5/14(火) <進軍開始>
『寝る前5分は全知全能』の最新話に『僕は眠りについた』と書かれていたので、それに逆らって寝ないよう僕は徹夜しようとした。
しかし結局寝てしまったうえに、朝起きたら学校に遅刻しそうな時間だった。
いつもは早いバスに乗るので人は少なめだが、今日はギリギリのバスに乗ったせいで満員だった。
バスの中で立っていると、近くの座席に佐々木さんが座っている事に気付いた。
佐々木さんは幼稚園から知り合いで、僕は昔から佐々木さんに気があった。
チラッと佐々木さんのスマホを覗くと、驚いたことに佐々木さんは『寝る前5分は全知全能』を読んでいた。
その小説に書かれているのが僕だとバレませんようにという気持ちと、バレたらちょっと嬉しいかもという気持ちが混ざった不思議な気分になった。
こっちの世界に来ると、村じゅうの人が家の前に集まっていた。
「何があっても勝つぞ」とか「絶対に死ぬんじゃないぞ」とか叫んでいる。
壮行会をしているようだ。
僕が家から出てくると、うおぉぉという雄叫びと歓声が湧き上がる。
僕は2mほど宙に浮き上がり、民衆に向けてメッセージを送ることにした。
「今日は待ちに待ったタッセへの攻撃の日だ。
みんな、帝国の事が大嫌いだと聞いた。
よほど帝国での生活は苦だったんだと思う。
だから地獄をひっくり返すために、みんなはクーデターをした。
そして失敗したそうだね。
ここまで逃げたけど、帝国はみんなを地獄に連れ戻したがっている。
連れ戻せないなら殺すと脅されてる。
いや、僕を含めみんな帝国に一度殺された。
地獄へ還りたい? 権力に屈したい? また殺されたい? やられっぱなしで良い?
答えはNOだから、みんなここに居るんだよね。
僕もだ。
間違いなく帝国は、みんなの生活を脅かす敵だ。
だからまた、帝国へ牙をむくんだ。
今度はクーデターではない、戦争だ。
さらに今回は、僕がいる。
運良くこの国は、僕という力を手に入れたんだ。
……違う、『運良く』じゃない。
これは『運』で手に入れた物なわけない。
運命だよ。
みんな、帝国を転覆させるって決められた運命なんだ。
歴史がみんなに命運を託してるんだ。
人の作った武力なんて、時代の変化という圧力の前ではチンケなものさ。
これで勝たない道理は無い!
さぁ、力は手に入れた。
いざ! 未来を手に入れよう」
そう言って、僕は足元にワームホールを作りだした。
このワームホールを通れば一瞬でタッセの街の近くまで行ける。
僕は地上に降り、ワームホールに手を入れる。
「これがあたらしい時代への道だ。さぁ、ついてきて!」
そう言って僕はワームホールに飛び込んだ。
抜けた先は、タッセの街に続く大きな街道のうちの一つだった。
タッセの最も外側の城郭が少し先に見える。
ワームホールから民が次々出てきた。
武器の運搬ももう始まっている。
僕は早速、休めるための家や大きな櫓をいくつか作った。
一通り作れたところで、ヴィダが話しかけてきた。
「既に宣戦布告したので、いつでも戦争を始めて良い状態です。進軍開始のお言葉をお願い出来ますか?」
「いいよ。やってみる」
僕は櫓の上まで飛び、タッセの中央にある城を見た。
そしてタッセ全体に響くよう拡声して、僕は叫んだ。
「我々タッセから逃げた民は、北に新たにゼディロという国を作った。
そして今、この国を転覆させるため宣戦布告をした!
帝国のために命を落とすのが嫌な者は今すぐ投降せよ。
さもなくば、この地獄のような生活で命を終わらせることになるだろう。
全軍、前へ! 進め!」
うおぉぉっという声とともに、僕の国の軍がタッセに向かって進み始めた。
すると、街の方から矢が飛んで来た。
だが僕の軍の風魔法で、矢は全て外れた。
魔法が使いこなせているようだ。
軍はまっすぐに前進する。
僕の国の戦争が始まった――
ほくほくとした気分で現実世界に戻ってから、さっそく『寝る前5分は全知全能』を確認した。
さて、僕の演説はどれだけ恥ずかしい物になったかな?
読んでみると……佐々木さんの話が書かれているじゃないか!
「ひぃっ」と引きつるような声が喉から出てきた。
こんなの絶対「佐々木さんの事が好きだ」って佐々木さんにバレるじゃないか!




