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51.電設のヒデオさん、奇襲される。


その日は、朝から少しだけ様子がおかしかった。



「角がピリッてするの」


「……魅雪?」



朝食の後片付けをしていると、魅雪が角を抑えながら言った。


以前、似たような事を言われた事がある。塩の買い出しのために、王国南西端の街に潜入した時の事だ。


大量の塩を購入し、後は宿に泊まり、翌朝に出発すれば良いと思っていたら、夜中に起こされて言われた。


あの時は、スラムのドンに目を付けられて、帰り際に面倒な事態になった。


何かが起こる前兆を、魅雪は角で察知しているようだ。



「何かあるのか?」


「わかんない。ピリッてするの」



察知はできても、それは漠然としていて、うまく言語化できないらしい。


何かが起こりそうな事はわかっても、具体的に何が起こるのかまでは、わからない。どう対処すべきかも、わからない。



「黒夫、何か感じるか?」


「んー……?」



黒夫の五感は人間より優れている。具体的な異変の感知なら、黒夫の五感が頼りになる。



「……よくわからないぞ」


「部屋の中じゃ無理か。屋上行くぞ」



高精度のセンサーほど、性能を十全に発揮させるためには、環境の整備が重要になる。


五感を活かすのに、最新式のオール電化住宅は向いていない。遮熱性や遮音性など、内外の環境を断絶する要素が満載である。


むしろ、この環境で異変を察知する魅雪の感知能力が高すぎる。具体性には乏しいが、感知能力の高さでは他の追従を許さない。




黒夫を連れて屋上に行く。後ろには魅雪とムチムチさんもついて来ている。


魅雪の様子からして、今すぐ何かが起こる、という感じでは無い。まだ大丈夫だとは思う。それでも念のため、全員で行動する。


もし何か危険が迫っているなら、全員で事前確認と情報共有した方が良い。



「……屋上に出るの、初日以来か……」



久しぶりに出た屋上は、思ったよりも綺麗だった。無人の荒野のド真ん中で吹きさらしなのに、汚れが少ない。


足元を見ると、ロボット掃除機がウィンウィン掃除しながら家に入って行った。彼は屋上までカバーしていたのか。最新式、ぱねぇ。



「黒夫、どうだ?ここなら何かわかるか?」


「んー……?」



早速聞いてみた。


黒夫は猫のように耳をクイクイッと動かす。


なるべく邪魔しないように静かに待つ事、しばし。



「んー……、あっちの方に何かいる……ような……?」



首をかしげながら、黒夫が東を向いた。目も耳も東に向けながらも、自信無さ気だった。



「あっちって言うと、街の音が聞こえるのか?ここから音拾えるとか凄いな」


「ううん、街の音は遠すぎてほとんど聞こえないぞ。そうじゃなくて、もうちょっと近い所で音がしてる……と思う」


「家と街の間って事か?」


「んー……」



ためしに自分も全力で集中。


東に注意を向けてみたが、何もわからなかった。


何も音は聞こえないし、何も見えない。




ここは無人の荒野。周囲に大きな障害物は無く、視線がよく通りそうに見える。一見すると、そういう印象を抱いてしまうが、実際にはそうでは無い。


この周辺一帯、見た目の印象よりも遥かに見通しが悪い。


障害物は無いが、地形の起伏はある。なだらかな傾斜のせいで気付きにくいが、高低さがそこそこ大きい。


低地に何かが潜んでいても、遠目には気付けない。地味に厄介な土地だ。


ダメ元で天体望遠鏡を東に向けて見たが、やはり何も発見できなかった。



「うーん……どうしたもんかな……偵察して変なのに鉢合わせたら本末転倒だしなぁ……」



魅雪が何かを察知し、黒夫が疑問形ながら何かの音が聞こえると言った。それなら、きっと何かある。


黒夫と魅雪の感覚を信じる。この家と街の間に、何かの異変の火種があると判断する。


ただし、現時点では、あくまでも火種だ。


まだ問題にまでは発展していない。必ず問題に発展するとも限らない。うまくやりすごせれば、火種は火種のまま消火して終わりにできる可能性がある。


詳細不明。情報がいる。しかし、情報収集のために情報源に近寄れば、ただそれだけで火種が燃え上がる危険がある。藪蛇は避けたい。




最もあり得そうなのが、街から偵察任務の人員が出張って来ている可能性。


街を脱出する際、少しばかり騒ぎを起こしたのが、今から半月ほど前。もしかしたら、騒ぎの調査の一環で、無人の荒野に偵察に来ているのかもしれない。


あの夜から日数が空きすぎている気もするが、別段不思議は無い。あの街の衛兵は基本的に税金泥棒なので、腰が重い。そして、税金泥棒だからこそ、今更になって無人の荒野に偵察に来ている可能性がある。


仕事したくない怠け者は、仕事しているフリをするために仕事する事がある。一生懸命がんばって仕事しているように見せかけるために、極力楽な仕事を優先的に選択し取り組む事がある。


ここは通称『絶望の荒野』、犯罪者すらも避ける土地。つまり、偵察しても何も無いはずの土地。


何も無いはずの土地に、何も無い事を前提に偵察に出掛け、何も無いまま軽くグルッと一回りし、何も無いまま時間を潰して帰還し、何も無かったと上司に報告する。ただそれだけのウォーキング、もとい、偵察任務である。


本来なら、そうなるはずだった。


現在、この地には勇者と魔族が潜伏中。大正解の偵察ルートである。


見付かりたくない勇者と魔族。サボりたい衛兵。当事者は誰も幸せになれない大正解である。



「……やっぱり直接出向くのは無しだな……」



我々の利害は一致しているはずだ。こちらが正しく立ち回れれば、うまくやりすごせるはずだ、多分。


とは言え、現時点では推測である。情報を確定させないと動けない。


見通しの悪い土地で、遠方からは視認不可能な地点の情報を収集し、確定する。


手段は、ある。



「フェア。ドローン、出してもらえる?オモチャみたいなチャチな奴じゃなくて、プロが使うようなシッカリした奴で」


「はい。ドローンです。ますたー」



ドローンが出た。遠方の撮影も可能な、業務用の大型機だった。


このドローンを使い、上空から情報収集を行う。


もしも地上に誰かいても、上空を飛ぶドローンは早々見付からないだろう。陸上の生物は基本、頭上への注意が疎かになりやすい。


万が一、誰かに目撃されたとしても、まさかドローン撮影されているとは思うまい。きっと鳥か何かだと勘違いしてくれるはずだ、多分。



「なんだこれ!かっこいい!」


「おっきくて変なクモみたいなの。おじちゃん、これクモなの?」


「ドローンだよ。見るのは初めて?……って、そりゃ初めてか、当然」


「これが蜂……どこに蜂の要素があるのだ……?」



異世界の住人、ドローンと初遭遇。驚き様は三者三葉だった。


ひっそり自分も驚いていた。結構デカくてゴツイ。プロ仕様のドローンをこうして間近で見るのは、自分も生まれて初めてだった。


大型プロペラ8基搭載。全幅2m程度。本体下部には撮影用カメラ搭載。


機体もカメラもかなり本格的で、明らかに個人が趣味で所有するようなドローンではない。市場価格は不明。一般人が趣味で購入できる値段では無さそう。



「こんな凄いの出してくれるなんて、さすがフェア」


「えへへー」



ドローンに腰かけ、フェアが笑っていた。


可愛い。フェアの可愛さと、ドローンのゴツさのコントラストが、更にフェアの可愛さを引き立てている。ゴツイ機械と可憐な妖精の組み合わせは良い。



「……あれ?」



ドローンの脇には、コントローラーらしきものがあった。本体に負けず劣らず、これまたなかなかのゴツさ。まあそれは良いとして。


コントローラーは2個あった。どちらもゴツイが同じでは無く、それぞれゴツさの方向性が違う。



「あの、フェア。なんで2個あるの、これ?」


「機体操縦用リモートコントローラー1台。カメラ撮影用リモートコントローラー1台。計2台です。ますたー」


「別系統!?」



コントローラーもプロ仕様だった。


一人で動かせるオモチャのようなドローンとは違い、目の前にある大きなドローンは二人三脚で動かすタイプらしい。


さすがはプロ仕様機。操作の精密性や正確性等を求めると、こうなるのだろうか。よく知らんけど。


つまりこれ、自分一人では動かせない。


余計な注文付けるんじゃなかった。全部フェアにお任せにしとけば良かった。



「……とりあえず、どっちか頼むしかないか……」



今の自分は独りじゃない。だから大丈夫だ、多分。



「よし、黒夫。お前に決めた」


「何がだ?」



黒夫に頼む事にした。機体操縦用コントローラーの方を黒夫に渡した。



「ほらこれ。頼むぞ」



この手の機械系の扱いは、男の子の方が得意というのが相場である。異世界で通用する相場かどうかは知らんけど。



「いきなりなんだ!?なんだこれ!?」


「ドローン操縦するんだよ。黒夫はそっちな。俺はこっち使うから」



自分はカメラ撮影用の方を手に取った。


専用モニターがデカい。持ちにくい。黒夫の手には余る、サイズ的に。



「オレこんなの動かせないぞ!動かし方なんて知らないぞ!?」


「こういうのは大体、進みたい方向にレバー倒せば進むから。前に行きたきゃレバーを前に。右に行きたきゃレバーを右に。逆ならレバーを逆だ。な?簡単だろ?」


「雑!説明雑!」


「大丈夫だって。あんまり難しく考えるなよ。勘でイケるイケる」



騒ぐ黒夫を適当になだめる。猫耳が荒ぶってる。触りたい。我慢する。


今回の操作では、精密性や正確性等は別に求めていない。


ここは無人の荒野。大きな樹木や高層建築物など、ドローンの飛行の障害になりそうなものは無い。この家の上空から東の方角へ真っ直ぐ進め、撮影が終わったら真っ直ぐ戻す。ただそれだけである。



「とりあえず電源入れるぞ。ええっと……、こうか?」



まずは黒夫と自分のコントローラーの電源を入れる。続けて、本体から全員距離を離し、自分だけ本体に近付き、電源を入れる。



「ぬおぅっ!?」


「「「と、飛んだーっ!?」」」



ヒュォンッと凄い勢いでドローンが飛翔した。逆バンジー並みの上昇力。プロペラ8基搭載は伊達じゃない。



「なんだあれ!飛んだ!飛んだぞあれ!」


「おっきくて変なクモが飛んだの!あんな変なクモなのに飛んだの!」


「ま、まさか飛翔するとは……そうか、飛翔するから蜂なのか……飛翔以外には蜂の要素が見当たらないが……」



異世界の住人、ドローンの初飛行を目撃。驚き様は三者三葉だった。


ひっそり自分も驚いていた。機体の先端が鼻先かすめて、ちょっとビビッた。結構デカくてゴツイのが眼前を凄いスピードで上昇するのは、結構怖い。


ちなみに、撮影用のプロ仕様ドローンは極めて静音性が高かった。安物のような騒音は聞こえない。ほぼ無音で飛行している。



「よし、黒夫。早速操縦だ。街の方に飛ばしてみてくれ。ゆっくりな」


「ど、どうすればいいんだよ!わかんないぞ!」


「レバーを倒すんだよ。前だ、前。ゆっくりな」


「こうか!」



思いっきりレバーを倒した。超加速した。



「こいつ、動くぞ!」


「速い速いもっとスピード落とせ速いって!」



プロペラ8基搭載は伊達じゃない。なんか火の付いたロケット花火みたいなスピードでカッ飛んでいった。



「ここで加速全開!ニンゲンを右に!」


「いや待てなんで右行った!?ってか最初からスピードMAXだろ減速しろ減速!速すぎんだよ!減速!」


「にゃははははははははっ!」


「聞けよ!?」



ダメだこの猫、人の話聞いてない。レバガチャしてる。そしてドローンが宙返りとかしてる。何気に操縦うまい。



「習得早ぇ……。いや言う事聞けよ!速いんだよスピード落とせよ!」


「にゃははははははははっ!」



適当にレバガチャってるように見えて、すでに操縦技術の習得完了してやがる。


なんかドローンがUFOみたいに超キビキビ動いてる。本体重量はかなり重いはずなのに、超軽快にジグザグ飛行してる。そして何度も無意味に宙返りしてる。


機体の動きが速すぎて、カメラの操作が追い付かない。モニターの景色が溶ける。グルグル宙返りする映像を何度も見せられて酔いそう。


遥か東の空の上、ドローンが自由自在に飛び回る。


この家から結構距離があるはずだが、サイズが大きいのと動きが派手なので、遠目にもそこそこよく見える。


カメラが役に立たない。何が映ってるのか全然わからない。何も見えない。



「せめて宙返りやめろ!」


「にゃははははははははっ!」



黒夫、超楽しそう。初めてオモチャのドローン買ってもらった小学生みたいに超ハイテンションで操縦してる。ついさっきまで操縦したくなさそうな態度だったクセに現金である。



「オレが一番、うまく使えるんだ!一番、一番うまく使えるんだ!」



あら調子こいてるわ、この猫。


楽しそうなのは大変結構だが、そういうのは情報収集が終わってからにしてもらいたい。情報収集に宙返りはいらない。



「クロオばっかりズルい!ボクも!」



ここでまさかの魅雪乱入。黒夫の持ってるコントローラーに取り付いた。



「何するんだミユキ!オレが動かしてるんだぞ!」


「次ボクの番!クロオはもうたくさんグルグルしたんだから、次ボク!代わって!」


「嫌だ!ニンゲンはオレに決めたって言ったんだ!ずっとオレの番!」


「ズルい!ボクもグルグルしたい!次ボクがグルグルする番!」


「いやあの魅雪?グルグルはいらないんだよ?それと黒夫、お前いい加減にしないとマジで怒るぞこの野郎」


「ボクもグルグルしたい!」


「オレが動かすんだ!」


「いやあの二人とも聞いてる?ねえ二人とも聞いて?」



黒夫も魅雪も、人の話聞いてくれない。ドローンに興味を引き付けられた子供達の耳には、平凡なサラリーマンの声は届かない。



「クロオも、ミユキも、醜い争いは止めるのだ!」



二人に向かって、ムチムチさんの一喝。


一瞬ビクッとして、動きが止まった。



「そんなもの一つ取り合って!なんだ、その醜態は!見っともない!」


「「でもっ!」」


「でも、では無い!そんな姿を晒して恥ずかしくはないのか!誰の目に見られているのか、どう思われているのか、考えないのか!」


「「……っ……」」



ムチムチさんのお説教。黒夫と魅雪の動きが完全に止まった。


自分の声は届かなくても、ムチムチさんの声は届くようだ。


助かった。


助かったけど、ちょっと凹む。



「そのような事をしている場合か、まったく。……ゴホンッ。ここは公正を期すため、それは私が預かろう!」


「「えっ」」


「さあ、それを寄越すのだ!」



ここでまさかのムチムチさん参戦。よりにもよって、このタイミングで。



「何が公正だ!姉ちゃんも動かしたいだけだろ!」


「な、何を言うか!争いを収めるためだ!この場は私がグルグルすれば丸く収まるだろう!」


「次ボクの番なの!ボクが先にグルグルするの!お姉ちゃんは後にして!」



束の間の休戦、終了。


三つ巴の争い、勃発。



「オレだ!」


「ボクなの!」


「私どうわぁっ!?」



三つ巴最弱の一角、一瞬で脱落。


そして再び猫と鬼の争いが始まる。



「……大丈夫ですか?」


「あ、ああ、助かった、ヒデオ殿」



物理的に弾き飛ばされたムチムチさんを抱き留めつつ、黒夫と魅雪のケンカを遠巻きに眺める。


子供のケンカの仲裁とか面倒臭い。


どうせ仲裁したところで、結局ドローンを普通には操縦してくれなさそう。あんまり仲裁する意味も見出せない。


どっちが勝っても負けても、子供達が飽きるまで延々宙返りされるだろう。


それなら、もういっその事、飽きるまで放って置くのもアリかもしれない。


……なんて、悠長に構えていた事をすぐに後悔した。



「「あっ」」



コントローラー、裂けた。



「大岡裁きいいいいっ!?」



物の見事に真っ二つ。


いかにプロ仕様のコントローラーと言えど、人間離れした身体能力を持つ子供達に取り合われては、強度が足りなかったようだ。所詮は人間のプロ用である。


遥か東の空の上、ドローンが降下していく。やたら綺麗な螺旋軌道を描きながら地上に急降下していく。


明らかに自然落下とは違う、変則的な機動。何か不自然な信号を受信している。



「壊れたのに止まらない!?」



さすがはプロ仕様のコントローラー。物の見事に真っ二つになってるのに、何か信号を発信しているらしい。


壊れても、ただでは壊れない。これぞプロ根性。


最悪である。



「っ、フェア!コントローラー修理!今すぐ!」


「はい。コントローラー修理しました。ますたー」



一瞬呆けてしまったが、すぐに修理依頼。


一瞬で修理完了。黒夫の手に1台。魅雪の手にも1台。


真っ二つだったコントローラー、新品2台になった。


増えた。



「これオレの!」


「これボクの!」


「待て!動かすな!動かすなよ!フリじゃないからな!今度言う事を聞かなかったら本気で取り上げるからな!」


「うっ……、わ、わかった」


「が、がまんするの」



慌てて言い含める。今度はちゃんと言う事を聞いてくれた。


さっきの今で、少しは自重する気になったらしい。すぐに直ったとは言え、コントローラーを壊して平気な顔をできない程度には、いい子達である。


しかし、もう遅かった。



「げっ」



自分の手元の専用モニターには、地面が映っていた。


おそらく、ドローン本体はすでに墜落済。まあそれは良い。いや本当は全然良くないけど、墜落後にウダウダ言っても始まらない。


問題は、一緒に映り込んでいるモノ。



『た、隊長!空から変なのが!』



ドローンの映像が一瞬揺れた。次の瞬間、オッサンの顔が映っていた。ついでにオッサンの声も聞こえた。


このドローン、映像だけではなく、音声も届けてくれるらしい。さすがはプロ仕様。多機能である。


それはそれとして。ドローンが見付かってしまった。ムサいオッサンに見付かり、ムサいオッサンに持ち上げられている。


ムサいオッサンの顔が、ローアングルから舐めるようにドアップ。



「……………………」



プロ仕様の高精細さを遺憾無く発揮したムサいオッサン映像により、メンタルに深刻なダメージ。


勇者級の身体能力をもってしても防御不可能な精神への奇襲攻撃を食らい、ダウン寸前である。


ムサい。



『うん?なんだそれは?』


『わかりません。急に落ちてきました』



畳みかけるように精神への追撃が続く。新たなムサいオッサン顔のドアップ。


カメラに二人目のムサいオッサンの顔が映り込む。なんか角飾りっぽいのが付いた兜っぽいの被ってるムサいオッサンである。


おそらく、こっちの角突きのムサいオッサンが隊長で、ドローンを持ってる方のムサいオッサンがムサいオッサン隊長の部下のムサいオッサンだろう。


ムサい。


他にも、カメラの端っこには更に別のムサいオッサンがチラチラと映ったり見切れたりしてムサ苦しい。あっちもこっちもムサいオッサンばっかり。女っ気ゼロ。全方位オッサン。



『はあ?落ちてきた?どっから落ちてきたと言うんだ、そんなもの』


『空からであります』


『空から、だと?何を言っとるんだ、貴様は。そんなおかしな物が空から落ちてくるものか。まさか空を飛んで来たとでも言うつもりか』


『はい。まさしくそうであります。空から飛んできました』


『何を馬鹿な事を言っとるんだ、貴様は。そんな変な物が一体どうやって空を飛ぶんだ。翼も無いのに』


『わかりません。しかし確かに空を飛んで来たのであります』


『さっきから本当に何を言っとるんだ、貴様は。もうすっかり日も昇っとるのに、まだ夢でも見とるのか。あり得んだろう、そんな妙な物が空を飛ぶなど』


『し、しかし隊長、これは確かに空から来たのでありますが――』


『なんだ貴様は!この私があり得んと言っとるんだぞ!私があり得んと言っとるんだから、あり得んのだ!口答えするな!』


『ガッ!?』



あら理不尽。隊長らしきムサいオッサンが、部下らしきムサいオッサンを殴っていた。剣の鞘でブン殴っていた。


部下らしきムサいオッサンは、正しい報告をしたのに殴られるという理不尽を受け入れ、口を噤んだ。


ムサいオッサン隊長の理不尽さのおかげで、ドローン発見されてもセーフっぽい。きっとセーフだと思う、多分。



『まったく、馬鹿な夢の話なんぞ聞かされて、無駄に疲れてしまったではないか。……よし、今から半刻の休憩を取る!』


『えっ、また休憩でありますか?』


『なんだ貴様!またと言ったか!貴様!』


『ガッ!?』



このムサいオッサン隊長、また別の部下のムサいオッサン殴ってる。


絵に描いたような理不尽の権化。異世界のパワハラ上司は暴力がお好きらしい。



『まったく、嘆かわしい事よ。この任務の重要性を正しく理解しているのは私くらいと言う事か。ああ、まったく嘆かわしい……。おい貴様ら!今一度、貴様らも心に刻め!この任務の重要さを!私が一から説いてやる!傾聴せよ!』



なんか気が付いたら、ムサいオッサン隊長の演説が始まっていた。


ドローンのコントローラーからは、陶酔しきったムサいオッサンのキモイ演説が聞こえてくる。


耳腐りそう。でも貴重な情報源。聞くしかない。聞きたくないけど。


カメラの向こう側では、ムサいオッサン隊長の部下のムサいオッサン達のムサい白け顔が見えた。


ムサいオッサンの典型的生態の一つ。自説を語って聞かせるのが大好き。異世界でも同じらしかった。


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