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81.電設のヒデオさん、越える。


特にこれと言ったトラブルも無く、山の麓に到着。


軽トラは、ここで乗り捨てる。さすがに通勤カバンには入らない。



「……引っ越し日和とか言ってらんなくなってきたな……」



気付けば、先程までよりも霧が濃かった。


霧と言うより、雲の中にいる気分だ。まだ山に登る前なのに。


登山のコンディションとしては、最悪とまでは言わずとも、かなり悪い。



「……普通だったらヤバかったな、普通だったら……」



普通に登山したら死にそう。


普通に登山なんてしないから、関係無いけど。



「フェア。索道、通して欲しいんだけど。反対側まで」


「はい。索道です。ますたー」



索道が通った――……と思う、多分。


いつも通り一瞬。いつも通りエフェクトも何も無い。


濃霧のせいで、ほとんど何にも見えないけど、きっと通っているはず。



「……ねえ、フェア。ちゃんと通ってるんだよね?」


「はい。ちゃんと通っています。ますたー」



フェアは、いつも通り。だから大丈夫。間違い無い。


電気で動く輸送用機器は、当然、電気設備である。だから索道は電気設備である。


軽トラと比べれば、かなり電気設備っぽい電気設備に分類される電気設備。索道が電気設備である事に疑いの余地は微塵も無い。


電気設備とは、何か。


今更な疑問が浮かぶ。軽トラは電気設備じゃない気がする。いや気がするって言うか、普通に考えて電気設備じゃない。



「……ねえ、フェア。無理してない?」


「はい。無理していません。ますたー」



まあ便利なら何でもいい。


技術的に再現OKなら万事OK。理論や理屈なんぞ知ったこっちゃない。例えるなら、ボールペンのカチカチすると出たり引っ込んだりするカチカチのメカニズムを知らなくてもボールペンはカチカチできる。それと同じようなものだ、多分。


フェアは電気設備が出せる。


フェアが出したからには、電気設備である。


急峻な山脈の南北に、輸送用の索道が通った。その事実こそが重要である。


かなり規模の大きい創造になったはずだが、フェアは平気そうな顔をしていた。だから問題無い。




ルート上に電気設備を設置する事は、南に行くと決めた時点で決めていた。


設置を決めたのはいいが、上に通すべきか、下に通すべきか、悩んだ。


悩んで、山の上に通した。


下に通す場合は、地下鉄道などを通す事になる。電気が切れて輸送用の車両本体が使えなくなっても、輸送経路は地下通路として使えてしまう。


王国の奇襲部隊が、トンネルとして悪用する恐れがある。また逆に、魔族側が悪用する恐れもある。


自分がいなくなった後、フェアの創造した電気設備が悪用されるような事態は、絶対に避けなければならない。


上に通すなら、大丈夫。簡単に悪用されないようにできる。



「ますたー。乗り場はあちらです」



霧の向こうに、薄っすら乗り場が見えた。



「……あの、フェア?これ、索道?」


「はい。これは索道です。ますたー」


「……ああ、そう……まあ確かに、そうなんだけど……」



輸送用の索道って言うより、観光用ロープウェイの駅だ、これ。


いや観光用ロープウェイも索道の一種だけれども。




フェアに案内され、乗り場の方に行く。


動く人影らしきモノが、薄っすら見えた。


何か、いる。



「イラッシャイマセー」


「うわっ!?て、店員さん!?なんでいるんですか!?」



強面の店員さんがいた。



「当駅ヲ御利用イタダキマシテ、誠ニアリガトウゴザイマスー」


「……あ、制服違うわ……駅員さん……?」



強面の店員さん、改め、強面の駅員さんだった。


制服以外は同型の恐竜ロボットに見える。姉妹機だろうか。



「新路線、白蛇索道ノ開通ヲ記念イタシマシテ、只今、運賃10割引キニテ運行イタシテオリマスー」



そして10割引き。実質タダだった。


観光用なのに採算度外視。いいのか、これ。



「ちけっとハちけっと売場ニテ御求メクダサイー」



実質タダでも、チケットは必要らしい。


下手に逆らうと跳んでくる(比喩抜き)と思うので、素直に従う。


チケットを入手すべく、チケット売場に行く。



「イラッシャイマセー。何名様デスカー?」


「うわっ!?こっちにも!?」



チケット売場にも姉妹機がいた。アナログ販売スタイル。



「イラッシャイマセー。何名様デスカー?」



あらマイペースだわ、強面の店員さん――……じゃなかった、強面の販売員さん。



「ええっと……。大人12枚と子供3枚、片道で」


「大人12名様、子供3名様デスネー」



チケット購入。片道乗車券15人分。



「御確カメ下サイー。御間違イアリマセンカー?」


「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」



両手で丁寧に手渡してくれた。ヌクモリティを感じる。


チケットは、白地に黒文字。商売っ気の感じられない簡素なデザイン。接客が丁寧なのに、勿体無い。



「はい。みんな、これ持って。失くさないようにね」



全員にチケットを配る。


黒夫、魅雪、フェアは子供券。十本首は口に咥えさせた。


ゴンドラに乗り込む。



「げっ。入んねぇ」


「「「「「「「「「「~~~~~~~~~~」」」」」」」」」」



入口が人間用で狭い。十本首が引っかかった。


観光用のゴンドラより、資材運搬用の搬器の方が良かった気がする。



「毎日毎日酒飲んでるから太るんだよ!ダイエットしろ!」


「「「「「「「「「「~~~~~~~~~~」」」」」」」」」」


「息吐け!とにかく息吐け!限界まで吐け!吐け!」



力尽くで押し込む。


無理矢理押し込んだら、どうにか入った。



「良イ旅ヲー」



全員乗ると、ドアがガシャンッと閉じた。


駅員さんに見送られながら、ゴンドラがゆっくりと霧の中を進み出す。



「「「う、動いたーっ!?」」」


「「「「「「「「「「~~~~~~~~~~」」」」」」」」」」


「そりゃ動くよ。何だと思ってたの」



揺れるゴンドラに、三人が騒ぎ出した。


デブい十本首が、チケット咥えたまま呻く。十本首がウネウネして鬱陶しい。



「なんだ!?なんだこれ!?昇ってるのか!?どうなってるんだ!?」


「グラグラなの!?ユラユラなの!?何なの!?」


「ま、まさか、これは、昇降機だったのか!?」


「「「「「「「「「「~~~~~~~~~~」」」」」」」」」」


「みんな落ち着いて!特に、つなし!暴れんな!」



ゴンドラが激しく揺れる。


十本首の身体は重い。十本首のバラバラな動きのせいで、ランダムに揺れる。


酔いそう。


いくら揺れても何のその。運行は順調。どんどん昇る。騒がしいまま昇り続ける。


そして、その瞬間は来た。



「「「……わぁっ……!」」」


「「「「「「「「「「……っ……」」」」」」」」」」



ゴンドラが、濃霧を突き抜ける。


視界が、開けた。



「……は、はははっ……凄ぇっ……」



山脈。雲海。日の出。


絶景だった。


筆舌に尽くし難い。



「……………………」



ただこの景色を見れただけでも、異世界に来た甲斐がある。


そう思わせてくれるほどの絶景だった。






気付けば、周囲は再び霧に包まれていた。



「……ああ、ピークすぎたのか……」



気付けば、ゴンドラは下降中。絶景に呆けている内に、山頂は越えたらしい。


撮影し損ねた、なんて無粋な感想が脳裏に浮かんだ。






ボーッと余韻に浸っている内に、終着点に到着。


ドアがガシャンッと開く。



「当駅ヲ御利用イタダキマシテ、誠ニアリガトウゴザイマスー」



強面の駅員さんが出迎えてくれた。


チケットは渡さなくても良いらしい。そのまま通勤カバンに仕舞った。



「マタノ御利用ヲ御待チシテオリマスー」



強面の駅員さんの挨拶を背に受けながら、乗り場を降りた。


山脈を越え、麓の森林を越えて、平原っぽい場所にいるっぽい。


霧が濃くて詳細がわからない。


ひとまず、現在地点の把握は後回し。それより先に、やるべき事がある。



「……『また』は無いんだよ……」



駅員さんにもフェアにも悪いが、この索道は1回切りの使い捨て。次は無い。


そして、他の誰にも利用させない。


通勤カバンから、剣を取り出す。城から無断拝借してきた、数打ちの量産品。



「危ないから、みんな離れてて」


「ヒデオ殿?そんなものを持って、何をする気だ?」


「決まってるでしょう。斬るんですよ」



万が一にも被害が及ばないよう、全員下がらせる。


駅員さんに妨害されないよう、乗り場から離れた箇所を狙う。



「おらよっと」



勇者級の身体能力全開。直上に跳躍し、バットのように振り上げ、振り下ろした。


剣は平凡。剣技は三流。だからどうした。知った事か。


強引に押し切る。金属製の索条を、力任せに叩き斬る。


ビィンッという音がした。



「これで良しっと」



索条を切断。


これでもう、この索道は利用できない。



「おじちゃん、剣筋ブレブレなの。腕と手首をシュッてして、腰をクイッてした方がいいよ。あと、息の吸い方と吐き方も良くないの。もっとハッてするの」


「いいんだよ。斬れたんだから」



ダメ出しされた。手厳しい。


力任せに振ったせいで、剣はダメになってしまったが、気にしない。


特に貴重でも何でも無い、量産品の剣。通勤カバンの中には何本も同じ剣がある。そもそも剣を使う機会がほとんど無いので、余りまくってる。


思い返せば、城を出てから一度も剣を振ってなかった。普通に生活してたら、使う刃物は包丁だけだ。


異世界にて、剣で初めて斬った相手は、ロープウェイの索条。これが異世界。



「……ヒデオ殿。良かったのか?」


「もちろん」


「……そうか。貴殿がそう言うのであれば、何も言うまい」



退路は断った。物理的に切り離した。これで王国とは完全に縁が切れた。


まあ、フェアに頼めば、すぐに修理できると思うけど。それはそれ、これはこれ。気分的には、切った。


ここからは、王国に背を向け、南に向かって進む事になる。



「……出発は明日にするかぁ……」



すでに日の出の時間は過ぎているはずだが、霧が濃くて薄暗い。


見通しが悪い。


こんな天気の中を無理して進んだら、事故を起こしかねない。


すでに山越えした以上、急ぐ必要は無い。時間には余裕がある。安全第一。



「……寝床、どうするかな……」



この段に至って、少し迷った。


フェアに頼めば、すぐに用意してもらえるだろう。


迷えるだけの余裕がある。だからこそ、迷った。




南に行くと決めた時点では、単身赴任のような生活をするつもりでいた。


まずは、どこか手頃な場所に仮設住宅を建てる。そこを拠点にして、魔族の領域のどこかにあるらしい急速充電ステーション(仮)を探す。


探索の足に使うのは、電動アシスト付き自転車。勇者級の身体能力と合わされば、馬よりも高速で遠方まで移動でき、いざとなれば通勤カバンに収納して隠せる。


魔族の領域の地図は無いが、電子ペーパーの地図がある。塩の買い出しから帰る時に使った地図は、オートマッピング機能付き。自転車で走り回れば、詳細な地図が出来上がる。某ググる会社が地図製作のために走り回るのと似たようなものだ。


通勤カバンの中には、水も食料も入っている。野宿に使えそうな品々もある。


数日置きに探索と休養を繰り返し、地図を作りつつ急速充電ステーション(仮)を探す。周辺を一通り探索しても見付からなければ、拠点を移す。そしてまた同じ作業を繰り返す。見付かるまで延々と。


運が良ければ、いずれは当たりを引ける。もしも当たりを引けなかったとしても、その時はその時。ハズレばかりだったとしても、最終的に元の世界に帰れる目途は立っている。早いか遅いかの違いだけだ。


例えるなら、コツコツ貯金しながら、宝くじをコツコツ買い続けるようなもの。


地道、かつ、場当たり的な行動計画。


……というような腹積もりだった。軽トラに乗る前までは。


しかし、こちらの世界にも自動車に似たものがあると聞いて、再考した。


行動計画の大筋の方針は、そのまま変更無し。ただし、手段は効率化する。



「フェア。キャンピングカー、出してくれる?居住性を優先で」


「はい。キャンピングカーです。ますたー」



キャンピングカーが出た。電気で稼働する移動拠点。


これなら、休養しながら探索できる。一石二鳥。



「デカッ……」


「ますたーに相応しいものをご用意いたしました。ますたー」



居住性優先の希望が効いたのか、超巨大だった。大型観光バスに匹敵するサイズ。


元の世界だと、普通自動車免許では公道を運転できない気がする。


もし免許的に運転可能でも、怖くて運転できない、こんな大型観光バス。



「なんだこれ!すごい!かっこいい!」


「おっきいの!すっごいの!」


「ま、まさか、これもゴーレム車なのか……このような巨大な……っ……」



軽トラの時はあまり驚かれなかったが、超巨大キャンピングカーには驚かれた。


異世界の住人とかは関係無い。元の世界の人間にも普通に驚かれるような代物である。そして自分も驚いている。


でも今はどうでもいい。


驚きの感情を維持する余裕が無い。



「……やっべぇ……きっつい……」



眠い。


寝たい。


無事に山越えを果たし、索道を悪用されないように処理した事で、気が抜けて一気に疲労感が押し寄せてきた。


身体的な疲労は小さいが、精神的な疲労感が大きい。


慌ただしい引っ越しの徹夜明けで、何だか頭がフラフラする。思考がボヤける。



「……これが歳を取るって事か……」



慌ただしかったとは言え、たった一晩徹夜で引っ越し作業しただけで、この様だ。


学生時代なら、徹夜で騒いで身体がクタクタでも、精神は妙にギラギラしてたりしたのに。


若かりしあの頃の自分には、もう戻れない。


勇者級の状態異常耐性があっても、加齢による精神の衰退は無効化できない。



「ますたー。使用率99%になりました。早急な休養が必要です」


「……そう。それじゃあ、早く休もうか」



細かい事は後回し。


妖精パワー(仮)の使用率が限界に近い。


丁度、自分の気力も限界に近い。


もう何もやる気が起きない。


フェアと一緒に、キャンピングカーに乗り込んだ。



「おおぅ……何この床……ふっかふかだぁ……」



車内の床、超ふっかふか。毛足の長いカーペットが敷いてある。このまま眠れる。


一気に気力が枯れた。


重力に引かれるように、そのまま倒れ込む。



「……あぁ……これイイわぁ……ぐぅ~……」



寝た。



「まったく、ニンゲンは世話が焼けるな。オレが運んでやるぞ」


「おじちゃんはボクは運ぶの」


「二人とも、ヒデオ殿が裂けるぞ。もっと慎重に、だ」



まどろみの中、ベッドまで運ばれた、ような気がする。






昼過ぎ。


起きて早々、頭を抱えた。



「……徹夜のテンション、怖いわぁ……こんなん頼むとかアホかよ……」



明るい日の下で改めて見たら、とんでもないキャンピングカーだった。


サイズもそうだが、サイズだけの問題じゃない。


このキャンピングカー、変形する。


自分でも何言ってんのか、よくわからん。でも変形する、このキャンピングカー。



「居住性優先形態です。ますたー」


「形態変化ってどういう事なのよ……」



ボスモンスター級キャンピングカー。就寝前の5倍近い容積になってた。


ちゃんと睡眠を取ったはずなのに、眩暈がする。



「……変形機構がわからん……物理的に合ってないような気が……」


「いいえ。それは気のせいです。ますたー」



走行形態は、大型バス。座席数6席。ブースターシート付き。


車内には、家具や家電が備え付けで揃っている。全て車体に収納できる仕様。使う時だけ引っ張り出し、使わない時は邪魔にならない。


停車時には、大型バスの側面、底面、上面、背面が可動し、内部が拡張される。



「……屋上があるって……マジでどうなってんの、これ……」



ルーフ部分は変形し、屋上テラスになります。


夜には星空を見上げながら、ゆったり寛げます。とても素敵にロマンチック仕様。


何故かバーカウンターっぽいテーブルとイスまでニョキニョキッと生えます。


一応これ自動車なんですけど。酔わせてどうするおつもりなのかしら。豚箱にでもブチ込むおつもりなのかしら。



「ますたー。ダメでしたか?」


「……いや。凄くイイよ。うん。狭いよりは広い方がイイに決まってるしね。うん。広い分にはイイ事だよ。うん。ありがとう、フェア」


「えへへー。がんばりました。ますたー」



大は小を兼ねる。


大きい事は、良い事だ。


このまま使う事にした。


参考:ノック式ボールペンの仕組み・構造【動画あり】(機械設計学習館)

<https://md-study.com/retractable-pen-mechanism/>

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