5/11(土) <使者>
徹夜したので朝から眠い。
今日は何もすることが無いので、一日中ふとんでうとうとしながらゴロゴロしていた。
『なろう』を読もうとしたが、眠くて文字が頭に入らない。
あぁ、眠気覚ましの魔法が欲しいなぁ……。
そうしていたら、すぐに22時になった。
こっちの世界に来ると同時に、見知らぬ男が部屋に入ってきた。
男は鎧を着ていて、まさしく騎士といった風貌だ。
その周りにはヴィダや国政に関わってた人たちが立っている。
なんだか堅苦しい雰囲気だ。
「ダモス帝国将軍のセテュと申します。帝国の使者として参らせて頂きました」
騎士はひざまずきながら礼儀正しくそう言った。
見覚えがある顔……。
そうだ、村を復活させるとき千里眼で見た顔だ。
こいつは村を襲った軍の総大将だ。
「要件は何?」
「貴国と我が国の間で、不可侵条約の締結を依頼しに参りました」
「不可侵条約だって? 僕はまだ怒ってんだぞ!」
「は! その節は誠にご無礼致しました。神様の心の一部を攻撃したこと、深く謝罪申し上げます」
「一部? 心の一部って何の話?」
「皇帝が語られた事です。イスダスト様は自身の心の一部を割り、幼神としてここに降臨させたと」
周りの人がざわっとした。
今のセリフに何かタブーが含まれてるような反応だ。
話に割り込むようにヴィダが口を挟んできた。
「神の一部だと? 帝国の愚王によるでっち上げだな」
「皇帝は神の代弁者。神託への侮辱はイスダスト様への侮辱だぞ」
「バカにしてるのか! 神に名は無い。貴公らの神は偽物だ!」
「唯一神の名はイスダスト様だ、無教養で下賤な奴め」
「下賤だと? 神はこの方一人だ」
「神が我々に、神の一部を神へ還す試練を与えたのだ」
「ハハッ、嘘の神は嘘が得意だな」
ヴィダとセテュが舌戦をはじめたが、内容は僕には理解できなかった。
「無駄話は良い、私は和平の話をしに来たのだ」
そのうちセテュが舌戦を止め、僕に話を振ってきた。
「閑話休題。たしかに我々はこの国を攻めた。しかし今は和平を望んでおります」
「僕は……君たちと和平を結べるなんて思えない」
「そうですか、なら『あなたが何も出来ない時』に攻めるか……」
こいつ、和平とか言いながらしれっと脅しはじめたぞ!
しかも僕が数分しか居られない事を知っているようだ。
「そろそろ時間では? どうか、我々ダモス帝国と和平を結んで頂きたい」
「……駄目だ。帝国と不可侵条約なんて無理。また攻めるなら、また報復をしてやる」
僕は毅然とした態度をとりながら答えた。
「残念です。では『我々は貴国を攻めないが、貴国は攻撃しても良い』という一方的和平では?」
「なんだそれ、挑発?」
「ただし条件として、あなたの力で攻撃するのは辞めて頂きたい」
「はぁ? なんだそれ」
「どうか、これで妥協できませんか? 我々は神の力が恐ろしいのです」
そう言ってセテュは深く土下座をした。
プライドが高そうな騎士の突然の土下座に、僕は面食らってしまった。
「わ、わかった、その条件を飲もう。そちらは攻撃しない。こちらは攻撃に僕の力を使わない。それで良いんだな」
「はい、承りました。では、貧弱な我々を一方的になぶる悪の神でない事を祈ります」
そう言ってセテュはガバッと立ち上がり、窓からドラゴンに乗って空へと去って行った――
視界が自分の部屋に戻った。
今日はセテュとかいう騎士に振り回されただけだった気がする。
話した内容を思い出しながらよく考えると、僕は僕の国を和平ではなく戦争の道へをと進ませてしまったのか。
不可侵条約を結んだほうが良かったんじゃないかと今更後悔してしまう。
あの世界はこれから、戦争の時代に突入するんだ。




