銅級
冒険者ギルド。
そこは冒険者達が集まる場所である。
基本的に冒険者が依頼を受ける為の施設だが、装備を調達したり、仲間を募ったりもできる。
ギルドでは比較的簡単に冒険者登録が可能であり、これをせずに冒険をすることは基本的に禁止されている。
例えば薬草の採取や魔物の討伐、それにより発生する金銭を受け取ること、これらすべてが違法である。
その為冒険者になりたいのであればまずギルドに訪れ、登録を済ませて仲間を集めるのが基本である。
テイルはササキに連れられ、冒険者パーティを組む為にギルドへとやってきた。
ササキがギルドの扉を勢いよく開けると、数名の冒険者が彼を凝視する。
そして、ササキが連れているのがテイルだと気がつくと、数名が彼らを静かに嘲笑する。
「オイオイ、あの新米、テイルなんて連れてきやがったぜ。」
「よっぽど人手が足りないんだろうな。」
「寄りによってあの落ちこぼれか…」
人間より優れた聴覚を持ったテイルは、冒険者達の陰口が聞こえてしまう。
そして、自信なさげに下を向く。
そんなテイルを他所に、ササキは受付へと向かう。
「受付さん、言われた通りパーティを作って来たよ、これで俺は銀級冒険者になれるよね?」
受付嬢は、困り顔で答える。
「申し訳ありません、銀級に上がるにはパーティを結成してからの依頼達成実績が必要でして…」
「えぇ!?パーティ作ってから依頼こなさなきゃいけないの!?それ先に言ってくれないと…」
「な、何度もお伝えしましたよね…?」
「あれ?そうだっけ。」
テイルの方に振り返るササキ。
笑顔で親指を立てる。
「ということで、今から依頼を取りまーす!」
初めてギルドに訪れたテイルは、当然冒険者登録なんてしていない。
「はぁ!?俺まだ冒険者登録してねぇぞ!?」
「あ、そっか、じゃあ受付さん、悪いんだけど登録用紙持ってきて貰える?」
「かしこまりました。」
受付嬢が登録用紙を持ってくる。
テイルはそこに自らの経歴を記入する。
その経歴に、受付嬢が反応する。
「テイル・フロンティア?どこかで聞いた名前ですね、有名人ですか?」
「えっと…」
久しぶりの女性との会話に困るテイル。
するとササキが割って入ってくる。
「受付さん知らないの?コイツの親はこの国でも有名な冒険者と魔法使いの息子なんだぜ?」
ササキの言葉を聞き、一瞬考える受付嬢。
「フロンティア…もしかして、冒険者のガイア・フロンティアさんのお子さんですか!?」
テイルは受付嬢と目を合わせずに答える。
「そ、そうだけど…」
すると受付嬢は、テイルの手を握る。
思わずテイルは顔を赤らめてしまう。
「私、故郷をガイアさんに救って頂いたんです!」
テイルがしどろもどろしていると、受付嬢は話を続ける。
「もう九年も前の事ですけど、あの日からずっとお礼を言いたくて!」
「ギルドの受付を始めたのも、ガイアさんに会えるかもって思ったからなんですよ!」
高鳴る鼓動を必死に抑え、テイルは口を開く。
「と、父さんはもう冒険者辞めました…」
受付嬢のテンションが少し落ちる。
「そうですか…会ってお礼をしたかったんですけどね…」
「お…俺が言っておきますよ。」
「本当ですか!ありがとうございます!私、フロシアの出身、クリス・シャーナって言います!お父様によろしくお願いしますね!」
「あ、あの…」
「?」
「手を握られたままじゃ、記入できません…」
テイルの手を随分長いこと握っていた受付嬢。
興奮のせいで、若干手汗が着いていた。
直ぐに手を離す。
「あぁ!失礼しました!何か拭くもの!」
「あぁ、いや…大丈夫です…」
それから少しして、必要事項の記入を終えたテイル。
冒険者審査まで少し時間がかかるということで、ササキと一緒に装備を見に行くことにする。
「テイルって何ができるんだ?」
その無神経な物言いに、喧嘩を売られているのかと思うテイル。
「初級魔法と中級魔法がちょっと使える。」
「エルフなのに本当に魔法の才能ないんだな、特技とかないの?」
いちいち勘に触る言い方をされ、少しイラッとくるテイル。
「人の事馬鹿にするの好きなのか?お前は。」
「馬鹿になんてしてない、これからテイルの装備を調達しようと思って、その参考にってね。」
「言い方ってものがあるだろう…」
テイルは自分の特技について少し考える。
昔、母親と森で弓の練習をした事を思い出す。
「強いて言うなら…弓?」
「弓か、エルフっぽくていいじゃん!」
二人はギルドが運営する武器屋に入る。
武器屋には初心者用の武器から庶民では手が届かないような高級な武器まで様々な武器が取り揃えてあった。
「これとかどうよ。」
ササキが掴んだのは、金貨数十枚はくだらないであろう弓。
非常に豪華な作りになっており、矢の代わりに魔力を放出する構造に加え、四元素を司る魔法の宝石がはめ込まれている。
「そんな弓矢扱えるか!てか買えねーよ!」
「安心しろよ、俺結構金持ってるから。」
そう言って弓を購入するササキ。
それをポンとテイルに渡す。
「はい、これでテイルも立派な弓使いだ。」
テイルは渡された弓の重さに驚く。
これは魔法の弓が少しだけ重いというのもあるが、体力不足が大きな要因の一つである。
不慣れな弓を不格好な姿で抱える。
それを見て周りの冒険者達は嘲笑の眼差しを向ける。
「そりゃ変だよな、俺みたいな出来損ないがこんな高価な弓持ってたら…」
すると、先程の受付嬢がテイルの元へと走ってくる。
その手には、銅のバッジがあった。
「お待たせしましたテイルさん!無事審査終了です!」
受付嬢はテイルの手にバッジを握らせる。
その様子を見て、数名の冒険者達は不機嫌そうな態度を取る。
出来損ないが自分達と同じ冒険者になる事が気に入らないのだ。
そして、テイルに向けられた陰口は彼に同伴する者、ササキや受付嬢にまで広まりつつあった。
ハーフエルフであるテイルは、それらがすべて聞こえてしまっているのだ。
受付嬢が言う。
「今日からテイルさんは立派な冒険者です!もっと胸を張って歩きましょう!」
その言葉に、思わず失笑が零れる。
「受付さんは知らないだろうけど、俺はこの国じゃ嫌われる者だ、英雄の間に生まれたクズってな。」
その言葉を、静かに聞く受付嬢。
「だから、受付さんもあんまり俺に近づかない方がいい、俺は──────」
言い終わるより前に、受付嬢が叫ぶ。
「諦めが早い人ですね!」
驚くテイル。
そんなテイルの目を見つめ、彼女は続ける。
「あんまりウジウジしないで下さい、あなたは今日、自分を変えるために冒険者になったんでしょう?」
「い、いや、そんなつもりじゃ…俺はただササキに誘われて…」
「それは自分の本心に気がついていないだけです、だって、誘われたから仕方なく冒険者になるような人見た事ありませんよ!?」
「自分ではそんなつもりなくても、あなたは自分を変えたかった、そして今変わろうと頑張ってる、それでいいじゃないですか。」
その言葉を受け、テイルはやっと自分から受付嬢と目を合わせる。
「見返してやりましょう、あなたはきっと変われるはずです。」
生まれて初めて他人からかけられた温かい言葉。
その言葉の意味について、テイルは少し考える。
「自分の本心…」
後ろからササキが声をかける。
「冒険者デビューおめでとうテイルくん、早速だけど、受けたい依頼があるんだよね。」
その手には、依頼の書かれた紙が握られていた。




