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151.電設のヒデオさん、戻る。

ゲームで言えば、世界中をタライ回しにされてスタート地点に戻って来るタイプのお使いクエストが好きです。


「姉ちゃんが嬉しそうにしてると、オレも嬉しい。……でもいきなり結婚ってどういう事だ、ニンゲン!」


「おじちゃんのスケコマシ!女の一大事なんだから、もっと時間かけてジックリ事を運ばなくちゃダメなの!一足飛びに行きすぎなの!」


「ええい、昨日の事をいつまでもチクチクチクチクと。小姑かよ」



荒ぶる子供達が止まらない。


無言じゃなくなったのは良かったけど、いまだにド突いてくる。鬱陶しい。



「大体、お前達も外堀を埋めるのに協力してたじゃねえか。文句無いだろ」


「「それとこれとは別!」」


「なんでや」



理不尽だった。


まあ子供なんてものは存在そのものが理不尽の塊みたいなものなので、ある意味、平常運転ではある。子供に理屈は通用しない。


ただ、今はこれじゃ困る。



「ほらもう静かにして。動くと写真ブレるぞ」



どうしても大人しくなってくれないので、最後は実力行使。


強引に押さえ付け、子供達の動きを無理矢理止めた。



「ど、どこ触ってるにゃーっ!?」


「そこはまだダメなの!おじちゃんのスケベ!」


「だから静かにしろって言ってんだろうが!少しは言う事聞け!」



パシャリッ。


カメラのシャッターが切られた。


タイマーによる自動撮影。子供達が動いてても無慈悲に撮影実行。



「ああもう、こんなに暴れてたんじゃ撮り直しだろ……」


「あら、意外と綺麗に写ってますわよ。なんちゃら補正とかいう機能かしら」


「えっ?……あ、マジだ。ちゃんと撮れてる。あんなに動いてたのに」


「最新式は伊達では無いのです。ますたー」


「……やはり魔力を感じない……どういう仕組みで動いているのだ、これ……」


「一瞬で絵が浮かぶとは、何度見ても面白い仕掛けじゃのぅ」



カメラの液晶パネルを見てみたら、ほとんどブレてなかった。姿勢は少し崩れているが、その程度はご愛敬だろう。


メーカーの企業努力は、個人の技量に勝る。最新の補正機能、パネェ。



「これが最後の一枚であるな?もう良いか?」


「ああ、悪かったな、無理に付き合わせて」


「構わぬ。我は寛大である」


「「ワタシ達ハ業務ニ戻ラセテイタダキマスー」」



集合写真が無事に撮れた事を確認すると、みんなバラけて行った。




前回の出発時には、写真を1枚も撮っていなかった事に気付いて、ゴタゴタしてしまった。


二の轍は踏まない。この家に帰って来てから、日常の風景を意識して小マメに撮っていた。数日分だけだが、結構枚数がある。


ただ、全員が写っている写真は無かったので、改めて撮影した。


人間1名。妖精1名。魔族3名。魔物3体。メイドロボ2体。こうして写真に撮って見返すと、大所帯である。



「……ファインダー越しだと完全にコスプレだなぁ……行方不明中にどこで遊んでたんだって言われそう……」



人間は自分だけ。モブ顔なのも自分だけ。


美形揃いなのも相まって、非日常感の強い集団である。所帯染みた背景とは妙に浮いていているが、これも一つのこの家らしさだろう。


集合写真はカラー印刷し、1枚は通勤カバンに入れ、1枚はリビングに飾った。



「これで良し、と。フェア、他に何かする事あったっけ?」


「いいえ。ありません。ますたー」


「うん。そっか。……それじゃあ、そろそろ出発するかぁ……」



フェアが無いと言うなら、きっと大丈夫だろう。多分。




家の外に出て、世界を渡る絨毯を広げる。


見慣れないものが付いていた。



「……ねえ、フェア。ちょっと聞いていい?」


「はい。何でしょうか。ますたー」


「……なんか、座椅子みたいなのが付いてんだけど。どしたの、これ?」


「大規模メンテナンスに並行して改良を実施しました。ますたー」


「……ああ、そうなのね。うん。ありがとね、フェア」


「えへへー」



4シート増設。折り畳み式。


この絨毯、4人乗りになったらしい。


本当は自分の方から頼まなければいけなかったのに、頼まなくても先回りして仕事してくれるとか、さすがはフェアである。さすフェア。



「はーい。出発しますよー。みんな乗ってー」



運転席っぽい位置のシートに座り、三人に呼びかける。


三者三葉で座った。



「ふん。オレは別にニンゲンのふるさとに行きたい訳じゃないぞ。ニンゲンがどうしてもって言うから、ついてってやるだけなんだからな」


「はいはいわかったわかった。……まあ実際、俺が連れて行きたいから、連れて行くだけだしな。その代わり、できるだけ責任は取るよ」


「せ、責任!?どういう意味にゃ!?」


「何か嫌な事とかあったらすぐ言えよ?何とかするから」


「あ、責任て、そういう……。ふん!ニンゲンなんかに頼るもんか!」


「いやそこは意地張るなよ。変に我慢したりしなくていいからな」



黒夫、まだご機嫌斜め。それでも大人しく座った。


ランダム転移の心配はしなくても済みそうだ。



「おじちゃんのふるさと、楽しみなの。ドキドキわくわくなの」


「そんなに期待してもらえるほど楽しい所じゃないんだけど……」


「くふふっ。ボクが勝手にドキドキしてるだけなの。気にしなくていいよ、おじちゃん」


「気にするなって言われてもね……何か考えとくか……」



魅雪、機嫌回復。よほど楽しみらしい。


あんまりハードル上げられても、それはそれで困る。


できれば人混みは避けたかったが、買い物にでも行けば喜んでもらえるだろうか。デパ地下とか、アウトレットモールとか。



「……ヒデオ殿の故郷……ヒデオ殿の親族と挨拶せねばならないだろう……気合を入れねば……っ……」


「いや何の心配してんですか……。一応言っときますけど、うち普通の中流家庭ですからね。旧家名家とかじゃないですし、一族の長の家とかでもないですし、それに、私もう成人して家出てますから、別に無理して会わなくてもいいですよ?」


「何を言っているのだ、貴殿は。そういう訳にも行くまい。何しろ私と貴殿は、その、つまり、あれだ。け、けけけ、結婚するのだからな!親族への挨拶は大事だろう!」


「そりゃまあそうですけども」


「挨拶に失敗し『貴様のような小娘に、大事な息子はやらない』などと言われたくはないからな。やはり今から気合を入れておかねば!」


「……心配するトコ、ズレてんだよなぁ……」



ムチムチさん、明後日の方向に緊張してた。


自分としては、世間に身バレして危険な目に遭う可能性などを心配して欲しいんだけど、そっちは全く気にしていないご様子。


相変わらず、危機感が迷子な人である。



「……まあ、なるようになるか……なるよな、多分……なるといいなぁ……」



やっぱり三人を連れて行くのには不安がある。


それでも、一緒に行く。


自分はもう、この三人と別れて過ごす生活を想像できない。異世界に召喚されたせいで、自分はそういう人間に変わってしまった。変えられてしまった。


全ては異世界に召喚されたせいである。自分を異世界に召喚した連中が悪いのである。だから自分は悪くない。



「フェア。準備お願い」


「はい。ますたー」



運転席っぽいシートに座ってるけど、当然、運転しません。


いつも通り、世界を渡る絨毯の運転は、フェアにお任せである。


声をかけると、フェアが機械の部分に手を添えた。


身体が光の粒子となり、吸い込まれていく。



「おおっ!?何それ凄ぇっ!?」



体格は人間サイズになってリアルになったが、現象はファンタジー感が増した。



「多次元時空間変位航行機、起動しました。ますたー」



機械から可愛い声がして、3Dホログラムが浮ぶ。


こっちは以前と同じ妖精サイズだ。可愛い。


大きくても小さくても、フェアは変わらず可愛い。



「ますたー。移動先を指定してください」


「俺が召喚される前の所に戻りたいから、そこでお願い」


「はい。召喚される前の所、承知しました。座標情報を入力しました。ますたー」



行先を告げると、絨毯の周囲に虹色の薄膜が形成された。



「時空歪曲面を形成しています。航行中は危険ですので、手や顔を外に出されませんよう、ご注意ください」



いよいよ出発だ。



「行くのじゃな。皆、息災での」


「縁があれば、いずれまた会う事もありますわ。どうかお元気で」


「汝らの行く末に、幸あらん事を祈る」


「いってらっしゃ~い」


「「イッテラッシャイマセー」」



家の外まで来て、お見送りしてくれました。


下手な人間より律儀だ。



「これより移動を開始します」


「「「「いってきます」」」」



魔物とメイドロボに見送られながら、視界は白く染まっていった。






ガツンッと強い衝撃。



「あ痛ぁっ!ケツが割れるっ……!?」



今までの転移では感じた事の無い衝撃だった。上下方向の移動では、到着時の負荷も違うという事か。


尻が痛い。だが今はそんな事どうでもいい。



「黒夫、魅雪、ムチムチさん、無事か!?」



三人の安否を確認する。



「ইয়াত ক'ত আছে? আন এখন পৃথিৱী নেকি?」


「અહીં ક્યાં છે? શું તે બીજી દુનિયા છે?」


「இங்கு எங்கே? இது வேறொரு உலகமா?」


「えっ、何語?」



三人の口から謎の言語が出た。世界間を移動した弊害だろうか。


無事なのか、無事じゃないのか、どっちだこれ。



「ええっと……。俺の言ってる事、わかります?」


「কি কৈছা?」


「તમે શું કહો છો?」


「நீ என்ன சொல்கிறாய்?」


「……あ、あかんわ、これ……マジで何言ってんだか全然わかんねぇ……」



せめて英語でプリーズ。


ちょっと途方に暮れていたら、三人が一斉に指差した。



「একে মুখৰ দুজন মানুহ!?」


「એક જ ચહેરાવાળા બે લોકો!?」


「ஒரே முகம் கொண்ட இருவர்!?」



言ってる事わかんないけど、ジェスチャーならわかる。何となく。



「俺の顔、何か付いてる?」


「অশুদ্ধ! পিছফালে!」


「ખોટું તારી પાછળ!」


「தவறு! உங்களின் பின்னே!」


「……んっ?後ろ?」



自分を指差してるのかと思ったけど、違った。微妙に方向がズレてる。


背後からジャリッと音がした。アスファルトを固い靴底で踏む音だ。


誰か、いる。


振り向いた。



「「……………………えっ?」」



自分がいた。



「……髪がある……?」


「……髪が無い……?」



髪フサフサの自分がいた。


髪フサフサで立ち尽くす自分が、丸坊主で座る自分を見下ろしていた。



「「……………………えっ?」」



次の瞬間、髪フサフサの自分の足元が光り、複雑な模様を描く。


この模様、嫌というほど見覚えがある。


勇者召喚の魔法陣だ。



「「あっ」」



そして髪フサフサの自分は落ちていった。落とし穴に落とされた売れない芸人みたいな表情で。



「……ぷっ……くくっ……、あははははははははっ!」


「কি হ’ল!?」


「શું થયું!?」


「என்ன நடந்தது!?」


「なんつーマヌケ面だよ!ぶははははははははっ!あんな顔で召喚されるとか絶対勇者じゃねーよアイツあははははははははっ!」



まあ何はともあれ。


異世界に召喚された自分は、こうして元の世界に戻って来たのだった。


謎の言語は、アッサム語、グジャラート語、タミル語の機械翻訳です。

三人とも内容は共通。


日本語訳

・ここはどこですか?異世界ですか?

・あなたは何を言っているのですか?

・同じ顔の人間が二人いる!?

・違います!あなたの後ろです!

・どうしたのですか!?

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