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47.電設のヒデオさん、映画を見る。


ムチムチさんを混乱させたまま和室に帰すのもアレだし、落ち着くまでの間、少しばかり話をした。


せっかくなので、元の世界の話をした。


もしも移住すると仮定して、移住先の世界がどういう環境なのかを事前に確認する、という体で色々と話した。


仮定の話である。あくまでも仮定は仮定である。



「ば、馬鹿な……。人間以外の種族が、全て滅ぼされた世界、だと……っ……」


「違います。最初からいないんです、最初から。エルフとかドラゴンとか、そういうのはおとぎ話の存在なんです、あっちの世界だと」


「御伽話……。原初の時代には、すでに滅ぼされていたという事か……っ……」


「いやだから違います。そうじゃないです。そんな恐ろしい世界じゃないです」


「そ、そうだな……恐ろしいのは世界ではなく、その世界に住まう人間……。全てを滅ぼすほどの破壊衝動と残虐性……それが異世界の人間の秘めたる性質……っ……」


「いやなんでそうなるんですか」



なんか壮絶に勘違いされてた。


おかしい。普通に話をしていただけなのに。


これはアレか。あまりにも人間が嫌いすぎて、バイアスかかってるのか。


人類の歴史は戦争の歴史だ、みたいな物騒な話があったりするので、あながち間違いでも無いけど。そういう物騒な話は、今はしてない。



「貴殿も故郷に帰れば……いずれは、その本性をあらわにする日が来るのか……しのぎきれるのか、この私に……っ……」


「いやしのぐて。なんでしのぐ前提?」


「し、しのぐのではなく、う、受け止めろと……そう言う事か……貴殿について行くならば、全てを受け止めてみせろと、そう言うのだな……っ……」


「言ってません。諦めてください」


「諦めて、全てを受け入れろと……貴殿から与えられるものを全て受け入れろと……そう言う事か……っ……」


「……まあ、変に遠慮されて受け取り拒否されるよりは、その方がいいと言えばいいですけど」


「あ、ああ、わかっている!ど、どのような、せ、責めっ苦スでも、受け入れて見せよう!白いモノでも苦いモノでも、かけられようが飲まされようが、全て受け入れて見せよう!そういう事だろう!」


「いやどういう事それ」


「無論!大量に注ぎ込まれても大丈夫だ!せ、責めっ苦ス、バッチコイ!」



そして最後には、責め苦を受け入れるという話になってた。何故だ。


台詞を噛むほど嫌なら、普通に拒否ればいいのに。


しかも諦めてくれなかった。恐ろしい勘違いをするだけしておいて、最後まで異世界行きを諦めてなかった。何故だ。


ムチムチさんは、この家に着いた時、傷だらけの血塗れだった。おそらく、何か危険な目にあい、ここまで逃げてきたはず。それなのに、何故ここで逃げるという選択肢が出ないのか。


これが、長期間ストレスを受け続けた者の末路なのか。ストレスを受け続け、ストレスに耐え続けた果てに、ついには自らストレスを求めるに至ったのか。


そうとでも考えないと、おかしい。責め苦を受け入れる事に超前向きすぎる。なんかもう血に飢えたケダモノみたいにギラギラした目で、責め苦を受け入れたがってる。


きっとストレスを受け続けたせいだ。きっとそのはずだ、多分。


まさか、外的要因によって表層意識の理性的な偽装が剥がれ落ち、抑圧されていた本性があらわになっている、なんて事では無いはずだ、多分。



「……どうしたもんかな……」



いっその事、飼ってあげた方が幸せになれるのでは。そうすれば、自分もムチムチさんも幸せになれてWIN-WINなのでは。そんな思考が脳裏をよぎる。


危険が危ない。ストーカー系の犯罪やらかす男の思考だ、これ。煩悩退散。



「……ぅあぁっ……今からドキドキする……ど、どんな、す、すんごい事をされてしまうのだ……どうなってしまうのだ、私は……っ……」



どうにもなりそうに無かった。






あの後、なんかドッと疲れて案外すぐ眠れた。結果オーライ。


その日はそれで良かったが、翌日が問題だった。



「……あの、ムチムチさん?近くないですか?」


「そ、そうか?ち、近くないぞ?き、貴殿の気にしすぎではないか?」


「……いや、でもこれ、明らかに……」


「わ、私と貴殿の仲ならば、こ、この程度が適切な距離感だろう?」



近い。なんか近い。凄く近い。物理的な距離が近い。不自然に近い。


昨日の今日で、どうして距離が近付くのか。むしろ逆じゃないのか。



「……近すぎて色々当たってますけど」


「あ、当ててないぞ?ほ、本当だぞ?」



当ててないらしい。いや当たってますけど。


割と頻繁に柔らかい感触が当たってますけど。


柔らかくも適度に弾力があって、大変素晴らしい。


大変素晴らしいけど、大変よろしくない。


適切な距離を取らないせいで接触事故多発中。そして血液が集中する。



「「……………………」」



何かを察した黒夫と魅雪は、遠巻きに眺めてる。そして時々小声で何か話し合ってる。


こういう時に限って、ちょっかいをかけて来ない。物理的な距離が遠い。


今なら背骨を粉砕されても笑って許せる気がするのに、こういう時に限って何故距離を取るのか。来いよ。


ピタリと寄り添う背後霊エルフをトレインしたまま、キッチンに立つ。



「……今から包丁を使います。離れてください」


「そうか。わかった」



あっさり引いた。その場しのぎ感が凄いけど、距離は取れた。


フェアは現在お休み中。当然、頼れない。


食材は小まめに補充していたので、備蓄は十分。


ご飯は炊飯器に入ってる分を食べきったら終わり。パンは無い。炭水化物はジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ等があるので、代用でしのぐ。


別に何日も続く訳では無い。明日の午後には、フェアは復帰する。問題無い。



「今朝は簡単だけど」



トウモロコシを幅5cmくらいに輪切り。レンジでチン。1枚の大皿に盛る。


キュウリ、レタス、ゆで卵などを、4枚の平皿に適当に盛り付ける。


テーブルの真ん中に大皿を置き、平皿とフォークを並べる。



「「「「いただきます」」」」



四人で食卓を囲む。



「……どうするかな、これから……」



トウモロコシをかじりながら、今日の予定を考える。


昨日までは、朝食後は2階に上がり、魔法陣の改良をしようとしていた。それはすでに不要となっている。


万が一の事を考えれば、魔法陣に関するデータは全て破棄した方がいいだろう。画像データもCADデータも、復元されないよう念入りに処理しておこう。紙の図面は燃やす。やる事と言ったら、それくらいだろうか。


元の世界に帰る準備をしようかと思ったが、よく考えたら着の身着のまま召喚されたので、特に準備する事など無い。普通に帰るだけだ。


注意点としては、通勤カバンを忘れないようにする事。帰還当日の注意なので、今は何も無い。


こちらの世界で今後も生活する三人のための準備は、自分だけでは何もする事が無い。完全にフェア頼みである。フェアが復帰しないと、何もできない。


本当なら、ムチムチさんと今後について話し合っておく必要がある。準備の内容に関しても、話し合って決めた方が良い。


でも、今は無理だ。冷静に話し合いができるとは到底思えない。


自分もムチムチさんも、お互いに頭を冷やす時間が必要だろう。昨日の今日では、下手に話し合うのは逆効果だ。


そうなると、どうなるか。やる事が無い。もう本当に何もやる事が無い。



「……映画でも見るかなぁ……」



地下室の事を思い出した。


あのホームシアター、作ったまでは良いものの、一度も使ってなかった。




異世界に召喚されてから約2ヶ月。思い返してみれば、休日らしい休日を過ごした記憶が無い。


城にいた時は、勇者教育で缶詰。


無人の荒野に引っ越してからは、元の世界に帰るための方法を確立しようと、かかりきり。


休憩は取っていたが、休日が無かった。




こうして帰る目途が立って、初めて気付く。


自分は、かなり気を張っていたらしい。


別に、ずっと仕事していた訳では無い。だが、息抜きに映画を見よう、なんて思い付きもしないくらいには精神的に余裕が無かった。


気が緩んで初めて、気を張っていたのだと気付けた。



「よし、チビども!映画見るぞ、映画!」



せっかくなので、みんなで見る事にした。


一人で映画を堪能するのも悪くは無いが、今はみんなで見たい気分だ。



「エイガ?なんだ、エイガって?」


「お魚なの?」


「いや魚じゃないから。映画って言うのは……、劇をいつでも見れるようにしたものだな」


「劇?劇を見るのか?どっか行くのか?」


「いや、今日の映画は家で見る映画だ」


「おうちで劇が見れるの?それがエイガなの?」


「ああ、見れるぞ。それが映画だ」



言ってて思ったが、厳密に言うと映画ではない気がする。


家で見るDVDの映像は、映画と呼んでいいのか。映画の定義とは何だ。



「とにかく映画見るぞ!」



ただの一視聴者にとっては、映画の定義なんて至極どうでもいい。



「ひ、ヒデオ殿。……わ、私は?」


「もちろん、ムチムチさんも一緒に見ましょう!」


「そ、そうか。良かった……」



ちょっとおどおどした感じで、ムチムチさんが聞いて来た。


ちょっと上目遣い。しかも、ちょっと涙目。凄まじい破壊力。今なら何をお願いされても、ハイと言ってしまいそう。


気が緩んでいる。


気が緩んでいるのを自覚したら、ちょっと気分がハイな感じになってる。


まあ、少しくらい羽目を外してもいいだろう。



「ポップコーン無いし、普通のトウモロコシ食べながら見るか!」



フェアが復帰したら、是非とも家庭用ポップコーンメーカーを出してもらおう。固く決意する。


ポップコーンを家で作るならフライパンで作るのが一般的だが、確か電気で調理するタイプの商品もあったはず。よく知らんけど。



「とりあえずサラダ食ったら行くぞ!」



今日の予定は決まった。映画鑑賞だ。






まずは台所でトウモロコシを用意。さすがにトウモロコシかじりながら映画鑑賞は難しいので、芯から切り落としてガラスコップに入れ、細長いスプーンを付ける。


ついでに野菜スティックも用意。ちょっとチュロスっぽい。味は全然違うけど。



「よし、準備完了。行くぞ」


「どこに行くんだ?劇ができそうな所、無いぞ?」


「お出掛けするの?おうちで見るんじゃないの?」


「映画は地下で見るんだよ。地下行くぞ」



地下室に行こうとしたら、過剰反応した人がいた。



「っ、ダメだ、ヒデオ殿!その子達を地下に連れ込むなど!貴殿の相手は私一人で十分だろう!」


「はいはい行きますよムチムチさん」



何を想像してるのか想像できるけど、訂正が面倒臭い。力尽くで連れて行く。



「な、なんなのだ、この入口の扉は……何者も絶対に逃がさないという強い意志を感じる……っ……」


「はいはいそうですね」



入口のドアはゴツイ。どんな物音も逃がさないという設計者の意図を感じる。


地下のホームシアターに入る。


約1ヶ月ぶりの入室だが、部屋は綺麗なままだった。ほこりは溜まっていないし、変な臭いもしない。


足元を見ると、ロボット掃除機がウィンウィン掃除しながら出て行った。彼はどうやって入室したんだ。最新式、ぱねぇ。



「なんだここ?なんだ?なんだこれ?」


「不思議な感じのする部屋なの。これがエイガの部屋なの?」


「そうだ。これが映画の部屋だ」



黒夫と魅雪は、物珍しそうにキョロキョロと部屋を見回していた。


大人の秘密基地的な部屋は、子供心を大いにくすぐっているようだ。



「な、なんと……地下室があるらしい事には気が付いていたが……よもや、このような部屋だったとは……」



ムチムチさんは、何かショックを受けたような顔をしていた。


少し残念そうに見えるのは、気のせいだろうか。気のせいだと信じたい。気のせいだと信じる。きっと気のせいだろう、多分。



「すぐ準備するから、適当に座ってて」



三人をソファに座らせる。自分はDVDラックから、本日の一本を選ぶ。



「……ヤバイ……どれがいいか、わかんねぇ……」



選ぼうとして、困った。みんなで見て楽しめる映画のチョイスが難しすぎる。


映画の趣味がどうとか、そういう話では無い。もっと根本的な問題として、異世界の住人が見て楽しめる映画がわからない。


当たり前の話だが、元の世界の映画は、元の世界の住人が見る事を前提に作られている。視聴者が基本的な常識や共通認識を持っている事が前提の作品が大半を占める。


フィクションもノンフィクションも、現代物も歴史物も、ファンタジーもSFも、キャラ物もオリジナル作品も、全く完全に予備知識が不要な作品となると、そうそう無い。


そこから更に、子供が見て楽しい作品となると、更に選択肢が減る。



「うーん……これ予備知識が無いと、アンパンって何って感じだしなぁ……」



子供向けの定番、某菓子パン頭のヒーローが活躍するアニメ映画。


想定客層が親子連れのためか、割と大人も見て楽しめる作りになっている。良作である。


良作ではあるが、キャラを知っているのが前提の作品なので、残念ながら今回の趣旨には合わない。


同様の理由により、某タヌキ型ロボット、某少年探偵、某怪盗三世、某電気ネズミ、某世界一版権に厳格なネズミ等の作品も却下。



「うーん……灰かぶり姫とか……いや、でもなぁ……これはこれで、全くの初見だと、ちょっと……」



子供向けの童話を映画化した作品が幾つかある。


こういう作品は、親に絵本を読み聞かせてもらって内容を覚えている子供が見て楽しめるように作られている。


言うなれば、原作ファンのための映像化作品の亜種。意外と初見向けでは無い。


童話が有名なので、普通は問題にならないが、今回に限っては問題になる。



「うーん……風の吹く谷……天空に浮かぶ城……世界観が結構SF風味だし……どっちつかずかなぁ……」



大人も子供も楽しめるファンタジー作品の定番だが、異世界の住人にファンタジーとSFが微妙に混じり合ったような舞台設定を理解してもらえるか不安だ。



「うーん……いっその事、完全に突き抜けたSF超能力物とか……いやこれ結構グロかったな、そう言えば……」



オリンピック開催の可否を予言している、とか一時期騒がれていた作品。


個人的には嫌いではないけど、子供と一緒に見て楽しめる作品ではない。


個人的には嫌いではないけど、巨大デコ助がグロい。



「うーん……設定やシナリオがわかんなくても、動きがコミカルで笑えるタイプの奴なら……」



散々悩んだ末に選んだ一本は、一つ目の黄色い小人の集団が暴れ回る3Dアニメ映画。


異世界の住人向けかと言われると微妙な気はするが、自分の知る限り、親戚のチビどもから一番受けが良かった作品がコレだ。


自分の感性より、子供の感性を信じる。



「まだか、ニンゲン?」


「まだなの、おじちゃん?」


「ちょい待ち。すぐセットするから」



ここまで本格的なホームシアターを使うのは初めてだが、この手の家電の使い勝手は大体共通だ。迷わずサクサク操作する。



「これでよし。始まるぞ」



間も無く、スクリーンに宇宙から見た地球の映像が流れ出した。



「あ、ちなみにこれ、俺の故郷の世界ね」


「この丸いのが!?嘘だろ!?」


「すべり落ちちゃうよ!?」


「こんな世界に平気で住めるとは……やはり尋常では無い……っ……」



なんか誤解が深まった。


ちなみに映画は好評でした。


映画の寸評は適当です。

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