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主人公だけが忘れる死に戻り  作者: 嘆き雀


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21.尋問

 私はこれまでハヴェルの側でハヴェルを守っていた。囮をするように言われてからは、当たり前だがハヴェルの側から離れていた。

 ハヴェルの状態が分からないのが不安だった。いつ死に戻りが起きるのか。トゥーアに到着するまでの苦労が不意になくなるのではないか。私にとってこの不安は死に戻りの現象が起きてから初めてだった。ハヴェルの側にいる者以外は常に感じていたことだろう。それが大多数だ。


 私はこれからもこの不安と共にしなければならない。

 現状、死に戻りは起きていない。ハヴェルはどの状態であれ生きている。この遠い地でそれが分かっているだけ囮を務めていくには十分だろう。



 そして、とうとうトゥーアの辺境の地に着く。追手はしばらく前からぱったりと姿を現れなくなった。諦めた訳ではないはず、嵐の前の静けさなだけだ。

 私は囮の役割を果たし、情報を掴みだすきっかけを作る。カスペの手の者は追手によって遅れた私とヴィートよりもとっくの先に到着していた。とある商会での買い物に紛れて店員に符丁を言うと、とある宿屋を勧められる。その通りに宿をとると、その日のうちにカスペの手の者が一人訪ねてきたので、部屋に入らせる。ダスパンと呼べと言われる。


「待ちわびたぞ、くたばったかと思い始めていた」

「確かに追手には何度も殺されそうになった」

「体の調子は?」

「疲弊はしている」

「手足がくっついているならいいさ。そっちは?」

「ええと、ヴィートです。ロマ先輩の後輩です」

「こいつについて話は聞いていないが、信頼できるのか」

「さあ?」

「えぇ、ロマ先輩ぃ……ここに来たのにお払い箱は嫌ですよ」


 ごねるヴィートを一旦部屋の外に追いやり、ダスパンから情報と物資をもらう。

 私は首都に向かえばいいらしい。魔法大国であるトゥーアでも敵が使ってきた魔道具は高価なものだ。いくつもの魔道具を使用してきたことで首謀者は富裕層と予想される。そのため富裕層が多く集まる首都に向かえと言うことらしい。


「国ぐるみだったら最悪だが……理由がないからな」


 カスペとトゥーアはいくつもの国を挟んで位置しているので、英雄のハヴェルを殺しても旨味がないと考えられる。死に戻りをするハヴェルを何度も殺す手間をかけるなら、他のところに手をかけた方がいい。


「死に戻りが発覚する前から殺そうとしている相手だ。ハヴェルに対して執着心がありそうな者の候補はいるのか?」

「今のところはなく、理由からは辿れない。――――だからこそお前が希望だ」


 私が希望と言われ、鼻で笑ってしまう。

 相当手詰まりだったらしい。既に私は追手に何度も襲撃されている。ハヴェルに私の情報を一切与えていない今回でも、私には囮を担う価値があると証明されている。


「囮をする際は自由に動け。後はこちらが合わせる」

「いいのか?」

「どうせ連携してもうまくはいかないだろう。こちらの情報を制限する目的もある。母親の命を守っている以上、今更お前が裏切るとは思っていないが、拷問にかけられて情報を吐くとも限らない」

「私の情報は筒抜けか」

「当たり前だろう」

「まあそうだろうな」

「あと話すことと言えば、囮をするにあたって身の安全が守られると思うなよ。囮の名に相応しく、お前の命は軽々しく扱う。情報収集のため、必要ならば見捨てることもある。人手も足りていないからな」


 先程は希望と言っておきながら、見捨てるという。

 どうせ死に戻るからと思っているからか。私が暗殺者だからか。いや、カスペの暗部だからこその価値観か。


 死に戻り前から諜報活動をしていたのだろう。無情に命を見捨てることができるし、見捨てると言ってしまえる。私がカスペの暗部と言えてしまう立場にあるのも理由だろうか。


 どうせハヴェルを守っている際に死ぬかもしれないことは了承済みで、既に何回も死んでいる。必要ならば見捨てるなら仕方がないことだ。


「頼もしそうで何よりだ。流石国の英雄を殺しただけある」

「死ぬことになってもいいが、その分情報収集には期待するからな」

「やれることはやるさ。で、あの坊主とはどういう関係なんだ?」

「関係、か。先輩と慕われている」

「もっと具体的に言え」


 ダスパンの声が低くなる。諜報員には必要なことか。


「奴隷になっていたところを助けたら先輩と懐かれ、今回頼った。戦闘力は中ぐらい、道中で経験はそれなりに積んだ」

「分かった。俺が質問する」


 苛立ち半分、諦め半分で言われる。説明が足りなかったか。


「敵か味方か」

「分からない。今のところ役に立っている」

「ヴィートはロマのことを女として好いているか」

「先輩としてだろう」

「女として好いていないとはっきり言える根拠は? 囮をするお前のことをついてくるっていうのはよっぽどだぞ」

「それは…………好きとは言われたことはあるが」

「好かれているじゃねえか」

「いや、だが……ありえないだろう」

「俺は本人以外からのありえないで可能性を閉じはしない。じゃあ、お前はヴィートのことをどう思っている?」

「ただの後輩だ」

「囮をする上でヴィートが裏切ったらどうする」

「捕まえ情報を吐かす」

「ヴィートが死にそうになったらどうする」

「余裕があれば助ける」

「ならヴィートがお前を庇って死にそうになったらどうする」


 私の挙動を見逃すことがないよう、ダスパンは瞬き一つなく見ている。この質問に重きを置いているのだ。

 確かに私は直ぐに答えられなかった。考えたことのない質問だった。


 ふと何度目かの死に戻りで騎士が私を守って動かなくなったことを思い出す。

 愚かだと思ったはずだ。私なんかを守るだなんて無価値なものだ。例え希望と言われる囮役だとしても、もし必要だったのならばどうせ死に戻り、生き返るのだから。


 だとしても、私の命が無価値だとしても、ヴィートが死なないよう助けたりはしない。


「そのまま見殺しにして生き延びる」


 これはダスパンが望む言葉だ。私としても無駄に死のうと思わない。希望は無駄に死なない方がいい。

 万が一にも囮役を果たせなかったと報告され、母が苦しむ羽目になるようなことはしない。


 これから先、その場面が来たら迷わず見殺しにすると心に決める。

 だからこれ以上無駄な問いかけはするなと睨みつける。


 ダスパンは満足そうに頷く。


「それでいい。ヴィートにも尋問する」



 ヴィートはあのダスパンの元から何事もなかったかのように戻ってきた。やはり敵か味方かは判断できないらしい。ダスパンは肩を竦めて、どこかに帰っていった。

 そしてヴィートは信頼できると言わなかったことで、部屋の隅でとうだうだしていた。


「先輩のばか」

「いつまで言っている。さっさと補充に行くぞ」

「僕が望む言葉をくれたらすぐに行きますよ」

「敵地で変に拗らせるな」


 対応が面倒でヴィートの襟を持って無理やり立たせる。


「口では言わないですけど、僕のことを必要としてくれてますよね? 信頼してますよね? 最初は少しでも遅れたら置いていく勢いでしたもん」

「……その口、二度と話せないようにしてやろうか?」

「分かりました、今回は僕が折れてあげます」


 やれやれといってようやく自分で立つようになる。先ほどダスパンと真剣にヴィートについて話していたこともあって、凄く腹立つな。


「行きましょう、ロマ先輩」


 ヴィートが私に手を差し伸ばしてくる。私はふんと鼻を鳴らし、手を伸ばしたままの間抜けなヴィートを置いて行く。元々は私が先に行こうとしていたのに生意気だ。


「待ってくださいよー!」


 ヴィートは私を追いかけてくる。なぜこんな私を慕ってくるのか。

 追いついて笑いかけてくるヴィートを見て、少し胸がざわついた。


 *



 いやだ。いやだいやだいやだいやだ。


 見放されたくない。


 私は愛されているはず。


 期待してくれている。


 あの方のためならなんだってできる。


 私ならできる。


 既にハヴェルを何度も繰り返し死に追いやった。


 今回もできる。


 ロマを殺し、その死体を見せればハヴェルは死ぬ。


 時戻りのせいでハヴェルを殺すのは難易度が上がっていたが、ロマの存在のおかげで簡単に繰り下がった。


 追いかけっこはもう終わりだ。


 ここで殺す。


 衛兵に駆け寄り、憂いの表情で訴える。


「お話があるのです。実は――――」


 衛兵は親身に話を聞く。なんて単純、なんて阿呆。



 ――――ああ、これでまた愛してくれますよね?


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