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93.電設のヒデオさん、処理する。


「フェア。キャンピングカーの形、戻して」


「はい。キャンピングカーの形を戻します。ますたー」



ウィーンッ。ガシャコーンッ。ギュルルルルッ。ヂヂッ。ヴォッ。ピコーンッ。


メカニカルな音と共に変形。5分の1くらいに体積が縮み、一軒家から大型バスに戻った。


久々の走行モード。ここしばらく居住性最優先モードだったので、ちゃんと車に見える形状は本当に久々である。



「……キャンピングカーって、こういうものだったっけ……?」


「はい。こういうものです。ますたー」


「そっかー……こういうものなのかぁ……」



フェアがそう言うんだから、こういうものである。間違い無い。



「フェア、また運転頼むよ。安全運転でね」


「はい。運転します。ますたー」



一応、このキャンピングカーには運転席が付いている。人間用のハンドルもペダルも付いている。でも正直、こんなデカい車を安全に運転できる自信は無い。


無理せずフェアに頼んだ。今更、見栄を張ってもしょうがない。



「ホント安全運転で頼むよ、フェア。急がなくていいから。ホント全然急がなくていいから。安全を最優先でね。安全第一でね。……ホント、急がなくていいから」


「はい。安全運転します。ますたー」



大型バスは、のろのろと南東方面に向かって発進した。






魅雪の察知した異変の元凶は、方角が不明。実際に遭遇するかどうかも、現時点では不明。


もしも不審な影が見えたら即座に進路変更できるよう、安全重視でスピード抑えめである。


全ては厄介事を避けるためである。超低速なのは安全のためである。他意は無い。



「魅雪、角はどう?何か変わりはある?」


「ううん、無いよ。ヌヌヌッてしてるの」


「方向はどう?嫌な感じに近付いてるとか、遠ざかってるとか、ある?」


「……そういうの、よくわかんないの」


「そうか。うん。教えてくれてありがとう、魅雪」



白い頭をグリグリ撫でた。



「黒夫、何か新しい音、聞こえるか?」


「んー……?」



黒夫は猫耳ピコピコさせながら思案顔。


触りたい。いや我慢。



「特に変な音は聞こえないぞ。……この車から聞こえる音が変だけど」


「そうか」



電動仕様の大型バスは、エンジン車よりは静かだが、無音で走行とは行かない。わずかだがモーター音もあるし、タイヤと地面の接地部分からの音や振動もある。


走りながら音を拾うのは無茶ぶりすぎたか。



「音じゃなくてもいいぞ。どっちの方向から気配がするとか、そういうのでもいいけど、何かあるか?」


「気配は全然わかんないぞ。すぐ近くに凄い大きいのあって、他の小さいのは全部まぎれちゃうから……」



黒夫が少し気まずそうな目で、十本首を見ていた。


元凶、この酔っ払いのオッサンか。



「……なあ、つなし。今からでも帰ってくんない?」


「我の座す場は、ここである。ここが我の帰る場所である」


「まいほ~む」


「いやここ俺の家」



酔っ払いのオッサン、邪魔。


こんなんでも魔物なので、気配が大きい。獣人の鋭い勘が阻害されている。


ついでに言えば、体積的にも邪魔。全高は低くなったけど、横幅は十本首分あるので、普通に邪魔。



「ムチムチさんは――……、何でもありません」


「それは酷くないか!?」



ムチムチさんの能力の要、右目は現在、負傷中。


もっとも、もし右目が無事だったとしても、状況は変わらない。


ムチムチさんの魔眼、対男性特効仕様だが、性別を持たない精霊などにも少し効果がある。効果は一時的で、複雑な仕事は拒まれるが、単一の簡単な指示は通る。


ただし、意思疎通が一方通行。ムチムチさんから精霊に指示を伝える事はできても、精霊からは何の情報も受け取れない。


魔眼の性質上、厄介事を未然に回避する、という用途には適さない。



「……こんな事なら、待ち伏せて返り討ちの方が良かったかな……」



過激な思考な脳裏をよぎった。


現代人にあるまじき攻撃的な思考傾向だ。この傾向は良くない。元の世界に帰ったら、再就職の前にリハビリしよう。


暴力的解決は、手段としては最後の最後。初っ端から是としていたら、あっという間に血みどろの道の出来上がり。


普通に嫌だわ、そんな臭そうな道。回避できるなら、回避するに限る。



「……何も無いな……」



周囲を警戒するも、今の所、何も無し。車窓は平和そのもの。平原には厄介事どころか、人影一つ無い。


もしかしたら、魅雪は何か勘違いしているのではないだろうか。


黒夫は、すぐ傍にいる十本首の気配のせいで、勘を狂わされている。同じように、双角の察知能力が狂わされている可能性は考えられないだろうか。


魅雪は元魔王とは言え、今は子供だ。前世の記憶は無い。子供らしからぬ知性を見せる事もあるが、それでも子供は子供。間違える事もあるだろう。


自分は今、子供の勘違いを真に受けて、無駄に警戒心を高め、無駄にストレスを溜め込んでいるだけなのではないだろうか。


……なんて事を考えていた矢先の事だった。


何かを感じた。



「……んんっ?」



五感のどれでも無い、何かの感覚に、何かが触れた。


まるで、可聴域ギリギリの高音を聞いている時のような、何かが掴めそうで掴めないような感覚。


鈍い自分が鈍い感想を抱いていると、三人が騒ぎ出した。



「姉ちゃん!」


「お姉ちゃん!」


「……ぬかった……私とした事が、こんな初歩的な見落としを……っ……」



ムチムチさんの顔色が真っ青だった。


十本首が、頭を近付けて首筋を覗き込んでいた。



「ふぅむ。発信虫が起きたようであるな」


「知ってるのか、つなし?」


「そなた、知らぬのか?無知であるな」


「悪かったな。それで、何だよ、そのナントカってのは」


「発信虫である。特定のシグナルを受信すると、それを増幅して発信する性質を持つ虫である」


「虫?そんなの、どこに――」


「ヒデオ殿、私の首を斬り落としてくれ」



いきなり、とんでもない事を言った。



「寄生虫だ。仕込まれている事に気が付かなかった。すまない。手遅れかもしれないが、今すぐ斬ってくれ」


「ちょっ、それじゃ意味がわかりません!もっとちゃんと説明してください!」


「説明している間に見付かれば終わりだ。このままでは貴殿も巻き込まれる。時間が無い。斬れ」


「斬れじゃなくて、説明してくださいって言ってんですよ!」


「魔力波を出している以上、私は逃げられない。今すぐ斬れ。そして捨てていけ。相手の寛容さ次第では、見逃されるかもしれない」


「さっきから何言ってんですか!?」


「本当に時間が無いのだ!私の生存はすでに露見している!ここで私を斬り捨てなければ、ミユキとクロオまで巻き添えになるぞ!今なら私一人で済む!斬れ!」


「斬れるか!」



美人さんが面倒臭い。相変わらず、思い込んで暴走する悪癖が健在。


斬れ斬れ発言は、ひとまず無視。


この場で一番冷静そうに見える人に話を振る。



「つなし。虫の位置、わかるか?」


「無論である。我の優れた感知器官をもってすればバレバレである」


「……それについては色々言いたい事あるけど、まあ後でいいや。教えてくれ」


「ここである」



ペチッ。


ヘビの舌が、左の肩と首の付け根の辺りを叩いた。



「失礼します」


「ヒデオ殿!こんな事をしている時間は――」


「口閉じて」



ウダウダうるさい。無視。


無理矢理ワイシャツをはだけ、左肩を露出させる。


患部に指先を当てる。



「かったっ!?」



肩、凝ってた。


胸部が重いからですね。いやそんなの今はどうでもいい。



「……んっ……」


「こいつか?」



指先を強く押し込むと、BB弾が埋まっているような感触があった。


浅い。この位置なら、おそらく、届く。



「フェア。スタンガン。なるべく強力な奴」


「はい。スタンガンです。ますたー」



スタンガンが出た。何故かツマミ付き。市販品とは一線を画するオーラを感じる。


首筋にスタンガンの端子を押し当てる。


何故か付いてるツマミを限界まで回す。最大出力に設定。微妙に嫌な予感するけど、とりあえず最大。


安全装置を外す。



「歯、食いしばってください。死ぬほど痛いですよ」



スイッチを押した。



「いぎっ!?」



バヂンッ。


閃光弾が炸裂したような、凄まじい光と音。


肉の焦げる嫌な臭いがした。



「姉ちゃん!」


「お姉ちゃん!」


「つなし。虫は?」


「死んだようであるな。シグナルは停止しているのである」



処理完了。まずは1匹。



「……二人に虫はいるか?」


「同じ場所にいるのである。休眠中であるな」


「……そうか」



残りも早々に処理しないとマズい。



「黒夫、魅雪、こっち来い。……わかるな?」


「「……うん……」」



二人が左肩を出す。


指先で位置を確認し、順番にスタンガンを当てる。



「「……ぅっ……」」



バヂンッ。バヂンッ。


続け様に処理。肉の焦げる嫌な臭いが車内に満ちる。



「つなし。虫は?」


「死んでいるであろう。おそらくは」


「ハッキリしねえな」


「休眠中は仮死とほぼ変わらぬ。むき出しであればまだしも、肉に埋もれていては見分けが付かぬ」


「ちっ。まあいい」



電撃を首筋近くに受けて、三人は気を失った。そっとベッドに横たえる。


異常出力のスタンガンの影響で、肌の一部が変色している。


指先が気持ち悪い。スタンガンのスイッチを押した感触が消えない。


こんなクソみたいな真似させられる羽目になったのは、どこぞのクソどもがクソ虫なんか仕込んでくれやがったせいだ。



「……クソッ……落ち着け、落ち着け……頭を冷やせ、俺……っ……」



頭が茹で上がっている。その自覚がある。


マズい。まだ本番は始まってすらいない。落ち着かないとマズい。


マズいと自覚しているのに、頭が茹で上がる。



「ますたー。水です」



ウォーターサーバーからガラスコップに冷水を注ぎ、フェアが持ってきてくれた。そのまま受け取る。



「ありがとう、フェア。助かるよ」



バシャッ。


そのまま頭にかけた。少し頭が冷えた。



「悪いけど、もう1杯もらえる?」


「はい。もう1杯です。ますたー」



バシャッ。


続け様にかけた。大分頭が冷えた。



「……ねえ、フェア。運転どうしたの?」



頭が冷えたら、気になった。



「慣性航法システムを稼働中です。10km/hで直進しています。ますたー」


「あ、そういうの、あるのね……。とりあえず、もう1杯もらっていい?」


「はい。もう1杯です。ますたー」



バシャッ。


かけた。完全に頭が冷えた。



「……よし。大丈夫」


「いやどう見ても大丈夫じゃないのである」


「ふきふき~」


「わぷっ!?」



十本首に総出で拭かれた。タオル10枚で拭くほど濡れてないのに。


拭かれ終わって、少しスッキリした。



「さて。……どうしよう、こっから……」


「考え無しであるな」



思わず即行でスタンガン使ってしまったけど、冷静に考えたらマズい。


とにかく虫を止める事しか考えてなかった。


キッチンに出没する黒い悪魔に向かって反射的にジェット殺虫剤ブチかますくらい考え無しに即行してしまった。


せめて詳しい話を聞いてからにすべきだった。


元魔王様、ダウン。とても話を聞ける状態じゃない。



「なあ、つなし。例の虫の生態、もうちょい詳しく」



まずは直近の騒ぎの原因の詳細を確認する。知ってそうな人がいて良かった。



「発信虫であるか?」


「そう、その虫。なんかシグナル出すとか言ってたけど、どういう虫なんだ?」


「そのまんまである。特定のシグナルを受信すると、発信するのである」


「黒夫と魅雪の虫は休眠中って言ってなかったか?」


「個体ごとに固有のパターンを持つのである。そのパターンのシグナルを受信するまでは、宿主の体内で休眠しているのである」


「害は?」


「そなたらくらいの大きさであれば、ほぼ無かろう。微小な虫であるし、活動中でも宿主から奪う栄養は微々たるものである。毒も出さぬ」


「……変な虫」



話を聞く限りでは、無線ビーコンみたいなものだろうか。


寄生虫型ビーコン。どうしてそういう生態なのか。


元の世界には、カタツムリに寄生してから鳥に食べられたがる寄生虫がいる。鳥に見付かりやすいよう、派手派手しい色を出して自己アピールするキモい虫だ。あの手の虫の同類だろうか。


それはともかく。シグナルを出す生態の寄生虫が仕込まれていた。それがシグナルを発した。


この先が問題だ。



「……………………」



他にも聞かなければならない事がある。


聞く事は他にもあるが、その前に一言、言いたい。


言ってやらないと、腹の虫が収まらない。



「……お前、虫が仕込まれてるの気付いてたな?」



あの時、三人の反応と、十本首の反応には、明らかに差があった。



「無論である。我の優れた感知器官をもってすればバレバレである」


「威張って言う事かよ!気付いてたんなら言えや馬鹿!」


「だ、誰が馬鹿であるか!?」


「お前に決まってんだろ!無駄酒飲みのニート野郎が!」


「な、何だと!?言うに事欠いて、何たる暴言か!許し難し!」


「許せねえのはこっちだよ飲んだくれ!」



マジでクソの役にも立たない、この酔っ払いのオッサン。


今までは何だかんだ笑って流してきたが、今度ばかりは流せない。



「ますたー。水です」



二本の腕で十本首と取っ組み合ってたら、フェアがコップ持って間に入ってきた。そのまま受け取る。



「ありがとう!いつもね!」



バシャッ。


そのまま頭にかけた。少し頭が冷えた。



「……すまん。言い過ぎた。悪かった、つなし」


「お、おう。……まあ、此度の事は特別に水に流してやろう。我の寛大さに感謝するが良い」


「へいへい、あんがとよ」



また腹の虫が騒ぎそうになったが、抑えた。


落ち着かないとマズい。


深呼吸を一つ。



「……それで、虫の他に何か仕込まれてたりは?」


「漠然としすぎであるな。何をもって『仕込む』と見なすかにもよるのである。色々しているようであるが、外的な作用の全てをそうは呼ばぬであろう?」


「……つまり、他にも何かあんのかよ。言えよ、そう言うの、もっと早く」


「我から見れば、害が無いのである。言う必要を感じぬ」


「害が無くたって、虫がいるの気付いたら言うだろ普通。どこの世界に、寄生虫を放置する馬鹿がいるんだよ」


「発信虫はほぼ無害である。その性質を利用して、幼子を見失わぬよう、体内に入れるのは珍しくないのである。我も幼少期には体内に入れていたくらいであるぞ」


「ええっ……マジかよ……」


「益虫である。使い方次第であるが」



無線ビーコンじゃなくて、迷子ビーコンだった。


異世界では、寄生虫をそういう風に使っているらしい。しかも、魔物のお墨付き。文化の違いを感じる。



「この虫って、シグナルを受けると、起きて活動を始めるんだな?」


「然り」


「どのくらいの大きさのシグナルで起きるんだ?」


「そこまでは知らぬ。我が感知できぬほどの微小なシグナルにも反応するのは確かであるな」



思い返せば、ここにいる全員、虫の発するシグナルには反応していたが、その前に虫が受信したはずのシグナルには無反応だった。


何か魔力を利用した信号っぽいので、自分が鈍感だったのは、順当。こちらの世界の住人ではないのだから、魔力の信号とか知らん。


問題は、全員が無反応だった事だ。


出力の小さい発信だったのか。それとも、かなり遠方からの発信だったのか。



「虫が出すシグナル、どれくらい遠くからでも感知できるとか、どれくらい近付かないと感知できないとか、わかるか?」


「それは相手次第であろう。鈍い者であれば、すぐ後ろでシグナルが発信されても気付かぬ」


「……そりゃそうか」



発信機の出力が一定の場合でも、受信機の感度によって検知可能な距離が変わる。


特に今回は虫、つまりは生体だ。機械のような明確なスペックが期待できない。反面、機械より高性能な事が珍しくない。


判断に迷う。



「……気付かれてると思って動いた方がいいか……いや、下手に動く方がマズいのか……どうすりゃいいんだ……?」



今朝の時点では、3匹の虫は全て休眠状態だった。


出発して時間が経ってから、1匹の虫がどこからかシグナルを受信し、休眠状態から活動状態に移行した。


虫に向かってシグナルを発信した者がいる。


発信元は不明。正体不明。距離不明。意図不明。



「……正体は、今はどうでもいいか……」



三人は、元魔王のクローン。


虫の情報を知っている可能性があるのは、クローンの製造元に所属していた者か、製造元を潰した者。


前者であれば、違法研究に手を染めた犯罪者。クローンの回収が目的と推測。


後者であれば、違法研究を取り締まる公務員。クローンの破壊が目的と推測。


どちらであっても敵だ。


第三者であれば、裏切り者なり諜報員なりから情報を取得したのだろう。動いているのは、漁夫の利を狙う小悪党か。マフィアか。政府の秘密組織か。相手が何であれ、クローンを碌に扱わない連中としか思えない。碌でも無い目的のために動いていると推測。


つまり敵だ。何者であろうと敵だ。等しく敵だ。全員敵だ。


何が来ようと、どうせ敵。


ひとまず、正体の詮索は後回し。どうせ敵だし。



「……距離は、かなり遠いはずだけど……どれくらい遠いのかが問題だよな……」



視認可能範囲内には異常無し。黒夫の聴覚の知覚可能範囲内にも異常無し。発信元は遠方と推測。


自分達と発信元との距離次第では、相手がこちらに気付いていない可能性がある。


もしも発信元が、遥か遠方から当てずっぽうで全方位に高出力のシグナルを発信していただけの場合、虫からの返信を受信できていない可能性がある。


この場合、慌てて不審な動きを見せれば、逆効果になりかねない。


ネズミ捕りの一種に、わざと慌てさせて捕まえる手法がある。むしろ、慌てず騒がず、何も無かった風を装い、素知らぬ顔して通行した方がいい。



「……三人とも推定死亡のはず……今頃になって探してるのか……それとも、ずっと探してたのか……そんな事、あり得るのか……?」



三人は、違法研究へのガサ入れのドサクサに紛れて脱出し、森に逃げ込み、山脈を越え、無人の荒野に辿り着いた。それから約3ヶ月経過している。


常識的に考えて、死んでる。


森は、魔物の縄張り。踏み入れば死ぬ。


急峻な山脈は、踏破するのは命懸け。落ちれば死ぬ。


無人の荒野は、人が生活できる土地ではない。干からびて死ぬ。


人間の王国内で魔族が見付かれば、殺される。


これらを全て無事にパスして生きていると思う方がどうかしている。


場所が場所だけに、遺体の確認は至難。でも普通に考えれば死んでる。


『ここから谷底に落ちたのなら助かるまい』とか言うような状況は、実際には大体本当に死んでる。探すだけ無駄だ。


死んでるはずのクローンを何ヶ月も探し続けるような真似、誰がすると言うのか。



「……公務員なら、定期的な確認くらいはしてるかな……?」



ふと、視線を上げて十本首を見た。


この酔っ払いのオッサン、基本的に酒ばかり飲んでるダメなオッサンだが、意外と心が広い。酒さえ絡まなければ、割と気のいいオッサンである。


十本首が放つ石化の呪いは、悔い改めれば解ける仕様になっている。つまり、森に入っても生還できる可能性がある。それを知っている者なら、確認を指示するかもしれない。


ただし、実際に確認作業を行うのは下っ端だ。下っ端が仕事熱心とは限らない。


命令するだけの立場の人は、とても気軽に『万が一に備えて』とか何とか言って、無駄な仕事を増やす事がある。何も無ければ徒労にしかならない無駄な確認作業が膨大に積み上がり、本来の業務に支障をきたす事もある。そういう場合、現場判断で、確認作業に手抜きが行われる事もある。おざなりに形だけ確認した事にする、某猫みたいなアレだ。


99%死んでるはずのクローンの生死を確認する作業なんて、最たるものだろう。


形だけの確認のために、定期的にシグナルを発信しているだけかもしれない。



「よし。とりあえず現状維持で。何かあれば臨機応変に対応って事で。よろしく」


「はい。現状維持します。ますたー」



とりあえず、そういう事にした。



「考え込んでいた割には、行動が考え無しであるな……」


「われ、し~らない」


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