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101/152

101.電設のヒデオさん、桜肉を食べる。

牧場で羊を見ながら食べるジンギスカンはおいしい、みたいなお話。


一時期、スキル『電気設備』の実験と称して、色々試してみた事がある。


例えば、冷蔵庫の中身。冷蔵庫という電気設備を中身入りの状態で想像すると、冷蔵庫という電気設備の付属物として中身が創造される。


フェアが創造する物は、自分の想像に依存する。


塩は、何度想像してみても、創造されなかった。これは『冷蔵庫の中に塩が入っているのは不自然だ』という思い込みが強かったせいだ。


なまじ塩は身近なせいで、思い込みが邪魔になった。


では、自分にとって馴染みの無い物なら、どうなるのか。


思い込みが無い代わりに、馴染みが無くて想像し難い物を、果たしてフェアは創造できるのか。


何が創造できて、何が創造できないのか。試しに色々想像してみた事がある。


具体的には、牡丹肉とか、紅葉肉とか、桜肉とか。お試しで頼んでみました。


結果、ちゃんと創造されました。さすフェア。



「……まあ、本物を知らないから、本当に創造できてるのか、判別できなかったんだけど……」



変わった肉は食べた事が無い。羊肉なら一応食べた事あるけど、そこが自分の経験の上限である。


フェアに色々創造してもらったまでは良いものの、謎肉の謎っぷりが累乗され、自分の中にある主観的食品安全基準がオーバーフロー。


馴染みが無さすぎて食べるのに尻込みしてしまい、今日まで死蔵してきた。


今こそ、解禁の刻。そんな気がする。



「とりあえず、腹ごしらえしましょう、ムチムチさん」



通勤カバンから、かつて創造してもらった桜肉(推定)を取り出した。



「おお?今までに見た事の無い色味の肉だな。何の肉なのだ?」


「桜肉です」


「桜の肉……?確かに、桜の花弁に少し似ているな。味の方は、どうなのだ?」


「実を言うと、私も食べるのは初めてでして、よく知らないんです」


「なに?そうなのか?」


「丁度いい機会なんで、食べてみようかと。一緒にどうです?」


「ああ、相伴に預かろう」



美人さんを食事に誘ってみたら、あっさりOKもらえました。



「私は良いのだが、他はどうするのだ。ミユキとクロオを起こしてくるか?」


「いえ、寝かしときましょう。二人ともよく寝てましたし、何か食べさせるのは後でいいと思いますよ」


「水蛇様と空馬様は呼ばないのか?」


「お取り込み中ですし、邪魔しちゃ悪いですよ。放っておきましょう」


「ふむ。では、貴殿と二人で、か」


「そうですね。二人で食べましょう」


「……本当に良いのだろうか……」



少々不謹慎ではあるが、丁度いい。


黒夫と魅雪は、安眠中。しばらく起きそうにない。


十本首は、六本足とケンカの真っ最中。


フェアは、いまだ戻って来る気配無し。


今、一緒に食事できるのは、ムチムチさんだけだ。


桜肉(推定)は、お試しで創造してもらっただけなので、皆で分けるには少ない。かと言って、一人で味見をするのは寂しい。それに、食べ慣れない物を一人で食べるのは、ちょっと怖い。


嫌な言い方をするなら、ムチムチさんは道連れである。子供達を道連れにするよりかはマシだろう、多分。



「何かリクエストあります?どんな料理がいいとか」


「貴殿に任せる」


「そうですか。それじゃあ、シンプルに塩コショウで焼きましょうか」



通勤カバンから、塩コショウを取り出す。ついでに、電気コンロ他、調理器具も取り出す。


備え付けだったキッチン家電は、車両からパージされて行方不明中。


不幸中の幸い、主要な機関は無事。車載バッテリーも無事。外付けの家電製品は普通に使える。


電気コンロをコンセントに繋ぎ、桜肉(推定)を焼く。


低温でジックリ焼く。生焼けは怖い。



「ふふっ。なんだか不思議だな。貴殿と二人で食事というのは」


「いつも飯時は騒がしいですからね。……まあ、今も騒がしいですけど」



ガガガガガガッ。


物騒なBGMが響く。うるさい。



「軽いのは尻だけではないようであるな!そんな蹴りなど、我には効かぬぞ!」


「首が増えて、鬱陶しさも増しましたわね!減らして差し上げますわ!」



二人とも、実に楽し気である。ケンカするほど仲良しさんである。


うっかり人間が交じったら、ひな人形みたいに首ポーンッてなりそう。


魔物から全力で意識を逸らし、フライパンの上の桜肉(推定)に意識を集中する。



「……こうして見ると、他の肉と変わらないな」


「……焼いたら見分け付きませんね、これ」



桜肉(推定)は順調に焼けた。


生肉の時は違っているように見えたが、普通に焼いたら普通に焼肉だった。


茶色い。特に変わった所は無い。


ホッとしたような、ガッカリしたような。



「か、肝心なのは味ですよ、味」


「う、うむ。そうだな。確かに、大事なのは味だな」



桜肉(推定)を皿に半分ずつ取り分ける。


炊飯器に残っていたご飯をよそう。


付け合わせは無し。副菜も汁物も無し。間食兼味見なので、かなり手抜きである。


子供達もいないし、栄養バランスとか気にしない。



「「いただきます」」



ムチムチさんと、桜肉(推定)を食べる。



「肉だな」


「肉ですね」



肉だった。



「う、うむ。美味だな。美味な肉だ」


「おいしいですね。うん。おいしいです。おいしい。うん」


「……肉だな」


「……肉ですね」


「えーっと……。この肉、焼く前は脂身が多いように見えたのだが、口当たりは意外とサッパリしているな」


「な、なるほど?そう言われてみれば、そんな気がするような?」


「う、うむ、良い肉だ!いつもの肉とは全然違うな!」



おいしいお肉である。


おいしいけど、率直に言って、そこまで強調するほどの特徴は感じなかった。


自分はグルメ評論家ではない。味を正しく評価するのは難しい。



「お米に合いますね」


「う、うむ、確かに合うな!やはり良い肉だ!」



焼肉と言えば、白いご飯。異論は認めない。



「……まあ、他の肉も、普通に合いますけどね」


「う、うむ、他の肉とも甲乙付け難い!やはり良い肉だ!」



要するに、肉だった。



「本当は、生で食べるのが一番おいしいらしいんですけどね、桜肉って」


「なん、だと……。この肉、生で食べるのか?」


「刺身とかユッケとかにして食べると、おいしいって話を聞きますね。私は調理に慣れてないんで、今回は普通に焼きましたけど」


「う、ううむ……。な、生かぁ……生……生はなぁ……」



生魚の時もそうだったように、ムチムチさんは生食に強い抵抗感があるらしい。


こういう食の好みは、早々変えられない。



「貴殿は、生が好きなのか?」


「いえ別に特には。普段から、生は避けているでしょう?」


「……私に気を遣って、生を避けているのではないか?」


「違います」


「以前、貴殿の故郷では生でも大丈夫だ、というような事を言っていただろう?私に遠慮は無用だぞ?貴殿の好きにしてくれ」


「遠慮してません。怖いから避けてるだけですよ、俺が」


「怖い?大丈夫ではないのか?」


「安全だと思っていても、万が一はあり得ますからね。こだわりが無いなら、生は避けた方が無難ですよ。ここには医者もいませんし、病院もありませんし」


「そうは言うが、本当に遠慮していないか?貴殿が望むのなら、その……、私は、生でも良いぞ?」


「だから違いますって。生が嫌いって訳じゃないですけど、執着するほど生が好きって訳でもないんで」


「……やはり、生が嫌いではないのだな、貴殿は」


「それは……、まあ、はい。生は生で、嫌いじゃないですよ」


「やはり、そうなのだな。……貴殿のためにも、生を受け入れ、慣れなければならないようだな……っ……」


「いや全然違いますから。無理して生を受け入れなくていいですから」



適当に話ながらパクパク食べる。


大した量も無い。程無く、桜肉(推定)は食べ終わった。



「「……………………」」



正直、物足りない。


なるほど、サッパリした肉だった。お腹を膨らますには向かない。むしろ余計にお腹が空いた。



「……足りてます?」



ムチムチさんに聞いてみた。



「……すまない。これでは全く足りない」


「でしょうね」



知ってた。


でも、あえて聞きました。


恥ずかし気に頬を染めて空腹宣言する美人さん、イイね。


これだけで、ご飯3杯はイケる。炊飯器の残りのご飯、そんなに無いけど。



「……貴殿のそういう所は、嫌いだ」



ジト目の美人さんもイイね。ごちそうさまです。


でも、これ以上はやめとこう。引き際が肝心。



「追加で何か焼きますよ。リクエストあります?」


「……貴殿に任せる」



桜肉(推定)はもう無いが、他の肉なら普通にある。



「よし。次は鶏肉にしましょう。いいですよね?」


「無論だ」



鶏モモ肉。2枚。


間食で小腹を満たす程度のつもりだったけど、我慢できなくなった。


普通に食べよう。後の事は後で考える。



「次は味変して、タレで行きましょうか」


「タレか。あれは良いものだ」



皮目にフォークで適当に穴を開け、桜肉(推定)の脂が残っているフライパンに並べる。


既製品の焼肉のタレを適当にかけ、ふたをする。


低温でジックリ焼く。



「……あー……この匂い、久しぶりだなぁ……いい匂い……」



ふたの隙間から、焼けたタレの香りが漂う。



「うむ、本当に良い匂いだ。これだけで、お腹いっぱいになりそうだ……」


「あ、そうですか?お腹いっぱいなら、食べなくてもいいですよね?私だけ食べます」


「なっ!?ま、待て!?今のは言葉の綾だぞ!?」


「わかってますよ。冗談ですよ」


「貴殿の冗談は胃に悪いぞ!」


「いやムチムチさんのに合わせただけなんですけど……。っと、そろそろ、ひっくり返した方がいいか」



ひっくり返して、皮を下にする。


タレの香りに、香ばしさが増す。


チリチリと皮の焼ける音が聞こえる。



「……口から何か出てますよ、ムチムチさん」


「こ、これは違うぞ!口から涙がこぼれているのだ!」



新事実発覚。エルフは口から涙をこぼす。これが異世界。



「よし。もうこの際、ガッツリ行きましょう。とろけるチーズを追加っと」


「なん、だと……。ここに来て、何と言う所業を……っ……」



個人的には、タレとチーズの組み合わせは結構好き。異論は認める。



「ちょっと乗せすぎたかな?」


「……そこまでするのか……貴殿という男は……っ……」


「まあ、足りないよりはいいか」



チーズを乗せて、ふたをする。


とろけたチーズが、肉の上から雪崩のようにあふれる。


フライパンの上で、チーズが焦げてパリパリになっていく。



「さて、もういいかな」


「ついにか……っ……」



鶏モモ肉のタレ焼き、チーズ乗せ、完成。我ながら適当な料理だ。


1枚は自分の皿に。もう1枚はムチムチさんの皿に。


ご飯のおかわりをよそう。これで炊飯器は空だ。



「「いただきます」」



1枚の肉をそのまま箸で掴み、かぶり付いた。



「「んんーっ!」」



適当でも、おいしく仕上がる。それが、焼肉のタレ。人類の英知の結晶。



「やっぱり肉料理は、味付け濃いめでコッテリしてる方がいいですね」


「いやいや、そうとは言い切れまい。先程の肉も、サッパリしていたが美味だったぞ。あれはあれで良いものだった。……少々物足りなかったのは、否めないが」


「まあ、単純に量が少なかったですからね。久しぶりに食べる肉料理で、あの量は失敗でしたね……」



海辺での海鮮料理三昧の日々は、それはそれで良かった。しかし、それはそれとして、肉はウマい。久々に食べると特にウマい。


桜肉(推定)は、物足りないと言うより、物量が足りなかった。


一人で食べるなら、十分な量だったはずだ。残念ながら、二人で分けるには足りなかった。


次は気を付けよう。次に桜肉(推定)を食べる機会がいつ来るのかは不明だけど。


次に食べる時は、ちゃんと野菜も付けよう。



「……肉オンリーってのは、やっぱりちょっとアレだなぁ……」


「ん?そうか?私は悪くないと思うが」


「勿体無いですし、モヤシ入れましょう」



タレと脂とチーズが残っているフライパンに、モヤシ投入。


ザッと掻き回し、強火で一気に仕上げる。



「ほい、最後のオマケです」


「おお?オマケにしては豪勢ではないか?」



皿に半分ずつ分けた。


ひとまず、一口。



「「……こ、これは……っ……」」



モヤシ、超ウマい。今日一ウマい。


桜肉(推定)の旨味。鶏モモ肉の旨味。焼肉のタレ。とろけるチーズ。それらの要素を全て絡み取ったモヤシ。


加熱され、しんなりしつつも、シャキシャキ感は残っている。これぞモヤシ。


味もウマいが、歯ごたえもウマい。さすがモヤシ。



「そなたら、さっきから何をやっているのであるか?」


「わたくしを差し置いて、何をなさってますの?」


「「うわっ!?」」



気付いたら、すぐそこに十本首と六本足がいた。


いつの間にか、ケンカ終わってた。


牧場で食べたジンギスカンで一番おいしかったのはモヤシだった、みたいなお話。

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