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28.電設のヒデオさん、案内される。


ムチムチさんは無事に穴から引っ張り出された。


全員揃ったところで移動しようとしたら、スラムの少年に待ったをかけられた。



「おい、あんたら、そっちはダメだ。ドンの縄張りだぞ」


「お構いなく」


「そーいうワケに行くか。ここにはここのオキテってモンがあんだよ。よそ者に荒らされちゃタマんねーんだ」



少年は嫌そうに眉をひそめながら、右手を差し出してきた。



「安全に通れる道、教えてやってもいいぜ。カネくれんならな」


「……………………」



胡散臭い。超胡散臭い。


こちらには真偽不明の危険を忠告しつつ、解決策をチラつかせながらお金を要求する。話の流れが霊感商法系の手口そのまんまである。


全く信用ならない。だが、ここで下手に少年の言い分を無視して、更に面倒事を引き起こすのは避けたい。


防壁のせいでよく見えないが、すでに日が出ているはずだ。早く安全にスラムを抜けたい。


少年の言葉に従うべきか否か。


しばし逡巡していると、服の裾を引っ張られた。



「義兄様、こいつ嘘言ってない」


「……そうか」



黒夫がそう言うなら、信用しても大丈夫だろう。


平和ボケ国家で生まれ育った自分の勘よりは、黒夫の方が信用に足る。



「案内料が後払いでもいいなら、案内してもらえますか?」


「えー、後払いかよ。そんなこと言って、踏み倒す気じゃねーだろーな?」


「そんな気はありませんよ。ただ、残念ながら、今は手持ちが無くて」


「まさか、おっちゃんカネねーの?」


「お金はありませんが、金目の物は持っています。それを街中で売ってお金を作るつもりだったんですよ。案内ついでに、できれば質屋まで連れて行ってもらえると助かるんですが」


「シチヤ?誰それ?」


「はい?この街、質屋無いんですか?手持ちの品を売れる店なら何でもいいんですけど。古物商とか、買取屋とか、とにかくそういう店、ありません?」


「あー、買い取りなら、シャイ爺ちゃんトコとかいいんじゃねーかな。シャイ爺ちゃん、大体何でも買い取ってくれっからな。たまにイジワル言うけど」


「それでは、そこまで案内をお願いできますか?」


「いいぜ、こっちだ」



少年はうなずくと、先に歩き出した。



「……やったぁ。朝からメシのタネが手に入るなんて、今日はすっごくツいてるなぁ……」



先に歩きながら、小さくガッツポーズしていた。


本当に大丈夫なんだろうか、これ。






大丈夫じゃなかった。



「狭っ……。この道で本当に合ってるんですか?」


「心配すんなって。ここいらはオイラの庭みてーなモンだぜ。バッチシ案内してやんよ」



建物と建物の隙間。猫の散歩道のような狭小の路地裏だった。


子供ならそこまで苦も無く通れるかもしれないが、大人が通るのは厳しい。


厳しいけどギリギリ通れなくもないというギリギリ具合が絶妙にいやらしい。



「他に道は無かったんですか?」


「そりゃーあるにはあるけどさー。ここがゼッテー安全なんだよ。ドンの手下もここまでは入ってこねーからな。あいつら無駄にデケーのばっかだし」


「……入ってこないのはいいんですけど、出口で待ち構えられたらどうするんですか?」


「……し、心配いらねーって。そーいうの、今まで一度も無かったし。ヘーキヘーキ」



案内役の少年を先頭に、自分、魅雪、黒夫、ムチムチさんの順番で、古式ゆかしいRPGの勇者パーティよろしく一列進行。


体を横に傾けなければ通れないくらい狭いので、動きの自由はほとんど無い。出入口を塞がれたら詰む。


ちなみに、フェアは左肩に座っている。狭い道を苦労して進む中、フェアはいつも通りのニコニコ笑顔だった。



「ま、待ってくれ。も、もう少し、ゆっくり進んでくれないか」


「何やってんだよ、姉ちゃん」


「んもう!お姉ちゃん遅いの!早く、早く、早く!」



中肉中背の成人男性の平板状の胴体は、ギリギリ引っ掛からない。


丸みを帯びて凹凸のハッキリした大人の女性の胴体は、ギリギリ引っ掛かる。


ギリギリ具合が絶妙にいやらしい。進行スピードが上がらない。




前向き思考だ。こういう時こそ前向きに考えよう。


物理的に自由度が小さく、低速でしか移動できないという事は、迷子になる危険性が大幅減という事だ。


列の前後を自分とムチムチさんで挟んでいるので、いくら黒夫と魅雪の身体能力が高くとも、この状況で迷子はさすがにあり得ない。


急ぎすぎて迷子が発生するよりは遥かにマシだ。



「……案内はもう少しゆっくり目でよろしく」


「りょーかい」



予定では、塩の買い出しは日暮れまでに済ませればいい。時間はある。






狭い道をジリジリ進みがてら、案内役の少年から街の話を幾つか聞かせてもらった。


現在、この街の裏社会は三人の大物によって牛耳られているらしい。


貧民窟に根城を構える無頼漢『ドン』


歓楽街を取り仕切る総元締め『マダム』


救貧院を隠れ蓑にする守銭奴『ババー』


そして、そんな三勢力の隙間を縫うように活動し日々の糧を得ているストリートチルドレン達。そのリーダー格が『チンクシャ』である。



「何を隠そう、このオイラこそが第317代目チンクシャだ。スゲーだろ」


「あ、はい」



見た目はヒョロガリって感じの少年は、チンクシャらしい。


襲名性なのか、チンクシャ。


第317代という数字が物凄く胡散臭い。




この街は、裏社会の悪影響がかなり表側にも出ていて、あまり治安が良くない。


殺人と麻薬は表裏共にタブー扱いだが、それ以外の犯罪の取り締まりは緩い。三勢力の構成員が何か問題を起こしても、捕まらなかったり、捕まっても翌日には無罪放免にされている事がまれによくある。


三勢力の内、一番勢力が大きいのは『ババー』の一派。表向きは救貧院を中心に慈善活動を行っている事になっている。実際には、人身売買、盗難品の売買、禁制品の売買など、取り扱いの難しい商品を売りさばいて儲けている。一番の目玉商品は子供。躾を施した孤児が売れ筋。


二番目に勢力が大きいのは『マダム』の一派。大人向けのお店の経営自体は真っ当で良心的。ただし、合法的な商売を通じて入手した情報や人脈などを駆使する手腕はエゲつなく、多方面に顔が利く。玉を握られて逆らえないお偉いさん方も多い、とか何とか噂があるらしい。あくまでも噂です。


三番手に甘んじているのが『ドン』の一派。典型的なワンマンで、力に物を言わせて荒くれ者どもをまとめ上げて台頭してきた。しかし、ここ最近は勢いが落ち気味。他勢力からの金と色による切り崩し工作で骨抜きにされた構成員が増えていて、上も下も神経質になっている。



「……あの、王国の法律では一応、人身売買は重罪のはずなんですけど、殺人並に」


「ほー?そーなのか?でもババーは気にしてねーみてーだぜ?」


「そりゃあ法律を気にするような人は売り手にならないでしょうけど。実際に売られた人達が被害を訴えたりしないんですか?」


「さー?ババーのシツケが行き届いてんじゃねーの?ホントあそこだけは捕まったらマジヤバそーなんだよなー。捕まったきり帰ってこねーヤツばっかだし。助けに行ったヤツも帰ってこねーし」


「衛兵は動かないんですか?かなり派手にやっているようですが」


「あー、なんか薬で言うこと聞かせてるらしーぞ」


「薬?麻薬はタブーじゃないんですか?」


「麻薬じゃねーよ。なんて名前の薬だったっけ……。確か、ハナグスリだったかな?」


「いや鼻薬て」


「特に北門にいる連中にはよくキくんだってよ。外に出荷する時は必ず北門を通り抜けるらしーぞ」


「……出荷、ですか。……衛兵までグルって事か……」



防衛の要所を守護する人員ですら、お金をもらって重大な犯罪行為を見逃す。それがこの街の現状である。


聞くだけで嫌になるほど腐っている。


この辺りの情報のほとんどは、自分が城で集めた情報には無かった。問題視もされていなかった。


巧みに隠されて知られていないのか。それとも、王国中で珍しくない事だから捨て置かれているのか。


どちらにしても、どうしようもない。


ちなみに、北門から続く主要街道を進んだ先にあるのが王都である。






雑談しながら猫の散歩道を進む事、しばし。



「よっしゃ。ここまで来れば、もー大丈夫だぜ」



ようやく、まともな場所に出た。


一般庶民が多く居を構える住宅地。貧民と言うほどではないが、中流には届かない、そこそこ貧しい家が多い地区。


細い裏道には小さな家々が密集し、店舗らしきものは一切見当たらない。



「それで、お店はどちらに?」


「すぐそこだよ。ほら、あれだ」



少年の指差す先にあったのは、一等ボロくて怪しい家だった。


見た目はほとんど魔女の東屋だ。胡散臭い。


周辺の家々もそんなに裕福そうには見えないが、そんな家々と比べるのが失礼なほどボロくて怪しい。



「な、何と言うべきか……。じ、実に趣きのある家屋ではないか?」


「あそこから変な臭いするぞ。何の臭いだ、これ……?」


「オンボロなの……オンボロなお店でお買い物するの……?」



三人の反応、すこぶる悪し。気持ちはよくわかる。


本当にあのボロ家に行くのか、今から。


帰りたい。


こちらの想いなど気にも留めず、少年はスタスタとボロ家に向かい、まるで我が家の如くドアを開け、ズカズカと中に入って行った。



「シャイ爺ちゃーん、死んだかー?」



開口一番、死亡確認してる。本当に大丈夫なのか、これ。



「こんな朝っぱらから大声出しとんじゃぁないっ!近所迷惑考えんかぁっ!」



やたら大声な老人が出た。悪いぬらりひょんのような皺くちゃの老人だ。後百年は死にそうにない。



「んん?なんじゃぁ、また来たんか、クソガキぃ。うちは盗品の買取はやっとらん言うたろうが。いねぃ」


「盗んでねーよ。アレは拾ったって言ってんじゃん。……って、そーじゃねーんだよ、爺ちゃん。今日は客を連れて来てやったぜ」


「客だぁ?」


「客連れて来てやったんだ。カネくれ」



少年、ちゃっかりお駄賃を要求。それを無視して、老人は皺の向こう側からギラリッとこちらに目を向けた。


やたら目力が強くて、一歩下がりそうになった。どうにか踏み止まった。


相手はスラムに近い場所に店を構えている老人だ。こちらがビビッた様子を見せれば、不当に安く買い叩かれるかもしれない。


舐められないよう気合を入れ直してから挨拶した。



「はじめまして。こちらで手持ちの品を買い取っていただけると聞いてきたのですが――」


「こんのクソガキがぁっ!厄介者を連れて来とんじゃぁないっ!」



挨拶は無視され、初っ端から厄介者扱いされた。



「なんと無礼な物言いか!そのような物言い、到底許せるものではないぞ!」


「……ちょっと大人しくしててください、理緒」



首から上を包帯でグルグル巻きにした不審人物を連れて来たら、そりゃ厄介者扱いされるわ。




悲しいかな、老人の気持ちは理解できてしまった。


こちらには事情があって変装しているのだが、こちらの事情など初対面の老人には関係無い。真っ当な感覚の持ち主なら、厄介者にしか見えないだろう。


とは言え、一応は客として来ている相手に、この態度はどうかとも思う。


これでよく客商売やってられるな、この老人。



「なんだよ爺ちゃん、別にいいじゃん。客は客だろー。このおっちゃん、なんか金目のモン持ってるって言ってたぜ」


「金目の物かぁ。そりゃぁ持っとるじゃろうよ。貴族のボンボンならなぁ」


「……へっ?き、貴族?爺ちゃん、何言ってんの?」


「大方、貴族のボンボンの気まぐれか何かで、街まで遊びにでも来たんじゃろう。家にある物を戯れに持ち出して、遊ぶ金欲しさに売ろうとしとる、とでも言ったところかのぅ。まったく、ぞろぞろと従者まで引き連れて来よってからに……」


「ひぇっ!?おっちゃん様はお貴族様だったのでございますですか!?」


「違います」


「な、なんだ、違うのか……。驚かすなよ、爺ちゃん」


「お前さんの目は節穴じゃのぅ、クソガキぃ。一目見りゃぁ、わかりそうなもんじゃがのぅ」


「……もしかして、マジで貴族なのか、おっちゃん?」


「違います」


「そ、そうだよな。おっちゃん、全然貴族っぽくねーもんな。全然偉ぶらねーし、なんか着てるモンもスゲー地味だし……。やっぱ違うって、爺ちゃん」


「本当にお前さんの目は節穴じゃのぅ、クソガキぃ」



老人の目は節穴だった。


なんか凄そうな風格を漂わせている老人だが、実は耄碌しているのだろうか。


人を見る目が無い老人であれば、身バレの危険が減るので、こちらとしては都合が良い。


よその店に行くよりも、どうにかここで押し切って、手持ちの品を売った方が良さそうだ。



「買い取っていただきたいのは、この品です。査定をお願いします」



問答無用。眼前に現物を突き付け、対応を迫る。


と言う訳で、通勤カバンから江戸切子を取り出し、カウンターらしき場所に置いた。


ガラスコップではない。江戸切子である。ある意味ガラスコップだけど。


最初は没個性なガラスコップを売ろうかと思っていたのだが、百均ショップで売ってそうなレベルの超没個性すぎる安物を質屋に持ち込むと逆に悪目立ちしそうな気がしたので、江戸切子に変更した。


フェアに食洗器から創造してもらったと言う意味では、ガラスコップも江戸切子も原価は同じである。素材も同じである。ガラスである、多分。


一口に江戸切子とは言っても、物によって価値はピンキリ。細工の複雑さやデザイン性の高さなどによって値段が大きく変わる。


今回持ち込んだのは、江戸切子としては比較的シンプルな品。かつて学生時代に祖父に贈った品とほぼ同等の品質。学生にとっては高価な品だが、学生が買える程度の安価な品である。


金策のために売る品として考えた時、高すぎても安すぎても目立つ。この品なら、あまり目立たない値頃感だろう。



「こいつぁ……。これだから貴族のボンボンって奴は好かんのじゃ。良い物に囲まれて暮らしとる癖に、物の価値っちゅうもんをまるでわかっとらん。まったく、こんな物を易々と売りに出しよってからに……」



ぶつくさ言いながら、老人は江戸切子を品定めする。


持ち上げたり覗き込んだり軽く叩いたりして品質を確認すると、店の奥へと引っ込んで行った。


こちらは仮にも客なのに、カウンターに放置である。いいのかこれ。


こちらを貴族のボンボンだと思い込んでいるはずなのに、対応が酷い。やはり耄碌しているのだろうか。


こちらの事情が老人にとっては無関係なように、老人が耄碌していようが何だろうが、こちらには関係無い。


お金さえ手に入るなら文句は無い。



「しっかし、こうして見ると凄い店だな、ここ」


「そこら中から変な臭いするぞ」


「変なのいっぱいなの」



暇潰しがてら、店内を見回す。


大体何でも買い取ってくれるらしい店内は、ほとんどゴミ屋敷一歩手前だ。


こんな機会でも無ければ絶対に踏み入らなかった異世界が、ここにある。


しばらくして、老人は手に何かを持って戻って来た。



「値上げ交渉は受け付けんぞ。文句があるなら、よそに行く事じゃな」



江戸切子の横に、金貨が1枚置かれた。


背中に冷や汗が流れた。



「ききき金貨!?こんなのに金貨出すの!?ついにボケたか爺ちゃん!?」


「ボケとらんわ、クソガキぃ」



マズい。非常にマズい。今更になって、致命的な問題に気が付いた。


お金の価値がわからない。




この世界に召喚されてから今まで、ずっとお金とは無縁の生活をしてきた。


城で生活していた時は、生活費は全額、向こう持ち。自分はびた一文払っていない。


城から脱出した後は、無人の荒野で自給自足生活。フェアがいれば生活費はタダだ。


城で受けた勇者教育の中には、お金に関する情報が無い。魔族と戦うのに不要な知識として省略されたのだろう。


城で集めた情報の中には、一応、お金に関する情報もあるにはある。だが、国家規模の事業収支に関する数字などがほとんどなので、この場では全く役に立たない。


街中での活動経費に関して、全く見積もり計算していない。案内料を支払い、塩を買い、宿に一晩泊まる予定なのに、予算を全然考えてなかった。


変装や迷子対策にばかり気を遣って、経費に対する意識がスッポリ抜け落ちるとか、我ながらマヌケすぎる。




王国における金貨の貨幣価値はどれくらいなのか。


辺境の物価はどれくらいなのか。


江戸切子1個に金貨1枚という交換レートは妥当か否か。


宿代や塩の値段はどれくらいになるのか。


この世界にはオリハルコンとかいう謎金属が存在している事実を確認している。元の世界とは金属その他諸々の市場価値が大きく異なる可能性がある。つまり、自分の金銭感覚は全く当てにならない。


黒夫、魅雪、ムチムチさんの三人に、人間社会の金銭感覚は期待できない。


案内役の少年は金貨を見て驚いているが、ストリートチルドレンの金銭感覚が一般的とは思えない。


こんな土壇場でお金の悩みを抱えるなんて、準備不足にもほどがある。本当にマヌケだ。



「……この金貨、改めさせていただいても?」


「好きにせい」



ひとまず金貨を手に持ってみた。


ただの時間稼ぎのつもりだったのだが、持った瞬間、違和感があった。



「……これが、金貨……?」



もうずいぶんと昔、孫馬鹿だった祖父が生前、大切にコレクションしていた金貨を孫に素手で持たせるという暴挙に出た事がある。


子供心に、お金の重みというものを感じた。


金貨は見た目以上に重いのだ、物理的に。


身近にある比重の大きい金属には、鉄、銅、真鍮などがあるが、金の比重はその倍以上。明確に一線を画する。


見た目は誤魔化せても、比重の大きい金属に特有の重量感は誤魔化せない。




改めて、手の中の金貨を観察する。


500円硬貨よりも二回りほど外径が大きく、かなり分厚い。


側面には、かすかなギザギザ。


表面には、人物の横顔らしき図柄。


裏面には、何だかよくわからない生物らしき図柄が描かれているようだが、輪郭がぼやけていて判然としない。


大きいサイズの割には、全体的に鋳造の出来が甘い金貨だ。


それに、所々に茶色いサビのようなものが浮いている。



「……あの、この金貨、本物ですか?」



見た目からして誤魔化しきれていない。これならまだ金貨チョコの方がよくできている。



「なんじゃぁ、新金貨は偽物の金貨とでも言いたいんか。さすが、貴族のボンボンは言う事が違うのぅ」


「……新金貨……?」


「じゃが生憎、この辺りでは旧金貨は扱っとらんぞ。貴族以外で手にする機会があるのは、王都に大店を構える大商人くらいじゃろうて」


「……………………」


「よそに行っても、どうせ新金貨しか出てこんよ。旧金貨は諦める事じゃな」



新金貨とか旧金貨とか、どういう事だ。


微妙に古ぼけて小汚い金貨なのに、これが新金貨なのか。


これで新金貨なら、旧金貨はどれだけ汚いんだ。


この世界の金貨、これでいいのか。



「……はい。これで問題ありません。買取お願いします」



なんか悩むのも馬鹿馬鹿しくなってきたので、そのまま受け取った。


老人の様子からして、一応、本物の金貨ではあるらしい。この街で使用する分には問題無いだろう。


どうせ塩の買い出しが終わったら、また無人の荒野に戻るのだ。金貨が高価だろうと安価だろうと、ケツ拭く紙より価値が無い。


悩むだけ時間の無駄だ。



「それなら、もうここに用は無いじゃろう。いねぃ、若造」


「あ、いえ、まだ用はありますよ」



老人が、犬でも追い払うように手を振る。本当によくこれで客商売できるな、老人。


変に感心してしまったが、老人の態度は別にどうでもいい。


カウンターに、追加で江戸切子を置いた。



「なぁっ!?一つでは無いんかぁっ!?」



いつから江戸切子が1個だけだと錯覚していたんだ、この老人。



「こ、これほどの品位の品が複数……寸分違わず同一形状じゃと……!?」



無駄に大声な老人の反応が無駄に大きい。それはさて置き。


カウンターの空いている部分に、どんどん江戸切子を置いていく。


とりあえず20個ほど置いたらスペースが無くなった。



「1個に付き金貨1枚ですよね。計算が楽でいいですね。買取お願いします」



自分にできる精一杯の愛想笑いを浮かべて言った。


老人は顔を盛大に引きつらせていた。


金貨の設定。


新金貨:金含有率10%未満。初期の鋳造は百年前。当時の勇者の横顔入り。

旧金貨:金含有率90%以上。上流階級が独占中。初代勇者王様の横顔入り。


額面上は同額の信用貨幣です。金貨1枚で一般家庭が数ヶ月生活できます。


街でお買い物の際には、そのままでは使い勝手が大変悪いので、両替商に頼んで別の貨幣に両替してもらいましょう。

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