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妖しく輝く聖女

 円華side



 4人組エリアに到着した俺たちだが、この前とは状況が異なる。


 2人組、3人組エリアの時は人数が少なかったが、ここは逆に人が溢れていた。


「うわぁ〜、何これ?なんで立ち往生してんの、この人たち」


 怪訝な目で辺りを見ながら、疑問を口にする御堂。


 俺も何人かの生徒の顔を見ながら、同様の疑問が浮かぶ。


 その表情はどこか疲れ切った様子であり、覇気を感じない。


「1度の勝利で現実を突きつけられ、前に進めないでいる。そんなところではないのか?」


「……あり得るかもな」


 雨水が呟いた推測が最も説得力があり、的を射ていると思った。


 1度の勝利で、敵のグループから1人を選び出さなければならない。


 そして、他の者は切り捨てるしかない。


 その時にかかる精神的な負担は、尋常じゃない。


 俺と雨水は、それを自分の立場として体験しているだけに共感できる。


「平民には、耐えられないような覚悟を試される試験だねぇ。……本当に」


 前髪をかき上げながら、貴族モードの幸崎が哀れむような目で周りを見る。


 しかし、最後の一言には同情が感じられた。


「この中から、5人目を迎えれば次で最後……。しかし、目ぼしい者は今のところ見当たらないな」


「そりゃそうだろ。考えてみたら、俺たちはマイナスからのスタートなんだぜ?バトルができるのは1日に1回。その1日の差で、強い奴は先に進んでいる。御堂たちみたいな、物好きでもない限りな」


 そう言って御堂の方を見れば、軽く手を挙げては「はーい、物好きでーす」とやる気のない返事をする。


 10日間っていうタイムリミットがある以上、こういう例外でも居ない限りは、さっさと先に進むという思考になるはずだ。


 今日で3日経過していることから、残り7日。


 1敗もしてないグループなら、もうこの監獄を出ていてもおかしくない。


「どうするんだい?私としては、まだ時間に余裕があるなら、急ぐ必要もないと思うがね。レベルの低い者と戦っても、後々で足手まといになられても困る」


 そんなことを言う幸崎だが、その疲労が見える表情から本音は別にあることがわかる。


 3日連続でバトルをしていることから、流石に身体的にもメンタル的にも疲労が蓄積してるんだろう。


「さんせーい。俺も経験値を稼ぐなら、できる限り強い奴と戦いたいし。正直、ここに居る人たちはレベルが低いでしょ」


 間抜けな顔で辛辣なことを言うが、それに反応する者は周りに居ない。


 何というか、グループごとに固まりながら、他者を排斥しているような空気感なんだよな。


 仮にここでバトルを挑もうとしても、逃げられるような気がする。


「1つの勝利が与える恐怖…か」


 バトルも苛烈ながら、その後で迫られる選択の苦しさを味わいたくない。


 覚悟が固まっていない奴らが、ここに残っているんだ。


「とりあえず、今日はもう休もうぜ。流石に俺も疲れたしな」


 俺の一言に幸崎と御堂は頷き、雨水は聞こえていないのか反応が無い。


「雨水、それで良いか?」


「えっ…。ああ、大丈夫だ。問題ない」


 明らかに生返事であったが、流れに従って4人で共有部屋に向かった。



 ーーーーー



 4人用の共同部屋は3人組エリアよりも広く、1人1つのベッドが使えるようになっていた。


 2段ベッド2つが並んでいるイメージだっただけに、嬉しい誤算だった。


 またベッドの取り合いをするのは面倒だからな。


「そんじゃ、お休みぃ~」


 到着するや否や、御堂が近くのベッドにダイブしてはそのまま枕を抱きしめて寝る体勢に入る。


「おい、御堂累!シャワーも浴びずに寝るつもりか、不衛生な!」


 執事としてのお節介が働き、雨水が御堂の首根っこを掴んで起こそうとする。


「別に良いじゃん。起きたら入るからさぁ~。俺、朝シャン派なんだよぉ~」


「そんな甘えは俺の前では通用しない!ほら、さっさと入れ!その汚れは、その日の内に洗い流せ!」


 強引に連れて行かれる御堂が、間の抜けた声で「ヘルプミィ~~」と助けを求めてくるが、俺と幸崎は雨水の剣幕から仲介に入ることすらせずに見送った。


 あいつの性格上、御堂みたいな奴は幸崎よりも許せないんだろうなぁ。


「御堂くんも可哀想に……雨水くんに目をつけられて」


「案外、逆に良いコンビなんじゃね?多分、これまで麗樹に甘やかされてたんだろし、あの怠け者にはスパルタくらいがプラマイゼロにできるって」


 淡泊にそう言いながら、俺は共同部屋から出る。


「椿くん、どこに行くんだい?」


「先に飯行ってくるわ。おまえも一緒に行くか?」


「誘ってくれるのは嬉しいけど、遠慮しておくよ。少しやりたいことがあるから」


 断られれば、特に追及せずに「そうか」と言って流して部屋を後にした。



 ーーーーー



 昨日は麗樹たちの予期せぬチャレンジ精神に圧されて余裕が無かったけど、今日は違う。


 誰からも干渉されない内に、食堂で夕飯を終わらせた後でとある場所に向かう。


 モニタールームだ。


「ストレートで勝ちあがっていたら、そろそろ……」


 画面を操作しながら、別のブロックのバトルを検索する。


 見たいバトルは色々あるが、俺の持っているアピールポイントで観戦できる回数は3回程度だ。


 厳選するとすれば、やはり……。


「ここに居たのか、椿」


 いつの間に入ってきたのか、名前を呼ばれて振り返れば、雨水の姿が在った。


「おまえ……御堂への洗礼は終わったのか?」


「ああ。荒療治になったが、向こうも無駄な抵抗をしなかったので、すぐに終わらせた。今頃、疲労がピークに達して爆睡してるだろう」


 そう言う彼の髪は少し濡れており、軽くタオルドライをしてから、ここに向かってきた感じだな。


「おまえも、モニタールームに来るのは意外だったぞ。クラスメイトの状況を確認に来たのか?」


「それもだけど、先に確認するもんがあるんだよ。多分、目的は同じだ」


 操作しながら、選ぶブロックはグリーン。


 確か、ここには麗音が配置されているはずだ。


 もしかしたら、対象とグループが被っている可能性もあったが、生徒を検索したところ現在は別々のようだな。


 そして、探し人の名前を見つける。


「あった……和泉要」


 彼女の名を聞けば、雨水の顔が曇る。


 安堵の表情を浮かべるかとも思ったが、逆に(うれ)いを感じさせる。


「今は5人組エリアみたいだな。崖っぷちじゃないなら、良い…ってわけじゃねぇみたいだな」


 スクランブル・テリトリーズの記録を見ていると、彼女のバトルのデータが2つ。


 そして、それらには共通点がある。


 勝利した時の状況が全て、相手チームのプレイヤーが全員リタイアしているが故の強制終了。


 それによって、彼女のチームは1人ずつ相手チームからプレイヤーを選出しながらも、試験中の参加は不可能ということで3人で進んでいるらしい。


「どういう状況だ、これ…?」


 4人組エリアでバトルする時も、実質的には3人対4人でも勝利したってことか。


 マスの取り合いという意味では、1人でも多い方が有利だ。


 それでも和泉が勝利したということは、論点はそこじゃない。


 戦略か、それとも戦術か。


「実際に見てみないことには、判断できねぇか」


 隣に雨水を移動させ、モニター画面でバトルの様子を再生させた。



 ーーーーー



 ブロック:グリーンの3人組エリア。


 和泉のチームには、2人Aクラスの女子が2人着いている。


 相手は屈強な体格をした、高身長の3年生の男子チーム。


 男女差別をする気は無いが、普段の和泉を見ていると勝利できる未来は見えない。


 こういう戦闘に重きを置いた試験では、どうしても身体能力が物を言うところがあるからだ。


 それでも、和泉はこのバトルに勝利している。


 一体、どうやって……。


 スクランブル・テリトリーズがスタートし、早速違和感を覚える光景があった。


 移動しているのは和泉だけで、他の2人はマスに入っていない。


 そして、彼女が移動したマスはB3。


 やり方は麗樹が俺たちに仕掛けてきた戦法だ。


 B3のマスで成立した1対1のスクランブル・バトル。


 相手の3年は、木村草太(きむら そうた)


 SASでの身体能力Aの実力者だ。


 和泉は相手とのバトルが成立した時、その左手に持っている布に入った大き目の棒状の()()を解き放った。


 解かれた布の隙間から、桃色の光が漏れ出てくる。


 その(あや)しげな輝きに、記憶にこびり付いた既視感があった。


「嘘…だろ…!?」


 何故?


 いや、そんなはずがあるのか!?


 既に過ぎた出来事を見返しながらも、モニターの再生は続く。


 布が外された先にあったのは、見間違えるはずが無い宝刀(ほうとう)


 蝶の形をした(つば)が飾られ、桃色の刃が目を惹き付ける。


 それは紛れもなく―――。


 そして、その輝きが画面全体を覆った次の瞬間、木村先輩の身体に7つの斬り傷ができており、前に倒れた。


 もはや、戦闘継続は不可能だ。


 和泉の持つ宝刀には、彼の血が付着しており、赤い雫が滴り落ちている。


「要……なのか、あれは?」


 雨水が信じられない物を見るように、画面から目が離せなかった。


 それは俺も同じで、衝撃で手が小刻みに震える。


「七つの大罪具……七天美…だと!?」


 その後、彼女はマスを占領することなく、2ターン目を迎える。


 マスを占領していないことから、スタート位置に戻っている。


 今の流れと同じく、2ターン目も敵の居るマスに向かう和泉。


 次は相手も警戒したのだろう、向こうは2人固まっていた。


 それでも、和泉はすぐに2人を切り伏せていたんだ。


 その様子はまるで、宝刀を使って舞っているようにも見える。


 彼女の剣舞に魅了され、視線を奪われる。


 画面上だとしても、その効果を感じさせるのは俺がこの宝刀の脅威を知っているからか。


 3人のプレイヤーが戦闘不能となり、もはやバトルは継続不可能となる。


 和泉ただ1人で、1つのマスも占領することなく、このスクランブル・テリトリーズを終わらせたのか。


 血塗れになった和泉の表情が、画面に映る。


 その目に宿る輝きは桃色であり、虚ろな瞳をしていた。


「要が……あんなことを…‼違う、彼女は…こんなことをする女じゃ――‼」


「現実を見ろよ、雨水。和泉は3人のプレイヤーを斬った。そして、次の4人組エリアでのバトルでもおそらく……」


 現実逃避しようとする雨水を止めようとすれば、奴は感情のままに俺の胸倉を掴んでくる。


「椿ぃ‼おまえだって、要のことを見ていたはずだ‼彼女はっ…こんな……人を傷つけるようなことをしないんだ。それが、俺の知る彼女でぇ…‼」


 その手を振りほどくには、あまりにも簡単なほどに力は弱く、震えていた。


 俺だって、今までの和泉を見ていたら信じられないような光景だった。


 だけど、これで1つ戦わなければいけない理由が増えた。


「おまえは()()()()()()、和泉要と向き合わなきゃいけないのかもしれないな」


 この言葉で、俯いていた雨水が顔を上げる。


 そして、視線を合わせてながら俺は告げた。


「彼女を助けるぞ、雨水。俺たちで」


 和泉要と七天美が、どこで繋がったのかはまだわからない。


 しかし、これはただの人助けでは終わらないことはわかった。


 これはもう、雨水1人の復讐劇じゃなくなった。


 緋色の幻影が関わっているなら、奴らの思惑を覆す。


 これは、俺たちの復讐になった。

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