1章XII 『恐怖』
5/5、待ちに待った遊園地の日だ。なんか昨日の予報だと明日は大雨ですみたいなことを言ってた気がするんだけど、雲ひとつない快晴で日差しが心地よい。まぁ多分愛莉が何かしらしたんだろうな…。それはそれとして…
「なんで集合時間になっても私と七五三さんしか居ないの…?」
「7:30現地集合は少し早かったですかね。8:00には開園されるのでオープンに合わせたかったのですが…」
「いや、七五三さんの集合時間の設定は悪くない。悪いのはこいつらだ…」
集合場所に居るのは私と委員長だけ。委員長は日差し対策のためか、白い帽子…だけどなんか美しい帽子っていうの?を頭に被っている。つばが長く、委員長が帽子に手を添えると中々に絵になっている。丁度西洋の絵か何かの中にいる少女が被っていそうなものだ。
委員長に愚痴っていると、今愛莉からは起きたというデジャブを感じるようなLINEが、七五三さんも涼風さんから遅れる連絡が来たようだ。
「それにしても七五三さん早かったですよね。私7:20に着きましたけど、それより早いって」
「はい、もちろん1番に着きたいですから、6:30の1時間前から待っておりました」
え、怖。そういえばこの人そういう人だったな。まさか集合する速さを何かしらの順位と捉えている節があったりするの?
「よぉ!待たせたな」「お、お待たせしました」
「うわぁ!びっくりしたぁ!」
いきなり目の前に現れたのは速水さんと小鳥遊さんである。この人たちのことだ。『速度変化』と『瞬間移動』で秒も掛からずに来れるだろうから、この人たちのことは心配していなかったが、本当にそれで来るとは。便利だなぁ。
「す、すいません。彩夏がずっと準備をしてて」
「そりゃあな。遊園地ったら勝負の場だろ?コンディション整えとかないとな」
あ、小鳥遊さん速水さんのことは本人の前だと下の名前呼び捨てにするんだ。萌えだな。というか勝負…?遊園地で無差別格闘技とか始めないだろうな?
「勝負ってなんですか…?」
「そりゃあもちろん遊園地の醍醐味ったら対人戦だろ!この施設にも乗り物に付随している銃で敵を撃ちまくって点数を稼ぐゲームがあるじゃん?あれ毎回1位取るまで周回してんだよね〜」
そんなやついるんだ…あれって点数とか気にせず、一緒に乗った人と当たった?当たってない?わいわいわい、わいわいわいって楽しむもんだと思ってた…。なんか委員長もそうだそうだみたいな顔をしている。え?私って今少数派ですか?
「やっぱあれですか?玉の速度を変化させたりできるんですか?」
「ん?なんか勘違いしてねぇか?ウチの『速度変化』はそんなに使い勝手がいいもんじゃねぇ。速度を変えられるのは自分自身、あとは行けても自分から半径1m以内だな。それに、最初に魔法を行使して、最初に決めた時間はずっと速度が変わり続ける。途中で減速できない厄介な魔法だぜ」
そんな使いにくそうな魔法だったんだ。反復横跳びの時は20秒で宣言してたのかな…。人の魔法は基本的に万能では無いらしいけど。私だったら使いこなせないような性能をしていた。
「あ、もう着いたらしいですよ。遅刻2人組」
「やっほ〜みんな揃ってるね〜」
「ごめん!!遅れた!!」
誠心誠意謝る涼風さんと、呑気にアイスを食べながら歩いてくる愛莉。これだから気分屋は…。
「もう、愛莉ってばみんな待ってたんだよ?」
「ごめんってば〜。あ、紗夜ちん私が選んだ服着てくれてるんだ。可愛い、似合ってるよ」
「か、かわっ!」
愛莉のことを責めようとしたが、のらりくらりと話をはぐらかされてしまう。可愛いって…。
そんなこと言っても、愛莉はもう既に私のこの服着てる姿みてるじゃん…本当に適当なんだから…。
「もう、今8:05ですよ。皆さんおふたり共のことを待っていたんです。仕方ないですね。2分半待っていてください」
そういうと委員長の体が紫のオーラで覆われた。『時間遡行』行使の合図だ。え?マジで…?
2分半後、丁度遊園地が開演する時間まで時間が巻き戻った。
「今、私の半径10m以内の領域以外の部分の時間を5分巻き戻しました。これで遅刻分はチャラです」
「す、すごい、5分も時間を巻き戻せるんですね」
「はい、但し私の魔法は2秒時間を巻き戻すのに1秒の時間がかかります。だから、突発的に受けた致命傷等を受けなかったことにするのは得意芸ですが、あまりこういった長時間の遡行は得意ではありません…」
へぇ、委員長の魔法にもそんな弱点があるんだ。まぁでも1時間あれば2時間戻せるらしいし凄く使いやすい魔法だなぁ。
「よーし、じゃあ早速ジェットコースター行こう〜」
「え!?いや。ちょっとまだ早いんじゃないかな…」
愛莉の最初の気分はジェットコースターのようだ。なんだかんだ言ってたけど、やっぱり結局ジェットコースター乗るんじゃん。朝ごはんからカレーくらいの重さはあるけど、別に悪くは無い。ただ、涼風さんが大声で反対の声を上げた。
「なにー?凛花ビビってんの〜?絶叫系苦手〜?」
「っ!?そんなことない、平気だ!」
「はい決定〜ジェットコースター行こっか〜」
愛莉の一声でジェットコースター行きが決まった。涼風さんも本当に挑発に乗りやすいタイプだなぁ。委員長が涼風さんで遊びたくなるって気持ちも分からなくもない。
「で、では皆さん手を繋いでください。瞬間移動!」
一瞬で入口を抜けた先から、遊園地の敷地内で言うと奥の方にあるジェットコースターまでワープした。というかデカイな…こんなの乗りたくないって感じてきたかも…。途中一回転あるじゃん…。
「じゃあ誰が乗るんだ〜?私と凛花と〜」
「わ、私、このアトラクション身長制限かかってる…」
「本当に!?」
確かに小鳥遊さんは身長150cmも無い、145cmくらいの小柄な少女だ。このアトラクションの制限が150cmだから、制限もかかってそうである。
「結愛が乗らないならウチもパスかな〜。そもそもジェットコースターって言っても普段のウチより遅いからスリルもないしね」
「りょーかいー。じゃあ残りの4人で乗ることにしようか〜」
「うぅ、仕方ない乗るか…」
私はあまり絶叫系が得意ではない。あの下る瞬間の心臓部分を突き刺すような風、あれが本当に無理だ。いわゆる浮遊感と言われるものらしいが。
「うわぁこっわ…」
「いいね〜スリルあるね〜これ」
「…………」
これ普通のジェットコースターじゃない…!普通に座るタイプと違って、足が宙に解き放たれるタイプだ…このタイプは自分自身が縦横無尽に動き回り、とんでもない恐怖を味あわせてくる化け物じゃないか…。
「えぇ、ちょっと愛莉これ怖そうだよ…」
「大丈夫だって〜。私が隣にいてあげるから〜」
「……………」
マジか…。係員に安全バーを下ろされ待機。うわ、頭を進行方向に向けたうつ伏せの状態からスタートするの!?エグイなこれ…。ほんでさっきから涼風さん一言も喋ってないけど生きてる??委員長が「おーい!」って意識確認してるけど、一言も喋る気配がない。まさか動く前から気絶してるとか??
「楽しい空の旅へ行ってらっしゃい!」
係員の掛け声と共に豪族でスタートダッシュが開始された。超スピードで上り坂を上り、あっという間に下り坂に入って…そして急落下である。
「きゃぁぁぁ」
「ぐやぁぁねよまあまぁ!!!いやどぉぁぉぁぁ!!れ!!!!!、あぁぁぁぁ!!!!」
私が少し可愛い悲鳴をあげようかと思ったら、後ろから化け物みたいな鳴き声が聞こえてきた。これ涼風さんか…?
「いやぁぁ!!!ぁぁぁあ、どぉぉ!!ぶぎーーーぎぎぎがかいかぎが!!!れれ!!!」
後ろからすんごい悲鳴が聞こえてくる。これがあれか、周りの方が悲鳴がデカすぎて自分が叫ぶのを躊躇ってしまうというやつか…
そしてあっという間にジェットコースターはスタート地点に戻ってきた。
「いや〜紗夜ちん。楽しかったね〜」
「ま、まぁスリルはあったかな…」
楽しかった…かな?涼風さんの悲鳴が面白かったってのはあるかも。これで晴れて私も委員長組の仲間入りだ。
「じゃあ時戻してもう一周やりますか?」
委員長がそんなことを言うと、涼風さんが凄まじい勢いで飛び上がった。
「むりむりむりむり!!安全バー分解!!」
あぁ、涼風さん、係員の案内を待たずに安全バーを自力でばらばらにして颯爽と出口に消えていってしまった。これどうすんの…まぁ委員長が直してくれるか。
この後私達も出口に向かうと、出口で待ってくれていた小鳥遊さんと速水さんの前でぶるぶると震え、涼風さんは慰められていた。




