〜。急患がいますよ〜」
「でも小さい方が戦いやすいんじゃない?これならこれで良いと思うよ。いつもの訓練よりは3倍くらいのサイズがあるけど」
愛莉が状況を把握する。分解によってサイズは小さくできたものの、1.7m級、すなわち人間一人分くらいのサイズの魔獣が30匹、さらに目も再生しているということは、コアも30個になってしまったということだ。戦いやすくなったのか戦いにくくなったのかよく分からない状況になってしまった。おそらく前者だとは思うが。1個潰したので残り29個という所だ。
「ええ。把握しております。遡行回復!」
30匹への分裂は厄介ではあるが、サイズが小さくなっている。これであれば対処は容易でありそうだ。少し強めの魔獣レベルだ。こちらには委員長の遡行回復がある。いくらでも時を戻してもらえば…………。
なんだ……何かが引っかかる。
時を戻す……。そうだ、委員長は完全な回復能力な訳では無い。時を戻して回復したように見せているだけだ…。じゃあ……
そして私の嫌な予感は委員長の言葉によって確信へと変化した。
「なんで!!!なんで戻らないの!!????」
委員長の悲鳴とも言える叫びが校庭へと響いた。




