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102/152

102.電設のヒデオさん、わからせられる。


十本首と六本足に、皿を覗き込まれていた。


食事に集中しすぎて、ケンカがいつ終わったのか、わからない。



「ふぅむ。何やら酒に合いそうな匂いであるな」


「いただきま~す」


「あ、つなし、テメェッ!?」



鶏モモ肉を奪われた。


十本の首が奪い合うように齧る。そして、すかさず酒。



「「「「「「「「「「かぁ~っ!」」」」」」」」」」



酔っ払いのオッサンが雄叫び×10を上げた。うるさい。



「これはビールに合うのである!」


「これはポン酒に合うのである!」


「これは赤に合うのである!」


「これは強零に合うのである!」


「しかし、これっぽっちでは足りぬ」


「然り」


「もう無いのであるか?」


「おかわり~」


「勝手に食っといて、好き勝手ほざいてくれんじゃねえかよ、つなし」



相変わらず、やりたい放題すぎる、この酔っ払いのオッサン。


抗議してみたが、気にした様子も無い。どうしてくれよう。



「はしたないですわね。食べさしを横から奪うだなんて。もっとエレガントに振舞えないのかしら」



六本足が、小馬鹿にするように鼻で笑った。


ムチムチさんの方を向き、馬面を皿に近付ける。



「そこの灰を被ったような貴女。わたくしに、それを差し出しなさい。受け取って差し上げますわ」



超偉そうだった。



「我と変わらぬではないか」


「横から奪う、というのが悪いのですわ。毒見の済んだものを正面から差し出させるのであれば、何の問題もありませんわ」



問題大有りの発言を、事も無げに言い放つ。


この牝馬、口調は丁寧っぽいけど、傍若無人っぷりは正しく魔物そのもの。



「くっ……。こ、これを差し出さねばならないのか……っ……」



ムチムチさん、葛藤してた。


魔族にとっては幸運を呼ぶ馬のはずだけど、鶏モモ肉を奪われるのは嫌らしい。


いや、そもそもの話、馬が肉を食べても良いのだろうか。


足が六本ではあるが、一応、馬は馬だ。草食じゃないのか、この馬。


肉を食べようとしているのは、十本首への対抗意識が強すぎてそう言っているだけで、本当は肉より野菜の方がいいんじゃないのか。


その辺に交渉の余地がありそうな気がする。



「あの、そちらのご婦人?食べかけをお渡しするのもアレですし、もしよろしければ、何かお作りしましょうか?ニンジンサラダとかなら、すぐ作れますよ?」



提案してみた。



「あら?貴方、気が利いてますわね。野蛮な『先割れ』の従僕にしては」


「誰が野蛮であるか。それと、我を『先割れ』と呼ぶでないわ、『尻軽』」


「あらあらあら。この期に及んで、まだわたくしをそう呼ぶだなんて。おつむが足りないですわね、『先割れ』は」


「我の名は、つなしである。何度もそう言っているであろう。いまだに覚えられぬとは、軽いのは尻だけではないようであるな?」



下手に提案なんかするんじゃなかった。ヘビと馬がメンチ切りあってる。


目と鼻の先で、一触即発。ヤバい。


自分もヤバいが、それ以上にムチムチさんがヤバい。


勇者級の頑丈な身体ならギリ耐えられるかもしれないが、ムチムチさんが巻き込まれたら確実にミンチになる。



「……ちっ……しょうがねえ……」



最終手段。切り札を切る。



「つなし!次にケンカしたら、今日を休肝日にするぞ!」


「「「「「「「「「「え~っ!?そんなぁ~っ!?」」」」」」」」」」



我ながら、切り札がショボい。


ショボいが、間違いなく、最強の切り札だ。



「また休肝日であるか!?昨日も休肝日だったのに!?」


「ひどい~!」


「酷くねえわ。お前、酔ってるせいでケンカっ早くなってるだろ。これ以上ケンカするなら酒やめろ。酒飲みたきゃケンカやめろ」


「ケンカなどと、そのような俗なものではないのである!我の尊厳を懸けた崇高なる聖戦である!故に、ここは引けぬ!」


「然り!」


「うるせえ!知るか!とにかくケンカすんじゃねえ!マジで酒抜きにすんぞ!」


「ぐぬぬっ!そなた、調子に乗りよってからに!」


「何とでも言え!マジで酒抜くぞ!マジだからな!」



酒をチラつかせて、どうにか抑える。


正直、後が怖い。酒呑みには禁じ手である。



「ぐぬぬぬぬっ……。い、致し方無し……っ……」


「わかってくれればいいんだよ、わかってくれれば」



今を抑えなければ、後も先も無い。


とにかく、今この場を抑える事には成功した。ギリギリセーフ。


……なんて、ホッとするのは早かった。



「あらあらまあまあ。たかが口先一つで転がされるだなんて。随分と、お可愛らしくなったものね?あの『先割れ』がねぇ?」


「ぐぬぬぬぬっ……ぐぬぬぬぬぬぬぬぬっ……」



ケンカは一人でするものではない。


片方は抑えたが、もう片方が野放し。


マズい。牝馬を抑える切り札なんて持ってない。



「……何とでも言うが良い。我は、もう争わぬ」


「まあまあまあ!あの『先割れ』がそんな事を言うなんて!これは天変地異の前触れかしら?今日この日、この世界は割れてしまうのかしら?」


「ぐっ……。何とでも言うが良い」


「あら?あらあらあら?本当にどうしたのよ、『先割れ』?ねえ、『先割れ』?」


「ぐっ……ぐぬぅっ……っ……」



酔っ払いのオッサン、耐えてた。


その後も、六本足にネチネチ煽られてたけど、耐えてた。


酒呑み。それは、酒を飲むためならば艱難辛苦に耐える生き物である。


今度こそ本当に、ホッとした。



「……あの『先割れ』が、こんなに殊勝になるなんて……。まさか、こちらの殿方が従僕ではないという話、本当でしたの!?」



ホッとするのは、まだ早かった。


六本足が、馬の鼻先をこちらにズイッと寄せて来ていた。


馬面、間近で見ると怖い。



「こやつらは旅の連れである。主従に非ず。何度もそう言ったはずであるぞ」


「そんな話、聞いただけで信じられるものですか。貴女が旅をしているだけでも驚きですのに。定命の存在と共に、だなんて。それも、従僕ですらない殿方まで連れているなんて。何がどうして、そんな事になってますの?」


「成り行きである」


「成り行きって、貴女ねぇ……。まさか、この男に騙されて、いい様に使われているのではなくて?」


「我が騙されるはず無かろう」


「世間知らずの引きこもりが何言ってますの。騙されないと思い込んでいる者ほど騙しやすいのは定石でしょう?貴女、本当に大丈夫ですの?」


「クドいのである」


「だいじょ~ぶ」


「……全っ然、大丈夫に見えませんわ……っ……」



六本足が、ちょっと心配そうにしていた。


これやっぱりケンカするほど仲良しなタイプだ。



「そこの貴方。まさか、いい様に使ってはいませんわよね?」



そして、とばっちりが周囲に飛び火するタイプだ。


こっちに飛び火してきた。



「もし、もしもそうなら、早めに懺悔する事をお勧めしますわ。少しは恩情を差し上げましてよ?」


「……っ……」



息が、できない。



「黙っていては、わかりませんわ。さあ、言ってごらんなさい。懺悔でも釈明でも、今なら聞いて差し上げますわよ?」


「……っ……」



胃が軋む。心臓が痛い。


十本首とケンカしていた時とは違う。底知れぬ冷たいナニカを感じる。



「……っ……違い、ます……懺悔、する事なんか、無いっ……」


「あら?本当に言い返してくるなんて、定命の存在にしては、肝が据わってますわね。……だとしても、この子に悪さをしていたら、許す気はありませんけれど」



本当に、十本首と六本足は仲良しらしい。


こういう友達がいるの、ちょっと羨ましい。そんな事を現実逃避気味に思った。



「お、おい、そやつに何をするつもりであるか」


「貴女は黙ってて頂戴。わたくしは今、この男とお話してますの」



値踏みするように、牝馬が更に馬面を近付けてくる。


鼻息がかかるほど間近まで近付かれる。


身体が硬直して、動かせない。



「……っ……」


「……あら?あらあらあら?」



何かを探るように鼻先をヒクヒクさせると、牝馬が小首を傾げた。



「貴方、まさか……、異界の落とし子ですの?」



なんか変な事を言われた。






一つの世界には、複数の世界が隣接している。


隣接とは言っても、三次元空間的な意味では無く、概念的な意味での隣接である。


概念的な意味での隣接ではあるが、三次元空間的な配置に似た位置関係がある。




隣接の位置関係は、大別すると3種。


前後。左右。上下。


それぞれ異なる性質を持つ。




前後に隣接している世界は、過去と未来の世界。


現在の世界からでは、過ぎ去りし過去の世界にも、未だ来たらぬ未来の世界にも、触れられない。


かつて触れた事があっても、いずれ触れる事があっても、今この瞬間に触れられるのは現在の世界のみ。




左右に隣接している世界は、いわゆる並行世界。


猫が生きてたり死んでたりする可能性の数だけ、並行世界は存在する。


一見すると似ている世界のように思えても、壁に阻まれた向こう側は別の世界であるため、通常の方法では行き来できない。




上下に隣接している世界は、いわゆる異世界。


接している割にはあまり似ていない世界だが、間違いなく接している。


他の隣接している世界と同様、通常の方法では触れられないし、行き来できない。


ただし、上下に隣接している世界にだけは、抜け穴がある。


何らかの非常事態が発生すると、落下という形で、上位置の世界の住人が下位置の世界に移動してしまう事故が低確率で発生する。


これは事故であるため、当事者は意図せずに移動する羽目になる。



「そうそう、誤解なさらないでくださいね。わたくしがここで言っているのは、単なる位置関係の話ですわ。上だから偉いとか、下だから劣っているとか、そういう意図は一切含みません。河川の上流域と下流域みたいなものですわね」


「は、はぁ、なるほど?」


「……いえ、いけませんわね。これでは別の誤解を招きそうですわ。河川とは違い、上と下を簡単には行き来できませんし……どう言ったらいいのかしら……」


「あ、あの、先生。ひとまず、一通り説明していただいてもよろしいでしょうか。細かい部分や、わからない部分は、また後で改めて聞きますので」


「あら?その方がいい?このまま進むの、気持ち悪くありません?」


「大丈夫です。進めてください。先にザックリとでも全体像を掴んだ方が、わかりやすいと思いますので」



授業が脱線しかかった。


先生役の六本足に、授業の続きを促す。



「では、続きを説明しますわね」


「はい。よろしくお願いします、先生」



授業再開。



「先程も言いましたが、上下に隣接する世界は、単に位置が違うだけですわ。ただそれだけの違いなのですけれど、たったそれだけの違いが、世界の様相を決定的に変えてしまうのですわ。河川の上流域と下流域では、全く様相が違ってしまうように」



上位置の世界と、下位置の世界では、世界の根底にある自然法則は共通している。しかし、世界を構成する存在の重さと、存在のエネルギーは異なる。


上位置の世界は、存在の比重や総重量は小さく、存在の位置エネルギーは大きい。


下位置の世界は、存在の比重や総重量は大きく、存在の位置エネルギーは小さい。


三次元空間における物性値の話ではなく、存在の概念的な話である。


それぞれの世界が内包している存在の重さやエネルギーに差がある事により、世界の自然法則が共通していても、それぞれの世界は異なる様相を呈する。




隣接している世界間には、障壁がある。部屋に例えるなら、上下の世界間の障壁は、天井と床に相当する。


通常、世界の天井と床は強固で、それぞれの世界の住人が行き来する事は無い。しかし、極稀に、小さな穴が開いてしまう事がある。


障壁に穴が開いても、それは世界の修復力により瞬時に塞がれるため、通常は行き来できない。しかし、たまたま上位置の住人が立っている足元に穴が開いてしまった場合、穴が開いたその瞬間、その穴から住人が落下して、下位置の世界に移動する事がある。


そして死ぬ。



「死っ!?」


「当然でしょう。世界の天井から床目掛けて、ヒモ無しバンジーですわよ。定命の存在に耐えられるものではありませんわ。ほぼ100%墜落死ですわね」


「つ、墜落死……」


「生物的な意味ではありませんわよ。存在を形成している概念そのものが、墜落により破壊されて死にますわ」


「……どっちにしても墜落死……」


「隣接して近しい世界とは言え、異なる世界間を定命の存在が移動するなんて、土台無理がありましてよ。それに、世界と世界の狭間は、定命の存在にとっては過酷な環境ですし、通り抜けるのは負担が大きいでしょう。生きてる方が不自然ですわね」


「あ、あの、先生。見ての通り、私は生きてるんですけど」


「ヒモ無しバンジーしても、たまに運良く生き残る人、いらっしゃいますわよね?それですわ」


「いやそれですわて言われましても……」


「世界の境界面に穴が開く際には、世界が揺らいでいる事が多いのですけれど、その揺らぎ方次第では、墜落の衝撃が和らぎますの。墜落先が柔らかく波打っているような状態になっていればワンチャンありますわ」


「生きるも死ぬも、墜落現場のシチュエーション次第ですか。それ、完全に運任せって事ですか?」


「ほぼそうですわね。あと、他の可能性としては、何者かによる恣意的な干渉によってソフトランディングさせられれば、生き残れるかもしれませんけれど」


「……何者かの干渉……」


「さて次は、墜落死を免れた幸運な者がどうなるか、お話しますわね」



上位置の世界から下位置の世界への落下に際して、存在の持つエネルギーには変異が発生する。


天井付近では、存在の位置エネルギーだったものが、床に近付くにつれて、存在の運動エネルギーに置き換わっていく。


この変異は、床に激突する寸前にピークを迎える。


そして、床に激突した瞬間、存在の運動エネルギーの大半が、存在の熱エネルギーに変わる。


エネルギーは雑多な熱として世界に拡散し、一部は存在の中に残留する。



「貴方、定命の存在としては不自然なほど強い力を持ってますわね?自覚あるかしら?」


「はい。その辺は一応自覚あります」


「では、どうしてそうなったのか、理由はご存じかしら?」


「い、いえ、それは知らないです。そういうものだと思ってましたので、あんまり深く考えた事も無かったですけど……」


「墜落の際に残留したエネルギーによって、存在が変質してしまってますわ。表面的には特異な部分は見られないようですけれど、中身は別物ですわね」


「……あの、存在の変質って、どういう事ですか?」


「貴方、もう元の存在には戻れませんわよ」


「……っ……」


「世界間の墜落、という非常事態によって発生した劇的なエネルギー変異が、貴方という存在に不可逆の変化をもたらしたのでしょうね」


「ええっと……。私の中には、何らかのエネルギーが残ってるって事ですよね?それのせいで変質してるなら、それをどうにか消費するなり発散するなりできれば、元に戻れるんじゃないですか?」


「無理ですわ。生卵を熱すれば、ゆで卵にできますけれど、ゆで卵を冷やしても、生卵には戻せませんわ」


「……今の私は、ゆで卵ですか?」


「生卵よりは丈夫でしょう?簡単には壊れない存在になれて、良かったですわね」


「……………………」


「……そうとでも思って、受け入れなさい。すでに変質してしまっている以上、そうする事しかできないのですから」



突き放しているようでいて、声音が優しい。


いい先生だ。馬だけど。



「これが、異界の落とし子にまつわる話ですわ。どうかしら?今の説明で、どういうものか理解できまして?」


「はい。おおよそ、大体、何となく、わかりました」


「曖昧ですわね……」



上から下に落ちた拍子に、なんか凄い事になった人間。それが、異界の落とし子。そして、異世界から召喚された一般人が、勇者に相応しい実力を獲得する理由。






当初、六本足からは不審な目で見られていた。だが、どんなに不審がられても、知らないものは知らない。


素直に知らないと言ったら、急遽、青空教室が開校した。


先生役は、六本足。無知すぎる生徒を見るに見かねて買って出た、という様子だった。意外と世話焼きなのかもしれない。


あまりにも物を知らなかった自分に、六本足は色々と教えてくれました。大変ありがたい事です。いやホントに。


ちなみに、牝馬だから女教師である。


青空の下、女教師の特別授業。いやそんな事はどうでもいい。



「我は訳がわからぬぞ。教え方が下手糞であるな」


「ちんぷんかんぷん~?」


「貴女ねぇ……。知ってて一緒にいるのかと思ったら、まさか何も知らなかったなんて。一体どういう事ですの?」


「我は細かい事など気にせぬ」


「全っ然、細かくありませんわ!少しは気になさい!」



この二人、飲んだくれのダメ亭主と、世話焼き女房っぽい。


もしかして、いわゆるケンカップルだろうか。ヘビと馬では種族が違うけど、魔物であれば生物的な理くらいは超越できそうな気がしないでもない。


ケンカ友達にせよ、ケンカップルにせよ、この酔っ払いのオッサンには勿体無い。いい牝馬である。



「貴女はもういいから黙ってて頂戴。……それで、貴方はどうかしら?ここまでの事で、何か質問ありますかしら?」


「はい先生。二つほど、いいですか?」


「ええ、構いませんわ」


「まずは、その……、質問ではないんですけど、ちょっと見ていただきたいものがあるんですけど」


「あら?わたくしに何を見せるのかしら?」


「少々お待ちください。すぐ用意しますので」



通勤カバンをあさる。


丸まっている紙筒を取り出し、広げた。



「見ていただきたいのは、これです」



自分がこの世界に来た元凶、勇者召喚の魔法陣をコピーした図面。


本当は、焼却処分するつもりだった。でも、紙に書き込まれた注釈を見て、ムチムチさんと一緒に頭を悩ませた日々を思い出し、何となく燃やすのが惜しくなってしまった。


内心、いつかは処分しなければいけないと思いつつも、処分できずにズルズル持ち続け、今の今まで通勤カバンに仕舞いっぱなしだった。



「ヒデオ殿。見せて良いのか?」


「まあ、大丈夫でしょう。この人なら、悪用とは無縁でしょうし」



ムチムチさんが気にするのも、わからなくはない。この魔法陣は、情報漏洩を厳重に警戒すべき代物である。しかし、この牝馬なら大丈夫だろう。


魔物が魔法陣を悪用するとは思えない。魔物から機密情報を引き出して悪用しようとする輩がいるとも思えない。もしそんな輩がいたとしても、潰されて終わる。六本の足が蹴り潰すだろう。


コンマ以下の微小なリスクより、この機を活かす方を優先する。


魔物が先生役をやってくれる機会なんて、この機を逃せば二度と無いだろう。こんな絶好の機会、逃す手は無い。



「先生。この魔法陣に使われている技術について、ご教授お願いできますでしょうか。どうにもわからない事がありまして」



勇者召喚の魔法陣には、技術的に謎な部分がある。


この千年間、王国に召喚された勇者は全員、生きて召喚されている。


自分の一つ前に召喚された勇者は、召喚直後に老衰で亡くなられたそうだが、逆に言えば、老衰で亡くなる寸前の老人ですら生きたまま召喚されている。


何か秘密があるはずなのだ。ほぼ100%墜落死の状況を覆す、凄い秘密が。


すでに、元の世界に帰る目途は立っている。どうでもいいと言えば、どうでもいい情報ではある。しかし、どうせなら、帰る前に知ってから帰りたい。



「是非、お願いします」



先生に頭を下げた。



「あら?この変な柄、魔法陣ですの?……確かにそう言われれば、魔法陣に見えなくもないですわね?」


「……あの、先生?」


「わたくし、この手の小細工には詳しくありませんの。他を当たってくださる?」


「あ、はい」



牝馬、期待外れだった。


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