ゴブリンVSテイル
テイルは暗闇の中で目を覚ます。
身体のあちこちに激痛を感じるが、自分が生きているということにとりあえず安堵する。
立ち上がろうとすると、右腕に激痛が走る。
どうやら折れているようだ。
激痛に悶える中、ふと視界の端に動くものを捉える。
「ゴブリンか…!」
必死の思いで左腕のみで攻撃魔法の構えを取る。
火球が掌に集まる。
暗闇が照らされていく、それと同時に闇の中で動いていたそれの姿も鮮明になる。
姿を現したのはゴブリンではなかった。
まだ幼い人間の兄弟。
兄が必死に弟を抱きしめ、庇っている。
それを見たテイルは、先程自分が落ちた罠が直接人間を閉じ込める檻に繋がっていたことを理解する。
発動しようとしていた火球の効果を落とし、火属性系の低級探索魔法、松明を発動させる。
小さな炎がテイルの肩あたりに留まり、辺りに温かな光がみちる。
「もう大丈夫だ、助けに来た。」
冒険者のバッジを見せ、二人に手を差し伸べる。
すると兄弟は泣き声を上げながらテイルに抱きつく。
「他の人たちはどこにいるんだ?」
嗚咽混じりで兄の方が答える。
「みんな…もっと地下の方に連れていかれちゃった…僕たちは子供だからこの部屋に移されたみたいで…」
「そうか、わかった。」
明かりを灯したことで部屋の全体図が鮮明になる。
小さな空洞、木の柵によって出入口が封じられている。
柵の外は通路になっている。
「ごめん、ちょっと離れてくれ。」
兄弟はテイルから離れる。
テイルは火球を発動させ、木の柵を破壊する。
残りの魔力量は六割程度。
もう一度攻撃系の魔法を発動すれば、以降魔法の使用は不可能となる。
それに加え、松明の魔法を発動させていることで少量ではあるが持続的に魔力を消費する。
この救出活動は迅速な行動が求められる。
「他の人たちがどっちに行ったかわかるか?」
弟が暗闇の方を指さす。
その方向へと向かう三人。
そして洞窟の最奥部、木の柵で遮断された部屋を発見する。
その部屋には、五人の女性が監禁されていた。
テイルは外側から木の柵を開けて、中に囚われていた女性達を助ける。
先程の兄弟は自分の母親へと駆け寄っていく。
後は全員を連れ出し脱出するのみ。
その時だった。
先程来た道から複数の足音が聞こえてくる。
その殆どはゴブリンのモノと思われる軽い足音だが、ただ一つだけ金属音混じりの重い足音が聞こえてくる。
テイルはすかさず攻撃魔法の構えを取る。
そして遂に、暗闇の中からゴブリン達が姿を現す。
通常種のゴブリンが三匹と、異様な姿をしたやや大きなゴブリンが一匹。
そのゴブリンは全身に金属の鎧を纏っていて、手には鉄製の大きな棍棒を持っていた。
その姿を視認するや否や火球を放つテイル。
爆炎により身体を焼かれ苦しむゴブリン達だったが、鎧を纏った個体は違った。
爆炎を受けてなお醜悪な笑みを崩さず、こちらへと向かってきている。
恐らく鎧に何かしらの魔法的細工が施されているのだろう。
「嘘だろチクショウ!」
もう一度火球を放とうとするテイルだったが、既に魔力が切れていた為発動できない。
それどころか、松明の魔法すら切れつつあった。
明滅する視界の中で、最良の一手を考える。
笑みを浮かべながら歩み寄ってくる鎧のゴブリン。
ここで選択を誤れば…
「…死ぬ!」
魔法が効かない、魔力も既に二割程度。
ならばどうするか。
自然に背負っていた弓に手が伸び、構える。
使用者の魔力を具現化しそれを矢として放つ性質上、鎧を狙っても防がれる可能性がある。
「狙うは装甲の隙間…!」
素早く弓を引き、放つ。
残りの魔力を全て乗せた渾身の一撃──────
装甲の隙間に見事に的中する。
自らの完璧な防御が突破された事に驚く鎧のゴブリン。
肩を貫かれたことにより棍棒を持つことが困難となり、それを落とす。
怒り狂った鎧のゴブリンは雄叫びを上げる。
騒ぎを聞きつけたゴブリン達も集まりつつあった。
一方テイルは魔力を使い果たし、立つことすらままならなくなっていた。
もはやここまでかと思われたその時…
テイルのちょうど横の壁が轟音を上げながら砕け散る。
一同は固まる。
砂煙の中から、白金の鎧を着た男が現れる。
「みーつけた。」
壁を破壊して現れたのは、ササキだった。
ササキは倒れているテイルを見て笑う。
「おー、大ピンチだね。」
テイルはササキが来たことに少し安堵する。
だが、今の状況は依然として絶望的だった。
援軍として現れた十体以上のゴブリン。
そして、怒り狂う鎧のゴブリン。
背後からゴブリン達がササキに攻撃を加えようと駆け寄る。
それを察知したテイルは叫ぶ。
「危ない!」
するとササキは、静かに言う。
「焦るなよ。」
ササキは振り返り、ゴブリン達を打撃一発で粉砕する。
一連の動作は、信じられないほど高速で行われた。
十体以上居たゴブリンがものの数秒で全滅。
その様子を見たテイルは驚愕する。
「なんて速さだ…!」
「そういう能力でね、俺は超速いの。」
鎧のゴブリンはササキを捕まえようとするが、彼にとってその動きは遅すぎた。
「固有能力《超加速》」
「俺は通常の人間の何倍もの速度で動くことができる、そして速度が乗った俺の殴打はどんな武器よりも強い。」
一撃。
それだけで十分だった。
ササキの拳により鎧のゴブリンの装甲は粉砕され、内臓さえも粉砕する。
苦しみぬいた後、鎧のゴブリンは絶命した。
テイルは思わず吐露する。
「つ、強すぎるだろ…!」
振り返るササキ。
「な、言っただろ?俺は超強い。」




