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64.元精鋭、逃げる。

王国の元精鋭(初登場のモブ)の視点のお話。

ヘビの魔物の襲来後、しばらく経っています。


王国の南西端にある、ケチな街。


ケチな乞食どもに混じって、俺は今日も炊き出しに並んでいる。



「ぷっはぁ……いつもながら、ケチなメシだな……」



そして俺は今日も灰色のドロドロを胃袋に流し込む。


王国の精鋭だった俺が、どうしてこんなケチなモン食わなきゃならないんだ。






ケチの多い人生を送ってきた。


最初にケチが付いたのは、生まれたその瞬間だ。ケチな農村の、ケチな農夫の子として生まれた。まったく、ケチな生まれだ。


しばらくは、ケチな農夫の小倅として、つまらない日々を送った。


次にケチが付いたのは、俺が畑仕事を手伝わされ始めて、しばらく経ったくらいの頃だ。ケチな農夫が、ケチな詐欺師に騙された。


ありもしない儲け話に飛び付いた親父共々、まとめて辺境の土地に放り込まれた。


誰が名付けたのか『絶望の荒野』と呼ばれている土地。何にも無い、だだっ広いだけの荒れ地。そこに新しく村を作る。ケチな農夫が、その話に乗ったのだ。



『そこは、王国の新しい希望となる村です』


『新しく拓いた畑は、全部キミ達の物にして良い。そのままキミ達の畑として持っていても良いし、他の誰かに畑を売っても良い』


『畑を広げれば広げられた分だけ、がんばって働けば働いた分だけ、キミ達は豊かになれる』


『希望を広めるために、王国は支援を惜しみません』



その話は、さぞかし魅力的な話に思えたのだろう。似たようなケチなツラした連中がウジャウジャいた。


まあ、ウジャウジャいたのは最初だけだ。3日と経たずに半分はいなくなった。


俺の親父は、新しい村にしがみ付いた。


元の村には今更戻れない。農夫としてしか生きた事が無いのに、別の場所で農夫以外の生き方はできない。しがみ付くしか無かったのだ。


ケチな農夫であっても、俺にとっては親だった。俺はまだ、ただのガキだった。他に頼れる当ても無く、新しい村で一緒に生活するより他に無かった。




俺は耐えた。


3年、耐えた。


3年後、耐えきれなくなって逃げ出した。




当時まだガキだった俺にとっては大冒険の末に、王国南西端の街に辿り着いた。


物凄く立派な街に見えた。その時の俺には。


今にして思えば、実にケチな旅路だ。腹を空かせた痩せっぽちのガキが休み休み歩いて、1日かからずに街に辿り着いた。所詮はその程度の、ケチな旅路。


旅路がケチなら、当然、その終着もケチなものだ。


実にケチな街だった。ケチな門兵に門前払いされた。




村に帰る気にはなれなかった。


ヒビだらけのケチな壁の周りをうろついていたら、小さい穴が開いていた。


ネズミの巣穴だ。小さな穴の周りを、大きなネズミがチョロチョロしていた。


村ではネズミをほとんど見ない。ネズミすら住むのを嫌がるような村だった。そんな村の生活が嫌で逃げて来たのだ。


俺は街に入れないのに、ネズミは街に入っていやがる。壁の穴を出たり入ったりしてやがる。


ネズミは、やけに大きかった。きっと街で腹いっぱいメシ食ってんだろう。俺は腹ペコなのに。


ネズミのクセに。


無性にムカついた。腹いせに巣穴を蹴った。ネズミがビビッて右往左往した。


無性にスカッとした。調子に乗ってゲシゲシ蹴ってたら、いきなり壁の一部が崩れた。ビビッた。


崩れた瓦礫の向こう側には、穴があった。大した穴じゃないが、それでも、ガキがギリギリ通れる程度の大きさはあった。


俺のせいじゃない。きっとネズミどものせいで、内側がズタズタになってたんだろう。だから俺は悪くない。たかがネズミなんかのせいで崩れるようなケチな壁が悪い。


何も悪くない俺は、穴に潜った。ガキの体でもギリギリの狭さだったが、腹ばいになって、這いずって、あちこち擦って、体中を擦り傷だらけにしながら暗闇を通り抜け、ケチな街に入った。


即行でケチな老婆に捕まった。




ケチな老婆と、ケチなガキどもと、ケチな共同生活が始まった。


ケチな老婆から躾と称して散々な扱いを受けた。それでも、ケチな農夫とケチな土地で生活するよりはマシな生活だった。


腹いっぱいメシが食える。その一点だけでも、俺にとっては良い場所だった。


俺と一緒に躾を受けていたガキどもは、どいつもこいつもケチな顔してる上に、食いっぷりまでケチなものだった。どういう訳だか、メシを食う量が少ない。当時の俺は、これ幸いと余り物を全部もらって食っていた。


灰色で、ドロドロで、変な臭いのする、変な味のメシ。


今にして思えば、メシと呼ぶのも烏滸がましいような酷いメシだったが、その時の俺にとっては十分に食えるメシだった。


食いまくったおかげか、ずいぶん体が大きくなった。




ケチな老婆が、どっかのケチな野郎に、俺を売る算段を付けた。


北門から出荷された。


どっかに連れて行かれる前に、逃げた。


案外あっさり逃げられた。




他のケチなガキどもは、これまでにも何度も逃げようとして、何度も捕まって、何度も躾を食らっていた。そんなケチなガキばかりだった。


俺がケチな老婆から逃げようとしたのは、捕まった時以来、この時が初めてだった。


ケチな見張りどもは警戒が緩んでいたのかもしれない。それと、躾とメシのおかげで体力が付いたおかげか。認めるのは非常に嫌だが。




俺はもう、ケチな人生にはウンザリだった。どうせなら王国で一番の街で人生をやり直そうと思い、王都に向かった。


さすがに王都までは、かなり遠かった。途中でケチな旅人を見付けては殴り倒して路銀を調達しつつ、無事に王都に着いた。




王都は、そりゃあ凄く立派な街に見えた。


街は立派でも、やっぱり門兵はケチな連中で、門前払いを食らった。


ケチな街のケチな壁とは違い、アリ1匹通れる穴も無い。一応ダメ元で蹴ってみたが、ダメだった。ビクともしなかった。


仕方が無いので、ケチな門兵を殴り倒して街に入った。


街に入ってすぐ、ケチな兵士どもに群がられて捕まった。




ケチなヒゲを生やした野郎に、活きが良いのが気に入った、とか言われた。牢屋の代わりに、新兵の訓練場に放り込まれた。


同期の新兵どもは、すました顔の奴ばかりだった。ムカついたので殴った。


教官とかいう野郎が止めに入ってきた。そいつも殴った。


殴った奴らに殴り返されてボコボコにされた挙句、反省室とかいう名前の牢屋に放り込まれた。


俺の兵士としての始まりは、そんな感じだ。


すぐ出て行こうかとも思ったが、意外とメシがうまかったので、そのまま軍に居残った。




ある日、どっかのナントカ様だか言うお偉いさんに呼び出された。大きな部屋に通されて、ある話を切り出された。


王国の運命を一変させる一大作戦。王国の精鋭を結集し、ケチな魔族どもの油断しきった土手っ腹に致命の一撃を食らわせる。


その作戦の参加者の一人として、この俺が選ばれた。



『同期の中でも五本の指に入る実力者。この作戦の成功には、キミの力が必要だ』



そう言われた。


誇らしかった。そして、思った。俺のケチな人生は、この作戦を成功させれば決定的に変わるはずだ、と。


この時の俺は、そう思った。


作戦に成功した後の褒賞がどうだとか、出世だの地位がどうだのと、細々とした事をゴチャゴチャ言われたが、あんまり覚えてない。ナントカ様の名前も、よく覚えてない。


俺は選ばれたのだという事に興奮していて、一もニも無く引き受けた事だけは、よく覚えている。




すぐに作戦決行日はやって来た。


作戦の進路上には、かつて逃げ出した村の跡地があった。


村の跡地だ。


村は、もう無かった。


村人は誰もいなかった。


ケチな農夫がどうなったのか、俺は知らない。




村の跡地を見ても、大して何も思わなかった。強いて言えば、もっと早く逃げとけば良かった、と思った程度だ。


村の跡地なんかより、これからの作戦の事と、作戦を成功させた後の輝かしい人生にばかり想いを馳せていた。


で、作戦に失敗した。


部隊は全滅した。俺以外は。




もう2年も前の事なのに、今でも忘れられない。


やたら険しい崖をよじ登り、やたら硬い草木を掻き分け、ただ前に進むだけでボロボロになりながらも必死に進んだ先で、やたら首の多い巨大な魔物に遭遇した。


散々に追いかけ回され、這う這うの体で逃げるしか無かった。


この俺が、同期の中でも五本の指に入る実力者である俺が、精鋭の俺が、あの魔物には手も足も出なかった。


この俺ですら、敵わないのだ。他の連中が敵うはずが無い。隊長面したケチな野郎も、先輩面したケチな野郎も、みんな石になった。


何が起こったのか、今でもわからない。とにかくみんな石になった。


俺だけが逃げられた。


途中で左腕をやってしまい、うまく動かなくなってしまった。それでも、どうにか生き延びた。




敵前逃亡は死罪。敵から逃げた兵士は、味方に殺される。


王国の敵は魔族だ。魔物は敵では無い。魔物から逃げても、敵から逃げた事にはならない。


……なんて言い訳が通じない事くらいは、さすがにわかっていた。


魔物から死に物狂いで逃げて、どうにか生き残ったのだ。死にたくなかった。




身を寄せられる場所が思い付かなくて、しばらく途方に暮れた。


王都へは帰れない。見付かれば死罪だ。


生まれ故郷の村へは帰れない。村を捨てたのは俺では無く、俺の親だが、周りから見れば似たようなものだ。事情を知られれば、逃亡兵として容赦無く突き出されるに決まってる。


村の跡地へは帰れない。あそこは元々、人が住める土地では無い。干乾びて死ぬ。


他の場所は、よく知らない。よく知らない場所に行って、よくわからないまま捕まって死罪になるのは御免だ。




王国南西端にある、ケチな街に戻ってきた。多少は知っている場所が、このケチな街しか無かった。


かつて街に入った穴は、まだあった。


かつてガキだった俺は、もう大人になっていて、穴は小さすぎた。


持ち逃げした槍を突っ込み、必死に穴を広げ、どうにか通り抜けて街に入った。


即行でドンに叩きのめされ、手下の一人にされた。




魔物から逃げる際に、左腕はうまく動かなくなった。これがうまい具合に良い言い訳になった。


王国に見捨てられた傷病兵が辺境の街に流れ着いた、という事になった。


左腕はうまく動かなくても、右腕は普通に動く。利き腕が使えるなら、そこいらのケチなチンピラに負ける俺では無い。


同期の中でも五本の指に入ると言われた実力を如何無く発揮し、ドンの勢力内で地位を上げた。どうやってもドンと側近の二人には勝てなかったが、五本の指に入るくらいの地位には就けた。


ドンは物騒だが、魔物ほど物騒では無い。ケチな街のケチな壁の影の下の生活だったが、金にも女にもそこそこ不自由しない生活ができた。


ケチな街にしては、まあまあ悪くない生活にあり付けた。




こんな生活が、ずっと続く。漠然とではあるが、そんな風に思っていた。


そう思っていたのだ。あの日の夜までは。




とある貴族のボンボンに、ドンが目を付けた。


いい歳こいて人形を持ち歩き、頭を撫でたり話しかけたり、そういう事を街中で平然とやってのける変態らしい。かなり重度の変態だが、貴族のボンボンらしく、かなり金を持っているらしい。着ている服も、持っている革鞄も、そして人形も、かなり出来の良い高級品らしい。


囲ってボコって身ぐるみ剥ぐ。ドンが、そう決めた。ドンの決定は絶対だ。


側近の二人は渋っていたようだが、ドンは乗り気だった。他のケチな手下どもも、珍しく乗り気だった。


ボンボンの連れ歩いていた従者が、かなりの上玉だったらしい。包帯で顔を隠しているが、隠しても隠し切れない色気を垂れ流している胸の大きい女と、胸は無いが綺麗な顔立ちをしたガキ2匹。金と女が同時に手に入る、うまそうな獲物に見えたらしい。


俺は仮病を使い、逃げた。貴族のボンボンの相手なんか絶対に御免だ。


気にしすぎだとは思ったが、万が一にも逃亡兵だと気付かる訳にはいかない。貴族のボンボンという事は、作戦の参加者に俺を選んだナントカ様の知り合いかもしれない。近付きたくなかった。


で、ドンは負けた。


変態貴族のボンボンは、ただの変態では無く、変な技を使う変態だったらしい。ドンは側近共々まとめて返り討ちにあったらしい。そういう事らしいが、何があったのか見てないので、よくわからん。


ドンの敗北が契機となり、ドンの勢力は一夜にして壊滅した。




あの日以来、俺の生活は一変した。


ドンが倒れたと知るや、普段は碌に仕事をしないケチな衛兵どもが、壁の影の下に乗り込んで来た。そのせいで、俺の住処が無くなった。


ドンは、しょっ引かれたまま、いまだに戻ってこない。


側近の二人はドンを見捨てて自由を取り戻し、片方は歓楽街の女主人の所に雇われ、もう片方はケチな老婆の所に雇われた。


他のケチな手下どもも、身の振り方をそれなりに見付けて、バラバラに散った。


ドンの勢力は消滅し、俺の居場所も消滅した。




他の連中は、そこそこうまい事やってるらしい。


俺は、どうにもならなかった。


傷病兵という偽の肩書は、過去を深くは詮索されない影の下でしか使えない。光の下で使えば、兵士としての過去を探られ、素性が明るみになりかねない。


歓楽街の女主人の所は、お偉いさん方とのつながりが太く、王都にまで顔が利くらしい。そんな所には下手に近寄れない。


ケチな老婆は、俺が逃げた後、その補填のために損をしたらしい。いかにもケチな老婆らしく、いまだに恨みを忘れていないらしい。絶対に近寄れない。


勢力の均衡が崩れ、隙間が増えたせいか、ガキどもの動きが活発で目障りだ。これまでドブネズミみたいにコソコソ動き回っていた小汚いガキどもが、最近はやけに元気にチョロチョロ動き回ってやがる。


今までは小銭をエサにチラつかせれば、いくらでもガキどもを便利に使い潰せたのに、それすらできなくなってしまった。


ガキどもにまで馬鹿にされているようで、ムカつく。


街の表側にも裏側にも居場所が無い。他の場所にも居場所が無い。どこにも行き場が無い。



「ぷっはぁ……いつもながら、ケチなメシだな……」



そして俺は今日もまた灰色のドロドロを胃袋に流し込んでいる。


その辺にいるケチな乞食どもと一緒に、炊き出しに並ぶ。今の俺にとっては、この灰色のドロドロだけが命綱だ。他にメシの当てが無い。


最初は炊き出しに並ぶのに躊躇したが、背に腹は代えられなかった。


ケチな老婆の所は、人の入れ替わりが早い。炊き出しをやっている連中の顔には、見覚えが無かった。そこだけは本当に助かった。




表側にも裏側にも居場所の無い、ケチな乞食。それが今の俺だ。


かつては同期の中でも五本の指に入ると言われるほどの精鋭だったのに、魔物のせいで逃亡兵に成り下がった。


ドンの勢力に加わり、五本の指に入る地位にまで成り上がっていたのに、勢力の消滅で全部パァになった。


俺が成功しそうになると、必ずケチが付く。俺はちっとも悪くないのに、俺以外のナニカが俺の人生にケチを付けてくる。酷い人生だ。


ケチが付いてうまく行っていないのに、俺の身に精鋭の気配が染み付いているせいか、他の乞食どもから浮いている。


さしずめ、ズタ袋の中に槍を納めても突き出る、とか言うようなものだ。



「……んっ?あれは……」



その日は俺以外にも、他の乞食どもから浮いている奴がいた。そこいらの乞食よりもズタボロで、破け損ねた布が辛うじて体を覆っているだけのような有様。


この辺では見かけた事が無い男だった。だが、その顔に見覚えがあった。


かつて俺を選んだナントカ様の斜め後ろには、側近みたいな立ち位置の男がいた。


間違いない。身なりが見すぼらしいが、顔には確かに見覚えがある。



「……賭けて見るか……」



ナントカ様の側近だった男が、どうして乞食どもに混じっているのか。


絶対に碌な事情では無いだろう。だが、かつては確かに高い地位にいたはずの男だ。あの男をうまく利用できれば、この状況から抜け出す切っ掛けになるかもしれない。


死ぬのは怖い。逃亡兵として死罪にされるのは怖い。だが、このままケチな乞食として生き続けるのは、同じくらい怖い。


面識の無い歓楽街の女主人や、悪い意味でバッチリ覚えられているケチな老婆に頼るよりは、俺の実力を買ってくれたナントカ様の元側近の男に頼る方が、まだマシだ。



「……おい、オッサン。ちょっと話がしたいんだが、いいか?」


「うん?何だ、貴様は?この私が誰だか、わかって話しかけているのか?」



乞食よりもズタボロの酷い格好のクセに、オッサンは無駄に偉そうだった。


話しかけて早々後悔した。



「まあ良い。貴様が誰だかは知らんが、今の私には少々時間がある。貴様と話をしてやらん事も無いぞ。有難く思え」


「あ、いや、やっぱり話は無――」


「ではまずは、どうして私がここいるのか、その経緯から話してやろう!傾聴せよ!」



後悔しても、もう遅い。


逃げられなかった。オッサンの長話が始まった。


長かった。


無駄に長かった話を要約すると、また作戦を決行し、また魔物に阻まれ、また失敗したらしい。



「失敗などでは無い!戦略的撤退である!作戦を成功させるために必要な戦略的行動としての一時的な後退である!部隊の指揮官としての極めて高度な判断の結果である!それを理解せよ!」


「あ、そう」



とにかく失敗し、逃げたらしい。


まんまと部下を囮にして逃げるとか、普通にドン引きだ。


ちなみに、俺はちゃんと戦おうとした。敵わないなりに、戦おうとはした。



「作戦の要たる私を生かすために、身を張って魔物の注意を引き付けるとは、さすがは私の部下だけに、実に見事な王国魂であった。王国のために散った勇士達のためにも、今一度、私は再起せねばならん」


「あ、そですか。ま、がんばって」



その上、なんか美談みたいに語ってくるし。


ナントカ様の元側近って、こんな野郎だったのか。


初めて姿を見た時は、ナントカ様に負けず劣らず立派な身なりで、いかにも立派そうな人に見えていたのだが、勘違いだった。


この俺の実力を買ってくれたナントカ様とは大違いだ。


こういう頭のアレな野郎には、関わっても碌な事は無い。


やっぱり話しかけるんじゃなかった。今すぐ見なかった事にしたい。


話しかけた過去の俺を殴りたい。



「とにかく新たに人員を確保せねば。人員さえ確保できれば再起は可能である。幸い、物資の調達先には当てがある。絶望の荒野にいたあの男に物資を供出させれば、作戦は再開できるであろう」


「……うん?絶望の荒野?男?物資?何を言ってんだ?」


「絶望の荒野の開拓は中断したと聞いていたが、よもや単独で敢行するほどの気概を持った者がいようとは。絶望の地にて希望たらんとする、その生き様こそ、王国への只ならぬ忠誠心の表れ。ならば当然、王国のための一大作戦を実行せんとする私の部隊にも、また喜んで物資を供出するであろう事は明らかである」


「……………………」



頭のアレな野郎の話は、眉唾物もいい所だった。


2年前の時点で、村はすでに無人だった。今更、あそこに誰かが住み着くとは考えにくい。ましてや、軍の一部隊に物資を供出するなど、どう考えても不可能だ。


村が残っていた頃ですら、普通に生活するにも不足だらけで、物資の供出なんて絶対に不可能だった。


どうして村が無くなった今、それが可能だと言うのか。




普通に考えたら、頭のアレな野郎の妄想だ。


そのはずなのだが、この俺の精鋭としての勘に、何かが引っ掛かった。


この俺の精鋭としての勘が言ってる。絶望の荒野に向かえ、と。




何か、あるのか。


何かは知らないが、俺の知らないこの2年の間に、何か、あったのか。



「……何かの切っ掛けくらいにはなるか……?」



今の、この最低最悪の現状から逃げられるなら、何でもいい。そのための切っ掛けが欲しかった。


壁に阻まれ見えない西方の地に、思わず視線を向けた。



「おい貴様!私の話を真面目に聞いているのか!余所見するな!貴様!」


「ガッ!?」



そして何故か殴られた。



「ふっざけんな!このオッサンが!」


「ガッ!?」



当然、殴り返した。


その後、ボコボコに殴り倒し、持ってる情報を洗いざらい吐かせた。


大した情報は持っていなくて、全く役に立たないケチな野郎だった。


王国の元精鋭(初登場のモブ)は、同期の中でも五本の指に入る元精鋭です。


フラグ要員。

主人公、母国に帰れる算段付いてるし、拉致された外国で立身出世する気無いし、こうでもしないと外界との絡みが無い……。

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