73.電設のヒデオさん、血中アルコール濃度0.1%。
酔っ払いどもが飲み会で駄弁るだけの話。(1/3)
お酒、美味しい。
「だからさぁ。俺ぁ思う訳よ。『旅の恥は搔き捨て』とか『据え膳食わぬは恥』とか、そういう恥知らずな事を言ったりヤったりする連中が多すぎる!そんな恥知らずな真似して、男として恥ずかしくねえのかよ!……とまあ、そう思う訳よ。俺はそう思う訳なのよ。なあ、ヘビの大将もそう思うだろぉ?」
「お、おう。そうであるな」
「そうだよな!うんうん、やっぱりそうだよな!わかってくれるか!ヘビの大将は、わかってくれるのか!」
「お、おう。わかってるわかってる」
「さすが、ヘビの大将!人間の恥知らずな男どもなんかとは違うなぁ!よっ、男の中の男!やっぱり男はそうでなくっちゃなぁ!」
「お、おう。……いや、あの、我は現身の制約などに囚われる存在では無いが、それでも強いて言うのなら、我の現身の性別は、男で――」
「あははははっ!男の中の男!ヘビの大将に乾杯!かんぱぁ~い!ほらほら、かんぱぁ~い!」
「お、おう。かんぱい」
「あははははっ!」
お酒、美味しい。
「……おい、どうするのであるか。こやつ、完全に制御不能であるぞ」
「つがい~、なんとかして~」
「それを私に言われても困るのだが……。ヒデオ殿が酔っているのを見るのは、私も初めてなのだ。何とかしようにも、どうすれば良いのやら……」
「番というのは、こういうのを簡単に納められるものではないのか?それでこそ番であろう?」
「そもそも私達は、その、そういう関係では無いぞ。……何故だ!?ひとつ屋根の下で生活してるのに、未だに清い関係なのは何故なのだ!?どうすればそういう関係になれるのだ!?教えてくれ、水蛇様!」
「お、おう。……こっちはこっちで面倒臭いのである……」
「にたもの~」
お酒、美味しい。
「こらぁ!ヘビの大将だからって、美女を独り占めするのは許さねえぞ!……いや独り占めって言うか、十首占めって言うか……。まあとにかく許さねえぞ!それは俺の女だ!返せ!」
「……ふふっ……『俺の女』か……酷く醜い言葉のはずなのに、存外、悪くない気分だな……ふふふふふふふふっ……」
「我、占めてないのである。いらないのである。返すのである」
お酒、美味しい。
「あ、グラスがカラになってますね。ムチムチさん、次は何飲みます?」
「そうだな。次は白がいい」
「どうぞ」
「うむ。ヒデオ殿も杯が空いているな。どうする?」
「ビールで」
「飽きずに同じ物ばかり飲むのだな……。ほら」
「こりゃどうもっと。フェアは何飲む?」
「ますたーと同じものが飲みたいです。ますたー」
「同じのはダメだよ。代わりに子供用ビールでも飲む?見た目ビールっぽいだけで、ぶっちゃけ普通のジュースだけども」
「はい。飲みます。ますたー」
「んじゃまあ、注ぎましょう。日頃の感謝をたっぷり込めて注ぎましょうねー」
お酒、美味しい。
「それにしてもさぁ。ヘビの大将、声ちょっと変じゃね?」
「我の声が変?」
「なんか、こう、下手なバイオリンみたいな感じがするって言うか。やたら高い音が混じってるよな。体が大きい時は、そんなもんかなって思ってたんだけど、縮んだら余計に変な感じになってるし。もしかして、酒焼けしてんじゃねえのか?」
「酒焼け?何であるか、それ?」
「アルコールで喉が焼けたみたいになる症状だよ。喉の調子、悪いんじゃねえのか?」
「ふぅむ?我の喉、絶好調であるぞ?」
「いや今も妙な高音混じってるじゃねえか。多分アレだよ、アレ。酒飲みすぎなんだよ、多分。減らしたら?」
「嫌である。我は飲みたいだけ飲むのである」
「いやマジで少しは減らした方がいいって。今はまだ調子悪いの喉だけかもしれないけど、内臓やられて早死にしても知らねえぞ。死因『酒』とか笑えねえよ」
「何を馬鹿な事を。酒で死ぬはずが無いのである」
「いや死ぬから。……いや、どうなんだろうな、実際の所。人間は酒飲みすぎると死ぬんだけど。ヘビの大将、マジで平気なの?」
「矮小なる存在と同列に見るでないわ。この現身は、言わば魔素の塊である。病になどならぬし、そうそう不調にもならぬ」
「へー。よくわかんねえけど、とにかく健康って事かぁ……。それでも酒飲んだら酔うのね」
「当然である。飲めば酔うは必定。その定めからは、如何に我とて逃れられぬ」
「要するに、酒こそが世界最強の存在って事かぁ……」
「然り」
お酒、美味しい。
「なあ、ヘビの大将。物凄くどうでもいい事なんだけど、物凄く気になってる事があるんだけど、聞いていい?」
「うん?何であるか?」
「ヘビの大将って、前は森にいたんだろ?こっち来たのって、なんで?」
「ぬぅんっ!思い出すのも忌々しいのである!奴ばらめ!」
「ひ、ヒデオ殿。その話題は迂闊だぞ」
「いや、でも、こんな機会でも無いと聞けないし……」
「我の大切なミードを台無しにされた恨み!晴らしても晴らしきれぬ!」
「……ミード?何だ、それ?」
「我の作っていたミードである!あと少しで飲み頃だったのに!台無しにされたのである!」
「……あの、ごめん、マジでわかんないんだけど。ミードって何?」
「むっ?知らぬのか?蜂蜜から作る酒であるぞ?」
「蜂蜜の酒……言われてみれば、聞いた事があるような……。ミードって、蜂蜜酒の事か。飲んだ事ないなぁ。どんな味すんだろ……」
「無知であるな。ミードの味を知らぬとは」
「……って言うか、ヘビの大将、自分で酒作ってんの?えっ、マジで?」
「我が森に居を構えていた一番の理由は、ミード作りのためである」
「ええっ……。縄張りから動かないって思われてた理由、そんなんなの?」
「我にとっては一大事であるぞ」
「まあ、ヘビの大将が酒を大事にするのは、わからなくはないけど……。そもそも本当に作れるもんなの?ヘビの大将、そこそこ器用だけど、いくら何でも酒造りは無理じゃね?」
「他の酒は知らぬが、ミードの作り方は然程難しくないのである。蜂蜜を水で薄めて保管しておくだけである」
「あら簡単」
「基本は然程難しくないのであるが、より良いミードを作ろうと思うと、これがなかなか奥深いのである。丹精込めて作ったミードは、良い仕上がりであれば嬉しいし、時に仕上がりが良くない事もあるが、それはそれで味わい深いのである」
「自家製の酒ならではの味わいって奴かぁ……。うちの婆ちゃんも梅酒仕込む時、似たような事言ってたなぁ……。肝臓やっちゃって逝っちゃったけど……」
「今季の分は、良い出来になる確信があったのである。あと少しで飲み頃だったのである。それなのに……、奴ばらめ!」
「あのオッサン達、まさか横取りしたのか?」
「地面にブチ撒けたのである!我の大切なミードを!……あぁっ、口惜しや……誰に飲まれる事さえ無く、無為に消えゆくとは……」
「うへぇ……命知らずな真似してんなぁ……」
「ああ、道理で……。水蛇様の様子がおかしかった理由は、それか。今にして思えば、あの時感じたのは、ただの怒りではなかったのだな。水蛇様の慟哭でもあったのか……」
「故に我は、奴ばらに一際重い贖罪の呪いを科したのである!」
「その呪いって、あの石になる奴?」
「そうである!」
「アレはなぁ……。まあ、気持ちは、わからないでもないけどさぁ……。こう言っちゃ何だけど、酒をダメにしただけで殺すのは、さすがにやりすぎじゃね?」
「うん?何を言っているのであるか?石にしたのであるぞ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「……いや、だから、石にして殺したんじゃねえの?」
「贖罪の呪いである。死に逃避する事など許さぬ。奴ばらめが、己の愚かさと罪深さを真に悔い改めるまで、呪いは解けぬ。その身は石のまま、元の形を保ち続けるのである」
「石になった後、思いっきり転がり落ちてたけど。アレ砕けてんじゃね?」
「我の呪いにかかっている限り、その程度では砕けぬ。何が何でも絶対に悔い改めさせるのである。砕けて終わるなど許さぬ」
「無駄に凄ぇ……。それじゃあ、あのオッサン達、みんな生きてんのか」
「石にした者は死んでおらぬ。石になる前に勝手に死んだ者は知らぬ」
「あ、そういう感じなのね。……石にされてた方がマシなのか、アレ……」
「それと、1匹だけは見逃しているのである。甚だ不本意ではあるが、毎回そうしているし、今回もそうしたのである」
「えっ、そうなの?なんで?」
「矮小なる存在は大事な事をすぐに忘れるから、致し方無いのである。我に楯突く愚かしさを群れに伝えさせるため、渋々見逃しているのである。1匹見逃せば、しばらくは寄り付かぬから、静かに過ごせるのである」
「メッセンジャー代わりって訳か。意外と考えてんだな、ヘビの大将。……あれ?でも確か、前回は一人も戻ってないって聞いたぞ?前に逃がした奴、くたばってんじゃね?今回の奴、本当に生きて帰れてんの?帰る途中、どっかで野垂れ死んだりしてない?」
「そこまでは知らぬ。見逃した後の事まで面倒見切れぬ」
「アフターフォローが雑だなぁ……」
お酒、美味しい。
飲み会、まだ続きます。




