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52.電設のヒデオさん、奇襲をやり過ごす。


結果論だが、ドローンが墜落してくれたおかげで、相手の正体がわかった。


街から偵察に来ているという予想は、かすってもいなかった。



「……早すぎる……もっとずっと先の話じゃなかったのかよ……」



完全に想定外の連中が、この地を目指して進軍してきていた。




ドローン墜落現場付近にいたオッサンの正体は、王国の奇襲部隊だった。


オッサン隊長が率いる、オッサン部下で構成された奇襲部隊。自称、王国の真なる精鋭の集まり。男の兵士が百余名。女騎士はいない。オールオッサン。


このオッサン達、魔族に奇襲を仕掛けるつもりらしい。


オッサン隊長は本気らしい。部下のオッサン連中も本気らしい。オッサン隊長の演説を聞かされている部下のオッサン連中の顔は白けているが、それは早く奇襲作戦を実行したいのに実行できないせいで白けているらしい。


部下のオッサンの近くに捨て置かれたドローンからは『早く奇襲したいのに、隊長が何度も休憩を取るせいで予定が遅れている』というような愚痴が聞こえた。本当に本気で奇襲する気満々らしく、小声で愚痴大会になっていた。


誰も演説聞いてなかった。


誰よりも自分が一番真面目に演説聞いていた。




この地は通称『絶望の荒野』と呼ばれる、王国の忌地。そう呼ばれている理由の一端は、過去に何度も繰り返し失敗してきた奇襲作戦が関係している。


この地の南側には急峻な山脈が聳え立ち、その更に南側は超巨大なヘビの魔物の縄張りになっている。二重に線引きされた事実上の国境線。まともな精神の持ち主なら、こんな所は行軍しない。


普通に考えれば行軍しないルートだからこそ、このルートを通れば効果的な奇襲が仕掛けられる。そんな机上の戦術を名案と思い込み、実行してしまう者は、過去に何度も現れた。そして必ず失敗してきた。


過去の成功例0件。実に美しい数字である。


普通に考えれば、成功例0件な時点で作戦を止めようと考え直しそうなものだが、普通では無い者にとっては、むしろ成功例0件というのはカンフル剤になってしまうらしい。過去に成功例0件だからこそ、成功させたら歴史的な偉業になる、という発想である。


天才とアホは紙一重。つまり、天才的なアホの発想である。


とは言え、さすがにそんな天才的アホは少数派。この地を行軍ルートに設定した奇襲作戦は、滅多に実行されない。頻度としては、数十年に一度だけ。


自分が城で情報収集した時には、前回の奇襲作戦は2年前に強行されて失敗した、という情報があった。王国の精鋭部隊は全滅し、一兵たりとも生きて戻らなかったと言う。


そこまで派手に失敗してしまっては、しばらく次は無いだろうと思っていた。


無いと思っていたからこそ、自分はこの地を逃亡潜伏先に選んだ。


まさか、たった2年で天才的アホが再誕するとは、完全に想定外である。


どうやら王国は、埒外の当たり年らしい。実におめでたい。




オッサン隊長率いる奇襲部隊は、王都を秘密裏に出発し、王国南西端の街で補給を行い、街の西側にある旧開拓村跡地を経由して南下し、魔族の領域に攻め入る、という予定で作戦遂行中。


王都を秘密裏に出発しているのは、これが奇襲作戦だからというのもあるが、最大の理由は、反対派に妨害されないようにするためらしい。


いくら何でも2年で奇襲作戦を再実行というのは、上層部の大半からの強い反対が予想される。そのため、今回の奇襲作戦は、真に王国の未来を憂う極一部の真なる忠臣のみの主導によって実行される。


奇襲部隊のメンバーにスカウトされたのは、真なる忠臣のお眼鏡にかなった真なる精鋭のみ。その結果がコレである。


関係者全員、似た者同士。ある意味、正しく精鋭の集まり。


凄い。凄く関わり合いになりたくない。こっち向かないで欲しい。




本来の予定では、奇襲部隊はすでに旧開拓村跡地を出発済となっているはずだった。


オッサン隊長の休憩と演説が多すぎて、予定が大幅に遅れ、いまだに到着すらしていない。


おかげで、こちらには時間的猶予ができた。少しだけだが、猶予が無いよりは幾分マシ。


もういっその事、ここを通過する予定自体、無しにしてスルーしてくれたらいいのに。そこまで都合良くはいかないようだ。




奇襲作戦に際して、わざわざ旧開拓村跡地を経由するのは、ここから丁度南下した地点が山脈越えに適した地形になっているため。


急峻な山脈の急さ加減にもバラつきがあり、少しは通りやすい場所もある。


あくまでも少しはマシという程度ではあるが、少しの遠回りで行軍が楽になるなら御の字と、街から一旦西に進み、旧開拓村跡地から南下するルートを選択している。


そこで半端に安全策を取るくらいなら、最初から成功例0件の奇襲作戦なんか止めればいいのに。鬱陶しい。



「……マジでどうするかな、これ……」



オッサン連中の事情は大体わかった。


奇襲作戦それ自体は、別にどうでもいい。したいなら奇襲でも何でも勝手にすればいい。


問題の要点は、行軍ルート上にある旧開拓村跡地に、勇者と魔族が潜伏中という事である。


見付かったらマズい。


このままだと高確率で見付かる。



「ふむ。人間の軍隊がここに来ると言う事か。面倒な事になったものだな。さてどうする、ヒデオ殿」


「……連中がこちらに気付かずに通り過ぎるのを期待する、なんてどうです?」



見付かる可能性はかなり高いが、運が良ければ見付からない可能性は無きにしも非ず。


オール電化住宅があるのは、跡地の西端。奇襲作戦は予定が大幅に遅れているようなので、よっぽど気が急いていれば、気付かずに南下してくれるかもしれない。



「何を無茶な事を……。これだけ大きな屋敷に気付かない者など、いるはず無かろう」


「ええっと、それなら……。かつての村長の家と勘違いして、今は誰も住んでいないと思い込んだりするかも?」



家自体は見付かっても、かつての村長宅と勘違いして見落とされる可能性は無きにしも非ず。


位置取り的には、旧村長宅と見なされてもおかしくはない、一応。



「この屋敷だけ真新しいのに、誰も住んでいないとは思われないだろう。それに、もし他の家が朽ちかけていなかったとしても、明らかに浮くぞ。建築様式からして違うだろう、この屋敷だけ。村とは関係の無い何者かの屋敷だと気付かれないとは思えない」


「……そうですね」



正論は非情である。現状維持バイアスは無力だった。


このままだと絶対にオッサンに気付かれる。そして、行軍ルートの至近にある不審な建築物として、オッサンに調べられるだろう。


オッサンが来る。女騎士は来ない。最悪である。



「どうしたの、おじちゃん?」


「何を悩んでるんだ、ニンゲン?」



専用モニターの前で頭を抱えていたら、黒夫と魅雪が聞いてきた。不安など微塵も感じていない顔だった。



「お前達も聞いてただろ。今からここに、この人達が来るんだよ。……いや、もうしばらくかかりそうだけど、とにかく来るんだよ、多分その内」



オッサン隊長の演説は、終わる気配が無い。


オッサン部下達の愚痴大会も、終わる気配が無い。


まだ時間的猶予はある。しかし当然、永遠では無い。


遠からずオッサン達は進軍を再開し、この家を発見して押し掛けてくるだろう。


押し掛けオッサンが来る。押し掛け女騎士は来ない。最悪である。



「どうにかしないとマズいだろ」


「うん。だから、グシャッてすればいいんじゃないの?」


「楽勝だろ。オレ一人だってできるぞ。余裕だ、余裕」


「……それは……」



子供達が軽い調子で言った。一瞬、それもアリかと思ってしまった。


このオッサン連中、どうせもうすぐ死ぬ。


成功確率0%の奇襲作戦。今回もそうなるだろう。前回は全滅し、生還者ゼロ。


山脈で死ぬのか。あるいは、魔物の縄張りで死ぬのか。いずれにしても、死ぬ。全員死ぬ。全員死ぬ運命のオッサン達である。


それなら、ここで早めに死んでも大差は無いのではないか。



「……そういうのは無しだ」



首を横に振り、否定する。


可能か不可能かで言うなら、おそらく、可能だ。


今の自分は、スペックだけなら勇者級。大抵の無理は暴力的に押し通せる。




本気になれば、道理も倫理も蹴り飛ばせる。


自分の知る限り、蹴り飛ばせないのは騎士団長閣下くらいである。あの人は勇者よりも実力者なので、普通に無理。


それ以外の自称精鋭な有象無象のオッサン達なら、容易に蹴り飛ばせるだろう。


全員消すという方法は、実現可能な現実的解決策として選択可能だ。




塩の買い出しの時、スラムでドンの手下達に囲まれた時には、この手は絶対に使えなかった。


あの場にいた目撃者を全員消せば、スラムの被害が大きくなりすぎる。いかにスラム内の揉め事とは言え、あまり派手にやりすぎれば、衛兵に見咎められかねない。


衛兵も全員消せば、街の被害が大きくなりすぎる。いかに辺境で重要度の低い街とは言え、王国に目を付けられかねない。


最悪、国一つ丸ごと消すまで終わらない。


勇者や魔族の仕業だと疑われるような真似は、絶対にできなかった。




この地には、目撃者が存在しない。


この地なら、目撃者を存在しなかった事にできる。


どれだけ派手にやろうと、全く問題無い。


どれだけ派手にやっても、誰も見咎めない。


ここは王国の忌地。この地では、生きている人間こそがイレギュラー。


イレギュラーが消えて元の状態に戻るだけなので、何の問題も無い。


イレギュラーを消して元の状態に戻せば、何の問題も無かった事になる。


目撃者は消え、誰に見咎められる事も無く、いずれ痕跡は全て風化する。




縁もゆかりも無い人を消すのは、酷く嫌な気分になる。しかし、今ここに来ようとしているオッサン連中は違う。薄めの悪縁だが、確かに縁がある。


王国の兵士という事は、つまり自分にとっては、誘拐犯グループの構成員。それも、武装している構成員。ようやく少しだけ平穏を手に入れた自分から平穏を奪おうとしている武装構成員。


下手をすれば異世界で野垂れ死ぬかもしれなかった自分からすれば、このオッサン連中をどうしようと、文句を言われる筋合いは無い。


算段は立つ。理由もある。決行すれば、比較的簡単に平穏を取り戻せるだろう。



「おじちゃん、グシャッてしないの?」


「ニンゲンがやらないなら、オレが代わりにやってやろうか?」


「そういうのは無しだって言ってんだろ。馬鹿言ってんじゃねえよ、チビどもが。そんな馬鹿な事を考える頭は――……こうだ!」


「にゃあっ!?」


「うわあっ!?」



黒夫と魅雪の頭を撫でる。頭がもげそうなほど勢い良くグリグリ撫で回す。


撫で回しながら、どうにかもう少し穏便にやり過ごす方法を検討する。


子供の情操教育に悪すぎる。だから、やり過ごす。直接的な排除は無しだ。




オッサン達をやり過ごした果てに待つのは、オッサン全滅というオッサン的絶望の未来。オッサン達の運命は変わらない。


本来の勇者であれば、勇者級の身体能力で力尽くにでもオッサン達を止めるべきなのかもしれない。それがオッサン達のためだ。


自分には、そこまでしてやる縁も義理も無い。だから、やり過ごす。


後はオッサン達の勝手にすればいい。


子供達の見てない所でなら、オッサン達がどうなろうと知った事では無い。


山で死のうが、魔物に消されようが、どうでもいい。もしかしたら、うまく逃げ出して生き延びるかもしれないが、どうでもいい。オッサン達が死のうが生きようが、至極どうでもいい。


至極どうでも良すぎて、イマイチ良い考えが浮かばない。穏便にやり過ごす案が思い付かない。



「ムチムチさんの方は、なんかイイ感じのアイデアとか無いですか?」



ムチムチさんに質問してみた。黒夫と魅雪とフェアの頭を撫でながら。



「……このような事を言える立場でない事は重々承知している。その上で、敢えて言おう。貴殿はもっと真摯になるべきだ!」


「あ、はい」



なんか真面目っぽい事を言いながら、灰色の頭が不自然に前へ突き出された。


そっと撫でる。


良い。実に良い。相変わらず、撫で心地が良すぎる。


思考が消し飛ぶ。


この灰色の頭、考え事をするのに極めて不向きだ。大変良くない。


でも撫でる。



「……ぅんっ……」


「それで、何かアイデアあります?」


「ぅうんっ、対処の案か。ぁっ、私が直々に対処しても良いが、んっ」


「それは無しで」



なんか艶っぽい声を出しながら、えらい案を出してきた、この人。


問題外である。絶対却下。


オッサン連中の前に、こんな美人さんを出したら、腹を空かせたハイエナ状態になるのがオチだ。



「うーん……何か適当に誤魔化す方法とか無いかな……とりあえず一時しのぎでいいんだし、何かありそうだけど……」



撫でては消える考えを取り留めも無く思い浮かべながら考える。


オッサン連中にとって、旧開拓村跡地は、ただの経由地でしかない。ここが最終目的地ではないので、あまり本格的な対処はいらない。その場しのぎで良い。


この場をやり過ごせれば、後は勝手に自滅する。



「……どうしたって家が目立ちすぎるんだよな……目立たせない方法は……」



もし仮に、最新のオール電化住宅を、周囲のボロ家と似たような見た目にカモフラージュできれば、やり過ごせるかもしれない。


変えるのは外観だけでいい。中身はそのまま、ホンの束の間、オッサン連中が興味を失うような見た目に変えられれば、それでいい。


ふと、あるイベントの話を思い出した。仕事の関係先のオッサンが子供にせがまれて一緒にイベントを見に行ったらしいが、オッサンは全く興味が湧かなかったらしい。


そんな全く興味の湧かない話をオッサンから聞かされて、どうしろと言うのか。話を聞かされている間中、興味も無いのに適当に相槌を打たなければならない、こっちの身にもなって欲しい。


まあそれはともかく。オッサンの興味を逸らすのに、使えるかもしれない。



「うーん……。ねえ、フェア。できればでいいんだけど、なんかこう、なんて言うか、なんかプロジェクションマッピング的なモノとかで、なんかうまい感じに誤魔化せない?」


「はい。プロジェクションマッピング的なモノです。ますたー」



なんかプロジェクションマッピング的なモノが出た、らしい。


どこにだ。ここには無い。普通に考えれば、家の外だろうか。


いやその前に、そもそもプロジェクションマッピング的なモノって何だ。


プロジェクションマッピングの事だろうか。それとも、プロジェクションマッピングとは似て非なる別の物なのだろうか。あるいは、プロジェクションマッピングとは似ても似つかない別物なのだろうか。


自分で頼んでおいて言うのもアレだけど、謎だ。フェアにお任せしすぎて、詳細がわからない。



「……あの、フェア?プロジェクションマッピング的なモノって何?」


「プロジェクションマッピング的なモノは、プロジェクションマッピング的なモノです。ますたー」



プロジェクションマッピング的なモノらしい。フェアがそう言うのなら、きっとプロジェクションマッピング的なモノなのだろう、多分。



「今までに蓄積されたデータより、現環境に最適なデータを生成しました。現在はデータ番号44に設定しています。ますたー」


「あ、はい」



なんかよくわからない内に、なんかよくわからないデータが蓄積され、なんかよくわからないデータ番号のデータが設定されたらしい。


よくわからない。



「……外に出てみるか、そっちの方が早そうだし……」



よくわからないけど、プロジェクションマッピング的なモノと言うからには、きっとプロジェクションマッピング的な効果があるモノだろう、多分。


百聞は一見に如かず。ここからでは何も見えないので、庭に出て確認する事にした。



「ええっ……何これ……」



とんでもない事になっていた。



「な、何と言う高度な幻術か……っ……」


「なんだ!?どうなってるんだ!?臭いは変わってないのに!?」


「オンボロなの!ボロボロなの!」



ボロ家だった。最新のオール電化住宅が、外観だけ旧開拓村跡地にあるボロ家のようになっていた。


建物のサイズ感まで違う。庭に設置してある諸々の設備まで含めて、丸ごと外観が変更されている。丸ごとセットでボロい。


確かにこれは、プロジェクションマッピング的なモノである。プロジェクションマッピングではない。


妖精パワー(仮)による、プロジェクションマッピングよりも凄いナニカである。原理不明。



「……物質的には、そのままなのか……」



サイズが縮小したように見える家に触ったら、壁の位置や質感などは元のままだった。


本当に外観だけは見事に変更されているが、実体はそのまま変更無し。そういう部分は、プロジェクションマッピング的。騙せるのは視覚だけで、他の五感は騙せない。


プロジェクションマッピング的なモノの投影装置的なモノは、家の周囲に埋設されているようだ。黒い小箱の上面が、わずかに露出している。原理不明だが、装置の配置はプロジェクションマッピングに近い。



「住民不在では不審に思われる危険性が高いと判断しました。村を捨てられなかった独身男性が村外れに一人で住んでいる、という想定の外観データを生成しました。ますたー」


「あー、言われてみれば、確かにそんな感じするなぁ……」



ボロい外観だが、他のボロい家よりはボロくない。


周囲にある家は、人が住まなくなってから最低3年は吹きっさらし。どれも朽ちかけか、すでに崩れていて、もう住めそうにない。


今の自分の家の外観は、物凄くボロいが、人が住んでいてもギリギリ不自然では無い程度のギリギリの朽ちかけ感。


中古のテントの方がまだ住み心地が良さそうに見えるほどボロいが、住もうと思えば住めなくはなさそうなボロさ。匠のボロさ加減。



「ますたー。現在の設定を変更しますか?」


「いや、このままでいいよ。ありがとう、フェア」


「えへへー」



見た目だけは見事にボロくなった。しかし、あくまで見せかけ。黒夫は臭いで違和感に気付いた。


普通の人間は黒夫よりも嗅覚が鈍いので、臭いでは気付かれないと思うが、多少の違和感は覚えるかもしれない。


近付かれ触られたら、完全にバレる。


完全に無人のボロ家の外観にしてしまうより、人が住んでいてもギリギリおかしくないと思わせる程度のボロさにしておいた方が、ボロが出そうになってもフォローできる。



「ひとまず、家に戻りましょう。何も気付かずに通り過ぎてくれるなら、それで済みますから」


「ああ、そうだな。これほど見事な幻術であれば、まず問題は無かろう。絶対に大丈夫だ」



もう何も怖くない。


きっとこれで大丈夫なはずだ、多分。






大丈夫だった。


あの後、少しだけ大丈夫では無い場面もあったけど、まあ概ね大丈夫だった。



「オッサンとの会話シーンとかはスキップで。後の展開は巻きで行きます」


「貴殿は何を言っているのだ?」



巻きで行きます。






外観のボロさを確認してすぐ、家に戻って急いで準備して、地下にこもった。地上で生活音を出さなければ、気付かれにくくなる。


防犯カメラを旧開拓村跡地の方に向け、屋外の映像をスクリーンに投影して待つ事、半日以上。日が沈みかけた頃になって、ようやくオッサン連中が到着。


予定が大幅に遅れているはずなのに、旧開拓村跡地で野営の準備を始める、のん気なオッサン連中。やる気あんのか。


オッサン隊長は、部下のオッサン連中に準備を全て任せてヒマも持て余していたせいか、この家に気付いた。部下からの報告は無視してたクセに、余計な事ばかり気にするオッサンである。


ドンドン近付いてくるオッサン隊長。外観は誤魔化せても、さすがに触れられたらバレてしまうので、自分だけ地上に出て、オッサン隊長に応対した。


この時、こんな所に住んでいる割には自分の格好が小奇麗すぎる事に気付いたが、もう遅い。


青いカラコンを装着し、ほとんどそのまま開き直って相対。その場のノリと勢いで押し切る。ヨイショの定型句の『大統領』の部分を『大将軍様』に置き換えて、適当にヨイショしまくった。


超チョロかった。オッサン隊長、全く気付かなかった。


こんなオッサン隊長に率いられている部隊とか、何も無くても全滅しそう。さすがは王国の精鋭。


ヨイショしすぎたせいか、オッサン隊長、調子に乗った。なんか『物資を供出させてやる。有難く思え』とか何とか真顔で言ってきた。真顔で。


常識的に考えて、こんな所に住んでる独身男性が百人規模の部隊に物資なんか出せるはず無いってわかりそうなものだけど。


常識あったら、奇襲部隊の隊長なんて役目は全力で辞退しているだろう。お察し。


物資、供出しました。


通勤カバンには、死蔵されている物資が大量にある。容量無制限だから入ってても別に邪魔にはならないけど、気分的には邪魔だったので、丁度良かった。


近所のボロ家を倉庫代わりに使っている風を装い、邪魔な物資を根こそぎ出した。酸っぱい臭いのする牛乳とか、萎れて茶色い葉野菜とか、木の板みたいな木の板とか、他にも色々。


ヨイショの一環で『大将軍様に協力できる栄誉こそが、お代です』と言ったら、あのオッサン、マジで全部タダで持っていきやがった。銅貨の1枚も支払わなかった。


個人的にはタダでもいらない物ばかりだし、まあ別にいいけど。


物資の中でも、特に喜ばれたのが、串焼き肉とワイン。


串焼き肉は、街で大人買いしたものの残り。屋台の中年女性には悪いが、うちではもう食べない。喜んでくれる人に食べてもらった方が、材料のニワトリ(推定)も浮かばれよう。


ワインは、城の厨房からの持ち出し。一口飲んだだけで顔が変形しそうになるほど渋味が強い。うちでは飲まない。料理にも使わない。ほぼアルコール廃液。


物資を出してから、マズい事に気付いた。明らかに個人で供出できる量ではなかった。通勤カバンをすっきりできるチャンスと思って、調子に乗りすぎた。気付いた時には、もう遅かった。


オッサン隊長、気付かなかった。大喜びで部下のオッサン連中を呼び寄せてた。


部下のオッサン連中、気付かなかった。大喜びで野営してる場所まで運んでた。


オッサン連中、串焼き肉とワインで酒盛り。まがりなりにも行軍中のはずなのに、やけに簡単に酔っ払って上機嫌になっていた。奇襲作戦の成功の前祝とか言ってた。のん気すぎる。


スクリーンに映るオッサン達の姿は、見た目は完全に山賊の酒盛り。やってる事は実質山賊と同じで、末路も大体山賊と同じなので、ほぼほぼ山賊のオッサンである。


子供達とムチムチさんは、ホームシアターのソファをベッドにして就寝。


自分とフェアは、万が一に備えて起きていた。美人さんの寝顔を見るためではない。まあ見たけど。


万が一の事を考えて、この日の絨毯の充電作業はお休み。


いつもは日課として、寝る前に0.1%ずつ充電している。充電作業を休んだおかげで、帰還までの日数が延びてしまったが、しょうがない。


翌朝。オッサン連中、二日酔いでダウン。悪酔いしたらしい。やる気あんのか。


昼過ぎ。ようやく二日酔いから復活したオッサン連中、ようやく南下を開始。


これでもう二度と会う事も無い。


さようなら、永遠に。



「ねえ、魅雪。角はどう?ピリッてする?」


「ううん。もう全然しないよ」


「そうか。もう全然しないか」



こうして、少し様子のおかしい2日間は、無事に過ぎ去っていった。


振り返ってみれば、いつもよりホンの少し様子がおかしいだけの、特にこれと言って大きな問題など無い、まあまあ平和な2日間だった。






結果論として、大きな問題は無かった。


結果論に何度も頼るのは、危ない。



「ちょっと警戒の範囲を広げとくか……。フェア、手伝ってくれる?」


「はい。手伝います。ますたー」



二の轍を踏まないよう、少しだけ警戒網を拡張しておいた。


これで、次に何か来ても、すぐに察知できるはずだ、多分。


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