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46.電設のヒデオさん、思い当たらない。


黒夫と魅雪には、どこまで事情に気付かれているのか。夕飯を食べながら話しつつ探ってみた。


自分が異世界の人間である事は、バレてる。


勇者として召喚された事は、バレてない。


その他にも、こちらの事情の大半はバレてない。


そもそも、あまり気にしていないようだ。より正しく言うなら『気にしないようにしてくれている』と言うべきだろうか。




こんな土地にやって来るのは、訳アリの者に決まっている。


詮索不要。そうでなければ共同生活などできない。黒夫も魅雪も、本能的にそれを察している。


全くの赤の他人で、種族すらも違う者同士が今日まで一緒に暮らせていたのは、きっとそのおかげだ、多分。



「……しっかり準備しないとなぁ……」



ある意味、フェアがダウンして良かった。


もしフェアが健在なら、あの時、あのまま帰っていただろう。


そうならなくて本当に良かった。






フェアが復帰するのは、明後日の午後。


フェアが復帰してからでなければ、できない準備もある。復帰して即出発、とは行かない。


出発は早くても3日後以降になるだろう。


だから、今からソワソワしても意味は無い。そんな事はわかっている。



「……眠れねぇ……」



頭では、わかっている。


わかっていても、ソワソワする。


気が逸ってしまって落ち着かない。何度寝返りを打っても寝付けない。



「……………………」



帰れる。ついに、帰れる。やっと、帰れる。自分の世界に、帰れる。そう思うと、どうしても落ち着かない。


夕食後、すぐにベッドに入ったのだが、全然眠れない。


眠れずにいると、部屋のドアが軽くノックされた。



「……ヒデオ殿?もう寝てしまったか?」


「起きてますよ」



ムチムチさんだった。


返事をすると、おずおずと入口から顔をのぞかせた。



「夜分遅くにすまない。貴殿と少し話がしたくてな。今、良いだろうか?」


「ええ、いいですよ。どうぞ」



どうせこのままでは眠れそうにない。ある意味、丁度良かった。


ムチムチさんが部屋に入ってくる。


芋ジャー姿だ。変な話では無いらしい。立つ鳥跡を濁す気は無いが、少し残念な気がする。


ビキニアーマー白衣、もう一度見たい。帰る前にリクエストしたら、着てくれるだろうか。拝み倒して頼み込んだら、いけそうな気がする。


夜中のテンションで、変な思考が脳裏に浮かぶ。頭を振り、邪念を振り払う。


もうすぐ帰るからって、旅先に恥を不法投棄してはいけない。


ムチムチさんにはイスに座ってもらい、自分はベッドに腰かけて対面した。



「本当に、こんな時間にすまないな、ヒデオ殿」


「いえ、まだ寝る前でしたし、全然大丈夫ですよ」


「前もって聞いておきたい事があったのだ。明日でも良いとは思ったのだが、どうにも、こう、気が急いてしまって、目が冴えてしまってな……。貴殿の故郷に行くのは2日後なのにな」


「ああ、2日と言うのは、準備も何もしないで帰る場合ですよ。実際には色々準備もありますし、もう少し余裕を持った日程にするつもりでいます。実際に出発するのは、もう少し先です」


「そ、そうなのか?何だか私ばかり気が急いているようで、恥ずかしいな……」



ムチムチさんは顔を赤らめ、うつむいた。


美人さんのこういう仕草、グッとくる。血液が集中してググッとくる。


思考がイケナイ方向に流れそうになった。理性が危ない。



「事前の確認は大事です。早く確認しようとするのはいい事です。恥ずべき事など何もありません」


「そうか。そう言ってもらえると、気が楽になるよ」



真面目な話で理性を立て直そう。


実際、真面目な話をするべき場面だ。



「私がいなくなれば、フェアもいなくなりますし、この家での生活に支障が出ますからね。今後の事が不安でしょうし、早目に確認したくなるのはわかります」


「……んっ?」


「でも安心してください。ちゃんと準備はしていきます。水や食料はできるだけ備蓄しておきますから、いなくなっても、しばらくは普通に生活できるはずです」


「……んんっ?」



不安を和らげようとして言ったのだが、ムチムチさんの表情が微妙に良くない。やはり、そう簡単に不安は消せないようだ。



「ソーラーパネルがありますから、電気は心配いりません。冷蔵庫に食料を詰められるだけ詰めておけば1週間分くらいにはなるはずです。……いや、いっその事、冷蔵庫を増やすのもアリでしょうか。まあ、その辺の事も色々考えて準備しますよ。だから安心してください。ムチムチさん」


「んんんんんんんんっ?」



不安を和らげようとして更に言ったのだが、更に表情が微妙になった。


ムチムチさんの事だから、一番の不安は食べ物関係だと思ったのだが、外れていたらしい。


では、一体何がムチムチさんを不安にさせているのか。


少し考えて、ある一つの可能性に思い当たった。



「あ、そう言えば、忘れてましたね、プリン・ア・ラ・モード。安心してください。いなくなる前に、ちゃんとお出ししますよ」


「ち、ちょっと待ってくれ、ヒデオ殿!」



プリン・ア・ラ・モードの話をすると、ムチムチさんが急に取り乱した。


一瞬、何故なのか、わからなかった。


ここで一つの可能性に思い当たった。



「……もしかして、いらないんですか?プリン・ア・ラ・モード」


「い、いや、それは食べる!食べるが!そうではない!」



魔法陣の設計変更をしていないから食べられない、とか言い出すのかと思った。


生真面目な人だから、そういう事を言い出しかねないと思ったのだが、どうやら違ったようだ。


ここで更に別の可能性に思い当たった。



「安心してください。ちゃんと黒夫と魅雪の分も出します。みんなで食べましょう、プリン・ア・ラ・モード」


「おお、皆で食べるのか。それは良いな。……って、プリンの王様の話はもう良い!」



これも違ったらしい。


おかしい。食べ物関係でもプリン関係でも無いとしたら、他に何があると言うのか。


それはそれとして、全員でプリン・ア・ラ・モードを食べるのは決定事項にしよう。こちらの世界の最後の思い出に、全員で何か特別っぽい事をするのは悪くない。


送別会の代わり、なんて言ったら大袈裟だろうか。送られる側が準備する送別会とか、ちょっと悲哀を感じるけど。



「私は!貴殿の故郷の話を聞こうと思って来たのだ!」



プリン・ア・ラ・モードの話を打ち切られたと思ったら、なんか全く予想外の話が出た。


この人、元の世界には興味が無いのだとばかり思っていた。


こちらの世界の住人から見れば、自分こそが異世界人で、元の世界こそが異世界。興味を抱いてもおかしくはない。


しかし、自分が異世界人だという話をしてから今日まで、ムチムチさんは異世界関係の事を特に何も聞いてこなかった。


魔法陣を調べるのに集中していて、私語を控えていただけなのだろうか。



「そうだったんですか。どんな話をしましょうか?」



いざ元の世界の話をしようとして、何を話すべきか迷った。


ムチムチさんが何に興味を抱くのか、思い付かない。


食べ物関連くらいしか思い浮かばないが、話のネタが無い。


自分は簡単な自炊ができる程度で、料理人では無いし、美食家でも無いし、あまり詳しくない。


この家で食べている食材は、元の世界の食材と、味や見た目は同じもの。この場で話すのは今更な気がする。



「貴殿は、その……、故郷の世界に帰る、のか?」


「えっ?そりゃ帰りますよ」



何を話そうか迷っていたら、妙な事を聞かれた。



「ほ、本当に、その……、か、帰る、のか?ほ、本当に?」


「……あの、一体どうしたんですか?そんな事を聞いてくるなんて。魔法陣の改良を手伝ってもらってましたし、わかってましたよね?」


「そ、それは、わかっていたが……、わかってはいたのだが……、何か思い違いをしていたのではないかと、急に不安になって……」


「思い違い?何をですか?」


「それは、その……、あー、うー、その……、な、何と言えば良いのか……」



嫌な予感がする。こういう態度の時、大体碌な事を言わない、この人。



「き、貴殿は……、も、もしかして……、ひ、ひとりで、帰る……のか?」


「えっ?違いますけど?」


「……へっ?ち、違うのか?ひとりで帰るのではないのか?」


「違いますよ、そりゃ。一人な訳無いでしょう」


「そ、そうか。よ、良かった……」



嫌な予感がした割には、普通の事を言われた。なので、普通に返事をした。



「そうなのか。なんだ、そうなのか。私は、てっきり――」


「フェアと二人で帰りますけど、それが何か?」


「……っ……」



普通に返事をしただけなのに、何故かムチムチさんは泣きそうな顔をした。



「何故だ!?」


「何故、と言われましても……。改めて言いますけど、フェアは連れて行きますよ?二人で帰ります」


「……っ……」


「そりゃ確かに、フェアがいなくなると、ここでの生活は大変になると思いますけど。この家に置いては行けませんよ」



以前にも、話をした。


ついさっきも、話をした。


誤解の余地は無かったはずなのだが、誤解されていたようだ。


もしかしたら、フェアが頼りになりすぎるせいで、フェアがいなくなる事を想像できなくなっているのかもしれない。


例えるなら、電気のある生活が当たり前になった人間には、電気の無い生活が想像できない、みたいな感じだろうか。


気持ちは、わからなくはない。自分自身、フェアがいなかった頃の生活が思い出しにくくなっている。


フェアに頼らない生活。自分も、帰ったらリハビリが必要である。割と本気で。


無人の荒野ならともかく、人間社会の中をフェアは連れて歩けない。もしそんな事をしたら、いい歳こいてお人形さんを持ち歩く危険なお兄さんだと思われてしまう。


世間様から白い目で見られるのは、もう嫌だ。



「違う!そうではない!き、貴殿は、その……、わ、私を……、お、置いていくつもり、なのか?」


「えっ?置いてくって……。そりゃあ、まあ、そうですけど」


「何故だ!?何故、置いていくのだ!?」


「何故、と言われましても……」



奇妙な事を言われた。


置いていくも何も無い。この人は、こちらの世界の住人だ。元の世界に連れて行く道理が無い。


袖触れ合うも他生の縁。たまたま人命救助する事になった縁で、たまたま共同生活していた。


ここでの共同生活は、異世界で生活しているとは思えないほど心地良いものだった。


共同生活は悪くないものだったが、だからと言って、元の世界に連れて帰るという話にはならない。それとこれとは、また別の話。


例えるなら、避難所での共同生活や、病院の相部屋での入院生活など、そういうものに近い。


あくまでも一時的なもの。そこでの出会いや交流も、基本的には一時的なもの。


事件、事故、災害等の突発的な事態により、それまで無縁だった世界の人と、思わぬ場所で出会う事がある。そこで出会った人と、たまたま馬が合ったとする。その人との付き合いは、日常生活に復帰後も続くだろうか。


人によっては、続くと言う人もいるかもしれない。でも、自分はそういうタイプでは無い。


馬が合っても合わなくても、その場限りの人間関係は、その場限りで終わる。


その場であれば、奇縁によって出会った者同士、助け合い、協力し合い、励まし合いもする。良い思い出になる事もあれば、悪い思い出になる事もあるかもしれない。いずれにせよ、その場で完結する話である。


非常時に出会った人を、日常生活の自分の家に招いたりはしない。少なくとも今までの人生で、そういう事をした事は無い。


住む世界が違う人とは、違う世界で生きるのが普通である。



「私も連れて行ってくれ!」


「えっ、ダメですけど」


「何故だ!?」


「何故、と言われましても……」



思わず反射的に言ってしまった。


超絶美人のエルフを連れて帰るとか、トラブルの火種になる気しかしない。


耳を隠し、種族を隠し、出身を隠しても、どうにもならない。この人は、素で美人すぎる。誤魔化しようが無い。本人の望むと望まざるとに関わらず、人間社会では平穏でいられない。


変態ストーカー男に粘着される未来が見える。粘着されてエルフだとバレる未来が見える。それが嫌なら、絶対に誰にも見られないよう、地下室に監禁でもするしかない。



「……………………」



それもアリかも、とか思ってません。


ある意味、まさに今の生活が事実上の監禁のような気がしないでもないけど、それは一旦脇に置く。


ともあれ。元の世界では、自分は平凡なサラリーマン。現代社会で発生するエルフ関連のトラブルとか、平凡なサラリーマンの手には余る。




こちらの世界において、自分はある意味、無敵の人だ。


勇者級の身体能力でゴリ押しすれば、大抵の厄介事は粉砕できる。


フェアがいれば、不足しているものを補う事もできる(ただし塩は除く)。


最悪、何もかも捨てて逃げてしまえば良い。


こちらの世界なら、それができる。良くも悪くも、自分にとっては、よその世界だ。だからこそ、それができる。




元の世界に帰ったら、自分は無敵の人では無い。


現代社会で問題に直面しても、身体能力でゴリ押し解決なんてできない。


フェアがどうなるのかは未知数だが、公共の場や人前では頼れない。


そして何より、何もかも捨てて逃げる事はできない。


自分の世界だからこそ、逃げられない。自分の世界で、地に足を付けて真っ当に生きようとすれば、安定と不自由はセットでついて来る。


会社の方は約2ヶ月無断欠勤でクビになってそうな気がするので、そういう意味では無敵の人の同類だが、無敵度には大きく差がある。比較にならない。



「だったら!だったらどうして!私にあんな事を言ったのだ!」


「……あんな事?あんな事って、どんな事?」


「絶対に逃がさないって言ったではないか!」


「えっ、何それ」



変態ストーカー男が言いそうな台詞である。あるいは、DV男か。


そんなヤバイ台詞を女性に言うようなタイプの男ではありません。


心の中で思う事は、まあ無くは無い。一般的に、成人男性の想像力は制御不能なので、美人さんに対して色々と思ったり考えたりはする。でも、声には出さないし、実践もしない。


現在の生活状況で、この人に変な事を言ったりヤったりするのは、避難所で被災者の女性に不埒な真似をするに等しい。そんな事をしない程度の分別はある。


自分には『絶対に逃がさない』なんて言った記憶は無い。思い当たらない。



「あの、それ、何かの間違いなのでは……」


「っ、間違いだと!?酷い男だ!私をその気にさせるだけさせておいて!あんまりだ!あんまりだぞ、ヒデオ殿!」


「あの、本当に覚えが無いんですけど……」


「き、貴殿があまりにも真剣に、ぜ、絶対に逃がさないって言うから!逆に、こっちが絶対に逃がさないくらいの気概で受けて立とうと思ったのに!」


「ええっ……」



何故そうなる。


絶対に逃がさないって言われて、逆に絶対に逃がさないって、何をどうしたらそういう結論になるのか。謎だ。



「わ、私は!これでも覚悟を決めていたのだぞ!貴殿が故郷に帰るなら、それがどのような所であっても!たとえ魔族と呼ばれ迫害の対象になろうとも!ついて行こうと!そう覚悟していたのに!」


「ええええっ……」



なんか凄い覚悟を聞かされた。



「故郷に戻れば、貴殿は正体を現し、豹変するかもしれない!き、貴殿に、ど、どのような、は、辱めを受けるかもしれない!しかし、どのような扱いを受ける事になろうとも!ついて行こうと!そう覚悟していたのに!」


「ええええええええっ……」



なんか更に凄い覚悟を聞かされた。


この人、なんでこんなに覚悟完了してるのだろうか。


そんな覚悟をさせるような事をしたのかと、これまでの事を思い返してみた。


特にこれと言ったものは、思い当たらなかった。




自分は一応、恩人ではある。衣食住の面倒も見ている。それに対して、恩を感じているのは知っていた。


衣食住に関しては、実際にはフェアが創造している訳だが、この家に住まわせる判断をしたのは自分なので、一応恩人と言えなくもない。


恩人に対して、恩を返そうと思い、恩を返すために行動しようとするのは、わからなくはない。


しかし、それとこれとは話が別だ。全く別の話だ。


恩人に恩を感じるのと、迫害されてでも恩人について行く覚悟を決めるのは、全然別物だ。むしろ同じだったら怖い。


自分がムチムチさんにした事なんて、ちょっと呼吸が停止していたのを復活させて、血塗れになっていた体を綺麗にさせて、傷が完全に癒えるまで安静にさせて、傷が癒えた後も家に住まわせて、衣服と食事と寝床を提供して、連れの子供達も一緒に生活できるようにして、この家に来る事になった経緯を問い詰めたりしないようにして、ただ受け入れていただけの事である。


たかがその程度の事で、どうして覚悟完了する事になるのか。


本当に『たかがその程度』である。何かと自然災害に見舞われる事の多い災害大国では、人工呼吸も、重傷者の収容も、生活困窮者に一時支援を行うのも、子供を保護するのも、PTSDが発症しないように事情を問い詰めないのも、珍しくない。いや、珍しい事は珍しいけど、ありふれた珍しさである。


たかがその程度の珍しさより、覚悟完了する人の方が珍しい。普通なら、少しばかり恩人に恩返しをする、くらいが妥当だろう。


うちの場合は、見返りに書類仕事をしてもらっていた。ギブ・アンド・テイク、それで収支トントンになっているはずなのだけど。



「……あ、もしかして、これ……ストックホルム症候群みたいな奴か……?」



一つだけ、思い当たる事があった。


この家の生活環境そのものが悪い可能性がある。


生物の無意識の自己防衛反応の一種として、長期間ストレスを受け続けると、ストレスを快楽に変換しようとする精神の働きが起こる。


受けているのはストレスではなく快楽なのだと自己の認識をすり替える事によって、精神が壊れるのを防ぐ。


精神が壊れるよりは歪んだ方がまだマシ、というタイプの自己防衛反応である。




ここは無人の荒野ではあるが、一応、人間の王国の領土内にある。魔族が隠れて生活するには強いストレスがかかる環境と言える。しかも家主は人間の男性となれば、更にストレスだろう。


ムチムチさんの父親は人間のクズ男らしいという話を聞いている。表面的には平気そうにしていても、人間の男性に対する潜在的な嫌悪感はかなり強いはず。この手の感情は、一度根付くと、理屈では解消できない。好き嫌いは理屈を超える。


潜在的ストレス環境下で、約1ヶ月にも及ぶ事実上の監禁生活を続けたせいで、本人も無自覚の内に、精神に変調をきたしている可能性はある、多分。




自分は心療内科の医師では無い。


精神を治療する方法など知らない。


思い付くのは、精々、心安らかな環境で安静にするくらいだろうか。



「いいんですよ、ムチムチさん。いいんです。私がいなくなった後、気兼ね無く休んでくださいね」


「何の話だ!?」



身体の負傷と違い、精神の負傷は目に見えない。場合によっては、本人すら精神の負傷を知覚できない。


時間をかけて心を癒やし、完治して初めて、過去に負傷していた事をようやく自覚できるようになる。そういう人もいると言う。


人間の男性である自分がいなくなれば、その内、自然に傷は癒えるだろう。


自分にできる事は、一刻も早くいなくなる事だけだ。


自分で言ってて凹むが、しょうがない。



「出発はなるべく早くします。安心してください」


「何をどうしたらそういう結論になるのだ!?」



ムチムチさんは、まだ混乱しているようだった。


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