復讐の第一歩は軽快な足取りだった
少し歩いたところで、テイルは仲間の亡骸を発見する。
金剛鉄人は鎧が高熱によって溶かされて死亡しており、抱えられていた王国兵士二人も瓦礫の下敷きになっていた。
ティアは上半身のみの状態で発見される。
全身が火傷だらけで、その表情ももう分からない。
その場で静止し、目を見開く。
もはや涙すら枯れた。
絶望が心を染め上げる。
瓦礫の上を一歩ずつ歩き、ティアの元にたどり着く。
そして上半身を抱きしめる。
行き場のない悲しみ、怒りが全身を震わせる。
それは口から嗚咽として吐き出された。
その時、後ろから微かな呼吸音が聞こえた。
ハーフエルフでなければ聞き逃してしまうほどの小さな呼吸音。
テイルはティアの上半身をそっとその場に置き、音の方向へと向かう。
瓦礫の山を掻き分けると、そこには瀕死のクレアがいた。
「クレア…ッ!」
掠れた声で呟くテイル。
そして彼女を掘り起こし、抱きかかえる。
彼女の顔には大きな火傷跡がついていた。
「おーい、何があった!」
爆発音を聞いたガナジャ村の村人達が、駆け寄ってくる。
そして、この悲惨な状況を見て恐怖する。
そのあまりの凄惨さに、吐く者もいた。
村長がテイルに駆け寄ってくる。
「冒険者様!一体何が…!」
テイルは村長の目を見る。
テイルの気迫に、村長はたじろぐ。
「話は後だ…今はクレアを助けてくれ…!」
その言葉を聞き、村長達は急いでクレアを村まで運ぶ。
その後、村の小さな診療所で応急処置を受けるクレア。
一命は取り留めたが、まだ危険な状態であることには変わりない。
被害報告を受けた王国から、騎士団が派遣されてくる。
昏睡状態になったクレアを、王国の神殿へと運ぶ騎士達。
それにテイルも同行する。
馬車の中で騎士達に一連の流れを話す。
しばらくして神殿へと着く。
神殿で集中治療を受けた結果、クレアはなんとか安全な状態まで回復した。
だが、いくつかの後遺症が残っていた。
まず、両足の欠損。
長時間瓦礫の下敷きになっていた為、両足が壊死してしまったのだ。
加えて、声帯が焼けて壊死したことによる声の喪失。
これにより、クレアは言葉を喋れなくなった。
それを聞いたテイルは、目が覚めた時の彼女の心境を想像して胸が痛める。
仲間は死に、自分は両足欠損に声も出せない身体になった。
人が絶望する要素が揃いすぎている。
「ごめん…俺のせいで…」
テイルは、それも全て自分のせいだと考えた。
胸の中に消えない後悔が残る。
自分が選択を誤らなければ、自分がもっと強ければ、こんなことにはならなかった。
クレアは暫く神殿での生活が続くだろう。
テイルはササキの家へと帰る。
そこで彼との生活を思い出し、ひとしきり泣いた。
そして、眠りについて、仲間たちと楽しく冒険をする夢を見て目を覚ます。
そしてまた泣いた。
それを繰り返していたため、その日はよく眠れなかった。
次の日…
早朝から神殿に訪れたテイル。
その目の下には大きなクマがあった。
受付に声をかける。
「クレアのお見舞いにきたんですけど…」
それを聞いた受付は、クレアの個室へと案内してくれる。
テイルはぎょっとする。
まだ目覚めていないと思われたクレアが、もう目を覚ましていたのだ。
ベッドの上で上半身だけを起こし、窓の外を見つめる。
「クレア…」
テイルが入ってきたことに気がついたクレアは「こっちに来い」というジェスチャーをする。
テイルはフラフラとおぼつかない足取りで、彼女の元へと向かう。
辿り着いたその時、クレアは「座れ」というジェスチャーをする。
近くにあった椅子に座るテイル。
すると、クレアはテイルの頭をグーの手でコツンと殴る。
「クレア…ごめん。」
その言葉を聞いたクレアは、今度はもっと強くテイルに腹パンする。
「…」
痛いとは言えなかった。
きっと、彼女はもっと痛いだろうから。
ただただクレアを見つめるテイル。
次第に視界がぼやけていく。
クレアはテイルに鏡を向ける。
テイルは、涙とクマで酷いことになっている自分の顔を見る。
「ごめんクレア、俺のせいで…ティアも…ササキも…皆が…」
乾ききったと思っていた涙が不意を突いて溢れ出す。
そんなテイルを、クレアはそっと抱きしめる。
テイルは彼女の身体が震えていることに気がつく。
彼女もまた、泣いていたのだ…
その後、テイルはクレアの病室を後にする。
そして今度は自分の家へ向かう。
扉を開ける。
すると、たまたま階段から降りてきた父親、ガイアと再会する。
「テイル…!」
ガイアはテイルを見るや否や、母親を呼ぼうとする。
テイルはそれを手で静止する。
「…父さん、俺に武術を教えてくれ。」
ガイアはテイルの眼を見る。
そして、その瞳の中にただならぬ決意があることを悟る。
そしてひとつ溜息をつく。
「…何があったかは知らんが、いいだろう、付いてこい。」
昔、ガイアが修行に使っていた荒野に連れていかれるテイル。
それからテイルは、毎日ガイアと厳しい修行を重ねた。
その間もクレアへの見舞いは欠かさなかった。
半年後──────
テイルは銀級中位クラスの肉体と武術を身につけていた。
肉体を鍛えるに連れて増してゆく魔神教への憎悪。
テイルの頭の中は、復讐でいっぱいだった。
頃合いだと思ったテイルは、魔神教への復讐を果たすために、奴らの目撃情報が噂される森へと向かう。
その森の名は、サゲーナ大森林。
テイルは初めての実践へと向かう。
奴らを殺すためなら、どんな卑劣な手段も使う。
邪魔する奴は誰であろうと殺す。
明確な殺意をもって、歩を進めるテイル。
その様子をみた街の人々は、テイルを恐れる。
それに気がついたテイルは、こんな時ササキならどうするか考える。
そして、彼のように軽薄な笑顔を浮かべる。
ただササキと違うのは、その下にある狂気を隠しきれていないこと。
「ハッハッハッ!さぁ、魔神教のゴミ共を血祭りにあげてやろうぜ!」
恐ろしい軽口を叩きながら、テイルは突き進む。
自分がテイルである以上、誰も守ることはできない。
ならば、ササキのように強くなる。
きっとササキならこうする。
ササキの遺言に従う。
仲間を守る。
テイルに残されたのは、ただそれだけだ。




