始めての事ばかり
古びた部屋で休憩を取る一行。
金剛鉄人と、王国兵士のうちの一人が部屋の外で見張りをしている。
現在部屋の中に居るのはササキ、テイル、クレア、ティア、兵士の五人。
ティアの治療を行う王国兵士。
致命傷とまでは行かずとも、重篤な怪我を負っている彼女。
有り合わせの治癒の薬だけでは、完全回復させることはできなかった。
傷の痛みにより息を切らすティア。
クレアは彼女の手を握っている。
その様子を見たテイルは、回復魔法が使えない自らの無力さを噛み締めていた。
回復魔法を使用するには、特別な訓練が必要なのだ。
その為、クレアでさえ回復魔法は使えない。
ササキが一歩前に出る。
「この傷、全治何ヶ月?」
兵士が答える。
「一ヶ月…獣人の回復力なら二週間、と言ったところでしょうか…」
「食料は何日分ある?」
「しょ、食料?栄養補給用のポーションがひと月分ありますが、何か関係が?」
「じゃ、それ二週間ちょうだい。」
ササキは、王国兵士からポーションを受け取る。
そして、ティアの傷口に手を置く。
「おい!何してんだよ!」
クレアがササキの腕を掴む。
「何って、回復させるんだよ。」
「お前、回復魔法が使えるのか?」
「いや、使えないけど。」
「はぁ!?じゃあ一体どういうつもりだよ!?」
ササキはクレアの手をそっと退かす。
そして、固有能力を発動させる。
「俺の固有能力《超加速》はね、限定的にだけど他人にも適用できるんだ。」
イマイチピンと来ないという顔をするクレア。
「ただ加速させるだけじゃない、俺の固有能力は細胞の回復速度も加速させる…その分、デメリットもあるけどね…!」
ササキが力を込めると、ティアの傷が再生していく。
回復魔法とは違う異質な再生。
驚く一同。
傷の再生中、ササキはティアにポーションを飲ませていく。
少し時間が経つと、彼女の傷は完全に塞がった。
「二週間分、コイツの細胞を加速させた、加速中はその期間に応じた栄養を摂取しなきゃいけないし、考え方によっては二週間分の寿命を失ったとも感じられる、それがデメリット。」
起き上がるティア。
自分に何が起きたのか理解できず、傷口をさする。
テイルはある事に気がつく。
「まさか、お前がどんな攻撃を受けてもいつも無傷なのって…!」
「ピンポーン、固有能力の応用、まぁ、俺自身は老化や栄養問題を無視できるんだけどな。」
「どんなご都合固有能力だよ…」
ティアの傷が癒えたことにより、張り詰めていた緊張感が少し緩む。
治療法を行っていた兵士も見張りへと向かう。
ササキが気の抜けた笑顔を見せる。
「このメンバーだと、あの日の事を思い出すな。」
その言葉を聞き、クレアはしかめっ面になる。
あの日とは、ギルドにてクレア達がササキに突っかかった日のことである。
「いきなり雷撃を撃ち込まれた時はビックリしたよ、ホント…」
「…」
暫く黙っていたクレアだったが、初めてササキに敵意以外の感情を向ける。
「すまなかったな…」
ティアは少し驚いたような表情になる。
「クレアちゃんが人に謝った…!?」
「なんだよ!アタシが人に謝っちゃ悪いかよ!」
そんな様子を見て、テイルは笑う。
それに気がついたクレアは怒る。
「笑ってんじゃねーよ!」
悪戯な笑みを浮かべるテイル。
彼の笑顔を見たティアは、初めてササキとテイルに話しかける。
「…あの日、クレアちゃんがササキさん達を強引に仲間に誘ったのは、私のせいでもあるんです。」
「私、獣人と人間のハーフで、王国ではずっと馬鹿にされてきたんですけど…似たような境遇の方が居ると聞きまして…それが…」
ティアはテイルの方を見る。
「テイルさん…なんです…」
テイルは驚く。
「俺!?」
「はい…!エルフと人間の間に生まれて、王国中から出来損ないだとか凡夫だとか馬鹿にされてるという噂を聞きまして…!」
全て事実だが、あまりの直球さに苦笑いするテイル。
「でも、そんな環境でも、諦めずに冒険者を始めた姿が…その…とても…カッコよくて…」
ティアはモジモジしながらテイルの方をチラチラと見る。
「ファ…ファン…です…」
その言葉を聞き、信じられないテイル。
この国で、自分を蔑まず、それどころか良く思ってくれている人がいた。
その事実を受け止めきれず、変な感じになる。
「い、いやいや、銀級冒険者まで登りつめたティアの方が凄いと思うんだけど…」
初めてティアが声を張る。
「そんなことありません!私は!その…クレアちゃんに誘われただけっていうか…」
「と、とにかく…私がテイルさんのファンなのを察して…クレアちゃんはお二人をパーティに勧誘したんだと思います…」
ササキがクレアの方を見る。
「意外といい所あるじゃん!」
クレアは下を向いて黙っていた。
ササキは目には涙が浮かんでいた。
きっと笑いすぎたのだろう、とテイルは思う。
涙を拭くササキ。
「今日は面白いことがたくさんだな、こんなの前の世界じゃ体験できなかった…」
テイルはその言葉に違和感を覚えた。
言葉の真意を聞こうとするが、それより早くササキが立ち上がり、声を上げる。
「クレアとテイルのコンビネーションはかなり良かった、それにティアの索敵能力も素晴らしい!」
「ここで一つ、俺から二人に提案がある!」
クレアとティアに指をさすササキ。
「俺の仲間にならないか?」




