女帝への挑戦
真央side
ブロック:ブラウン、5人組エリアのバトルルーム。
ここで僕は、遂に目的の1つを達成しようとしている。
「この時を、ずっと……待っていた」
延長線上に居るのは、青紫色の長髪をした鋭い目付きの女。
彼女は口角を上げ、僕を見ている。
鈴城紫苑。
僕がずっと、その打倒を目標としていた相手の1人だ。
5対5のスクランブル・テリトリーズで、ここを勝利したチームがこの特別試験をクリアすることになる。
しかし、僕の試練は彼女に勝つことだけじゃない。
鈴城さんだけではないんだ、こちらに視線を向けている人物は。
それも彼女よりも、強く感情の乗った眼差しで。
女帝は僕と戦うことを想定して、あの人を自身のグループに引き入れたのか。
だとすれば、甘く見られたものだ。
僕はこれまでの繋がりを断ち切って、自分の望みのために突き進むことを選んだ。
鈴城さんが僕を追い詰めようと策を講じたところで、無意味であることを証明する。
『これより、スクランブル・テリトリーズを開始いたします』
アナウンスが流れると、一気に緊張感が走っては頭を切り替える。
僕らはチーム・レッドで、鈴城さんたちはチーム・ブルーだ。
見せてあげますよ、鈴城さん。
僕が全てを切り捨てて、手に入れた力を。
「みなさん、僕らの実力を見せる最高の舞台です。手加減は抜きで、全力で―――潰しましょう」
僕らは5人全員、2年Bクラスの人間だ。
これはBクラスの脅威を見せつけるために、意図的に組んだ人選。
そして、今日のために手に入れた最強の駒は、今か今かと開戦の狼煙を待ちわびている。
始まるのは、これまで抑え込まれていた獣たちによる蹂躙だ。
1ターン目が始まり、双方ともに移動を開始する。
5人組エリアということで、5×5のマスの奪い合い。
これまで以上に、マスの占領数が士気に直結する。
鈴城さんの指揮の下、向こうの移動マスはA1に2人、C1に1人、E1に2人。
まるで自分に挑んでこいと言わんばかりに、女帝は1人でマスを陣取っている。
着実に縦の1列を占領するつもりらしい。
それに対して、このチームは僕の指示でマスを移動する―――わけではなかった。
「そんじゃ、好きにやらせてもらうぜ」
「誰が多くのマスを取って、キル数稼げるか、競争ね!」
自主的に動くのは、2人だけ。
それぞれ移動するのはA1とE1。
好戦的な性格で、すぐにでもバトルを仕掛けるためだろう。
他は様子を見るかのように、ゆっくりとA5のマスに2人で移動する。
僕が移動するのはC3のマスだ。
自らこのフィールドの中心に行くことで、これから敵味方双方の動きを把握する。
そして、移動終了後に1分間が経過した後、1ターン目が終了。
アナウンスが流れる。
『チーム・レッド安藤賀隆様によりA1のマス占領。また、チーム・ブルー 矢部典利様、東林彩奈様が脱落となります』
開始1ターン目……それも、スクランブル・バトルは1分だ。
それだけの時間で、マスを占領するだけでなくプレイヤーを2人沈めるとは。
流石は僕が選んだ、特攻兵器。
これで少しは、女帝にプレッシャーを与えられるはずだ。
次の2ターン目に入るまでのインターバルで、脱落した2人を移動させるために係員が介入しては担架で運ばれる。
あの短時間では考えられないほど、ユニフォームはボロボロで、立ち上がれないほどの重傷。
文字通り、再起不能になっている。
にも関わらず、E1のマスに居る黒みがかった褐色肌の金色のメッシュが入った白髪の男は、腰を軽く丸めながら退屈そうな顔を浮かべている。
汗1つかかず、息が上がっている様子もない。
彼にとっては、まるで当たり前のように呼吸するかの如く、彼らを蹂躙したのだろう。
「あぁ〜、萎えるわぁ。相手が女帝だって聞いて、少しは期待してたんだけどなぁ…。本人以外は雑魚かよ」
落胆を口にする安藤の視線は、そのまま一直線状にあるC1のマスに向かう。
「そこから動くんじゃねぇぞ、女帝ちゃん?次の次で、俺がそっちに行くんだからよ」
「次の次とは言わず、私が隣に移動して2ターン目でぶつかっても良いが?」
鈴城は表情1つ変えず、好戦を受け入れる姿勢を示す。
「俺は焦らされた方が燃えるタイプなんだよ。我慢して、我慢してぇ……溜まったムラムラを、おまえにぶつけてやるからよぉ…!!」
頬を染めながら、興奮した表情で女帝を見る目は獲物を見る獣のそれだ。
それを受けてなお、鈴城の顔から笑みは消えない。
「獣欲を抑えられん、下品な獣風情が……。屈服させたくてたまらん」
思った通り、安藤彰は彼女の関心を引き付ける存在。
彼の野生は、僕が求める強者のそれと合致する。
僕が女帝を打ち破るには、必要不可欠な駒だった。
ーーーーー
シックス・ロック・スクランブルが発表されてから、学校全体で3人組グループを組もうとしている時まで時間は遡る。
僕が居るのは、監獄施設。
かつて、柘榴恭史郎がその罪ゆえに投獄されていた施設だ。
この中には、ある意味では内海景虎や柘榴よりも危険な人物が閉じ込められている。
自身のブロックが分かった瞬間、僕が組むべき相手は決まっていた。
僕は自分の選択が正しいことを証明するために、1つだけ決めていたことがあった。
グループを組むなら、この2年Bクラスの生徒だけで成立させる。
このクラスの脅威を、2年…いや、学年全体に知らしめるためだ。
そして、僕の所属するブロック:ブラウンの名簿に鈴城紫苑の名前を見たときに、組むべき相手に目星はつけていた。
これは一種の賭けだ。
僕はまだ、このBクラスに移籍してから日は浅い。
そして、クラスメイトとして対面するのは初めての相手だ。
人間関係や生徒の性質を完全には把握できていない中で、あらゆる可能性を考慮して利用すべき駒に目星は付けていた。
クラスの外側から見れば、内海景虎以外に脅威になる者は見えたらないと思うはず。
それも当然で、このクラスにとって彼はあまりにも強い黒い光。
闇に隠れた獣たちが、牙を剥く時を待っていることにも気づかない。
彼の漆黒に紛れながらも、目を鋭く輝かせる獣。
その内の1人が居る部屋に、僕は足を踏み入れた。
「安藤賀隆くん」
囚人服に身を包みながら、その口や前身を拘束具で締め付けられている彼の名を呼べば、それまで寝ていたのか、うっすらと目が開く。
「何だ何だぁ?逆光が眩しくて、顔が見えねぇな…。もうちょっと、近づいてくれねぇか?」
スタッフが止めようとするのも聞かず、僕は言われるがままに彼に歩み寄っては顔を近づける。
「これで見えますか?」
「……ああぁ、よおぉ〜〜〜〜く…なあぁ!!」
ガンッ!!と強烈な痛みが走り、頭を押さえながら後ろに下がる。
全身拘束されながらも、彼の中の粗暴さは消えない。
安藤賀隆。
彼は内海景虎と同等に、Bクラスにおいて危険人物に挙げられる者の1人だ。
素行不良で口調は軽薄。
短い導火線に火がついた瞬間、彼は周囲に居た者はその餌食となる。
その凶暴性ゆえに、監獄施設が設立してから最重要危険人物として、ずっとここに拘束されたままの囚人生活を送っている。
「石上くん、大丈夫か?」
スタッフが声をかけてくるのを、「大丈夫です」と返事をして後ろに下がらせる。
こんな人間以下の、理性の欠片もない獣と対話しなければいけないのか。
「石上…?あぁ〜、どっかで見たことがある面だと思ったぜ。おまえ、いけすかねぇ生徒会の奴じゃねぇか。通りで、顔は見えなくてもイライラしたわけだ」
悪びれる様子もなく、自身の衝動に納得したという内容だけを呟く。
「僕は君のクラスメイトです、名前は石上真央。僕は君に1つ提案をしたくて、ここに面会に来ました。安藤くん、君はあと1週間で長い監獄生活から解放され、今度の特別試験に参加することを許されます。その試験で、僕と組みませんか?」
「あ?おまえが、俺と?」
確認するように復唱した後、半笑いを浮かべる。
「おまえみたいな良い子ちゃんと組むわけないじゃぁん。良いか?俺が組むのは、俺の魂がビンっビンっに高鳴った奴だけだ。おまえからは、何の鼓動も感じねぇ。優等生は優等生らしく、良い子ちゃん同士で固まってろよ」
提案を聞き入れるつもりはなく、独自の価値観を押し通そうとする。
強者というのは、いつもそうだ。
打算も何もなく、ただ自分のしたいように行動して、それが結果として利益に繋がっていく。
その強者を見て、多くの者が追いつけないと諦めて、雑兵へと成り下がっていく。
そんな弱者の道を、僕もたどるわけにはいかない。
こういう手合いとの交渉は、心がけている。
正論でも、その気持ちを受け入れるだけでも行けない。
安藤賀隆という男と語る上で、必要なのは覚悟を証明する過程だ。
「良い子ちゃんだとか、優等生だとか……そんな肩書なんてどうでも良いんだよ。僕には、君の凶暴な野生が必要だ。使ってやるから、力を貸せぇ!!」
彼の頭を両手で掴み、今度は僕から安藤の額に頭突きを食らわせる。
「ぐがはっ!!」
その衝撃に嗚咽を漏らし、安藤は次の瞬間に目を見開いては青筋を立てながら睨みつけてくる。
「優等生にしちゃ、根性ありやがるじゃねぇか。ほんのちょっとだけ、魂が滾って来やがったぜぇ…!!」
「君は強者側の人間だ。その滾りをぶつける相手と、僕が引き合わせてやる。君の持つ荒ぶる野生なら、彼らに届くかもしれない」
強者を釣る餌は、同じ強者とのぶつかり合い。
自分が強者であることを自覚、証明するために、自身と同等かそれ以上の相手を求める。
「何だよ、おまえ……。何も感じなかったわけじゃねぇ。隠してやがったな?性格の悪い。悪童め…!!」
「それで僕が勝者になれるのなら、何だってやるし、何だって利用するさ。君のような人の形をした悪魔でもね」
これは文字通り、悪魔の契約だ。
野に放たれた暴虐の獣と、その手綱を握る僕。
僕はこの野獣に、強者という餌を与え続けよう。
そして、その先に居る勝者は……僕だ。




