67.電設のヒデオさん、寝正月をすごす。
あけましておめでとうございます。
時系列を無視した、お正月のお話です。
こたつに足を入れた。あったかい。
「ますたー。お気に召しましたか?」
「うん、イイね、これ。さすがフェア」
「えへへー」
フェア謹製、電気こたつ。ホッカホカである。
ちなみに、掛け布団も敷布団もセットで出てきた。電気こたつの付属品扱い。即ち、スキル『電気設備』の効果範囲内である。
電気こたつは、電気設備と呼んでいいのか。そんな疑問が一瞬脳裏をかすめる。
こたつ、あったかい。その事実だけが重要だ。それ以外はどうでもいい。
「……まさか、こたつに入る日が来るとはねぇ……」
異世界にて、人生初こたつ。
この手の商品は、縁の無い人間にとってはトコトン縁が無い。こたつの中は、ある意味、異世界である。
もしも勇者召喚されていなければ、きっと一生こたつに入る事は無かっただろう。いやホントに。
「こたつと言ったらミカンだね」
あらかじめ用意しておいたミカンを、こたつに乗せた。
ちなみに、ミカンは普通のお皿に盛ってある。
本当は、竹カゴみたいなのが欲しかった。そっちの方が雰囲気には合いそうだが、残念ながら、電気と無関係すぎて創造できなかった。
ミカンは冷蔵庫から出せる。お皿は食洗器から出せる。そして竹カゴは出せない。
相変わらず、万能なのに融通が利かない。
「ますたー。皮、剥きましょうか?」
「いや、いいかな。こういうの、自分の手で剥いて食べるのが醍醐味だし」
「……わかりました。ますたー」
フェアの申し出を断ると、ちょっとショボーンッとしてた。そんな姿も可愛い。
以前は常にニコニコ笑顔だったが、最近は色んな表情を見せてくれる。情緒面の成長が著しい。
「俺の事はいいよ。それより、フェアもミカン食べる?」
「はい。ミカン食べます。ますたー」
フェアと一緒に、ミカンを食べる。
思い返せば、こうしてミカンを食べるのは久しぶりな気がする。
男の一人暮らしだと、果物はあんまり買わない。人にもよるだろうけど。
もっちゃもっちゃミカン食べながら、こたつでグデる。我ながら怠惰だ。
ふと視線を上げると、ロボット掃除機が窓に張り付いてウィンウィン掃除してた。彼は勤勉だ。
「あー……いいのかなぁ、こんな生活してて……」
「はい。いいのです。ますたー」
「そっかー……いいのかぁ……」
フェアがいいと言うのなら、きっといいのだ。間違い無い。
「ニンゲン、何やってるんだ?」
「おじちゃん、それ何?」
2階の主寝室でグデッてたら、黒夫と魅雪が来た。
ドアを軽くノックして、気負わずに部屋に入ってくる。以前と比べると、ずいぶん遠慮が無い。
むしろ以前の方が、変に気を遣いすぎて変だっただけだ。子供に変に気を遣われると、こっちも変に気を遣うから、これくらいで丁度いい。
遠慮が無いとは言っても、親戚のチビどもの邪知暴虐っぷりに比べれば、まだまだ全然大人しいものだ。部屋の私物を勝手に使ったりしないし、壁に変な落書きしたりシール貼ったりしないし、ベッドをトランポリン代わりにもしないし。
「せっかくだ。お前達、こっち来な」
別に在宅で仕事してる訳でも無いので、入室を拒む理由も無い。普通に招いた。
「低くて変な机なの?イス無いの?」
「布と合体してるぞ?何だこれ?」
「こたつだよ。暖房器具だな」
「「こたつ?」」
「入ってみりゃわかるよ。ほら、入った入った」
こたつ仲間、捕獲すべし。
口で説明するより、体感してもらった方が早い。掛け布団を持ち上げて、入るよう促す。
左右に黒夫と魅雪が入った。
「「……うーん……?」」
二人揃って、首を傾げた。
「あったかいだろ。これがこたつだ」
「あったかいけど……。こんなの無くても、あったかいぞ?」
「お部屋ぽかぽかなの。これ、いるの?」
「……それを言っちゃあ、おしまいよ……」
子供達の感想は、身も蓋も無かった。
フェア謹製、オール電化住宅。冷暖房完備。エアコンも床暖房もあるし、壁も窓も断熱効果が高い。実に快適である。
要不要の二択で言うなら、ぶっちゃけ、こたつ不要。
暇潰しに読んでいた雑誌で見かけて、興味本位で出してもらった。それ以上でもそれ以下でも無い。
「でも違うんだよ。そうじゃあ無いんだよ。こたつだからいいんだよ。……まあ、俺もこたつ入るの初めてだけど……」
反論してみたが、我ながら説得力が無かった。
こたつに入ってると、色々どうでも良くなってくる。反論は途中で打ち切り、ミカンを食べるのを再開する。
自分とフェアがミカン食べてる様子を見て、黒夫と魅雪もミカンに手を伸ばした。
「黒夫、匂い平気なのか?」
「ん?平気だぞ?」
「……そうか。平気なら、いいんだ。それより、しっかり皮剥けよ?」
「うるさいな。ニンゲンに言われなくても皮くらい剥くぞ」
「あ、こら、横着するな。ちゃんと綺麗に剥かないとダメだろ」
「うるさいな。いいだろ、これくらい」
「良くねえよ。……ったく、しょうがねえな。ちょっとそれ貸せ」
皮が剥けきらないのは、まずい。手間だけど、しょうがない。
黒夫の剥きかけの皮に手をかけ、丁寧に剥いていく。
半端に剥きかけだったせいで剥きにくかったが、無事に皮は剥けた。
「ほら、剥けたぞ」
「た、頼んでないぞ、そんな事!……でも、ありがと」
「いいよ、別に」
黒夫がミカン食べるのを見ながら、自分のミカンの皮を剥く。
「……またクロオばっかりヒイキなの」
なんか横から、すんごい圧を感じる。
「ボクも、皮が剥けたの食べたい」
「いや、あの、魅雪?魅雪の、もう剥けてるけど……」
「おじちゃんの手で剥いたのがいいの。クロオばっかりズルいの」
「ええっと……。それじゃあ、交換する?」
「うん」
自分のミカンを魅雪に渡し、魅雪のミカンを受け取った。どっちも剥けてるのに。
謎の儀式じみてる。効果は不明。
「皆、何をやっているのだ?」
謎の儀式してたら、ムチムチさんが来た。
「こたつだぞ」
「こたつなの」
「こたつです。暖房器具の一種ですね」
「こたつ?」
「入ってみればわかりますよ。どうぞ」
説明するの面倒臭い。適当に入るように促す。
自分の対面に、ムチムチさんが入った。
メロンが二つ、乗った。
おいしそう。いや違うそうじゃない。
「どうですか?」
「どう、と言われても……。なるほど、確かに暖房器具のようだが……、不自由ではないか、これ?」
「……それは禁句ですよ、ムチムチさん」
初っ端から、言ってはいけない事を言ってのけた。そこには憧れも何も無い。反論できないので、頭ごなしに言論封殺した。
数ある暖房器具の中でも、こたつは断トツで自由度が低い。現代社会で廃れていないのが不思議に思えるほど、人の行動を制限する。
真面目な話、本当に何故こたつが廃れないのか本気で不思議。
自分の場合、フェアに出してもらったので実質タダだが、普通はそこそこ良いお値段がする。他の電気ヒーター系の商品は単体でも機能するのに対して、こたつが機能を十全に発揮するためには、テーブル、掛け布団、敷布団がセットになっている必要がある。必然、どうしても値段が高くなってしまう。価格面でも自由度が低い。
それ以外の問題点として、サイズの問題がある。こたつ、地味にデカい。持ち運びに不便で、別の部屋に気軽に持っていって使ったりできない。
そして当然、冬場しか出番が無い。他の季節になれば、敷布団はまだしも、掛け布団は片付けなければならない。テーブルは、邪魔な機械が付いてるだけのテーブルと化す。
改めて考えてみると、こたつ、欠点だらけである。
「なんと言うか、アレです。考えたら負けです」
「考えたら負け……」
「そんな事より、ミカンどうぞ」
とりあえずミカンを勧める。
こたつに入り、みんなでミカンを食べる。フェアだけは、膝の上だけど。
もっちゃもっちゃミカン食べてたら、横から足を押された。
「あんまり足伸ばすなよ、黒夫。当たるだろ」
「これが狭いのが悪いんだぞ。どうにかならないのか、ニンゲン」
「無理言うな。こういうものなんだよ、こたつってのは」
持ち運ぶには、大きくて不便。みんなで使うには、狭くて不便。それが、こたつ。
三人からの受けは微妙。
「……思い入れの差かな……」
これまでの人生、こたつとは無縁だった。
無縁だったからこその憧れ、みたいなものがある。
自腹を切って買えない値段では無いが、いざ買うとなると躊躇する程度には高い。一応、省エネルギーという利点はあるが、節約できる電気代は微々たるもの。購入代金と釣り合わない。
それなりに場所を取るし、必要性も薄いし、心理的に買えなかった。
フェアのおかげで手に入れられて、舞い上がっていた。
憧れ補正でイイと思ってたけど、案外そんなでも無いかもしれない。
「「「「「……………………」」」」」
みんなで黙々とミカンを食べる。
こたつでミカン食べてると、何故か無口になる。何故だ。
程無く、ミカンは無くなった。
「……ニンゲン」
「……おじちゃん」
「ミユキ、クロオ。そのような目をするものではないぞ」
直言は避けていても、目が正直者(ムチムチさんを含む)。
こたつの受けは良くないが、ミカンの受けは良い。おかわりをご所望らしい。
自分もミカン好きだけど、こたつを出て1階にミカン取りに行くの面倒臭い。
フェアがいないと出せないので、他の誰にも頼めない。自分とフェアが1階まで行くしかない。でも面倒臭い。
「……ねえ、フェア。こたつにミカンは付属されてて然るべきだと思うんだけど。ミカン、出せる?」
「いいえ。それは無理です。ますたー」
ダメ元で頼んでみたが、ダメだった。こたつの付属品として認識されなかった。
あえて言うが、ミカンは電気設備ではない。
「……ねえ、フェア。卓上用の小さい冷蔵庫、出せる?」
「はい。卓上用の小さい冷蔵庫です。ますたー」
卓上用の小さい冷蔵庫が出た。一辺20cmくらい。中にはミカンが入っていた。
あえて言うが、ミカンは電気設備ではない。
「……なんでやねん……」
エセ関西弁を言いつつ、冷蔵庫は脇によけ、ミカンをお皿に盛り直す。
「「「「「……………………」」」」」
そしてまた、黙々とミカンを食べる。
「……けっぷ……指先がフローラルだなぁ……」
食べすぎた。ゲップが柑橘系。
一足先にリタイアし、その場でゴロンッと寝転がった。
「「……あっ……」」
足先が、ちょっと当たった。
「す、すみません」
「い、いや、私は構わないぞ。ああ、まったく構わないとも」
慌てて足を引っ込めようとした。
引っ込めようとした足が、引き留められる。こたつの中で見えないけど。
「……ふふっ」
「ちょっ……」
足の指を絡め取られた。脳裏に、絡新婦の捕食シーンが浮かんだ。
「ふふっ……。狭いな、こたつというものは。困ったものだ」
絡め取られた足の裏を、自分とは違う爪先がツツッとなぞる。ぞくぞくする。
さして力は入っていないはずなのに、引き戻せない。引きずり込まれる。
「いやはや、まったく、本当に狭くて困るな。……貴殿は、どう思う?」
まったく困っていなさそうな口調で、聞かれた。
「そうですね。狭くて困りますね。はい。反論の余地もありませんね。はい」
こたつ、狭い。純然たる事実である。そこに嘘は無い。
ただし、困るかどうかについては主観的な感想なので、個人差があります。
「ふふっ、そうか。貴殿も、そう思うのか。そうか、そうか。ふふっ」
「はははっ。まったくそうですよ。狭くて困っちゃいますよね。はははっ」
こたつ、狭い。素晴らしい。
自分は今、こたつが廃れない理由を悟った。身をもって悟っている。現在進行形。
「「「……………………」」」
あら何故かしら。寒気がする。すんごい冷ややかな視線を感じる。
「あ痛ぁっ!?」
左右から蹴られた。
「何すんだよ!?」
「……ふんっ。狭いから当たっただけだぞ。狭いのが悪いんだ」
「……つーん、なの。ボク知らない。こたつの中、見えないから知らないの」
「ええい!大人の邪魔すんな、チビどもが!」
更にゲシゲシ蹴られた。
こたつ、狭い。逃げ場が無い。
やはり廃れるべき旧時代の遺物か。いやしかし、このぬくもりは良いものだ。こたつだからこそ感じられるものだ。手放すには、惜しい。手じゃなくて足だけど。
まあそれはともかく。早急に対処しないとマズい。足が死ぬ。
「ふふっ」
「ふんっ」
「つーん」
「……ねえ、フェア。どうすればいいかな?」
「知りません。ますたー」
そっぽ向かれた。
足に天国と地獄を感じつつ、その日は一日中、こもりっきりだった。
受けが悪そうに見えたのに、こたつから誰も出なかった。
お正月のお話でした。正月要素、皆無。
次話は、前話からの続き(予定)です。




