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78.電設のヒデオさん、たかられる。


栄養面のみを考えるなら、必要な栄養素さえ摂取していれば、ずっと同じメニューでも死なない。


身体的には死なないが、死ななければいいってもんでも無い。


どっかの大工の小倅も言ってた。パンだけの生活はマジつらたん、とか何とか。


そりゃ食生活は豊かな方がいいに決まっている。


タマネギの使用の可否は、食生活に結構地味に響く。アレルギーを気にしてメニュー考えるの地味に大変なので、危険なら避けるが、安全なら使いたい。


まずは少量から始め、食べさせては時間を置いて様子見を繰り返し、体調の悪化や便通の異常等、健康被害が出ない事を確認した。



「今日はステーキだ」



本日は最終確認。微塵切りしたタマネギに謎肉を漬け込み、軽くコショウを振り、ガーリックバターで焼いてみた。焼き加減はウェルダン。


最後にタマネギを炒めて肉汁を吸わせ、調味料で味を調え、謎肉の上に乗せた。



「「「「「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」」」」」



みんなでステーキを食べる。



「どうだ、黒夫?」


「うみゃあぁ~……」



おいしそうな顔して食べてた。


できれば味の感想より、体調の事が聞きたい。



「ますたー。この分量では、健康面での問題は発生しません」


「……まあ、これまで何とも無かったし、大丈夫そうか……」



フェアには何度も同じ事を言われた。フェアの言葉は、やはり正しかったようだ。


危険は無かった。それでも、この数日の確認作業が無駄だったとは思わない。


いや、無駄な作業ではあったかもしれないが、安心感を得るためには必要な無駄だった。


ようやく人心地付けられる。


安心した気持ちで、自分もステーキを食べた。



「……ちょっとやりすぎたな……」



おいしい。でも柔らかくしすぎた。


下拵えを念入りにやりすぎて、歯ごたえが微塵も無い。ステーキっぽくない。



「ふぅむ。かなり脂が多いが、悪くないのである」


「うまうま~」


「これは赤に良く合うのである」


「いやいや、白の方が合うのである」


「ロゼである。ここは絶対にロゼである」


「我も、我も、我も、見当ハズレである。ここはポン酒が正解である」


「強零である。強零である。さあ、強零を飲むのである」


「やれやれ、我は肝心な事をわかっておらぬと見える」


「酒を飲む時は、我にも邪魔されず、自由で救われてなきゃあダメなのである」


「然り」


「いや然りじゃないが。なに人ん家にシレッと上がり込んでんだよ、つなし」



なんかヘビがいた。ステーキの歯ごたえとか気にしてる場合じゃなかった。



「ホントなんでいんだよ」


「今更であるな。先日から、飯時には我の分も用意されているではないか」


「それは、まあ、何となく、その場の雰囲気に流されたと言うか……」


「我の分を我が食す事に、一体全体、何の不都合があろうか」


「おのこし、よくないし~?」



あまりにも態度が堂々としていて、なし崩し的に受け入れかけていた。


黒夫がチョコレートケーキを食べているのを見た後、極めて冷静沈着に事態を収束させた所までは良かった。しかし、その後の対応をホンの少しだけ失敗した。


ここ数日、食事の準備の前後は、黒夫の体調変化を見逃すまいと集中しすぎた。それ以外の事物に対する意識が散漫になっていた。


気付いたら、十本首が家の中にいた。


ついつい流されて、食事を用意してしまった。


どうにも、この傾向は良くない。酒を酌み交わしてからというもの、絆されてしまっている気がする。


飲みニケーション効果の逆流。この状態は、危険だ。


頭では危険だとわかっていた。わかっていたのに、ついつい何度も食事を用意してしまい、すっかり味を占められしまった。


つなしの野郎、さも当然と言わんばかりの顔で、毎日三食、普通に食べに来る。


なんかもう慣れすぎて、ヘビの表情がちょっと読める。それくらい慣らされてしまった。どうしてこうなった。


不幸中の幸い、家の冷蔵庫には酒を入れていなかったため、居着くのは回避できた。十本首が家に来るのは、食事時だけだ。


十本首専用に別途用意したテーブル(電気こたつ)に、十本首が自ら持ち込んだ酒を並べ、食事を酒の肴代わりにして飲んでいる。食事が終わると、コンビニに帰っていく。


ちなみに、出入りはリビングの窓から。背は低いが、十本首分の横幅があるので、人間用の玄関は通れない。


床はロボット掃除機が完璧に掃除してくれる。窓から土足で侵入しても、常にピカピカ。だから問題無い。


いやそういう問題じゃない。


率直に言って、図々しいにもほどがある。絆されてる場合じゃない。



「なあ、つなし。悪いんだけど、もう家にメシたかりに来ないでくんない?」


「我、知ってるのである。来ない来ないも好きの内、と言うヤツであるな」


「いや違うよ!?本当に来ないで欲しいんだけど!?」


「遠慮は無用である。我に供物を捧げられる喜びに打ち震えるが良い」


「そんな熱心なファンじゃないんですけどぉ!?」



相変わらず、超偉そう。


実際、偉い。こう見えてマジで偉い、この酔っ払いのオッサン。


この世界の魔物は、生態系の絶対的頂点に座す。ほぼ土地神クラスの偉さである。


個人的には貧乏神とか疫病神とかの類だけど、いずれにせよ、神様クラス。


偉すぎて、人間の手には負えない。



「……はぁ……どうしてこんな事に……どうしよ……」



こうなってしまっては、どうしようもない。


格が違いすぎて排除できないし、もう本当にどうしようもない。


つなしが飽きて自主的に森に帰るまで、受け入れるしかなかった。






へし折れ、受け入れた翌日。


神様クラスを受け入れた恩恵なのか、厄介事がやって来た。



「……あれ?テレビ点いてる?」



夕飯の後片付けをしていたら、急にリビングのテレビが点いた。



「ますたー。中間地点に動体反応を検出しました」


「中間地点?……ああ、そう言えば、なんか設置したっけ」



フェアに言われて、この周辺の警備体制を強化していた事を思い出した。


今から約1ヶ月前、近所にオッサンが大勢やって来た。魔族の領域に奇襲を仕掛ける作戦中とか言う、自称精鋭部隊のオッサン達だった。


あの時は色々と不手際が多かった。こんな所に王国の人間が来るはずが無いと油断していたせいで、対処に慌ててしまった。


ミスは、一度だけなら、貴重な経験である。同じミスを何度も繰り返す事こそが、真のミス。真っ当な大人なら、当然、対策する。


どうにか無難にオッサン達をやりすごした後、墜落したドローンを回収がてら、家と街との中間地点辺りに色々と仕込みをしておいた。


具体的には、カメラ、マイク、センサーを設置し、有線で家と繋いだ。野生動物の生態観測に使用されるような、自然物の外観を模したハリボテ付きカメラを設置し、有線ケーブルは地中に埋設して見えないようにしてある。


あえて言うまでも無いが、全ての作業はフェアが一瞬でやってくれました。


現地に出向く手間はあったけど、超楽チン。足を向けて寝られません。


まあそれはともかく。



「……今度は何が来たんだか……」



ここは王国の忌地。普通の人は来ない。普通の犯罪者すら来ない。


植物はわずかにしか生えておらず、大型の動物は生息していない。


センサーに何かが引っかかったとすれば、その時点で十中八九、厄介事である。



「……なんか、ボロっちい……?」



テレビには、ボロい服を着た集団が映っていた。


ついでに音声も聞こえてきた。ガラの悪い声だった。



『ちぃっ、もう日が落ちちまう!テメェらがチンタラやってたせいだぞ!』


『そ、そんな事言ったってよぉ……』


『な、なあ、本当なのか?どうにも信じらんねえんだけど……』


『ここまで来といてウダウダ言ってんじゃねえ!おら、行くぞ!』


『ま、待てよ。今日はここまでにしようぜ。暗い中を進んで迷ったらどうすんだ』


『そ、そうだぜ。今夜はここで休もうぜ。もう疲れちまったし』


『クソッ、どいつもこいつも!出だしからケチ付きっぱなしじゃねえか!』


『まったく、なっとらん!貴様ら、これは遊びでは無いのだぞ!今一度、この行動の意義深さを説いてやろう!傾聴せよ!』


『うるっせえ!オッサンは黙ってろ!』


『ガッ!?』



なんか集団が揉めてた。


集団のリーダーっぽい立ち位置の男性が、副リーダーっぽい男性を殴り飛ばしていた。荒っぽい。


忌地にまで来てケンカとか、何がしたいの、この人達。



「フェア。この人達がいる地点、どの辺かわかる?」


「はい。わかります。この地点の情報を表示します。ますたー」



テレビ画面が切り替わり、周辺の地図が表示された。家と街との丁度中間地点に、マーカーが出ていた。


センサーは、位置をばらけさせて複数設置してある。進路が大幅にズレていても、近付く者がいれば、事前に発見だけはできるようにしてあった。


謎の集団を発見した地点は、家と街の直線上のド真ん中。碌に道らしい道も無い荒れ地なのに、集団の進路に迷いが無い。



「……なんでこんなに人が来るんだよ……」



数十年に一度しか人が来ないはずの土地に、また人が来ようとしていた。






集団は揉めていたが、結局、野宿する事にしたらしい。カメラの存在に気付かず、すぐ傍で寝ていた。


偽物の岩に身を寄せ、土の上にそのままゴロ寝。意外とタフである。



「……街に帰ってくれたら、楽だったのに……」



野宿するまでに散々揉めてくれたおかげで、相手方の事情は一応わかった。


集団の正体は、王国南西端の街にいた路上生活者。正確な人数まではわからないが、十数名。


集団の目的は、旧開拓村跡地に一人残っている村民に会う事らしい。


何でも、その村民は、百余名の部隊に物資を供出できるくらい生活に余裕があるらしい。


その村民に、十数人がかりで『お願い』をして、一緒に生活する気らしい。



「……って、俺じゃん」



要するに、自分に会いたいらしい。そして、たかる気満々。



「……どうやって追い返したもんかな……」


「ん?貴殿は彼らを受け入れないのか?」



テレビを見ながら頭を悩ませていたら、ムチムチさんが不思議そうに聞いてきた。



「そりゃ受け入れませんよ。そんな義理ありませんし」


「だが、彼らは人間だろう?良いのか?」


「いいですよ、別に。よく知らない人達ですし、受け入れる理由無いですよ」


「そ、そうか……。貴殿がそれで良いのなら、良いのだが……」



NPO職員じゃあるまいし、路上生活者の生活支援なんて御免である。その手の善行を平凡なサラリーマンに求めないで欲しい。


縁もゆかりも無い人達。世話をする義理は無い。


義理で言うなら、王国の貧困層は、王国が救うべきだろう。王国の拉致被害者である自分に頼られても、至極迷惑である。



「……こう言っちゃなんだけど、みんなバッチイな……生活大変そうだけど……」



老若男女は関係無い。それでも、もしも集団の中に老人や子供が交じっていたら、少しは悩んだかもしれない。



「……無いな。うん。無いわ、これ」



悩む余地、無し。


幸か不幸か、集団は全員、成人男性だった。老人も子供も見当たらなかった。


一番年下っぽいのが、リーダーらしき青年。おそらく大学生くらい。


副リーダーらしき男性は、顔が腫れ上がっていて、年齢不詳。体付きや姿勢などから、とりあえず老人では無い。


残りの人達は、似たり寄ったり。壮年から中年くらい。大半は、自分よりも年上で、自分の父よりも年下だろう。


助けようという気が1mmも起きない。




黒夫、魅雪、ムチムチさんを助けた時とは、根本的に状況が違う。


あの時は、助けなければ高確率で死んでいた。


死なないように色々やっている内に、縁ができた。


縁ができたと、そう感じてしまった。


一度でもそう感じてしまったら、もう簡単には放り出せない。




今回の集団は、路上生活とは言え、今まで街で生活できていた人達である。


追い返したからと言って、何がどうなる訳でも無い。また街に戻って、今までと同じ生活をすればいいだけである。


別に自分が助けなくとも、死にはしない。特にリーダーと副リーダーは無駄に元気が有り余ってそうだし、普通に働けばいい。


いや本当に、普通に働けばいいのに。


まだまだ若いんだから、がんばって働いてください。



「……しっかし、追い返すのもメンドイな……」



集団の話していた内容によれば、旧開拓村跡地に住んでいる謎の村民の存在は、他の人達にも知られているらしい。


わざわざ吹聴して回ったアホがいるらしい。どこのアホだ。傍迷惑すぎる。


常識的に考えれば法螺話なので、大半は話を信じず、街に残って路上生活を続けているようだ。賢明な判断のできる路上生活者が多くて助かった。


それでも、状況はかなり悪い。ある意味、前回よりも更に悪い。


奇襲部隊がこの地に来た時は、通過点のつもりで来ていた。一時的に滞在していただけなので、一時的に誤魔化すだけで済んだ。


今回の集団は違う。この地に居座る気で来ている。その場しのぎの誤魔化しでは、かえって状況が悪化しかねない。


最悪の場合、街に残った人達まで呼び寄せられ、押しかけて来る危険がある。


アホが一人で吹聴するだけなら、ただの法螺話で済む。しかし、そこに複数の目撃証言が加わると、一気に信憑性が増してしまう。



「……いっその事、つなしをけしかけて……いや、さすがに無しか……」



一瞬、危険な案が思い浮かんだ。一瞬で却下した。


路上生活者を追い払うのに魔物を頼るとか、羽虫を追い払うのに核兵器を持ち出すようなもの。過剰戦力にもほどがある。


そもそも、魔物が人の頼みをすんなり聞いてくれるとは思えない。


十本首の場合、酒を盾に取れば案外簡単に引き受けてくれそうな気もするけど、後々絶対に面倒臭い事になる気しかしない。


今でさえ、図々しく家に上がり込んで来ているのだ、あの酔っ払いのオッサンは。


下手に頼って、これ以上図々しくなられても困る。



「……ホント、なんでこんなに客が多いんだよ、招いてないのに……」



自分がこんな荒れ地に引っ越してきたのは、人が寄り付かない忌地だからである。


この地の唯一の価値が、無人である事。それ以外には、何の価値も無い。それなのに、奇襲部隊が来るわ、酔っ払いのオッサンが来るわ、路上生活者が来るわ、千客万来である。


もしここで対応を間違えたら、更にお客様が増える。


もしここでうまく対応できたとしても、謎の村民の情報が漏れている以上、別方面からのお客様が来訪する可能性もある。


この地の唯一の価値は、もはや風前の灯火である。


いや、もう価値は消えていると言っても過言では無いかもしれない。



「……価値が無い、か……」



この土地の地価、大暴落中。


むしろ、面倒事が増えて資産価値マイナスまである。



「よし。引っ越そう」



引っ越す事にした。


一度目は偶然。魔族と出会い。

二度目は奇跡。奇襲部隊をやりすごし。

三度目は必然。十本首に自業自得で絡まれて。

四度目は運命。路上生活者を切っ掛けにして、次の土地へ。

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