テイル・フロンティア
グロバディア王国
そこは冒険者業で盛んな人間の国だった。
冒険者とは依頼を受けて魔物や魔人を討伐したり、未知の土地を冒険する者達。
強い冒険者は人々から羨望の眼差しを向けられる。
そのため、グロバディア王国は夢に挑戦する者達で溢れかえっていた。
そんなグロバディア王国に住む青年『テイル・フロンティア』
彼は父親に人間、母親にエルフを持つ、いわゆるハーフエルフだった。
父の名はガイア・フロンティア。
八年前、魔王軍幹部を討伐した冒険者パーティの戦士だった。
母の名はテロナ・フロンティア。
あるエルフの国で生まれ、齢十七にして他国にまで名を轟かせた魔法使いである。
幼い頃から、自分もいつか偉大な両親のように偉業を成し遂げるのだと信じていたテイル。
だがその日は来なかった。
魔法適正診断の結果、テイルにはエルフ特有の魔法の才能はなかった。
そして父親のように戦士の才能も無かった。
これはエルフは筋肉が発達しにくい為、ハーフエルフのテイルにもその影響が及んでいると考えられる。
異様な耳を持っていた為人間国家では上手く馴染めず、幼少期からイジメを受ける。
また、英雄の子であるにも関わらずなんの才能も持たないことから、大人達からも嘲笑される。
そして現在、テイル十五歳。
彼は周囲からの視線や自己嫌悪で引きこもりになっていた。
暗い寝室。
ノックが響く。
昼間から仰向けになり、ただただ天井を見上げていたテイルの意識が覚醒する。
「テイル、そろそろ飯の時間だ、出てきなさい。」
テイルの父、ガイアの声だった。
「いいよ、飯なんて要らない。」
「もうお前五日も食べていないだろ、いくらエルフが頻繁に食事を必要としない種族でも流石に…」
「いらないって言ってるだろ!父さんはハーフエルフじゃないから俺の気持ちなんてわからないんだ!」
叫ぶテイル。
数秒、静寂が訪れる。
別の声がその静寂を破る。
「お願いテイル、もうお部屋から出てきて、あなたの悩みも家族みんなで相談すればきっと何とかなるわ。」
母親のテロナだった。
その言葉にテイルは激昂する。
「俺の悩みがアンタ達に分かるかよ!生まれてからずっとみじめに生きてきた俺の人生なんて!英雄のアンタらには理解できねーんだよ!」
その時、ガイアによって扉が蹴破られる。
「俺たちは家族だ!テイル!悩みがあるなら相談しろ!」
その言葉と行動が、テイルを更に逆上させる。
「家族だから嫌なんだよ!俺があんたらのせいでどれだけ苦労したと思ってる!」
「誰も生んでくれなんて頼んでねぇのに、あんたらの家族ってだけで、出来損ないの俺は周りから嫌な目で見られるんだよ!」
「こうなったのも全てあんたらが──────」
言い終わる前に、ガイアが吠える。
「全てを人のせいにするんじゃない!周りに馬鹿にされたくなかったらそれ相応の努力をしろ!」
テイル、図星を突かれ激昂。
「うるせぇえええ!何もかもテメェらのせいなんだよ!」
言い終わる前に、テロナによって頬を叩かれる。
「痛ぇ!」
両親を押しのけて部屋を出るテイル。
そしてそのまま家を飛び出す。
外は雨だった。
「俺は悪くない…!何もかも俺を生んだアイツらが悪いんだ!」
頬を伝う水が雨水か、自分の涙かも分からない。
そのまま当てもなく走るが、体力不足のため五分とかからずバテる。
前を見ずに歩いていると、怪しい黒いローブの男たちにぶつかってしまう。
一瞥して通り過ぎようとしたテイルだったが男のうちの一人に肩を掴まれる。
「オイガキ、ぶつかったらちゃーんと謝らなきゃな?これ常識。」
「す、すみません…」
そのまま立ち去ろうとするテイルだったが、男は彼を止める。
「オイオイ、俺怪我しちゃったんだけど〜!骨折れたかもな〜!慰謝料寄越せよ。」
「お、俺、金なんて持ってねーぞ…」
男たちがテイルを取り囲む。
「あ?なら身ぐるみ剥いでやるよ。」
「俺達にぶつかったのが運の尽きだな、なんたって俺達はあの魔神教の教徒だぜ?」
「もし俺たちに逆らうってんなら、それは魔神様に逆らうってコトだ、このままリンチにすっぞゴラ。」
魔神教。
ここ最近、異様なまでに勢力を増している悪質な宗教団体。
本能のままに破壊、窃盗、殺人を繰り返す集団であり、それを良しとする教えを信じている。
王国の騎士や冒険者たちが彼らを取り締まってはいるが、それでも尚衰えを知らない異質な団体。
その噂を知っていたテイルは、彼らに抵抗する。
だが、揉みくちゃにされてしまい最後には地面に叩きつけられる。
教徒によって蹴られ、頭を踏まれ苦しむテイル。
「オイオイ、見ろよコイツ、ハーフエルフだぜ。」
「おぉ、高く売れるな。」
テイルは心の底からむしゃくしゃしていた。
家の中でも両親に自分を否定され、外にでれば頭のおかしな宗教団体に絡まれる。
そして、遂にキレる。
「今すぐその汚い足を退けろ…!」
「あ?」
劣勢であるにも関わらず強気なテイルの態度に、唖然とする教徒。
「その足、消し飛ばしてやる。」
ついにテイルが魔法の詠唱を開始する。
エルフとしては魔法の才能がないテイルだったが、人間からすれば中級者程度の実力者。
魔法陣が展開される。
「…死ね!火球!」
魔法が炸裂する。
教徒たちは火球の衝撃と爆発によって吹き飛ぶ。
爆音が辺りに響き渡る。
教徒達全員が地面に伏す。
その状況を見て、自分が取り返しのつかないことをしてしまったと悟るテイル。
一般人が正当な理由なく魔法での他者へ危害を加えることは法律で禁止されているのだ。
法律を破った場合、王国の騎士によって罰される。
最悪、処刑される。
「に、逃げなきゃ…」
振り返り逃げようとするテイル。
だが、背後から声を掛けられる。
「おい、待て──────」
振り返ると、白金の鎧に身を包んだ騎士がいた。




