74.電設のヒデオさん、血中アルコール濃度0.2%。
酔っ払いどもが飲み会で駄弁るだけの話。(2/3)
おさけ、おいしい。
「だからさぁ。俺ぁ思う訳よ。『旅の恥は搔き捨て』とか『据え膳食わぬは恥』とか、そういう恥知らずな事を言ったりヤったりする連中が多すぎる!そうじゃねえだろ!そう言うんじゃあねえだろ!なあ、ヘビの大将も、そう思うよな!?」
「お、おう。そうであるな」
「何もさぁ、一生に一人の女だけしか好きになっちゃいけないとか、そういう無茶な事を言ってる訳じゃあないのよ。そりゃあ人間だもの、心変わりする事くらいあるよ。心変わりするのは、まあしょうがないよ。それは、うん、しょうがない。ヘビの大将も、そう思うよな?」
「お、おう。そうであるな」
「だけどさぁ。まさに今からヤるっていう時にはさぁ、今まさにヤるその瞬間はさぁ、本気でなくっちゃあいけないんだよ!本気で好きだからヤるんだよ!ヤるからには本気なんだよ!本気でないならヤっちゃダメなんだよ!本気で好きでもないクセに、手近な所にヤれそうなのがいたからヤるとか、そんなのは男のヤる事じゃねえ!なあ、ヘビの大将も、そう思うよな!?」
「お、おう。そうであるな」
「そうだよな!うんうん、やっぱりそうだよな!わかってくれるか!ヘビの大将は、わかってくれるのか!」
「お、おう。わかってるわかってる」
「さすが、ヘビの大将!その辺の安い男どもとは違うなぁ!よっ、男の中の男!やっぱり男はそうでなくっちゃなぁ!」
「お、おう。……いや、あの、先程も言いかけたのであるが、我の現身の性別は、男では――」
「あははははっ!男の中の男!ヘビの大将に乾杯!かんぱぁ~い!ほらほら、かんぱぁ~い!」
「お、おう。かんぱい」
「あははははっ!」
おさけ、おいしい。
「……どうにかして欲しいのである。こやつ、また同じ話してるのである」
「つがい~、なんとかして~」
「……本気だからヤる……つまり、私には本気になれないのか……私では本気にさせられないと言う事なのか……ふっ、ふふっ、ふふふふふふふふっ……」
「あ、あの、聞いてる?ねえ、我の言う事、聞いてる?」
「私はどうすれば良いのだ!?どうすれば本気にさせられるのだ!?教えてくれ、水蛇様!」
「お、おう。……こっちはこっちで、同じような話してるのである……」
「にたもの~」
おさけ、おいしい。
「もう同じ話は聞き飽きたのである。そんな事より、アレは放って置いても良いのか?」
「ん?アレってどれだ?」
「そなたらの子が、すぐそこに来ているのである」
「すぐそこって、どこだよ。誰もいないけど」
「ふぅむ。わからぬのか……。地面の窪みを使って、うまく身を潜めているようであるな。もっとも、我の優れた感知器官をもってすれば、バレバレであるがな!」
「まさか、ミユキもクロオも来てしまったのか?二人とも、近くにいるのか?」
「おーい、黒夫、魅雪、いるなら出てこーい」
「「……………………」」
「お留守番の約束を破った事は、まあ、許してやる。だから出てこーい」
「「……………………」」
「こら!出てこい!今すぐ出てくるなら許してやる!今すぐなら、だ!」
「「……………………」」
「キノコとピーマンのフルコース料理食わせるぞ!それが嫌なら出てこい!」
「「……っ……」」
「キノコ尽くし!ピーマン尽くし!いいんだな!本当にいいんだな!」
「「……っ……」」
「よぅし!決定!キノコとピーマンのフルコース!今日から1週間だ!決定!」
「「1週間っ!?」」
「ふははははっ!最初から素直に出てくれば良かったものを!後悔しても、もう遅いぞ!決定って言ったら決定だ!キノコとピーマンまみれの1週間にしてやる!」
「や、やめろ、ニンゲン!」
「やだ、やだよ、おじちゃん!」
「ふははははっ!苦手克服のためだ!トラウマになるまで食わせてやる!」
「ますたー。それでは本末転倒です」
「あ、そりゃそうか。うーん、じゃあ、やっぱり無し!」
「「ええっ!?」」
「ぶっはっ!なんてマヌケ面してんだ!って言うか、1週間もキノコとピーマンまみれの食事とか、俺が嫌だよ普通に!だから無し!」
おさけ、おいしい。
「ったく、本当に言う事まったく聞かねえチビどもだな、まったくよぉ。……うーん、でもまあ、来ちまったもんは、もうしょうがねえか。せっかくだし、なんか飲むか?何がいい?」
「オレ、ニンゲンと同じ奴!」
「ボクも!おじちゃんが飲んでるの、飲みたい!」
「10年早いんだよ、チビどもが。リンゴジュースにしとけ。うん。リンゴジュースを注いでやろう。リンゴジュースはいいぞー。うんうん」
「勝手に決めるなよ!?」
「なんで聞いたの!?」
おさけ、おいしい。
「なあ、ヘビの大将。物凄く今更すぎて若干聞きにくい事、あんだけども。聞いていい?」
「うん?何であるか?」
「ヘビの大将って、名前、何?」
「名前?我のであるか?」
「あ、ちなみに俺の名前、白木英雄ね。今更改まって名乗るってのも何だかマヌケだけど。まあ、よろしく」
「白木英雄であるか。良き名であるな。そなたの本質をよく表している名である」
「えっ、ちょっ、何それ。ヘビの大将でも、お世辞とか言うのね」
「我は世辞など言わぬ。そなたの名は、そなたに似合う良き名である」
「あ、はい。どうも。……えっ、何これ。マジ照れるんですけど。トゥンクするんですけど。俺、ヘビの大将に惚れそう」
「私も!ヒデオ殿の名は良い名だと思うぞ!」
「ムチムチさんは人の名前をどうこう言ってる場合じゃあないでしょうよ」
「何故だ!?何故効かない!?」
「いやもう本当に真面目に考えてくださいよ。これもう本当に今更感ありますけど、いい加減、もうちょっとマシな名前ちゃんと考えてくださいよ、真面目に」
「私の名が何だと言うのだ。これで良いと何度も言ったではないか」
「そんな酷い名前でいい訳無いでしょ……」
「その言い草は酷いぞ。貴殿が付けてくれた名なのに」
「名付け親だからこそ言ってんですよ。マジで何とかしてくださいマジで」
「我の前で、畜生も食わぬ喧嘩をするでないわ。酒がまずくなるのである」
「あ、ごめん。……って、そうじゃねえんだよ。ムチムチさんの名前はムチムチさん自身に改めて考えてもらうとして」
「いや私は本当にこれで良いのだが」
「そうじゃなくってさぁ。ヘビの大将の名前だよ、名前」
「我に名は無い」
「あー……、もしかして、アレか。真の名前は教えちゃいけないとか何とか、なんかそういう感じのアレなの?」
「真も偽も無いのである。元より我に名は無い」
「えっ、そうなの?……って、よく考えたら卵生だし、名付け親いなくて当然なのかな……生態知らないけど……」
「貴殿はさっきから何を言っているのだ?水蛇様は水蛇様だろう?」
「いやそれ明らかに通り名でしょうよ。そういうんじゃなくて、個人名って言うか、個体名って言うか……。そういうの無いと、知り合いから呼ばれる時に困ったりしない?」
「我の顔見知りは、我の事を『先割れ』とか『頭割れ』とか呼んでいるのである」
「ええっ……。何それ。あだ名が酷ぇ……」
「み、水蛇様に、そのような呼び方をするとは……何と言う恐れ知らずな……」
「どこの誰様よ、そんな呼び方してんの。他人様にそんな呼び方するって事は、そいつ、さぞかし高尚なお名前なんだろうな?」
「ふぅむ?言われてみれば、向こうの名を知らぬな。我は向こうを『鼻水吹き』とか『尻軽』とか呼んでいるが」
「更に酷ぇ!?」
おさけ、おいしい。
「黒夫、魅雪。とりあえず、お前達も自己紹介しとけば?」
「オレはクロオだ!クロオってのは、ニンゲンが付けた名前だぞ!」
「ボクはミユキなの!ミユキって名前、おじちゃんが付けてくれたの!」
「いやそこは別に主張しなくても良くね?どんな自己紹介だよ」
「ふぅむ。黒夫に魅雪であるか。この子らの名も、そなたが付けたのであるか?」
「まあ、成り行きで」
「我は矮小なる存在の流儀などあまり知らぬが……。『黒夫』などと言う名前を付けて良いものなのか?我の優れた感知器官によれば、その名は無しに思えるのであるが……」
「そうか?いい名前だろ?黒夫も、そう思うよな?」
「ふ、ふんっ!お、オレは別に、そ、そんなにいい名前だなんて思ってないぞ!でも、ニンゲンがどうしてもって言うから、仕方なく名乗ってやってるんだぞ!」
「ほら、見ての通り、本人超喜んでるし」
「にゃあっ!?喜んでにゃいっ!」
「はっはっはっ、そうかそうか。そんなに喜んでもらえると、名前を付けた甲斐があるってもんだなぁ」
「喜んでにゃいっ!喜んでにゃいぞっ!」
「はっはっはっ」
「わたしの名前はフェアです。至高の名前をますたーより賜りました。これに勝る喜びはありません」
「ボクもなの!『ミユキ』って名前、すっごく好き!」
「私も『ムチムチさん』と言う名前は気に入っている」
「いやムチムチさんは名前変えてください」
「何故だ!?何故私だけ!?」
「ふぅむ。たかが名前一つで、ここまで心揺さぶられるものなのか……」
「ふしぎ~」
おさけ、おいしい。
「良い事を思い付いたのである。心して聞くが良い」
「あ、なんか碌でも無い予感するわぁ……」
「汝、白木英雄よ。我に名を授ける大役を任せよう」
「辞退させていただきます」
「謙虚であるな。まあそう気負わずとも良い。『先割れ』や『頭割れ』よりマシな名であれば文句は言わぬ」
「辞退させていただきます」
「矮小なる存在には、身に余る栄誉であろう。感涙にむせぶが良い」
「辞退させていただきます」
「我は知っているぞ。辞退辞退も好きの内、と言うヤツであるな。ういヤツよ」
「いや違うよ!?マジ辞退したいんですけどぉ!?」
「得意であろう?聞けば、ここにいる皆、そなたが名を付けたようであるし、その名に皆も満足しているようであるし」
「得意じゃねえよ!むしろ苦手なんだよ!」
「謙遜は不要である。さあ、我の名を考えるのである」
「無茶ぶりってレベルじゃねえ!?ヘビの名前なんて考えた事もねえよ!しかも、いきなり10個も名前考えろとかマジ無理ゲーだぞ!?」
「うん?何を言っているのであるか?名は一つで十分であるぞ?」
「いや十本首なんだから、名前も10個いるだろ」
「そんなに幾つも名は要らぬ。我は全にして一であるからな」
「こころは、ひとつ~」
「いや明らかに別人格って言うか、別首格なんだから、名前付けるなら全首分いるだろ」
「ふぅむ。どうも勘違いしているようであるが、我の人格は一つであるぞ」
「どこがだよ。十人格だろ、どう見ても」
「矮小なる存在には、わからぬものなのか……。そうであるな、酒で言うなら、飲む前と後では、まるで別個の人格であるかのように様子が変わってしまう事もあろう。だからと言って、別人格に変わっている訳では無かろう?」
「そりゃまあ、そうだな」
「素面の人格も、ほろ酔いの人格も、泥酔いの人格も、二日酔いの人格も、全て含めて一つの人格である。それと似たようなものであるな」
「ええっ……。いや、でも、たまに首同士でケンカしてない?」
「あれは自問自答である」
「いや自問自答て」
「酩酊の深さによって、一つの人格の内なる理性と本能の強さが変わるであろう?そうなれば当然、自問自答の結果も変わるのである。その場の要不要に応じて、その都度、自問自答するのである」
「普通に首ごとにバラバラに動いてるだろ。自問自答の意味無くね?」
「ワインを飲むべきか、ポン酒を飲むべきか、強零を飲むべきか、自問自答した結果、全て飲むべきと言う結論に至り、全て飲んでいるのである。趣向や行動は多岐に渡れど、この現身に宿る人格は一つである」
「例え話が全部酒!……まあ、何となくイメージできたけど。何となく」
「それは重畳。では、我の名を考えるが良い。一つで良いぞ」
「あ、結局そこに話戻って来るのね。……なあ、ヘビの大将。自分の名前は自分で付けたいって思わないのか?」
「思わぬ」
「いや、でも、ほら、俺みたいな矮小な存在に名前を付けさせるのって、不安になったりするだろ?」
「不安など無い。任せるからには信じるのみである」
「うわぁ……男前ぇ……」
おさけ、おいしい。
「うーん……。しつこいようだけど、本当に一つでいいのか?」
「一つで良い」
「十本首に、一つの名前かぁ……。それなら『つなし』とか、どうだ?」
「つなし?それが我の名であるか?」
「つなしは嫌か?嫌なら変えるけど」
「ふぅむ。つなし。ふぅむ。ふぅむ。つなし。ふぅむ。つなし。ふぅむ」
「ええっと……。結局どっちなのよ。いいの?悪いの?」
「つなし!良い名である!実に良い名である!」
「然り!」
「短くも味わい深い名であるな!」
「すき~!」
「我は気に入ったぞ!」
「我も気に入ったのである!」
「以後、我の事は、つなしと呼ぶが良い!」
「我が名は、つなしである!我が御名を讃えよ!」
「つなし、イイね!我、超イイ気分である!」
「我の名は、つなし!ふぅむ!」
「……どう見ても一つじゃ足りないだろ、これ……まあ、本人がそれでいいって言うなら、いいけど……」
おさけ、おいしい。
飲み会、まだ続きます。




