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77.電設のヒデオさん、様子を見る。

※作中の行為を真似しないでください。大変危険です。


慣れてはいけない事でも、慣れれば慣れる。


人生の悩みを抱えた生活も、慣れれば慣れる。


十本首の赤蛇が当たり前の顔してコンビニに居座っていても、慣れれば慣れる。



「……いやダメだろ、これ慣れるの……」



縮んだ魔物を隣人とした新生活も、早1週間が過ぎた。


ダメでも何でも、慣れれば慣れるものだ。


実生活上での支障が無ければ、どんな重大な問題も、無に等しい。



「ここは良い所である。酒も肴も豊富である」


「然り」


「いちいちレジを通さなければならぬのが、玉に瑕であるな」


「なに、多少の運動もまた酒の肴であるよ」


「我、動くの嫌である。メンドイのである」


「棚の前に寝っ転がっても良いなら、楽なのであるがなぁ……」


「我は自堕落すぎである。我のそういう所、我は良くないと思うのである」


「いい子ちゃんぶるでないわ。我も本当はそうしたいと思っている癖に」


「我、知らんし」


「おさけ、おいし~」



コンビニの酒コーナーは、実質、十本首の酒蔵と化していた。


コンビニ全品10割引きキャンペーン継続中。お客様は、ヘビでも神様です。


実質タダ酒飲み放題。つまみもタダで食べ放題。


タダで飲み食いできるのをいい事に、十本首はイートインコーナーの一角を占拠し、延々酒飲んでる。ほぼ定住して酒飲んでる。


三千世界を探し回っても、ここまで図々しい酔っ払いのオッサンは、あんまり存在しないだろう。あんまりは。



「なあ、ヘビの大将」


「ぶっぶ~!」


「我の名を間違えるでない」


「……なあ、つなし」


「なに~?」


「何であるか?」


「酒飲みすぎ。少しは控えろよ」


「やだ~」


「そなた、好きなだけ飲んで良いと言ったではないか」


「24時間飲み放題とか、想定外だっての。いくら何でも飲みすぎだ」


「別に良かろう、幾ら飲んでも」


「良かねえわ」


「ふぅむ?何が良くないと言うのであるか?そなた、我の現身を圧縮したおかげで、負担が軽くなったと喜んでいたであろう?」


「……まあ、それに関しては助かったけど」


「他に何か問題があるのであるか?何か困った事でもあるなら、言うだけ言ってみるが良い。内容如何によっては、耳を貸してやっても良いぞ?」


「……いや、まあ、言うほど困ってる事、無いんだけれども……」


「では、問題無いのであるな」


「おさけ、おいし~」



一日中、昼夜を問わず酒飲んでる、この酔っ払いのオッサン。


ただ、本当に24時間フルタイム不眠不休で酒飲み続けている訳では無い。3時間飲み放題して、3時間睡眠を取り、また3時間飲み放題、というサイクルを繰り返しているようだ。


言うまでも無い事だが、コンビニの商品はフェアに補充してもらっている。


1日当たりの妖精パワー(仮)使用率、1%程度。大型タンクにスピリタスを充填して90%使用していた頃に比べれば、負担は激減した。


酒がらみの負担が大幅に軽減した事により、世界を渡る絨毯のバッテリーは順調に充電できている。約3年の長期計画なので、少しくらい予定が遅れても誤差である。


かつての問題は解消された。それなのに、何故か状況が悪化している気分になる。


巨体だった時は、1日1時間飲み放題。縮尺10分の1になってからは、24時間飲み放題。飲酒時間は大幅増。飲酒量は大幅減。


定量的には、問題は無い。しかし、定性的には問題ある気がする。


問題点をうまく明示できないが、これ絶対に問題ある気がする。



「……まあ、いいか……実際、大して困ってないし……」



これだけ飲み続けていれば、いかに十本首の赤蛇とて、いずれは飽きるだろう。きっと飽きるはずだ、多分。飽きてくれるといいな。


飽きて森に帰る日まで、この問題は放置――……じゃなかった、長い目で様子見する事にした。






そんな風に適当な態度で様子見していたら、大問題が発生した。



「お酒、持ってきたの」


「おつまみも持ってきたぞ」


「うむ。両名、大儀である」


「おつかれさま~」



黒夫と魅雪が懐いた。近所の変人に懐く小学生の如く、つなしに懐いた。


二人で協力し、つなしの代わりに商品をカゴに詰めてレジを通し、イートインコーナーに運んでいる。


二人とも子供だが、お酒の年齢チェックは顔パス。すぐ傍に大人がいるせいか、店員さんは止めてくれない。



「……………………」



その酔っ払いのオッサンに近寄っちゃいけません。


……と言うような頭ごなしの否定はしない。


禁止されれば禁止されるほど興味が強くなるのが、子供という生き物。注意するにも注意が必要である。


幸か不幸か、つなしは人間のオッサンではなく、ヘビの魔物のオッサンだ。超絶美女のムチムチさんを前にしても、セクハラするような素振りは無かった。そういう方面では、人間のオッサンよりも安心できる。


でもやっぱり心配は心配なので、様子を見る。


酒以外の趣向は未知。もしかしたら、某赤い大佐みたいな性癖かもしれない。あるいは、男子小学生の半ズボンを酒の肴にするタイプかもしれない。


雑誌コーナーで適当に立ち読みしているフリをしながら、イートインコーナーの方に全神経を集中させる。



「……なあ、ヒデオ殿。そんなに気になるのなら、隣の席にでも座れば良いのではないか?」


「しぃっ。静かに。声が聞こえません」


「……時々おかしな方向に暴走するきらいがあるな、貴殿は」



すぐ隣で、ムチムチさんが何か言ってる。卵と雛鳥のイラストが表紙の雑誌を読むフリしながら何か言ってる。


どうでもいいけど、イラストが上下逆さまになっていますよ。どうでもいいから、言わないけど。


とにもかくにも、今はイートインコーナーに意識を集中させる。


十本首と二人は、何だか和気あいあいとしていた。



「ここには美酒が多く、つまみも豊富なのは良いのであるが、いちいちレジを通さねばならぬのが本当に手間である」


「店員さん、見逃してくれないもんね」


「あいつ、ホント手強いしな」


「まったくである。手練れな上に、石にしてもすぐ復活するし、実にやりにくい相手である」


「オレでも見逃しちゃうくらい素早いしな」


「動きが予測できないの。スルスルッて避けられて、ヒュッていなされちゃうの」



ちなみに、コンビニ店内では店員さんが最強である。


パワー、スピード、テクニック、全てにおいて人間の店員を凌駕する超ハイスペック恐竜ロボット。しかも、石化のブレスが効かない。より正確に言うと、石化のブレスを受けると数秒だけ石になるが、数秒後には元に戻り、普通に活動を再開する。


つなしがコンビニに居座り始めたばかりの頃、レジを通さずに商品を飲んだり食べたりしようとしていたのだが、目にも留まらぬ早業で取り上げられて諦めた経緯がある。何度やっても全て取り上げられ、石にしてもすぐ復活して取り上げられ、さすがの十本首も諦めた。


正真正銘、店内最強は店員さんである。いかに魔物とて、店内では店員さんに敗北する。


店員さんがいれば、自分がいる必要は無い気がする。何かあっても、きっと店員さんが何とかしてくれるだろう。


でも様子を見る。



「……っ……」



つなしと魅雪の距離が近い。


つなしが平然と酒を飲み、魅雪の方から身を寄せていた。


今すぐ間に割って入りたいが、我慢。



「どう?それ、ボクのお気に入りなの」


「ふぅむ。表面は黒く、内部は白く、中心に詰められた具材は赤い宝石の如く。味も良いが、色彩も良いのである」


「すじこ、うま~」


「なかなか酒にも合うのである。悪くないのである」


「こっちの具もおいしいよ。食べる?」


「うむ。いただこうか」


「はい。半分こ」



魅雪がコンビニおにぎり食べてる。


つなしと分け合って食べてる。


酔っ払いのオッサンと分け合って食べてる。自分とした事も無いのに。


ショックで脳細胞が壊れそう。



「……きぃっ、妬ましい……おにぎり半分こ……」


「いや、貴殿は以前、ミユキと菓子を食べさせ合った事もあるではないか。それに比べれば、そこまで羨ましがるような事でも無いと思うのだが……」


「それとこれとは全然別に決まってるじゃないですかっ」


「そ、そうか。決まっているのか……」



あーんは、あーん。半分こは、半分こ。全く別次元の行動である。


これは上下や優劣の話では無い。別次元、即ち、評価軸の異なる行動のため、単純比較できない。単純比較しても意味が無い。例えるなら、プリンとステーキを比べるようなものである。


つまり何が言いたいかと言えば、羨ましい。凄く羨ましい。半分こ、羨ましい。


特に魅雪の方から自主的に半分こを言い出してるのが、実にポイント高い。


嫉妬でヘビが殺せたら、きっと異世界はもっと平和になるに違いない、多分。



「御客様。長時間ノ立チ読ミハ――」


「しぃっ。静かにっ」


「ア、ハイ。申シ訳ゴザイマセン」



外野がうるさい。それどころでは無い。


魅雪に続いて、次は黒夫が不穏な動きを見せていた。いつもの気難し気な猫のような態度は鳴りを潜め、まるで人懐っこい猫みたいな顔して近付いていた。


何故だ。


そう言えば、元の世界でも、何故かホームレスのオッサンは猫に好かれやすかった気がする。なんか猫を惹き付けるフェロモンでも出てるのだろうか。


世の中には、猫が寄って来るのをいい事に、猫に酷い事をするオッサンもいる。


ここは絶対に、何が何でも、様子を見守らなければならない。全力で集中。



「オレのおすすめのヤツも食ってみろ。うまいぞ」


「ふぅむ。これは……ダメであるな」


「な、何でダメなんだよ!いいだろ、これ!」


「見た目は、なかなかであるな。外も中も黒一色、そのシンプルさが故の美。これはこれで悪くないのである。しかし、味が良くないのである」


「うまいだろ!」


「あますぎ~」


「甘くてうまいだろ!」


「単品で味わうのであれば、これで良いかもしれぬ。しかし、酒には合わぬ」


「然り」


「ミードの甘さとも、また違うのである。どうにも酒に合わぬ甘さであるな」


「さ、酒?合わないのか?」


「我の舌には合わぬ。他の者がどうかは知らぬが」



黒夫がションボリしていた。つなしの低評価に、物凄くションボリしていた。猫耳がペタンッとしていた。


あの酔いどれホームレスのオッサン、酒の飲みすぎで舌が馬鹿になってるんじゃないだろうか。


せっかくの黒夫のおすすめを十口齧っただけで否定するなど、暗愚の極みだ。


愚かなヘビが絶滅すれば、きっと異世界はもっと平和になるに違いない、多分。



「……こんなにうまいのに、この黒いヤツ……」



チョコレートケーキの残りを、黒夫が食べていた。何だか背中が物悲しい。



「……って、黒夫!?何食ってんだ!?」



黒夫が、チョコレートケーキ食べてた。


血の気が引いた。


ボケーッと見てる場合じゃなかった。慌てて駆け寄った。



「馬鹿!吐け!」


「にゃあっ!?いきなり何だよ、ニンゲン!?」


「いいから吐け!早く!ほら早く!ゲーッてしろ!」


「や、やめろぉっ!?」


「ええい、ちょこまか逃げんな!」


「何してるの、おじちゃん!?」


「ヒデオ殿、急にどうした!?」



手を伸ばしたら、避けられた。


こんな時まで身のこなしが軽い。緊急事態なのに捕まえられない。



「なんでチョコなんか食ってんだよ馬鹿!死にたいのか!」


「死っ!?」


「まだ間に合う!吐け!」



冷静に。緊急事態の時ほど、冷静に。


チョコレートによる中毒症状は、食べてすぐには出ない。消化吸収されるまで、タイムラグがある。


体重が重いほど、中毒症状は出にくくなる。普通の家猫と比べれば、黒夫の体重は10倍近くある。胃に少量残っても、症状は小さくて済む。


初期に正しく対処できれば問題無い。


対処するだけの時間は十分にある。


冷静に対処すれば問題無い状況だ。



「ほら吐け!吐け!吐け!」


「にゃあっ!?」



冷静に。緊急事態の時ほど、冷静に。


自分は冷静である。冷静に、必要な対処をしている。


大丈夫。まだ間に合う。問題無い。冷静である。大丈夫。冷静。大丈夫。問題無い。冷静。対処に冷静。大丈夫に冷静。


必要な間に合う冷静を対処にして大丈夫。



「吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け吐け!」


「にゃああああっ!?」



なんという冷静で的確な対処能力なんだ。自画自賛したくなるほどだ。



「鬱陶しいのである」


「かっ~!」



水色の光が飛んできた。


冷静な自分にぶつかり、冷静な自分の服が石に変わった。



「つなし!?何しやがんだ!?」



自分は冷静で的確な判断力を持っているので、冷静に動きを止めた。


冷静に考えて、ここで迂闊に動くと半裸の変態になる。


冷静なので、以前の二の舞は御免だ。



「ふぅむ。服だけであるか。やはり本体は石にならぬようであるな」


「ふしぎ~」


「こんな時に何言ってんだよ!」



口調だけは冷静な風で、つなしが何か言ってる。


冷静に考えて、急に石化のブレスを吐くようなオッサンが冷静なはずが無い。


自分は冷静である。


酔いどれホームレスのオッサンは、冷静とは真逆の存在である。突然何を仕出かすとも知れない。


冷静に考えて、子供達を近付けるのは、やはり危険だ。


冷静に排除の方法を考えよう。


以前は廃案にしたが、やはり工業用メタノールを飲ませるのが良いだろうか。


冷静に確実に始末するなら、正面から正攻法で攻めるより、まずは毒を飲ませて弱体化を狙うべきだろう。


自分は冷静である。



「まあ少し落ち着くのである」


「俺は落ち着いてるよ!そんな事より、何の真似だよ、これは!」


「本当に落ち着くのである。そなた、何をそんなに慌てているのであるか?」


「慌ててねえよ!落ち着いて黒夫にチョコ吐かせようとしてるだけだろ!」


「どこからどう見ても、落ち着いてないのである」



つなしと無意味な問答をしている内に、服の石化が解け始めた。


灰色だった服が、元の色を取り戻す。



「よし!これで――」


「かっ~!」



直前。また水色の光がぶつかる。服が再び石化した。



「つなし!?」


「我に何度も同じ事を言わせるでないわ。落ち着けと言ったら落ち着くのである」



余裕ぶった態度で、つなしが言った。



「フーッ!」



つなしの後ろに隠れるようにして、黒夫がこっちを睨んでいた。


何故だ。


何故、黒夫がそちら側にいるのか。


まさか、自分の立ち位置は、つなしを下回っているのか。つなしの方が頼りになると思われているとでも言うのか。


酔いどれホームレスのオッサンよりも頼りにならないと思われているなんて、あんまりだ。あんまりにもあんまりすぎる。


脳味噌パーンしそうになるくらいショック。


気力が一気に抜けた。


思わず、その場にへたり込みそうになった。


体勢を崩すと半裸になるので、へたり込む事すらできない。



「ようやく落ち着いたようであるな」


「めんどくさ~」



しばらく呆けていると、再び服が元に戻った。


ようやく自由に動ける。



「本当にどうしたのだ、ヒデオ殿?」


「おじちゃん、さっきから変だよ?」



間髪を入れず、左右の腕を魅雪とムチムチさんに取られた。


これも信用度の低さからくるものだろうか。


どこまで信用されていないと言うのか。


ショックすぎる。


へたり込みたい。


腕を取られているので、へたり込めない。



「……黒夫。早くチョコを吐いた方がいい」



へたり込んでる場合じゃない。


信用されていなくても、伝えるべき事は伝え、対処すべき事は対処しなければならない。


自分は冷静である。



「な、なんで吐かなきゃいけないんだよ!」


「チョコを食べると食中毒になるからだよ」


「食中毒!?なんだそれ!?」


「体調が悪くなってからじゃ遅いんだ。なあ、頼む、黒夫。今だけでいい、信じてくれ。このままじゃ、お前が危ないんだ」


「いいえ。危なくありません。ますたー」



自分と黒夫の間に割って入るようにして、フェアが言った。いつも通りのニコニコ笑顔だった。



「……フェア。危なくないって、どういう事?」


「チョコレートケーキの過剰摂取は、健康被害を発生させる危険があります。ですが、適正量の摂取は安全です。ますたー」


「い、いや、それは人間の場合だよね?黒夫は少し食べただけでも危険なんだよ」


「いいえ。危険ではありません。ますたー」



いつも通りの笑顔で、当たり前のようにフェアが言った。


フェアがそう言うのなら、そうなのだろうか。信じて良いのだろうか。


フェアの事は信頼しているが、どうしても、不安を拭い切れない。



「さっきから何言ってるんだ、ニンゲン!オレ、前から食べてるけど、何とも無いぞ!」


「……前から食べてる?まさか、今日が初めてじゃないのか?」


「何度も食べてるぞ!でも全然平気だぞ!」


「な、何度も?」


「そうだぞ!何度もだ!」



いつも通り全然元気そうな様子で、黒夫が言った。



「……本当に、平気なのか?」


「平気だ!」


「……無理してないか?」


「無理してない!オレは全然平気だ!」


「……は、はははっ……そうか、全然平気か……良かった……」


「ひ、ヒデオ殿?ど、どうした?気をしっかり持て」


「おじちゃん、大丈夫?」


「に、ニンゲン、どうした?」



安心した。


安心しすぎて、腰が抜けた。


この地にコンビニが出店して以来、自分だけではなく、黒夫、魅雪、ムチムチさんもコンビニに出入りし、普通に利用しているのは知っていた。たまにコンビニで間食している事も知っていた。それについて、特に何か言った事は無い。


もし、間食のしすぎで食事を残したりするようなら、注意しようとは思っていた。しかし、三人とも毎日三食ちゃんと残さず食べていた。


太ったりニキビができたりもせず、何か健康に悪い事が起きてる様子も無かった。


全品10割引きキャンペーン継続中で、金銭面でも問題無かった。


止める必要があるとは思えなかったので、止めなかった。


三人が間食で何を食べているのか、見張ったりもしていない。そんなストーカーじみた真似をする気は無かった。


今更ながら、ちょっと気を緩めすぎていたかもしれない。


黒夫も魅雪も、普通の人間の子供よりしっかりしている。店内には店員さんもいる。危険は無いと妄信し、油断していたのは否めない。


安心と油断は、似て非なるもの。大人なら、履き違えてはいけなかった。


大人が油断して、万が一にも子供が被害に遭ったら、後悔するだけでは済まない。



「……なあ、黒夫。念のため、これまでどんなものを食べたのか、教えてもらっていいか?嫌じゃない範囲でいいから」


「う、うん。……ニンゲン、そんなにオレ、ダメだった?悪い事したか?」


「いいや、お前は何も悪い事してないよ。……だからそんな顔するなよ」



黒夫がションボリしていた。


つなしにチョコレートケーキをダメ出しされた時より、ションボリしていた。


子供にこんな顔をさせてしまうなんて、情けない大人もいたものだ。


情けなさすぎて、泣きたい。


泣いてる場合では無い。


黒い頭を適当に撫でつつ、話の方向性をズラす。



「あー、なんて言うか、アレだ。ちょっと今晩のメニューの参考にしたいだけだよ。何を食べて、何がおいしかったか、教えてくれ。……ああ、それとついでに、晩飯のリクエスト、何かあるか?」


「肉だ!肉がいいぞ!」


「わかった。肉だな。……あの、もうちょい具体的なリクエスト無い?」


「んー……。じゃあ、はんばーぐ!」


「そうか。ハンバーグか。……って、ハンバーグ!?なんでハンバーグ!?まさか食った事あるのか!?」


「う、うん。はんばーぐおにぎりとか、うまかったぞ。な、ミユキ?」


「うん。クロオと一緒に食べたよ。おいしかったの」


「そ、そうか、おいしかったのか。……まあ、普通の猫じゃないしなぁ……」



思っていたより、色々食べてるらしかった。






聞き取り調査をした結果、本当に色々食べてた。


おにぎり全種類制覇済。地味に凄い。


他にも、コンビニ総菜やコンビニスイーツ等々、色々食べてたらしい。実質タダだからって、コンビニ飯にハマりすぎである。何故、太らない。


現時点では、中毒症状無し。当人の自己申告によれば、健康被害無し。


ムチムチさんにも確認を取ったが、特定の食物を摂取したせいで体調不良になる種族は、聞いた事が無いらしい。文化風習的な理由から、特定の動植物を忌避する種族はいるらしい。あと、特定の毒物を好んで摂取する種族がいるらしい。


ともあれ。タマネギもカカオも、食べて大丈夫というお墨付きをもらった。


元の世界の常識に縛られて、無駄に右往左往してしまった。もっと早く確認しとけば良かった。



「……いくら平気って言われても、怖いよなぁ……」



やっぱり不安は不安だ。身に染み付いた常識は、簡単には捨てられない。


平気と聞かされても、いきなりタマネギを食べさせる気にはなれない。



「リクエスト通り、今日はハンバーグだ」



謎ミンチ肉100%ハンバーグ。タマネギ不使用。スパイス類は使った。



「「「「「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」」」」」



みんなでハンバーグを食べる。


ハンバーグにしては、かなり肉々しい食感。あんまりハンバーグっぽくない。



「うみゃあぁ~……。店のヤツより、ニンゲンの作ったヤツの方が、ずっとうまいにゃぁ~……」


「お世辞はいいよ。そんな事より、ちょっとでも気分が悪くなったりしたら、すぐ言うんだぞ?いいな、黒夫?」



しばらく様子を見たが、大丈夫そうだった。


チョコレートケーキを食べた悪影響は、本当に無いらしかった。


知人の言葉を鵜吞みにして素人判断するのは大変危険です。

行動に異変が見られたら、最寄りの動物病院等に相談してください。

疑問に思った事があれば、最寄りの動物病院等に確認してください。

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